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8月1日(金)
▼ いつものATMにいったら、液晶パネルに表示される言語がひとつ増えていた。これで英語、スペイン語、中国語、韓国語が利用できることに。これ、マンハッタンの状況をそのまま反映しているな。当たり前か。でも地下鉄でこの春に導入されたように日本語も入れてほしいな。
▼ 日記に何度も書いているように、渡米して7ヶ月半ずっと、英語には本当に苦労している。言語野の発達は幼児期までだから、いまさら言語を習ってもうまく習得できないことはよく理解している。そうは言っても英会話。なんとか上達したい。
▼ 最大の問題点はもちろん、日本語という言語は、発音の基音数が英語に比べて少なすぎることである。私は「LとR」「BとV」「FとH」「UとW」「SとShとTh」「GとZ」などは未だにぜんぜん聞き分けられない。母音のヒアリングだって難しい。「You
won't?」と訊かれているのに「You want?」と勘違いし返答したので、あとで大変な思いをしたことも実際にある(yes/noで答えればどちらの訊かれ方をされても問題なかったはず)。さらに「I
can」と「I can't」(←これも母音が違うだけらしい)なんかは、前後の意味を聞き取れていなかったら完全にお手上げである。
▼ ヒアリングだけじゃない。話してもカタカナ英語がさっぱり抜けない。日本人の話す英語は「Janglish」と呼ばれ、アメリカでは別の言語として扱われている。もちろん通じるわけがない。Janglishを聞いたアメリカ人は「日本語って意外と英語に似てるんか」と勘違いするらしい。でも、ある時ふと私は思った、「べつにカタカナ英語でもいいじゃないか」と。どうせ、私には発音するための脳回路がないんだしな。
▼ ただし!だ。何をどうカタカナに置き換えるかが問題なのだ。「animal」を「アニマル」と発音していたのでは永遠に通じない。「エネモウ」と言うのだ。この場合は、妙に英語ぶって気取ることなく、そのまま素でカタカナ読みすればいい。「hospital」だって、「ハスペロウ」といえば難なく通じる。まちがっても「ホスピタル」などと言ってはいけない。「work」は「ウオアク」だ。「ワーク」と発音するとアメリカ人には「walk」に聞こえるようだ。「center」は「セヌオア」。「Japan」は「ジャペアン」。下品な例になってしまうが「What
do you think about it(どうよ?)」はなんと「悪酔いチンコ暴れ」と言っても通じる(確認済み)。
▼ どうよ?私のようなカタカナ英語でも多少は通用するのだ。英語が苦手な私にとって、これは相当な発見だった。
▼ 中学時代、私は「animal=アニマル」と習った。今思えば、あれがイケなかったのだ。「アニマル」と「エネモウ」では一文字も合っていないではないか。学校では、「脳科学」と「日本語と英語の違いの言語学」を、もっと把握して英語教育したほうがいいと思うのだが。
▼ と、自分の努力不足を転嫁しても、英語が上達するわけではないから、まあ、結局は日々の訓練か。というか、こうした英語の発音をいろいろ教えてくれるBrendon(ラボの学生)には感謝しないと。
▼ さてと、今日から3週間ほど旅にでます。昨年の新婚旅行をのぞけば、社会人になってからは初めての長期休暇。ボスがラテン系ということもあって、このラボには長期バカンスの風習がある(実際、ボス自身も今はサバティカルというの名目で2ヶ月間スペインに帰国中)。私もこれは利用しない手はないなと。ただ多くのポスドクは論文を投稿してから返事待ちのために長期休暇に入るのだが、私は結局まだ投稿していない。。。ダメすぎ。
▼ 次回の日記の更新は8月19日の予定です。いまや一日150人もの人が読んでくれているみたいなのに、開設早々に休みに入ってスミません。
8月2日(土)スペイン
▼ 朝マドリッド着。サン・アントニオ・デ・ラ・フロリダのゴヤのフレスコ画を見た後、電車でアランフェス宮殿へ。その後タクシーでトレドに向かう。サント・トメ教会で世界三大絵画と呼ばれているらしいエル・グレコの「オルガス伯爵の埋葬」を見る。カテドラル。タクシーでマドリッドへ。ソフィア王妃芸術センターで待望のピカソの「ゲルニカ」に出会う。一度ホテルに戻り夕食。マヨール広場までバス。徒歩でコラール・デ・ラ・モレリア、サングリアを飲みながらフラメンコ。
▼ 気温は夕方でも40℃を越えているらしい。日本より乾燥しているとは言っても暑いものは暑い。
▼ 英語を話せる人が意外と少なくて驚いた。日本と同じかも。
8月3日(日)スペイン
▼ Placio Real(王宮)。プレルタ・デル・ソル。ハム専門店「ムセオ・デル・ハモン」でハモン・イベリコを注文。プラド美術館で念願だったべラスケスの「ラス・メニーナス」を観る。ティチィアーノ展が併催されていてラッキー。ティッセン・ボルネミッサ美術館。愛用デジカメが壊れたのでキャノンIXUSUを急遽購入。カルロスお勧めのレ・モデルナで軽食。ラス・ベンタスで闘牛。マヨール広場で夜食(Sardinas
Escabeche、Chipilones、Champinyon al Ajolloなど)。
▼ 日本製のデジカメ。説明書がスペイン語で意味不明。
▼ 地下鉄が左側通行だったのに驚く。
8月4日(月)スペイン
▼ 途中サルゴサのピラール聖母寺院で昼食休憩しながらバルセロナへ。旧市街のカセドラルをみてサグラダ・ファミリア聖堂へ。夕食後。サンタ・テレ学院、カサ・ミラ、カサ・パトリョの夜景を撮影。グエル邸。レアール広場の燈篭。近くのグリルド・ルームで夜食(パエリャ、小イカのイカ墨ソテー)
▼ バルセロナはマドリッドよりもちょっと湿度が高いような。体感温度としてマドリッド以上だ。
▼ リセウ劇場はここにあったとは知らなかった。
8月5日(火)スペイン
▼ 1992年に使われたオリンピック競技場をちらっと見て、モンジュイック城へ。ミロ美術館。カタルーニャ美術館で中世絵画を鑑賞。カサ・バトリョ見学。昼食。カサ・ミラ、サグラダ・ファミリア聖堂、グエル公園に入る。サン・ジュセップ市場で栄養補給。ピカソ美術館は目前で閉館。しかたなくピカソが通ったというクワトラ・ガッツで夕食(マンチョスチーズなど)。夜食は再びハモン・イベリコを食す。不思議とこのハムはメロンに良く合う。最後にレアール広場。
▼ バルセロナの地下鉄は右側通行だ。電車が来るまでの残り時間が秒単位で表示されていて、それがまた正確だ。オリンピックの時に整備されたのだろうか。
8月6日(水)フランス
▼ スペインを後にする。カルカッソンに寄り、要塞の内でこの地方の郷土料理カスレを食べる。アヴィニョンへ。
▼ フランスの人は英語を話せる人が多くて助かる。
▼ 今日は遠い移動だった。疲れたので何もせずに睡眠。
8月7日(木)フランス
▼ アヴィニョン城壁内を散歩(ローヌ川、宮廷広場、ドン岩壁のノートル・ダム大聖堂、サン・ベネゼ橋など)。その後、ガール橋(水道橋)を見てから昼食。エクス・アン・プロヴァンスへ。サン・ソヴール聖堂などを巡り、La
Salle A Mangerで地元のワイン(シャトー・ラコステ)と料理を食べる。
▼ いろいろ見すぎてどの城も似たようなもののように見えてきた。。。
▼ 旧県庁所在地(?)とはいっても、エクス・アン・プロヴァンスはさすがに南仏の田舎だけはあるここでは日本人に一度も出会わなかった。現地の子供達はアジア人を見るのが初めてらしくジロジロと見てくるのが面白かった。ただ泊まったホテルはちょっとヒドかったなあ。せめて冷房が欲しいところ。
8月8日(金)フランス
▼ グラースという町で香水工場に寄る。柄にもなく男性用香水を一本購入。カンヌへ。Le
Relais des Temaillesでのんびり昼食。高城で街並みを眺めてから、映画祭の会場をちょっとだけ見る。ニース着後、夕方からモナコ王国へ。夕食後はカジノ。パスポートを見せてさらに入場料まで払わないと入場できないという厳粛たるグラン・カジノ。無論、あっという間にスった。っていうか、ここの賭け師の皆さん、使う金額のスケールがでかすぎ。。。私とは数字が3桁ちがう。あれには焦った。
▼ 食事をすればあんなに豊かな食材で美味しい料理が出てくるのに、道中は見渡す限りブドウ畑のみ。他の農作物はどこで作っているんだろう。
8月9日(土)フランス
▼ 午前はサン・ポール・ド・ヴァンスに出かけた。今回の旅で「鷲の巣村」はこれまでにもたくさん見てきて、素人の私には見分けが付かないくらいどれも似ているのだが、ここだけは格別。明らかに傑出している。さらにここで念願だったシャガールのリトグラフを入手。その後、ニースに戻る。シャガール美術館。西リヴェリア(いわゆるコート・ダジュール)でちょっとだけ海水浴。夜はホテルにワインなどを買い込んで飲む。うまい。
▼ こちらではレモンを使った食べ物が多い。缶コカ・コーラのレモン風ヴァージョンなどは私の好み。これ採用!NYに帰ってからもぜひレモンティーのようにコーラを飲もう。
8月10日(日)イタリア
▼ チンクエテッレ巡り。モンテロッソで食事。電車でコルニーリア。海岸線を徒歩でマラノーラへ。ここで海水浴。さらに「愛の小道」伝いに歩き、リオマジョーレへ。ラ・スペツィア泊。
▼ 今度は道中一面オリーブ畑。若木はハウスで育てているようだが、こんなに蒸し暑いのに温室栽培が必要なんだろうか。
▼ 今日も日本人はもちろん白人以外は全く見かけなかった。水は綺麗だし景色も良い所だが、なぜここがユネスコ世界遺産に登録されているのか、その理由が私には最後まで謎だった。
8月11日(月)イタリア
▼ 午前はピサ。午後はフィレンツェ観光。サンタ・クローチェ教会、シニョーリア広場、大聖堂(洗礼堂、ジオットの鐘楼)、メディチ家礼拝堂。夕食後はヴェッキオ橋の夜景。
▼ フランスやイタリアでは水よりワインのほうが安いと聞いていた。極端なケースを取れば当たっているが、さすがに大げさだと思う。ちなみに安い水を買うと非常にマズい。水道水のほうが美味しいくらい。
8月12日(火)イタリア
▼ フィレンチェの美術館巡り。ウフィッツィ美術館、サン・マルコ美術館、パラティーナ美術館、アカデミア美術館。今日はなんと言っても、私がもっとも愛する絵のひとつラファエロの「小椅子の聖母」の実物に初めて出会えたこと。一生忘れないだろう。
▼ 南仏やイタリアではクーラーが付いていないのが普通。こんなに暑いにもかかわらずだ。話を聞けば割りに合わないほど電気代が高いのだそうだ。装備している店ではわざわざ「air
conditioned」と入口にうたってあるのが笑える。今日はまさにそんなレストランに入った。確かに冷房完備だった。が、電源は入れていないようだった。暑い。
8月13日(水)イタリア
▼ 早起きしてローマへ。ヴァティカン博物館、サン・ピエトロ寺院を訪れる。昨日のアカデミア美術館でも感じたが、ミケランジェロの芸術は人間の限界を超えているように思う。その後、コロッセオ、フォロ・ロマーノを徒歩で巡り、一旦ホテルへ。夜はスペイン広場とトレヴィの泉のライトアップ。夕食、ポルチーニを食したのはたぶん初めて。
▼ 初めてイーエススターに乗った。2等だったが、想像以上に快適だった。でも4人がけ向かい合わせの席配置は長距離列車としてはちょっと再考の余地ありかも。もちろん、列車が駅で停車する毎に前後ろが入れ替わる構造のターミナルがあることは認めるが。ところで、車道は右側通行。鉄道は左側通行。イタリアではこれが常識なのかな。
8月14日(木)イタリア
▼ 今日は主にローマの教会を巡る。サンタ・マリア・デリ・アンジェリ教会、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂、サンタ・マリア・イン・コスメディン教会(真実の口)、チルコ・マッシモ、サンタ・チェチーリア・イン・トラステヴェレ教会など。サン・フランチェスコ・ア・リーパ教会とサン・ルイージ・ディ・フランチェーゼ教会が閉まっていたのが残念。その他にもパンテオン、ナヴォーナ広場、サンタンジェロ城、サン・ピエトロ寺院、スペイン広場、トリトーネの泉、4つの泉、オペラ座など盛り沢山。
▼ 今日もまたサン・ピエトロ寺院を訪れてしまった。理由はただ一つ。ミケランジェロの傑作「ピエタ」をもう一度見たかったからだ。深くそして美しい。この作品は余りにも私の心を打つ。あるいはラファエロの「小椅子の聖母」以上かもしれない。もともとミケランジェロは私の好きな芸術家ではない。が、この彫刻は別格だ。彼が25歳の時の作品。私よりも7つも年下だ。筆舌に尽くしがたい。ここには彼の晩年独特の粘り気がないのが、私にはちょうどよいのかもしれない。
8月15日(金)イタリア
▼ 電車でミラノへ。大聖堂、V.エマヌエーレU世のガレッリア、ミラノ、スカラ座。スフォルツァ城市立博物館でミケランジェロ未完の「ロンダニーニのピエタ」を観る。ブレラ絵画館。夕食はミラノ伝統料理オッソブーコ。
▼ ローマでタクシに乗ったときに運転手が「ローマは世界一の町だ」と自慢していた。ある意味ではそうかもしれない。ただ総人口ではミラノの方が多い。ローマは現代的な意味では、もはや大都市とは呼べないと思う。ここでは2000年以上にもわたる長い歴史を大切に保存している。道は狭く複雑で、交通は非効率的だ。近代化を遂げて大都市になるためには歴史を捨てないといけないのかもしれない。まるで明治時代に江戸を捨てた東京のように(逆にローマはそれ故に苛烈な戦災を免れたのだが)。その意味で新旧がうまく共存している大都市はバルセロナかも。
8月16日(土)イタリア
▼ 今日は33歳の誕生日。自分にとって最高の誕プレはサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会にあるダ・ヴィンチの「最後の晩餐」に出会えたことだ。これを観るために2ヶ月以上も前から予約を入れておいた。ついに念願がかなったというわけだ。良く知られているようにこの絵は痛みがひどい。しかしそれを越えて訴えてくるものが明らかにある。構図の動力学だ。これが描かれている修道院の食堂そのものが縦長のせいか、まるでこの絵が空間の続きのような錯覚を与える。キリストが現にそこに居るような臨場感と躍動感があるのだ。ただ、この考え方は一部の学者からは否定されているらしいが。。。
▼ そのほかサンタ・ブロージョ聖堂やアンブロジアーナ絵画館を訪れた後、ミラノを発ちベネチアへ。サン・ロッコ信者会、アカデミア美術館、サン・マルコ広場などを訪れつつ、ベネチアグラスの小売店に立ち寄る。ベニスは想像以上に美しい街並みだ。が、車椅子の人にはかなり酷な街だな。
8月17日(日)イタリア
▼ サン・マルコ寺院、ドゥカーレ宮殿。パウリー(Pauly)直売店でヴェネチィアグラスを購入。夕方からロメジュリの舞台となったヴェローナへ向かう。ジュリエッタの家、エルベ広場、シニョーリ広場、スカラ家の廟などを訪れながら時間をつぶし、この旅行最後の大イべント「アレーナの音楽祭」へ。この音楽祭はクラシック音楽ファンには有名な野外コンサート。ユネスコ世界遺産の古代アレーナ(円形劇場)をこんな使い方して良いのかとは思うのだが、これが野外にもかかわらずなかなか良い音響なのだ。会場内に野生のコウモリが飛んでいたり、雨のため10分間ほど中断されたり、虫に刺されたりで、ふだんのオペラ鑑賞では考えられないハプニングはあったものの、今夜のヴェルディ作曲の「アイーダ」、主役の4人(チェドリンス、リチートラ
、ディアドコワ、アガーケ)ともすばらしい歌を披露してくれた。そういえばこの旅行で雨は初めてだ。
▼ これで今回の旅行は終了。すべてが初めて訪れる地ということもあって、歴史と芸術を堪能が主眼になった。次回訪問するとしたら食事とショッピングで回ってみたい。
8月18日(月)帰国
▼ 我が人生最長の休暇。18日間の旅を終えNYに戻ってきた。またもや帰りの飛行機は出発がおくれた。いつもツいてないなぁ。
▼ それにしても南欧はホントに暑かった。今年は沢山の死者もでるほどだったとか。一方のNYは25℃と凌ぎやすい。ただ、私の知らぬ間に停電があったらしく、帰宅したら家電類の時刻がリセットされていた。
▼ 途中でデジカメが壊れるアクシデントがあったものの、撮った写真は全2000枚以上。整理が大変だ。
▼ っていうか、出発前にやり残した仕事、溜まったメールを考えるとさらに頭が痛い。まだ返事メールを受け取っていない皆さん、すみません。しばらくお待ち下さい。
8月19日(火)
▼ NY停電の影響は相当だったらしい。ラボではその後遺症で昨日まで正常に機能できなかったという。Jason曰く「ガヤはラボが正常になるのを計算して帰ってきたのか?すごく大変だったんだぞ」だと、ドライアイスで火傷だらけの手を見せてくれた。そのかわり夜は星が満天だったそうな。
▼ 停電の影響かどうかは定かではないが、研究棟の自販機で缶コーラを買ったら、60℃ぐらいに温まったコーラが出てきた。
▼ ボストンに引っ越していた台湾人の友達がNYに遊びに来たので、夜は我が家でちょっとしたホームパーティー。でもちょっとまだ時差ボケ。
▼ 今日は溜まっていた仕事に追われた。さらに、この3週間の最新論文チェック。というわけで、そのダイジェストをちょっとだけ。
▼ Science。パブロフ型恐怖記憶の再生のときに、外側扁桃体と海馬CA1の2つの部位の神経活動のリズムがθサイクルで同期することを示すPapeらの論文。ただし、あくまで脳波レベルの話。RKさんの実験に重要そうなデータだ。私の修士時代の論文も2報引用されている。
▼ Science。抗うつ薬の効果に歯状回の顆粒細胞の増殖が必須という驚くべき報告。ただデータは主にパラレリズムに拠っている。
▼ PNS。ApoEで有名なMahleyラボからの報告。アルツハイマー病患者およびモデルマウスの歯状回でcalbindin-D28kの発現量が減少している。
▼ Nature。GluR2を強制発現すると、なんと抑制性インターニューロンでさえもスパインができる。でも、なんで今までこんな単純なことに誰も気づかなかったんだろう。さらに驚くべきことに、GluR2のスパイン誘導効果はN末端が重要らしい。N末の役割についてDiscussion内で3つの可能性があげあれているが、私の好み的には三番目を支持。
▼ Neuron。Nelsonラボからの報告。カンナビノイドはPiomelliラボが大々的に報じて以降、シナプス可塑性研究におけるいわゆる「流行り」の分子。この論文ではSTDPのLTDにカンナビイドが関与することが示されている。新しいcoincidence
decetionの様式だ。NMDA受容体の絡み具合が奇妙で興味深い。ここからSTDPのtime
windowの動的制御へと展開されれば面白いかも。しかも、この論文、微妙にsynaptic
redistributionに絡んでくる。
▼ Neuron。Sema3Aの結晶構造解析。βプロペラ構造らしい。
▼ JN。網膜神経の軸索sproutingがBDNFとChondroitinase ABC の共処置によって促進される。ちなみに、Carlosの論文がJNのこの号の表紙を飾っている。
▼ 今日ラボの人に教えてもらった英語。「until today」というと言ったら、日本語で言うとこのろの「昨日まで」に当たるらしい。でも、これ、ホントにマジ?
「more than 2」が日本語では「3つ以上」みたいなもん?
8月20日(水)
▼ 今朝、早速、実験を再開しようとしたら、ラボのsucroseのストックが切れていることに気づいた。最後に使ったのは誰だろう。。。まあ、いずれにしても停電の影響ですべての試薬類を作り直さないといけないので、再開までにちょっと時間がかかりそうだ。というわけで、今週は実験の準備と薬作の論文の直しに時間を当てよう。
▼ Rafaが私とVovanのために最新のSpinning Disk Confocalシステム一式を買ってくれるらしい。嬉しい。青色励起もできるから、いろいろな実験ができそうだ。Vovanはまだ学生だけど基礎がエンジニアなので、いつも装置を巧みに改造してくれる。それが何より頼もしい。実際、彼が自身のコレスポで書いた最近の論文は、まさに「共焦点顕微鏡を二光子顕微鏡や第二高調波顕微鏡に改造する方法」というもの。スゴすぎる。まだ、あまり知られていないが、非線形光学現象を利用した「第二高調波顕微鏡」は絶大なポテンシャルを秘めている。いまこのラボで動いているプロジェクトが成功すれば、きっと世界中が驚くだろうなあ。が、いつの日やら。
▼ 夜は送別パーティーで友人宅へ。今日も午前2時を余裕で回った。みんな若いし元気だなあ。
▼ JN。カリウムチャネルとグルタミン酸受容体チャネルの開口機構がちょっと違うようだという話。まあ、それはそれで不思議ではないが、そもそもグルタミン酸受容体は四量体ということで決着がついたのだろうか?
▼ JN。2、3年前にSFN学会で見かけた発表がようやく論文になったようだ。Sema3Fとneurotrophinの細胞内情報伝達系が相互作用するという内容。ここら辺の話題はちょっとごちゃごちゃしてきた感がなきにしもあらず。でも、これがTrkBにも応用できれば個人的には面白い。
▼ JN。嗅球顆粒細胞の樹状突起のカルシウムシグナルの話題。この手の現象はT型チャネルで片がつくケースが多いような気がする。にしても(Rafaのライバルでもある)Svobodaはいろいろなところに顔を出すなあ。
8月21日(木)
▼ 実験用試薬の調整。SF君の論文のReviseなど。昨日、今日となんだかエンジンの掛かりが遅い。飲みすぎか?
▼ 南仏のサン・ポール・ド・ヴァンスで買ったシャガールのリトグラフがアパートに届いた。シャガールのお墓はまさにヴァンスにある。そう、この街はシャガールゆかりの地なのだ。実際、彼の絵を売っているギャラリーをいくつも見かけた。その中でも一目惚れした絵がこれ。私でも手の届く範囲で買える。もちろん日本に持ち帰ったらべらぼうな値段で売れることは間違いないだろうが、これは一生手元に置いておくつもり。私の宝物だ。ただ、今回の運送上のトラブルで絵自体に小さな傷が複数できてしまったのが大ショック。現在、代理店に交渉中。
▼ 最近、Sobig.Fというウィルスメールが大量に送られてくる。一日50個はくる(誇張ではなく)。正直言って仕事にカナり差し支える。このウィルスは差出人を詐称するので、誰が原因なのかわからないところがツラい。最悪の場合だと9月10日までこれが続くらしい。辛抱するしかないか。。。
▼ 網野さんが10月からシカゴに来るそうだ。アメリカ組がまた一人増える。嬉しい。
▼ サークル時代の友人達のHPを相互リンクする。
▼ 近所の眼鏡店で、ローマで買ってきた黒縁フーレムにレンズを付けてもらった。
▼ Nature。ここやここでレヴューされているように、シナプトタグミンについて最近急速に解明が進んでいる。この論文はシナプトタグミンのカルシウム結合部位に関する論文。PC12を使っているとはいえ、kiss-and-runが主要なシナプス前終末に、この知見をどこまで外挿してよいかは不明。ただ、fast
exocytosisとslow exocytosisという二つの異なったモード間のスイッチがSyt
IとSyt IVの発現量比の変化によって生じうるとしたら非常に面白い。まったく関係ないが、先のレヴューの著者の一人であるGoda Yukikoさん(←漢字不明)が出す論文はたいてい素晴らしいセンスに満ちている。私が目標とする脳科学者の一人。まだまだ足元にも及ばないが。。。
8月22日(金)
▼ 実験再開。今日のスライスは海馬を含んでいたので試しに歯状回で記録してみる。顆粒細胞は自発発火という意味では極めてsilentな神経細胞なので、Movie的にはあまり栄えないな。
▼ このラボの皆さんは帰宅が早い。。。今日は6時には私は最後の人になっていた。
▼ 今日の新聞に、最近集計された「アメリカ大学ランキング」が載っていた。わがコロンビア大学はベスト10圏外。なぜだあ。。。ちなみに上位はプリンストン、ハーバード、イェールの順。
▼ 本の読者からのメールで「Blog」という言葉を知る。Googleで検索したら100万件も引っかかるではないか。無知が恥ずかしい。私のこの日記もBlogのようなもの?まあ、そんな価値はないか。もっとMutual
Interactionがあればいいのかな?
▼ 一昨日、Sobig.F対策法がネット上で公開されたらしい。今日は嘘のようにウィルスメールが一通も来なかった。すごい効力だ。
▼ Science。ラット(Fig 1)とメダカ(Fig 2)の学習。図はこの2つだけ。潔い。データを簡単に論じるのは難しいが、あえて一言でいえば、記憶を「思い出すこと」と「消すこと」は、一見逆の現象のように見えるが、共に「積極的」なプロセスであって、共通の分子メカニズムが関与しているかもしれないと言う話(←ちょっと大胆な解釈だけど)。
▼ 最近注目され始めたMemory Reconsolidation。これを聞くといつも思い出すことがある。受験時代によく感じたあの矛盾にみちた現象だ。前日にがんばって覚えた試験内容を、テスト直前にざーっと復習するとかえって試験中に思い出せないことがあるというヤツ。復習は丁寧にやらないとダメなんだなあと感じたものだ。今にして思うのだが、「不用意に思い出すと記憶の定着がむしろ悪くなる」というこの現象はまさに、「記憶の再固定はNMDA受容体依存性の積極的プロセスである」という最近の知見によく一致しているではないか!
▼ これも今日知ったのだが、ギリシャ神話でミューズ(ムーサ)たちは9人いるけれど(つまり、叙事詩、歴史、抒情詩、悲劇、喜劇、合唱歌舞、恋愛詩、賛歌、天文学の9人)、彼女らの母親は「記憶の女神ムネモシュネ」だったんだね。つまり、「記憶」は「芸術と学問」の母なんだ。なんだか洒落た関係ではないか。ギリシャ神話って大昔の話なのに「記憶」の本質をついているなあと思って感心した。
▼ 夜はワインとハムとチーズ。今までのチリ安ワインはやめて、これからはスペイン産にしようか。五年モノのうまいワインが数百円で買えるのだ。
▼ ヤンキース戦をテレビ観戦していたら。解説者が「松井が新人の歴代最高打点記録を更新する可能性」について論じていた。がんばって欲しい。
8月23日(土)
▼ 5月以降、私は週休2日制を貫いている。
▼ 午前はSF君の論文直しと思案。午後は買い物など。
▼ 昨年の結婚祝いにいただいたコペンハーゲンのカップ&ソーサーが気に入っていたので、来客用にと思って、同じ柄(といっても手書きなので全く同じ柄の物はないのだが)のセットをマディソン街まで買いに行く。レジのおばさんが値段を勘違いして、安く売ってくれたので、急遽増量してたくさん仕入れてしまった。定価の6分の1。。。俺、悪いやつだ。でも、これで6脚揃った。大切に使おう。
▼ 精神科医の遠山高史先生が来米されていたので夕食をご一緒する。普段私は、臨床の現場からはまったく離れた研究をしているので、今日はとてもよい機会になった。先生がschizophreniaの症状を「attractorの崩壊」と捕らえていたのには驚いた。これはまさに私がいま書いている論文に直接関連する。といっても、私の実験結果はその逆なのだが。。。
▼ ふと、「コーンビーフ」の「コーン」って何のこと?と思って調べてみる。厳密には「corned
beaf」と書く。つまり「塩漬け牛」というわけだ。なるほどね。高校時代に、『ソフトクリームのあのカップ(コーン)は「トウモロコシ(corn)」ではなく「円錐(cone)」なんだあ』と知った時と同じような爽やかな風が心をよぎる。ちなみに、本当を言えば、アメリカでは「corn」はトウモロコシを指すのではない。「穀物全般」をこう呼ぶ。特にトウモロコシを指したいときには「sweetcorn」と言わないといけない。どうでもよいことだが、私の担当学生が、かつて、神経突起の「成長円錐」を「growth
corn」と書き間違えていたのが懐かしい。「成長穀物」。。。か。なかなか美味そうじゃないか。
8月24日(日)
▼ 気持ちよいほどの晴天。でも空気はかなり冷たい。マンハッタンはもう秋かな。
▼ 一日中、自宅に籠もって薬作関係の仕事。SF君の論文の直し。たいだい片がついた。RK君の総説の〆切が近づいているので早く仕上げないとなのだが、こちらはいろいろと勉強しながらで時間が掛かっている。それにRK君の投稿論文のほうの再改訂も早く何とかしないと。。。
▼ TY君のメールに返信したかったのだが、大学のPCから自宅に転送するのを忘れてしまった。この論文は私の中で優先順位が高い仕事だけにこれは手落ちだった。。
▼ 自宅いると英語を話さなくていいので実にcomfortable。これが週休2日制の主要な理由。
▼ 夕食は近所の韓国料理で石焼きビビンバ。
▼ 私の休暇中にGoldman-Rakicが亡くなっていた。彼女に論文の審査を頼もうと思っていたのだが。。。
▼ CC。大脳皮質のスライスカルチャーを用いてインターニューロンの水平migrationを評価している論文。細胞標識はCMTMR。GABAがGABAB受容体を介してchemoattractantとして働いている。
8月25日(月)
▼ Rafaの帰国はなんとまだ2週間先であることを知る。つまりボスは2ヶ月以上も留守にしていることになる。もちろん、ラボの主要構成員は日本の大学と違ってポスドクなので、ボスがいなくてもサボる人もおらず通常通り機能している。
▼ 前にも書いたように大学の全館冷房は強すぎる。もう涼しいのだから切っても良いように感じる。毎日温かいコーヒーが欠かせない。
▼ ここ1週間ほど改装中だった構内のスタバが、今日からオープン。小さいカップで1ドル25セント。もともと高かったのにさらに値上げとは。
▼ 高いと言えば妻の学費。ニューヨーク市立大学(いわゆるCUNY)の一年間で学位が取れるコースに入学できることが今日決まった。新聞上で「CUNYの学費が急激に上昇した」ことを知っていたものの、公立だからまあ何とかなるだろうとナメていた。もちろん、私立コロンビア大学に比べれば格安。しかし、だ。海外からの学生は「学費は倍」なのだそう。なんだよ、それ。でも、公立大としては妥当な対応かな。でないと、税金の海外流出だもん。結局、年間学費150万円。客観的に見れば法外ではない。が、海外ポスドクの身にはちょいとツラい。また本でも書こうかな(笑)。
▼ コロンビア大学は今年で創立150周年らしく構内では慌ただしく記念セレモニーの準備がされている。去年は東大125年だったから、だいたい同じくらいの歴史があるってわけだ。
▼ 夜は「週刊現代」から取材。約1時間。電話代は大丈夫だったろうか。人ごとながら心配してしまった。にしても、まさか今日が取材の日だとは知らず、スペインワインを一瓶あおっての酔っぱらい対応だった。この記事、いつ掲載されるのだろうか。
▼ 実験上必要があって7%の砂糖が入ったをイオン水を50mLほど冷凍庫に入れていた。2時間くらいして見たら、十分に冷えているにもかかわらず、まったく凍っていなかった。だが、それを手で持った瞬間、一瞬にして全体が氷化した。一次相転移という現象だね。手による振動が臨界現象を惹起したのだろうか。単純だが思わず感動してしまった。
8月26日(火)
▼ 実験。PFCをhorizontalに切ってみた。
▼ 先週のシャガールのリトグラフの破損クレームに応じて、ようやく担当者がダメージ状況の視察にきた。11時という約束だったが来たのは13時。んで、今日の調査に対する返答はさらに一週間後になるだろうとのこと。ふ〜、どこまでもアメリカらしい。リトグラフとはいえ、シャガールの「Cheval
Bleu au Couple」No.993のオリジナルといえば世界にこれ一つしかないわけで、こういう芸術作品の破損は一般にどうやって補償するんだろうか。
▼ 昨日の日記に大ミス。コロンビア大学はじつは250周年記念だった。東大のちょうど倍の歴史を持っているわけだ。
▼ あれ?松井が先発メンバーにいない。。。最近、不調だからかな?それとも単なる休養日。
▼ 新聞に「白人女性よりも黒人女性のほうが心血管系の疾患が2倍も多い」という調査結果が載っていた。これとは独立に「黒人のほうが肥満率が高い」という記事をかなり前に読んだことがある。その理由は「いまだに栄養学等の教育が十分に行き届いていない」からだそうだ。だとしたら今日の新聞記事から「黒人だから心臓発作が出やすい」と結論づけるのは早急かもな。
▼ 22日に記憶の再固定化について書いたが、それに関係したLetterがTINSに載った。Central pattern generatorで名を成したArshavskyの疑問にNaderが答えるという形。記憶の媒体は「Structure
basis」なのか「Chemical basis」なのかという問答。前者はさておき、後者は「タンパクが記憶のキャリアである」という学説だ。40年以上も前に提唱されて、すでに消滅したと思われていた物質媒介説が、Memory
reconsolidationの話題を機にまた頭をもたげてきたというわけ。まあ、後者の立場の人は、それを主張する限りは良い雑誌には通らないから文句の一つも言いたくなるよなあ。ただ、個人的には耳を傾ける価値のある論説だとは思う。ほかに、今号のTINSにはinterneuronのレヴューもあるから時間があるときに目を通さないと。
▼ テレビで「アメリカン・グラフィティー」をやっていた。なんと若きハリソン・フォードが脇役で出ているではないか。かっこいい。
8月27日(水)
▼ ふとテレビをつけたら「キングコング」をやっていた。そう、1933年に公開されて世界に衝撃を与えた歴史的な特撮映画だ。あまりに面白くて、ちょっとだけ(?)大学をサボり、最後まで観てしまった。現在から見ると稚拙な特撮も、当時の撮影技術を考えれば驚異的だ。イントレランス(1916年)、カリガリ博士(1919年)、戦艦ポチョムキン(1925年)、黄金狂時代(1925年)、嘆きの天使(1929年)、モロッコ(1930年)、西部戦線異常なし(1930年)、会議は踊る(1931年)、巴里祭(1932年)と、急速に進化した映画文化の集約がここにある。モンタージュも申し分ないし、細かい演出に至るまでその後の映画の手本になっているのがよくわかる。この映画文化の流れは、当時のハリウッドの卓越した「映像技術」を採用した私の好きな邦画「人情紙風船(1937年)」へと受け継がれ、戦後、日本独自の映画スタイルが開花することになる。
▼ 最近、午後はコーヒーがコーラを飲むのか習慣。今日はコーラの日。缶コーラにはカフェインが数mg入っている。私はカフェインに極度に弱い体質らしく、ときどき体が強く反応しすぎる。今日は副作用の「高揚感」がなかなか抜けなかった。父親もカフェイン感受性株みたいなので、これは遺伝か。
▼ 夕食はひさびさに納豆を食べた。最高、日本の味。感涙。
▼ 深夜はラボのメンバーと大学の近くでビアパーティー。
▼ JNS。AB君の論文が掲載される。同号には塩坂研と宮下研の論文もみえる。
▼ JNS。皮質神経の反応はきわめてambiguous。この不確定性をいかにして神経は抑えているかというのが、この分野の研究者が解決しなければならない目下の課題。CA1
Basal dendrite上の局所NaスパイクがApical ESPSによって惹起されるspikeのタイミングを揃えているという論文。NEURON
softwareでシミュレーションも行っている。神経細胞をMulticompartment化して、各コパ−トメントの役割を示唆するという、個人的には非常に面白い論文。
▼ JNS。皮質神経の反応のambiguityは、私の仮説としては「過剰な可塑性を排除するためである」と認識しているが、聴覚野神経の反応は極度に確度が高いらしい。ということは、聴覚野では視覚野などに比べて可塑性が低いということになるのかな?
ただ、ここでは応答がsingle spikeだから、それによって可塑変化を回避しているのかも。
▼ Neuron。Pooラボから。ついにGABAergicシナプスでもSTDPが発見された。そのメカニズムが面白い。Cl
Transporter KCC2の活性がCa依存性に低下し、これに伴いGABA逆転電位が脱分極側にシフトすることで起こるというのだ。これは発達期にGABAが興奮性に働く機構に通じる。しかし驚くべきことに、このSTDPでは、シナプス入力特異性が保たれている。また、ここではLTPのみでLTDは生じないようだ。これは特定の入力パターンが与えられたとき、興奮性と抑制性のバランスがどう変化するかを考えるうえで興味深い。
▼ NN。ここ最近、Single cell attractorがブレークしそうな雰囲気。膜電位のBistability。昨年の報告されたGraded activity(←だたし否定的な見解もある)。それに、まだ論文になっていないがSejnowskiも陰で力を入れているようだ。従来のネットモデルでは神経細胞を最小のPoint
Unitとして解析を進めることが多かったが、最近dendriteの演算機能の解析がempiricalレベルで進み、これをモデルに組み込む試みが増えてきた。神経細胞そのものをMulticomparment系として捕らえ直すことで、単一でも高度な情報処理ができることが明らかになりつつある。この論文は、ERからのカルシウム放出機構にbistabilityを仮定し、さらに、その時空的境界(Wave-front)がシナプス入力によって変動するというダイナミズムを設定して、モデルのBehaviorを解析している。その結果、persistent
activityがうまく説明できるだけでなく、ノイズ抵抗性も獲得するという。今後、実験的検証が必要な原始的なデータとはいえ、十分に刺激的な成果だと思う。
▼ NN。Svobodaラボから。R型Caチャネルのkineticsがシナプス可塑性の感受性を調節するという論文。新しい可塑性制御のメカニズムを提示しているし、さらに分子機構から機能、現象へと一貫してうまく結びついている。この筆頭著者の安田涼平(Ryohei
Yasuda)さんって、かつてF1の研究をしていた人だと思うのだが、だとしたらスゴすぎる。
▼ NN。VAMP2-GFPのpH依存的な蛍光強度変化とFM4-64を利用して、逆行性物質としてのNOがシナプス小胞リサイクルのスピードを促進することを示した論文。PIP2の関与まで丁寧に調べているので説得力がある。にしても免染で難なくcGMPの産生を検出できているのが羨ましい。
8月28日(木)
▼ 朝7時から実験。ほんのちょっとだけ手応えあり。
▼ 今日は大学の入学オリエンテーションの日なのかな?多くの初々しい学生達で構内に活気が溢れていた。
▼ 昼飯はインスタントラーメン「サッポロ一番・塩味」。もちろん鍋から直接すする。うまい!涙ものだ。すぐ近所にできたアジアン・コンビニで1個だけ購入した。99セント。値は張るが止められない。
▼ 今日は4時前くらいから繁華街へ繰り出す。チェルシー、ミッドタウンとギャラリーめぐり。でもギャラリーは8月は休みのところが多く、ひっそり。でもチェルシーはやはりすごいな。。。世界の芸術の発信地だけある。
▼ てな感じで、ロックフェラーセンターの周辺をうろうろしていたら、ばったり諫田君にあう。ちょうど今日、ピッツバーグから遊びに来たところだという。明後日の夜に再開する約束だけして別れる。
▼ イギリスでダ・ヴィンチの油絵が盗まれたとか。とはいっても、完成された彼の絵は全部で十数点しかない。絵画通にはすべてが有名だから、盗難したもののどうやって金に変えるんだろう。
▼ Nature。おまけ話。チョコレートが健康に良いという話。ただし、乳類といっしょに食べては効果はない。つまり、ミルクチョコレートはダメ。もともとブラックチョコが好きな私。ただ脇腹の贅肉が気になり始めたこのごろ、チョコ暴食は一利のために百害を背負うようなものかな。
8月29日(金)
▼ この月曜日にSF君の論文を改訂して投稿したのだが、その内容についてBrendonと話していたら、「Chaos Theory Tamed」という本を貸してくれた。1997年に出版されたハードカバー。高校初等程度の数学の知識があれば読み通せるつくりになっている。説明も丁寧だし、数式も難しいものは避けられている。カオスだけでなく、アトラクターやフラクタルや相互情報についても詳しい。これはぜひ自分でも買って手元に置いておこう。
▼ 実験をしていたら、後ろから突然Jesseに「ハズゴン」と声をかけられた。へ?なんだそりゃ、恐竜の仲間か?とも思ったが、その時、ちょうど実験に失敗したところだったので「○○○
has gone!」と言われたのかなと思い、聞き返す。「Did you say what has gone?」。そしたら笑って答えてくれた。「How
is it going?と聞いただけだよ」と。ふう、英語力まだまだだな。。。
▼ 夕方からはメトロポリタン美術館にくりだした。世界4大美術館に数えられるメトロポリタン。コロンビア大学証があれば無料で入館できることもあって、私はもう何回訪れたか数え切れない。一度で回りきれない規模だし、実際に何度も訪れている私でさえ、その全部をいまだに見切れていない。そこで、その都度テーマをつくって訪問している。今日のテーマは、デューラーの「メランコリアT」とプーサンの「サビニの女たちの掠奪」を鑑賞すること。残念ながら前者は今日は観られなかった(閲覧には予約が必要とのこと)が、バロック芸術の傑作である後者には広い館内を迷いながらも出会うことができた。
▼ 繁華街に繰り出すと、結婚式をしているカップルによく出会う。平日にもかかわらず今日も一組見かけた。どうして、こうも結婚組が多いのだろうか。マンハッタンで結婚式を挙げるのは若いカップルのあこがれなんだろうか。かつての日本のハワイのように。
▼ 来年の3月6日のメトロポリタン歌劇の「トスカ」のチケットが取れた。そう、パバロッティのメト最後公演になるだろうと言われている日だ。もちろん年齢的にもはや彼はまともに歌うことはできないことは知っている。ただ、かつて彼のファンだった私としては、やはり観ておきたいと思ったのだ。ただ私の希望とは異なり最も高価な席を買わされてしまった。意外な出費だ。
▼ 夜はワインとチーズ。
8月30日(土)
▼ 昨日、妻に新しいPCが届いた。今日は一日、PCの引っ越し作業で終わってしまった。テレビのCMでDELLが$499というのを観て、なかば衝動買いしたPCだ。安いわりになかなか快適だ。
▼ 夜は諫田君と飲む。居酒屋「力」、その後、「焼鳥イースト」へ。二人で日米の研究姿勢や風紀の違いについて語っていたら、妻がフレンチ料理教室の先生とクラスメイトを引き連れて合流。一気に雰囲気が変わる。
▼ 講談社ブルーバックスの献本が届く。「理系のためのPowerPoint超入門」。この付録CD-ROMの中に、私が学会や講義で実際に使ったファイルが3つ掲載されているからだ。他の人の実例も多数載っていてなかなか参考になる。
8月31日(日)
▼ 午前中は自宅で仕事。
▼ 昼はマディソン街で外食。帰りにセントラルパーク内の小さな動物園に寄る。「Puffin(ツノメドリ)」というペンギンとカモメを合わせてブサイクにした感じの鳥が気に入った。サービス精神も旺盛な(つまり、落ち着きのない)鳥だ。
▼ 動物園に行くと、クマやミンクなどの動物が同じ場所を目的もなくウロウロと反復している行動をよく見かける。もちろん今日も見た。あの反復運動、じつは野生の動物ではありえない異常行動なのだ。専門的には「常同症(stereotypy)」とよばれる精神疾患である。セロトニンやカテコラミンの代謝異常がその原因だと考えられているらしい。その他にも、「食糞」(ただしウサギの場合これは正常)や、サル山の「階級制」など、本来はその動物に備わっていない行動が、人工のオリの中ではしばしば現れる。そういう動物たちを見ていると、人間でも、たとえば昔の奴隷舎や牢獄などにはきっと精神疾患が多発していたんだろうなあと感じる。
▼ 使い古した妻のノート・パソコン。キーボードの文字の印刷が一部ハガれている。よく使った証拠だ。眺めていたら、ある法則に気づいた。ひどくハガれている文字は「A」「E」「I」「O」「U」、つまり母音なのだ。日本語の入力に使用されたキーボードされたことが、そんなところからも伺える。英単語の入力ならばきっと「E」「T」「N」「R」「S」あたりがハガれるんだろうなあ。
▼ 「渡米してから毎日自炊している」という昨日の諫田君の話に刺激を受けて、夜は揚げ出し豆腐を作ってみる。うまい。
(2003年)