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10月1日(水)
▼ 午前実験。午後は明日の研究報告ためのデータ整理。
▼ なぜか昨日・今日と大学構内で大バザールが。最近ちょっと不足気味だった靴下を買った。「6ペアで9ドル」の謳い文句に乗せられたのだ。その直後にTY君に似た人を見かけたが声をかけるのは止めておいた。まさかNYにいるはずがない。っていうか、アパートのランドリーは地下にあるのだが、洗濯2回に1回のペースで、なぜが私の靴下が一足づつ消えていく。どこかに落としているのかな。いや、きっとこのアパートのどこかに住む私のファンがこっそり持って行ってるに違いない。そういえば私の隣の部屋の住民は同性愛者だ。彼かな? サインならいつでもしてあげるのに。←誰か暴走止めて。ちなみに、彼はつい最近引っ越したのでもういない。
▼ 結局、妻に説得されて同窓会掲示板に投稿した。これで寿司ゲットは確実? 早く5人揃わないかな(汗)。
▼ 夜はカーネギー・ホールの今期初のコンサートへ。さすがに今日から開幕だけあって、来ている人たちの衣装の派手さがいつもにましてパワーアップだ。あまりのゴージャスさに、とりわけGrand Tierの階には、場違いな感じで私は近寄れなかった。
▼ 演奏はゲルギエフ&キーロフ。曲はリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」。彼らがこの曲を録音して大絶賛されたのも記憶に新しい。あのCDは確かに素晴らしい名演だった。しかし!!今日の演奏はそれをはるかに上回る出来。ダイナミックな響き、確かなテクニック、艶やかな歌。ゲルギエフのコントロールが細部まで完璧で、すべてが念入りに表情づけられている。それでいて、各個人の自発性と全体の統合感が見事にバランスを保っている。思わず聴いている最中に涙が出そうになった。間違いなく私がこれまでに出会った生演奏で1、2を争う最上のコンサートであった。そりゃまあ、考えてみれば、なにせカーネギーのopening nightを任されるわけだから、その事実だけをとってみても、いま世界で一番乗りに乗っている演奏家である証拠である。超弩級の名演に出会えて当然なのかもしれない。演奏の休憩時間はRK君の論文の直し。
▼ 平瀬さんが薬作を訪問されたらしい。SF君やKN君は有意義なdiscussionができたかな。
▼ NCB。ephrin/Ephとendocytosisに関する話題2点(これこれ)。まとめると、ephrinとEphが結合すると、その両側でRac依存性のendocytosisが誘導されるというもの。このendocytosisがretractionにおける表面積の減少を全て説明できるかはわからない。たぶん違うと思う(この現象は少なくともトリガーにはなっているが)。発想としては服部先生の論文と同様に面白いと思う。
JN。海馬の場所細胞の活動が感覚入力によってmodulationされるという報告。この発見は、海馬がいわゆるcontextをcodeする部位であるという行動学的な知見を細胞レベルからサポートしている。こうした研究がさらに拡張されてHampsonらの論文のようなアプローチができれば面白くなってくると思う。


10月2日(木)
▼ 午後は研究報告。なんとか無事終了。でも月曜には研究報告は7月に書き上げた論文(未投稿)の内容を話さないといけない。データ解析に使った奇妙な数式が沢山でてくるので、英語で説明するのはちょっと発表がしんどいな。午後はRK君の論文など。
▼ にしても今日は寒かった。朝は5℃! たぶん帰宅時も気温が下がってきて10℃以下だったと思う。でも、まだ大学は全館冷房を切らない。アメリカ人がマニュアル通りにしか行動できない人種であることは良く理解しているつもりだけど、でもやっぱりおかしいよ。たとえば、アメリカの冬はほとんどのビルが全館暖房を使っていて室内を20℃に保っている。これはとてもいい習慣だと思う。だとしたら、外気が10℃の今、冷房をかけるのは変だと感じないのだろうか。。。コロンビア大学はいま冷蔵庫である。
▼ 妻の友人がまたNYにやってきた。週末まで泊まっていく予定。
▼ 今日初めて「アリセプト(塩酸ドネペジル)」のテレビCMをみた。前にも書いたようにアメリカではテレビで医療用薬品の宣伝を普通に流している。にしても、キャッチフレーズが「一日一錠アリセプト」。。。これアリ?面白すぎる。
▼ 夜はワインとチーズ。
Cell。小脳顆粒線維とプルキンエ細胞のシナプスのLTPの誘導に、PKAによるRIM1αのserine413のリン酸化が必須であることを示した論文。このシナプスのLTPの機構は海馬mossy fiberと似ているとされているから、これは私にとって重要な論文だ。ところで後半の電気生理を行っている実験系は海馬にも応用できないかなあ。以前Kandelらが培養系までは立ち上げていた。これこれ。内容は雑誌のレベルにしてはちょっぴりひどかったけど、でも、とくに後者はRK君やRXY君が使えそうな系だと思う。
Cell。Ca依存性にCaチャネルとendophilinが複合体を作ることでシナプス小胞のendocytosisが引き起こされるという論文。しかし、endophilinはL、P/Q、N型を問わずべたべたくっついているし、endocytosisをブロックしてもexocytosis(recycling)には影響ないし、不思議なデータだらけだ。とりあえず、Caチャネルがアンカーとなってmachineryをrecruitするという機構はexocytosisと似ているな。あと、Ca濃度に依存したendophilinのconformationの二相性をしきりに主張しているが、この点は、たとえば病態を考える場合に面白いかも。
Science。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の一部はSOD1のmutationによって生じる。mutant SOD1を発現させると神経は死んでしまうのだが、それはその神経以外の周囲の細胞によって殺されるというのがこの論文の主旨。
NNR。Working Memoryのreviewが載ったので念のため読まねば。Baddeleyだけあって内容は心理学的なアプローチによるもの。


10月3日(金)
▼ 研究報告の準備。矯正協会が出版している月刊「刑政」という雑誌に寄稿すべく文章を書き始める。
▼ 昼はDan Y氏の講演へ。彼女はMu-ming Pooラボ出身者なのでコロンビア大学とは縁が深い。講演はScienceの論文の話題が中心だったが、彼女の論文では個人的にはこれが好き。いずれにしても、物理学出身というせいもあるとは思うが、実験の発想やデータの表し方が個性的で面白い。ただ30代後半なのに私よりも若く見えるのには驚いた。余談だが、Yusteラボの部屋の前任者はまさにPoo教授である。この部屋には「Poo」とラベルされた文房具がいまだに残っている。しかし、「Mu-ming Poo」さんって「ムーミン」&「プー」さん。よーく考えると面白い名前だ。他人に覚えてもらうには都合がいい名前だな。ちょっとうらやましい。
▼ SF君の論文。2回蹴られたのち、3度目の正直で Biophysical Journal に受理された。このプロジェクトを提案したのは去年の10月。ちょうど一年前だな。いやーめでたい。ほかの雑誌のレフェリーからは『ここでいう「カオス」とは「red herring」である』と書かれてリジェレクトされ、個人的には非常にウケたのだが、これも今となっては懐かしい思い出(ちなみに、この指摘はめっちゃ鋭い。私の意図は実際まさにそれなのだ)。さて、この論文は表向きこそ生物物理学だが、じつは薬効の評価に「カオスchaos」や「アトラクターattractor」の概念を使った初めての報告である。つまり薬理学の分野に新しいパラメータを持ち込んだという視点でも評価されて良いと思う。この点について人はどう見るだろうか。ちなみに、私はもう数学は全然ダメな脳になってしまっていて、コレスポをもらっているとはいえ、内容を深く理解できているとはいえない。この論文は完全にSF君のものである。彼はすばらしい。
▼ 夜はコロンビア大の同じ研究棟で研究する日本人同士でミッドタウンに繰り出す。料亭「梓」。


10月4日(土)
▼ 妻が大学で、「市民ケーン」の撮影技法ついて来週までにまとめてレポートするようにという宿題がでたらしい。モンタージュ技法などを分析しやすいように借りてきたDVDをパソコンにコピーしようとしたのだが、ハマった。字幕がどうしてもコピーできないのだ。。。5時間以上も粘ったが結局だめだった。半日はそれで無駄にした。
▼ にしても「市民ケーン」。前に観たときにはよく分からなかったけど、あらためて観ると非常にスゴイ映画だ。映画史上の大傑作と言われるだけある。オーソン・ウェルズ弱冠26歳。恐るべし。
▼ 昼はひさびさにピザをテイクアウトして食べる。
▼ ところでアメリカではレジで9ドル3セントの買い物をして10ドル札を出すと、おつりを1ドルくれる人がしばしばいる。ちょっと得した気分。逆に8ドル97セントの買い物しても1ドルしかおつりをくれない人がいる。なんともアバウトだ。日本人が貴重面するぎるのか? いずれにしても、典型的な日本気質の私は基本的にアメリカという国や人々の気質とあまり馴染まないのだが、そんな融通の効くあたりは好きだ。
▼ 私の願いが通じたのか大学の冷房が昨日ようやく止まった。そして今日から我が家に全館暖房が入った。うーん、快適な空間。仕事をしていたら思わず眠くなる。
▼ 夜はメトへ。モーツァルトの「フィガロの結婚」。指揮はJames Levine。フィガロ役はJohn Relyea。実はあんまし期待してなかったのだが、いや、今日もまた良かった。よーく考えたら、レヴァインはウィーン・フィルとモーツァルトの交響曲全集のCD(←これもまた期待以上に良い!愛聴盤だ)を出しているくらいだから、モーツァルトは彼の十八番だった。今日はさらに演出も良かった。歌手達の演技も上手い。でもやっぱり今日の主役はモーツァルトの天衣無縫な音楽だろうな。溢れ出る活気。純粋なメロディー。とても心地よかった。このオペラはCDで聴くよりも生で聞いた方が断然に素晴らしい。トリスタンとはまったく逆だ。


10月5日(日)
▼ 午前は明日の準備。
▼ 昼過ぎからはカーネギーホールへ。先日の「シェーラザード」に味をしめ、再びゲルギエフ指揮のキーロフ歌劇場管弦楽団を聴きに行く。演目はプロコフィエフ作曲の「ロメオとジュリエット」だ。この曲を聴くと、今年5〜6月にABTで2回連続で観たバレエ(マラーホフとヴィシニョーワ or ケント)のシーンがいちいち頭に浮かんできて思わず感情移入してしまう。今日の演奏は荒々しいくらい野性味に溢れていた。渡米して以来ゲルギエフ&キーロフを4回聴いているが、今日がもっともゲルギエフらしい演奏であった。こういうのを聴くと、やはり彼の生演奏で「春の祭典」を聴いてみたいと思ってしまう。
▼ キーロフを聴きに行くと毎回気になるのだが、チェロ奏者の中に一人ロシア美人がいる。彼女はいつもゲルギエフの真正面に座っているのだ。彼のお気に入りかな?
▼ そういえば今季のカーネギーホールでちょっと残念なことがある。おそらく、ピアノ好きな方がカーネギー・ホールと聞けば真っ先に思い浮かべるであろうのが、そう、1968年2月1日のホロヴィッツによる伝説的なリサイタルである。このライブ録音は『オン・TV (Horowitz Carnegie Hall Recital on TV)』 という名でCDも出ている。クラシック音楽のファンでこの録音を知らない人はいないだろう。実際、世界中の多くの方が「あの映像をもう一度放映して欲しい」と望んでいるのは有名な話である。じつはその録画、嬉しいことに、カーネギーホールのカフェでいつも放送されているのだ。コンサートの休憩時間になると、私はそのテレビモニターの前に釘付けになる。ショパンのバラード第1番、ポロネーズ第5番、スカルラッティーのソナタ、シューマンのトロイメライなど、とにかくホロヴィッツのピアノ魔術はホントすごいのだ。が、しかし!!!その映像がこの秋から別の録画に変わってしまってしまった。これが残念でならない。。。
▼ 帰り道にはコーヒー豆を入れておく缶を買った。
▼ 夜は泊まりに来ていた友人を送り出し、ふたたび明日の発表の準備。さて、もう完璧だ。


10月6日(月)
▼ 研究発表は無事に済んだ。好評だった。とくに、実験データを元に「神経活動のマクロ構造に時間等価性がないこと(表現を替えれば、皮質回路は情報をコードする受け皿ではなく、秩序ある情報を自ら創り出すことができる能力を持っていること)」を主張し、また、この原理が脳の作業記憶(Working Memory)の基礎規定になっている可能性を指摘すると、非常に大きな反響があった。これはホントに嬉しい。が、だ、相変わらず、いくつかの質問やコメントは一回訊かれただけでは理解できなかった。私の英語力、もうちょっとなんとかならんかなあ。
▼ 午後はRK君の論文を改訂。夕食後はeditorへの手紙を書く。いずれも、ほぼ完成。
▼ Glosterの論文が返ってきた。返事は再び「どっちつかず」だ。私はかねてから不謹慎にも「もしこの論文が通ったらNatureは腐ってるな」とラボで豪語しているので、かりに受理されてしまっても私にとっては微妙だ(笑)。それでも、私が提供したFig4のデータはかなり強力なサポートになっているので「もしかしたら」と期待もしていた。Rafaは「さらにfightを続ける」と言っている。しかし、この論文が通らない限り、私自身の論文を投稿できないのが個人的にはツラいところ。私は2ヶ月以上も前に論文を書き上げているし、それどころか、いまや次のテーマに手をつけ始めている。はやく片を付けたいと思うのだが。。。でも、やはりラボ全体の生産性が優先だな。
▼ Rafaから「ラボの金を私用で使うな」という通告があった。そんなことは日本では当然のことなのに、こちらの人々は公私混同する人が多い。私便のFEDEXが公費から落とされていたり、数時間にわたる私用の国際電話などがあったらしい。まあ、国際ラボだからおこり得るのかな。
▼ そういえば、こちらの日本人の友人らの中には家賃節約のために外人と同居している人も多い。彼らによれば、服や時計やカバンなどの個人の持ち物、女性の場合には化粧品までもが、勝手に同居人に使われてしまうのが日常茶飯事だという。しかも、使った後に元の場所に返さないで、自分の領土にモノを放置しておくからタチが悪い。ラボの人にそのことを話したら「別に驚くほどのことじゃないよ」と平然たる返事が戻ってきて笑えた。たしかに私のデスク上の文房具も、ふと気づけば、ラボのあちこちに移動されているし。ということは私も他人のものを堂々と使ってよいということなのかな。それはそれで便利かも。
▼ 2003年のノーベル医学・生理学賞はMRI(磁気共鳴画像化装置)の開発に携わったラウターバー教授とマンスフィールド教授に。当然の受賞だろう。MRIといえば今では脳科学に欠かせないツールである。MRIのシグナルは、もちろん、神経細胞の活動に依存して血中酸素濃度が変化し、それによって水素原子のエネルギー吸収効率が変動するから得られるのだが、しかし、このシグナルが神経細胞の何を表しているのかが長らく不明だった。最近の研究によれば、どうやら、それはEPSPやIPSPなどの神経入力と密接に関係しているらしい(Review)。この知見はきわめて重要である。なぜなら、MRI像を見て「この脳部位が活動している」と判断するときに、うっかりすると「そこで活動電位が発生している」と捉えてしまいがちだからだ。実際には、MRIのシグナルはシナプス活動を表している。つまり、神経情報の「出力」ではなく「入力」だ。もちろん入力があればそれに応じた出力もあるだろうが、少なくともMRIシグナルは「その脳部位がどこからか情報を受け取っている証拠」でしかないということは忘れてはならないだろう。なにはともあれ、今回のノーベル賞。MRIの開発に大きく貢献したベル研究所の小川誠二さんが、日本人二人目の医学・生理学受賞とはならず、個人的に残念である。
Science。先週号の報告で書き忘れていた。カンナビノイド(cannabinoid)CB1受容体のコンディショナルノックアウトマウスでカイニン酸による痙攣が抑えられるというもの。データそのものはneuropeptide Yの焼き直しみたいなものかな。ただカイニン酸によるBDNF誘導がCB1受容体を介しているのにはちょっと驚き。あと、「on demand」という言葉の使い方が面白い。これ、流行るだろうか?


10月7日(火)
▼ 午前実験。
▼ 午後はRK君の論文の最終仕上げ。こんどこそ通って欲しい。祈るばかりだ。
▼ 夕方は9月に書いたreviewの直しを開始。この雑誌、総説なのにレフェリー審査があるなんて知らなかった。
▼ フランスに帰国した元Yuste研ポスドクのRosaからUP stateのメカニズムについて興味深い可能性をメールで教えてもらった。これは試す価値ありだな。ところで「UP state」は日本だと「入状態」と訳すらしい。変な翻訳だなあ。まあ、たしかにUP stateではニューロンは入力に敏感に反応する状態になるから、あながち間違いではないか。
▼ 夜はエッシェンバッハ指揮&フィラデルフィア管弦楽団を聴きに行く。フィラ管といえばはアメリカ五大オーケストラの1つ(残りはシカゴ、ニューヨーク、クリーヴランド、ボストン)。今日の演目はメシアン作曲の「トゥーランガリラ交響曲」だ。
▼ いろいろなことを言う人がいるが、少なくとも私には、「トゥーランガリラ交響曲」は好みの線を行っている曲。実際、普段からこの曲のCDをよく聴く(これこれこれ)。溢れ出る音の洪水に身を任せるだけで官能と恍惚の境地に浸れるから、ストレス発散には持ってこいだ。しかも、楽論的な見地からも構成が細部まで面白いので、知的な楽しみ方も可能なのだ。
▼ んで、生で聴くのは今日が初体験。壮麗なるフィラデルフィア・サウンドから繰り出されるトゥーランガリラ交響曲、これ、かなりツボをついている。私の好きな5楽章なんかキラビやかな原色の世界。もう完全に昇天ものだった。他には7、9、10楽章のような曲がフィラ管はやはり上手い。ティボーテのピアノも最高だったな。やはり実演で聞いて思ったのだが、この曲はCDで再生するには限界があるような気がする。ところで、曲名を「トゥランガリーラ」や「トゥーランガリーラ」などと書く人も多い。綴りは「Turangalila」だ。どれが正しい表記だろうか。
▼ 帰宅後は「刑政」への寄稿文など。
▼ これまで『記憶力を強くする』や『海馬』などに「ロンドンのタクシー運転手の海馬がデカい」ことを書いてきたが、このネタの元となったPNASの論文、なんと今年のイグ・ノーベル(Ig Nobel)賞を取っていたらしい。知らなかった。この賞ってNature誌とかに載った論文なんかも取るから面白い。


10月8日(水)
▼ 午前&午後実験。
▼ 今日からまた別の友人が2人泊まりにきた。来週まで滞在予定。皆さん運が良い。今日から突如気温があがって最高気温も20℃を超えたのだ。
▼ 今日からヤンキース対レッドソックスのプレーオフが始まったので観戦に行く。今日もまたダフ屋からチケットを売りたたいて入場。7〜8回の2回分だけを観戦。7回の裏に松井が犠牲フライで打点をたたき出した。
▼ 帰宅後は遅くまで飲む。
▼ Silaが休暇から帰ってきた。滞在先のフランスは先週から急に寒くなったそうだ。パリはNYの気温と同じくらいらしい。
▼ 今日の朝刊の第一面はシュワルツェネッガーのでかい写真。カリフォルニア州知事に圧倒的多数で当選したからだ。
▼ ノーベル化学賞はアグレとマッキノンの二人に。これマヂ?って感じだ。もちろん共にすばらしい仕事だけど、なにせ化学賞だ。。。 しかも、マッキノンは最近のNature誌への一連の論文に対して与えられているわけで、この受賞の速さは異例だ。これはさすがにラボでも議論の的になっていた。
JN。皮質&線条体&黒質のスライス共培養系をつかって、神経細胞のUp state←→Down stateの特性をspiny projection neuronsとfast spiking interneuronsを比較しながら調べている。この報告は半年ほど前にRosaが推測していた内容に近いような。あらためて彼女のすごさを思い知る。あと、ここで使われているアルゴリズムはシンプルながらわりと有用かもしれない。
JNP。ピロカルピンてんかんラット。interconnectしている顆粒細胞ペアから同時パッチ記録したのは初のケースだと思う。この論文の引用文献はなかなかよくまとまっていて便利かも。
JNP。ニューロンには活動電位を開始する場所が一般的に2ヶ所ある。細胞体と樹状突起だ。Layer V pyramidal cellのsomaとapical dendriteを使って、この二つのhot spotsがどう関連しているかを調べている。Ihがあると両者がdesconnectするというデータ。とくに目新しい感じではないが、後半の実験がわりと面白い。やってみたい実験の一つ。
Neuron。今号はレヴュー集。著名人がたくさん名を連ねている。


10月9日(木)
▼ 二日酔い。
▼ 今日は暑い。天気予報では最高25℃。にしても暑い!25℃以上あったような。夏かい、これは。
▼ 午前は「刑政」への寄稿文を仕上げて送付。さらにRK君の総説の改訂を済ませる。
▼ 昼は倉田さんの紹介でNYを訪れている大野和基さん、シアトルに在住の順子さんのお二人とテラス・イン・ザ・スカイ(terrace in the sky)でお食事。いや、刺激的な方々だった。こういう世界をまたにかけて活躍している人にお会いすると、なにかこう、こちらまでやる気がでてくる。
▼ 午後は総説の手紙をざーと仕上げる。今朝Editorからメールがあり、初刊号に間に合うように投稿せよとのことで、わりと急ぎらしかったのでNYから自費で郵送しようかと思ったが、やはりRK君に託す。
▼ その後は明日の実験の準備。
▼ 夜はニューヨーク・シティー・オペラへ。モーツァルト作曲の「魔笛」。誰が決めたのかしらないが世界三大オペラというものがあって、「アイーダ」「カルメン」「魔笛」がリストされる。今日で全部制覇したことになる。つまり、魔笛を観るのは今日がはじめてだ。音楽としてはモーツァルトの曲のなかでは一番好きな歌劇である。しかし!歌手は音程は外すし、演出はあまりに幼稚すぎだし、オケも下手なので、第1幕が終わったところで帰宅。あれじゃー、モーツァルトの美しい音楽が可哀想だ。


10月10日(金)
▼ 早朝に大学に行ったら構内で映画撮影をしていた。近くのスタッフに映画のタイトルをきいたら「NY minute」といっていた。大がかりな機材を運んでいたのでハリウッド系かもしれない。急いでいたので通り過ぎる。
▼ ラボにちょっと立ち寄ったのち、ニューヨーク大学のWenbiao Ganのところにin vivo実験を習いに行く。とても綺麗な場所だった。しかも装置もよく揃っている。Gan教授が自ら実験のデモをして下さったが、さすがに器用だ。要領もいいし。
▼ 今日はこれからちょっと旅に出る。次の日記の更新は月曜か火曜日の予定。


10月11日(土) フランス
▼ 朝、パリに到着。早速、ルーブル美術館へ。5時間以上掛けて回ったが、とても全部は見れなかった。ミニャール(Pierre Mignard)作の「葡萄の聖母子(La Viegea la Grappe)」がとりわけ素晴らしかった。ポンピドゥー芸術文化センターの国立近代美術館。夕食は海鮮にシャブリを合わせる。宿泊はCarlosのお母様のアパート。地下鉄の駅から近くて便利だし、中庭の蔦にも雰囲気がある。
▼ パリは初めて訪れた。お洒落を地でいっている街。そのさり気なさが素晴らしい。地下鉄の車両が小さめなのには驚いた。


10月12日(日) フランス
▼ ノートルダム大聖堂。オルセー美術館。マルモッタン美術館。モンマルトルのサクレ・クール聖堂。夕食はル・ルレ・プラザでフレンチ。ジヴレイ・シャンベルタンを合わせる。
▼ やはり、というか、懸念していたとおり、ミレーの「落ち穂拾い」「晩鐘」「羊飼いの少女」は日本に貸し出されていてオルセー美術館では対面できなかった。残念。
▼ 昼は「サロメ」を観ようとオペラ・バスティーユへ。当日券を買おうとしたが、人気歌手が出ていることもあってダフ屋もウハウハの盛況ぶり。結局観れなかった。これも残念。


10月13日(月) フランス
▼ ピカソ美術館。オペラ・ガラニエ。そのあと買い物してNYへ帰る。
▼ フランス人はイギリス、アメリカが大嫌い。だから英語で話しかけても無視されるし、そもそも彼らは英語を話せない。と、小さな頃から学校で教えてもらっていた。しかし、今年の8月にも思ったことだが、フランス人は英語が堪能だ。特にパリではほとんどの人が英語が話せるのではないかと感じるくらい英語が通じる。地下鉄の吊り広告でも「Do you speak business English?」のキャッチフレーズで英会話学校の宣伝があったくらいだ。世界標準言語としての英語の圧力に、フランス人としてのプライドだけではもはや通用しなくなったということだろうか。


10月14日(火)
▼ 午前実験。突然、Rafaが子供が通う保育園の児童20人をラボに見学に連れてきてビビった。ちなみにRafaのお嬢さんはお父さん似でめっちゃかわいい。いちおし。
▼ 昼はNeurolunchへ。今日はGuosong Liu教授の講演。プレ側に起因したslient synapseについて。活動のレベルに応じた「LTP adaptation」など面白い話題(unpublished data)もあったが、手法がトリッキーだったので若干説得力に欠けるような気がした。Rafaが「逆行性伝達物質は?」と聞くと、「カンナビノイドの線は薄い」と答え、さらに「脳由来成長因子BDNFの可能性が高い」と言っていたのには驚いた。ただし、まだ実際にBDNFが放出されているという証拠はつかんでいないとのこと。
▼ 夜はリンカーンセンターへ。セント・マーティン・イン・ザ・フィールズの演奏。ペライアの弾き振りでベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第1番」。あまり良い演奏でなかったので、旅行の疲れが残っていたこともあり、後半の「ジュピター」は聴かずに帰宅。
▼ 日本から行くより近いものの、やはりパリは遠かった。飛行機で片道8時間(コンコルドはボストン−ロンドン間を3時間で飛ぶらしいが、あれは速すぎ)もかかる。2泊3日の旅ではしんどかった。ただ航空券は安いのだ。日本でも国内線よりソウルやグアムのほうがチケットが時として安価なように、NYからはロサンゼルスやニューオーリンズに行くよりもヨーロッパに行ったほうが安いのだ。とりわけロンドン行きは格安。往復200ドル以下で買えるから驚きだ。新幹線で東京−大阪を往復するほうが高いなんて。。。というわけで、次回の連休はロンドンに遊びに行こう。にしてもこうした航空券の料金システムはどうなっているんだろう。
PNAS。Greengardラボから。Ablキナーゼの阻害薬STI571(imatinib mesylate、Gleevec)がアミロイドベータの産生を抑制するという話。Cell freeと培養細胞系の実験がほとんどだが、モルモットを使ったvivoの系でも効いている。ただし作用機作は不明。Notchの分解には影響を与えない点が面白い。
PNAS。視覚野の眼優位性カラム形成の臨界期(critical period for ocular dominance)の話題。動物を暗室で育てるとBDNFの発現が下がり、これが臨界期の延長を惹起するという論文。所見的にはBDNFが抑制性入力を促すことで臨界期を終結させるらしいがこの論文だけでは因果関係は不明。


10月15日(水)
▼ むっちゃ強風。
▼ BrendonとJAKさんの論文の相談。ようやく来週には投稿できそうだ。「にしても、英語は冠詞の使い分けが難しいね」と話したら、「僕もフランス語を習っているんだけど、定・不定冠詞の使い方が英語の分類と違っていて難しいんだ。だからそれはよく理解できるよ」と言っていた。そうなんだ、知らなかった。
▼ これで思い出したのだが、昨日、Jasonと今回のパリ小旅行の話をしていたら(彼も来月パリに遊びに行く予定らしい)、彼から「Did you take 観光?」と訊かれた。一瞬、「ん?」状態だった。なんでJasonは「観光」という日本語を知っているんだろう。。。でも、よーく聞いたら「Concorde」と発音していた。コンコルドは今月末に28年の歴史の幕を閉じることが決定されているから、たしかにJasonの言うように一度乗ってみたかったかも。でもコンコルドの正規運賃は200万円くらい。格安チケットでも45万円なので、とてもではないが私の身分では買えない。
▼ 午後はプログラミング。長いintervalをもったcross motifを探索するためのアルゴリズムを追求。
▼ 夜はカーネギーホールへ。今夜はドホナーニの率いるフィルハーモニア管弦楽団。前半は若手の女性バイオリニスト・エリザベス・バティアシュヴィル(Elisabeth Batiashvili)によるシベリウスのバイオリン協奏曲だ。この曲は昔から大好き。日本音楽財団が彼女に貸し出しているストラディヴァリウスのやや冷ややかで硬質な音はシベリウスにぴったりだ。テンポを遅めにとり悲壮感たっぷりの歌。鳥肌のたつようなシベリウスだった。後半はブルックナーの交響曲第4番。フィルハーモニア管弦楽団を生で聴くのは初めてなのだが、女性団員が多いのに驚いた。そのせいか強奏でもしなやかさを失わない好演だった。
▼ 帰宅後はDevBrainResの論文のreview。これは通してあげよう。
JN。ちょっと工学チックなのが私の好みのタイプの実験。この論文のデータを「同一ネットワークに2種のオシレーターが存在するときの引き込み(entrainment)」と解釈すると、より面白くなるような気がする。こんな実験はぜひやってみたいが、ただ私の目には彼らの前報ほどの意義深さはないかも。
JN。山口先生のところのNestin-GFPラットの報告。この動物を如何に活用するかを考えるためには重要な論文。
JN。free movingラットからfEPSPのLTPをモニターしている。しかもoriensからの記録だ。
JP。Schaffer collateral上のIhが、高頻度Burst時に(外部刺激に対する)発火閾値の上昇を媒介しているという話。TY君のデータがこれで説明がついてしまわなければよいのだが(たぶん大丈夫)。海馬スライスのCA3細胞体からunit記録。こういう実験をmossyでもやってみたい。
JP。これもプレ側のチャネルの話。SF君の実験のように海馬スライス培養でCA3 recurrentの性質を調べている。細胞内CaイオンによってId様チャネルが抑制されると、Spikeの戻りが遅くなり、Synapseのfailure rateが下がる。paired responseも変わる。ほとんどが微妙な薬理実験。discussion中の構想が大きすぎかな。
JP。ついでにもう一つプレ側のチャネルの話題。標本は外側扁桃体スライス。BKチャネルが不活性化するとspikeのbroadeningがおこる。まあ当然?


10月16日(木)
▼ 朝、Rafaと実験の相談。昨日のプログラムはまだ改善の余地ありだ。
▼ 私の論文はGlosterの論文とペアでScienceに投稿することになりそう。私としてはNatureに出したかったのだが… 一つにまとめAritcleとして投稿する場合には私をFirstAuthorにしてくれるというのでひとまず安心。
▼ 午前は昨日の論文のrefereeの返事書き。午後は自分の論文の直し。なかなか納得いく仕上がりにならない。
▼ 夜はリンカーンセンターでニューヨーク・フィルハーモニーを聴く。向かう途中、信号装置の故障で地下鉄が停止した。あと二駅だったので仕方なく歩いて会場へ。というか私の乗っていた電車はたまたまホームで故障したから、すぐに降車できたものの、後続の電車は線路の途中で停まっていた。気の毒だ。にしてもNYの地下鉄はアクシデントが多いなあ。
▼ 今夜のNYフィル演奏会はアリシア・デ・ラローチャ(Alicia de Larrocha)との協演だった。彼女は誰もが認める二十世紀を代表するピアニスト。いまや80歳。今回のコンサートは彼女の最後のアメリカ公演だというので、これは聴かねばと今日はやってきた。
▼ 曲はハイドンの「ピアノ協奏曲ニ長調」とファリャの「スペインの庭の夜」。スペインものを得意とするラローチャだから後者が良いのは言うまでもない。しかし、私は前者の演奏に驚いた。もちろんヨボヨボ歩きのおばあちゃんだから、若かりし頃のあの鮮やかなテクニックはもはや望めない。しかし、小柄な体から紡ぎ出される小気味よい音のなんとチャーミングなこと。ハイドンのコンチェルトをこんなに楽しめたのは初めてだ。聴衆の熱烈な喝采からも、この巨匠がいかに人々から尊敬されているのかがよく分かった。私にとって一生忘れないコンサートだろう。後半はニールセンの交響曲だったが聴かずに帰る。
▼ 帰宅後は再び論文の直しを続ける。
▼ 今夜はヤンキースがアメリカン・リーグの優勝を掛けて最終戦。この大切な試合で松井は五番に昇格。ヤンキースは延長の末、逆転サヨナラ勝ちで優勝を遂げた。と同時にNY中は大騒ぎ。夜半過ぎだと言うのにいまだに窓の外は騒がしい。私の部屋はブロードウェイに面しているのだ。。。
▼ 昨日の強風でステタン島行きのフェリーが岸壁に衝突して大破したらしい。10人も死亡したというから大きな事故だ。もちろん新聞のトップ記事だった。このフェリーはマンハッタンとステタンを往来している無料の渡し船。途中で「自由の女神」のそばを通過するので、観光を安く済ませたい人にはもってこい。私もNYに渡りたての頃に乗った。
Sceince。いま流行の量子ドット(quantum dot)を使った論文。培養脊髄神経細胞のグリシン受容体α1サブユニットを標識し、その動態を追跡している。シナプス下へlaterallyに受容体が挿入される様子が受容体一個のレベルで観察できるようになった。Movieも秀逸。楠見先生の論文のような詳細なkineticsの解析があればなお良かったのに。
MCN。那波先生のラボから。GABA性神経のAMPA受容体の発現がBDNFによって上方制御されている。ともかくBDNFが多量に放出された時に抑制性が強まる方向に調節されることは確かだ。
MCN。Sema3Fのスプライシングヴァリアントについて。ともに同じ受容体に作用し、海馬axonと上皮細胞lamellipodiaに忌避反応を惹起するので、機能的にはredundant。ただし発現パターンは違うので、異なった役割をもっている可能性はある。


10月17日(金)
▼ 午前実験。動物室にマウスを取りに行った帰り、手に持ったマウスと共にエレベータに閉じ込められた。また故障か。。。うむ
▼ 最近実験の調子がくすぶり気味だったが、久々に美しい映像が得られた。デモにしたいくらい。神経発火は芸術だ。
▼ 午後は最も重要な仕事の一つであるTY君の論文に満を持して取りかかる。二時間半ネバって図1のLegendのみが終わった。先は長そうだ。
▼ 夕方はVovanの学会報告。先週に開かれたOSA annual meetingのレポートである。Yuste研は光工学の動向に合わせて進歩するラボなので、こうした学会からの情報は重要だ。今回の報告によれば、第二高調波発生(SHG, second harmonic generation)を利用した光学顕微鏡については我々はまだ他のラボよりも先を走っているようで、Rafaは「敵はいないな」と安心していた。その他の情報ではpolygonal mirror scanner式の高速スキャン顕微鏡、CARS(coherent anti-stokes raman spectroscopy)、補償光学(adaptive optics)に関する新しい話題や、PETを超える画像法PATなど興味深い話題が多かったが、もっとも皆が興味を示したのがMITのFinkの研究だ。すでに昨年に論文にもなっているように、新しい素材の中空光ファイバー(hollow optical fibers)である。この論文のSupplementary informationのmovieは面白い。このファイバーはレーザ装置の節約になるとRafaも興奮していた。
▼ コロンビア大学の創立250年記念祭が始まった。中央広場が大学のカラーである淡青色に電飾されて綺麗だ。
▼ 夜はワインとチーズ。


10月18日(土)
▼ 午前。Carlosのお母さんにお礼の手紙書き。TY君の論文。
▼ 午後。「ヘンリーズ・エヴァーグリーン(Henry's Everegreen)」という中華レストランで開催されたワインのテイスティング会に出かける。ロックフェラー(Rockefeller)大学の友人に声を掛けてもらったのだ。こういった催し物に出席するのは実は初めて。参加費が25ドルだからとても破格だ。全2時間のうち実際にワインを飲んだのは前半のみ。それでも20種類以上も試飲した。後半は集まった友人らとくだけた会話で盛り上がる。やはり、というか当たり前なのだが、値の張るワインほど美味しい。
▼ 当初の予定では、その後、友人が所属するMcEwenラボを見学させていただくことになっていたが時間の都合で次回に。ちなみに彼は7月にニューヨークで開催された国際カンフー選手権で優勝している。
▼ 帰り道にはメトロポリタン美術館に立ち寄る。特設展を見るのが目的。先週からエル グレコ(El Greco)展が始まったのだ。グレコの絵は私の好み。世界中の美術館からグレコの絵が集まっていた。来年まで公開されるらしい。
▼ 帰宅後はまた仕事。
▼ ワールドシリーズが始まった。初戦。松井は猛打賞の活躍だったがチームは惜敗。


10月19日(日)
▼ 昼にTVで映画を見た以外は一日中仕事。TY君の論文など。
▼ 映画はヒッチコックの「北北西に進路を取れ」。これは以前に観たことがあったのだが、改めて観ると、なんとなくストーリーが稚拙な気がした。現実にはありえなすぎ。いや、映画だから「ありえな」くてもいいのだけれども、でも、やっぱりありえなすぎ。。。妻と一緒に思わず笑ってしまった。でも、ヒッチコックのカメラワークはどこをとってもやはり天才的だと思う。
▼ 夕方、買い物に出かけたとき、なんと、すぐ近所にアヴェダ(AVEDA)の専門店があることを発見。そこには直営の美容院もある。こんど行ってみようかな。
▼ 夜は先日泊まりにきた友人らにいただいた日本酒を飲みながら鍋。日本の味。やっぱりいいなあ。
▼ ワールドシリーズ2日目。球場に観に行こうかと思ったが、溜まっている仕事もあったのでTV観戦で我慢。試合は松井の先制3ランホームランでヤンキースが快勝。ヒーローインタビューはもちろん彼だ。ホントに頼もしい!っていうか、やはり観に行けば良かった。。。


10月20日(月)
▼ 朝、大学に行ったらちょうど国旗掲揚の時間に当たった。構内には、昇りゆく星条旗に向かって敬礼する不動の人々がちらほら。にしても、アメリカ人は愛国心が強いなあ。スポーツを生で観戦していても「God Bless America」を斉唱するシーンはいつも盛り上がりが最高潮に達する。少なくとも今の日本では見られない光景だ。だが、あの異様な雰囲気に、おもわず北朝鮮を重ねてしまうのは私だけか。
▼ 午前は急遽、ポスドク候補によるTalkが入る。ちょうど2週間くらい前に興味があってダウンロードした論文が2つあったのだけど、驚いたことに、彼女はまさに両論文の筆頭著者だった。幸運だ。Talkの後で彼女と一時間以上も話し込んだ。似たような分野の人と話すのは面白い。
▼ さらにその後、最近論文を書き始めたJasonとBrendonも交えて4人で話をする。Jasonから「いま面白いデータが出でいる」と聞いていたが、あれはホントにスゴい。感動ものだ。やはり「cortical reverberation」というのは面白い現象だ。にしても彼のデータは1000以上のものMovieデータを使っている。その事実だけでもスゴいな。なにせ、私の最近の論文はたったの54個のムービーだけで成り立っている。それでも解析に2ヶ月も費やしたのだ。。。彼の体力は並じゃないな。
▼ Jesseが最近受理されたNeuron誌への表紙を作っていた。かなり綺麗だ。採用されれば掲載されるのは年末か年始くらいかな。
▼ 午後はJAKさんの論文の最終チェック。その後はin vivo imagingの装置を作る。
▼ 今夜はカーネギーでハイティンク指揮&ボストン交響楽団による歌劇「ペレアスとメリザンド」の演奏会形式コンサートがある。
▼ 私には『マイ・ベスト・オペラ』として愛聴している傑作ある。「トリスタンとイゾルデ(ワーグナー)」、「ボリス・ゴドゥノフ(ムソルグスキー)」、「ヴォツェック(ベルク)」、そして、この「ペレアスとメリザンド(ドビュッシー)」の4曲だ。
▼ というわけで、今日は絶対に外せない。自宅で夕食だけ食べてホールへ直行。 しかし!今日に限って学生券がない。。。仕方なく正規料金で当日券を買う。といっても、空いていたのは25ドル席だけだったのだが。
▼ 世の中には、もっと甘美な曲とか、もっと深みのある曲とか、もっと感動的な曲は多数あるだろうけれども、「神秘的である」ということにかけては「ペレアスとメリザンド」以上の曲はちょっと浮かばない。加えてこのオペラは、どこまでも透き通るように美しく、そしてむせび泣くように切ない。ボストン交響楽団ならば「ペレアス…」は似合いそうだなと思って出かけたが正解だった。過多な装飾や色づけをしないストレートな表現。それでいてオブラートで包むようなこの曲の神秘性をよく出していた。歌手達も皆うまい。きっとハイティンクの棒さばきが冴えているんだろうな。
▼ 帰宅したらすでに夜遅かったので、仕事はせずに、この日記だけ書いて就寝。
▼ 昨日、AVEDAのことを書いたら、この9月に日本でもAVEDA一号店が青山にオープンしたという情報いただいた。やはり日本にも進出し始めたか。


10月21日(火)
▼ 実験が入っている日は朝7時に目覚ましをセットしている。その時間はまだ日の出前。というか実際には外は真っ暗である。日が短くなったなあ。そしてサマータイムも今週で終わる。
▼ サマータイム制は日本でも一時導入されていたらしいが定着しなかったという。日本人というのは「自然の変化」に合わせて生活する傾向があって、欧米人は「自然に対抗し、自然を征服」しながら生活する傾向があるように思う。たとえば公園を見ても、京都に代表されるように「美しい自然の理想像を『再現』とする庭園」と、ローマのように「自然を排除し幾何学模様や彫刻で飾り立てる公園」を比べてみれば、こうした民族性の違いは明らかだ。ただ、今回初めて経験してみて、サマータイム制はなかなかよい習慣だなと私は感じている。
▼ 午前実験。コロンビア大学の前で動物愛護団体による反実験動物デモがあった。ラボ内には今日実験をする人へ警戒を呼びかけるアナウンスがあった。研究棟全体でも厳戒態勢を敷いていた。こうした運動の意義は認めるものの、彼らには何をしだすか分からない雰囲気があるからたしかに怖い。私は事前にまったく知らずに平然と実験をしてしまった。なにも起こらなくて良かった。
▼ 実験の空き時間はJAKさんの論文のレフェリーへの手紙書き(直し)。
▼ 昼飯は白米・納豆・みそ汁・山クラゲ。すべて大好物。
▼ 昨日もまた地下鉄が止まっていた。昼飯を食べながらCNNを観ていて知ったのだが、今回は故障ではなくて事故だったらしい。ニュースによれば、ハーレムに住む14歳の少年が、動いている地下鉄の屋根の上で、隣の車両へ飛び移るアクロバットを試みて失敗。転落直後に轢かれて死亡したのだという。
▼ もう一個CNNから。ナイアガラの滝へダイブした人がまた出たらしい。。ちなみに飛び込み後の生存率は過去平均すると50%くらいだそう。今回、彼はほぼ無傷で生還。でも違法なので即逮捕。罰金は120万円だそう。ともに何があってもおかしくないアメリカならではのニュースである。
▼ 午後は論文の図の直し。結局、私の論文はGlosterのと一つにまとめてariticleとしてScience誌に投稿することになった。Rafaはこの論文にはかなりの自信を持っているようだ。約束どおり私がfirst authorになった。が、しかし、LetterでいいのでRafaとの二人だけの連名「Ikegaya & Yuste」でNatureに通すことが私の夢だったから、今回の決定はいささかショックだ。なにせ、Glosterの論文はauthorの数が多すぎる。でも、やはりラボの生産性が最優先だ…諦めるか。。。っていうか、最近、新たに始めたプロジェクトは個人的にはより面白くて好みの実験なのだが、仮に最良のデータが出たとしても、Natureクラスはとても望めないテーマ。だから、なんとか今の論文に通ってもらいたい。
▼ データ解析のための新しいアルゴリズムを思いついてしまった。かなり画期的だと思う。ちょっと興奮気味。帰宅後はモンテカルロ・シミュレーションで、これが機能するかどうかを検討。自宅のPCのパワーが膨大な演算処理には不十分でちょいと手こずる。
▼ ワールドシリーズを観ながら仕事。途中、講談社の編集者から電話がある。これから新しく書く本について相談。
▼ ワールドシリーズは舞台をフロリダに移して第3戦。今日も松井の決勝打が飛び出す。これで二勝一敗。


10月22日(水)
▼ 午前実験。GFP-M transgenic mouseのイメージング。このマウスを使うと、例えばこんな画像が共焦点でも簡単に得られる(CA1錐体細胞苔状線維)。
▼ 午後。昨日思いついたアルゴリズムが有効かどうかを再度確認するために様々な試行を行う。うまく行きそうな気配。明日は本格的にプログラミングを始めよう。
▼ 夜はもろもろの仕事。途中でベネッセから取材の電話が入る。
▼ ここ連日、NY地元の新聞の一面トップは松井である。今夜は第4戦。粘ったがサヨナラ負け。これで2勝2敗だ。
▼ 6月から始まったアパートの修復工事がようやく今日終わった。8月に終了予定だったのに結局10月だ。なんというか、私が子供の頃は、工事が大幅に遅れるのは日本でも「当たり前」のことだった。アメリカでは今でも当然のことのようである。誰も驚かない。
N。痙攣薬flurothylを使ったちょっと変わった全身発作性のてんかんモデル。このラットでもmossy fiber pathwayに沿ってBDNFの発現が上昇する。一方、TrkBの発現には少なくとも巨視的な変化はないらしい。


10月23日(木)
▼ 最高気温が摂氏8度だった。
▼ JAKさんの論文を改訂版を投稿した。修正には相当な時間を割いたが無事通ってくれるだろうか。
▼ 午前は画像処理のプログラムを書く。
▼ 午後はアルゴリズムのプログラムを練っていたら、Rafaから投稿論文について依頼を受ける。文章の推敲と図の作成だ。明日までにということなので急いで取りかかる。全6個の図のうち5つまでが完全に私の担当なので当然負担も多い。でもやりがいのある仕事だ。
▼ 夕方はBrendonと1時間ほど実験。
▼ 夜はメトロポリタンへ。演目はスラヴィンスキーのオペラ二曲とバレエ。バレエは「春の祭典」。ふと、糸数さんのモダンダンスを思い出しながら観た。オペラは「ナイチンゲールの歌」と「オイディプス王」である。前者はABTのプリンシパルであるジュリー・ケントが主役の踊りを担当していた。初めて聴くオペラだった。結構楽しめた。ただ、論文の仕事が気になったので、後者は観ずに帰宅。
▼ 帰宅後もワールドシリーズの観戦は諦めて、論文に専念。今日は何時に寝られるのか不明。ちなみに試合の結果はヤンキースの負け。2勝3敗。これで後がなくなった。と同時に「松井が打てないゲームはチームが勝てない」という図式が浮き彫りになった。
▼ 「海馬(朝日出版)」が中国(北京)でも出版されることになりそう。随分と前に、台湾で出版されることが決定されている。いや、当たり前のことなのだが、台湾と中国では別々の取り扱いなんだあと、改めて認識。このオファーが通れば、日本、韓国に続いて全4カ国で発行されることになる。広く読んでいただけることはとても嬉しいことだ。
Nature。O'Keefeラボの報告。海馬の場所細胞(Place cell)を例に挙げて、temporal codingとrate codingが可分であることを示した論文。この内容はBuzsakiらやWilsonらによる「両者は同一現象の別の側面」であるとする説とは対立する。今回の論文によると、spike timingは場所を、発火率は歩行スピードを符号化しているという。ただ、データを見る限り後者は比較的相関が弱く、(また実際、物理学的にはスピードと位置は当然関係しているわけだから)「完全に可分だ」と結論づけるにはさらに検討が必要であろう。いずれにしてもSF君の現在のテーマのようにCA3野錐体細胞の発火タイミングのメカニズムを追求していく研究が大切であることは間違いない。


10月24日(金)
▼ 今日も寒かった。週末はまた暖かくなるというからちょっと我慢だ。
▼ 朝、Rafaと論文の相談。RafaはすでにEditorとAbelesに手紙を書いたようだ。来週の水曜日に投稿したいと言っているが、そんなことが可能なのであろうか。まあ、でも早く投稿できれば、懸案のTY君の論文に専念できるのでありがたい。
▼ 論文にはさらに追加データが必要なことが分かった。昼間はFigureの改正。夕方からはそのデータ解析用のプログラムを書く。いつもその場しのぎのプログラミングなので、数ヶ月前に組んだプログラムを再解読するのに手間取ったが、夜間過ぎには解析を終える。
TINS。McBainが介在神経シリーズの一環として、苔状線維とCA3野回路の総説を出した。MTさんのテーマに関係ありそうだったので、忙しいのに思わず読んでしまった。ほとんどは予想通りの内容だったが、CA1に関するのこの論文を知ることができた。


10月25日(土)
▼ 朝から論文に専念。
▼ 夕方はニュージャージーに引っ越した佐藤君&黒川さん宅で日本人パーティー。にしてもすばらしく夜景の美しい高層マンションだった。「ああ、あの光の中に普段、私は住んでいるんだなあ」と思うと感慨深い。マンハッタンは遠くから眺めてこそ美しい。
▼ でも、論文を書かねばいけなかったので申し訳ないとは思いつつも早々に帰宅。
▼ ちなみにヤンキースは負けた。これで今シーズンは幕を閉じた。あと気になるのは阪神Vsダイエーの行方だ。


10月26日(日)
▼ サマータイムが終わった。サマータイム時差ボケという現象がある。春にはそれを感じたが、今回はいつも通りの生活ペースで違和感がなかった。人間の体内時計はもともとは一日25時間にセットされているらしいから、一日が1時間延びる分には合わせやすいということだろうか。実際、昨夜、就寝前に我が家の時計・腕時計をすべて一時間早めておいたら、妻はいまだにサマータイムが終わったことに気づいていない。とりあえず実験成功。
▼ 今日も一日、論文の作業だけで終わる。にしてもGlosterが担当した実験の箇所(Fig.1)はホントに力業の研究だ。IBMが開発した「p690(Regatta)」(写真)を使って猛烈な計算をさせているのだ。実験のアイデアはたしかに面白いが、単価が数億円とも言われるこのスーパーコンピューターあっての研究である。私が普段解析に使っている(DELLにしては高額の)20万円PCとはワケが違う(比べるなって?)。論文を書きながら改めて感心た。
▼ 昼飯時にTVをつけたらアン・リー監督の「グリーン・デスティニー」をやっていた。ちょっとだけ観る。アクション・シーンが「マトリックス」を思わせるものの意外と面白そうだった。
▼ 午後には息抜きに30分ほどハドソン川沿いを散歩。紅葉が始まっている。
▼ 先週Carlosが大学にいないなあと思っていたら、Svobodaのラボに共同実験に行っていたらしい。これは人間関係をいろいろと考えると意外な展開である…。ところでSvobodaラボにはなんと9台もの二光子顕微鏡があるらしい。もちろん、すべて手作りで、Carlos曰く「Yuste研よりもはるかに装置の質が高い」と。。。ふむ、そうなんだ。
▼ AB君の論文がPubMedに二重登録されている。こういうのって削除依頼した方が良いのかなあ。


10月27日(月)
▼ Meetingはまた新たなポスドク候補によるTalk。亜鉛イオンや一酸化窒素によるNMDA受容体調節を担う細胞外ドメインの話。彼もまた業績が半端ではない。このラボにポスドク志願に来る人はなんで皆こんなにスゴいんだろう。私の業績なんて恥ずかしくて見せられない。
▼ Meeting後は先日思いついたアルゴリズムのプログラム書きに精を出す。うまく機能しそうだ。
▼ 今朝提出した論文は夕方には最終稿となってラボに配布された。コラボしているFersterのラボ(イスラエル)にもメールで送られた。にしてもRafaの仕事の速さは尋常ではない。あっという間の出来事だ。明日までに再度、全体チェックをして再度提出しないといけない。
▼ 夜はメトへ。ロッシーニの傑作オペラ「セビリアの理髪師」だ。先日の「フィガロの結婚」が喜劇として想像以上に面白かったので、これも観たら楽しいだろうと期待して出かけた。実際のところ今日もまた良かった。あえて比較するとすれば、音楽の自体の楽しさは「セビリア」が上で、オペラ全体としての楽しさは「フィガロ」に軍配があがるといった感じか。ロッシーニの旋律は華美な装飾によって表面的な効果を狙いすぎているという批判がしばしばなされる。そうした意見はわからなくはないが、聴く人の好みの問題もあるような気がする。シャンパンが好きな人、ワインが好きな人、いろいろいて良いのでは。ちなみに今夜の演奏では、伯爵を歌った若きテノール、アントニーノ・シラグーザ(Antonino Siragusa)の甘美な声がとても良かった。
▼ 帰宅後はまた論文の直し。今日も何時になることやら。
CC。Persistent Neural Activityの特集号。うむ。多すぎて読みきれない。McCormickらのFig.9なんかはSF君の研究に直結しそうだし、Lavinらのような実験は単純だけど日本に帰ったらぜひ展開してみたいと考えていたテーマのひとつだ。それに、SejnowskiTankWangなどの論文もきちんと理解しておかないと。


10月28日(火)
▼ 論文の修正。Rafaの書いた手紙を見せてもらう。この日記を書き始めたばかりの頃(7月22日)に、「私の研究は、これまでに皮質機能に関して提唱されてきた様々な仮説の統一理論になりうる」というようなことを書いた。Rafaがまさにそれと同じことを編集者への手紙で書いていてビックリ。『Temporal precision, Abeles' synfire chains, Hopfield network models, persistent activity, and cortical anatomy andplasticityなどの過去の仮説はすべて、私たちが発見した現象を、異なった側面から述べたにすぎない』と謳っている。うーん、ちょっと宣伝過剰のような気がするが、まあいいか。
▼ 午後はプログラミング。バグも取れてきた。あとは演算の高速化とインターフェースの作成だ。ここからがまた別の意味で大変だ。
▼ 夕方にはGlosterから論文のコメントをもらう。さすがに共著者だけあって私の研究を良く理解している。良いサジェストばかりだ。ホントありがたい。
▼ 夜はワインとチーズ。
▼ TY君の論文を手がけようと思ったが、昨日の深夜仕事のせいかひどく疲れていたので早く寝る。
▼ ユステ研はSFNのPosterの色を皆で揃えるらしい。そろそろ作ろうかと思っていたが、台紙が届くまで準備ができそうにない。でも、皆で形式がそろっているなんてカッコいい。楽しみだ。
▼ 先日、ネットで購入した「トゥランガリーラ交響曲」の総譜スコアが届いた。高校生の頃からずっと欲しいなあと思っていた楽譜だ。
PNAS。BDNFノックアウトの発達期バレルでサイレントシナプスの比が高まるという話。生まれる前からずっと欠除し続けていたBDNFのこの効果は、でも、たった数十分のBDNF適用でレスキューできる。作用点はポストらしい。微細なことだが私の目にはNMDAカレントもノックアウトで小さくなっているように見える。


10月29日(水)
▼ 投稿論文仕上げの続き。Rafa、Glosterと話し合って、新たなシミュレーションが必要であることがわかった。急遽プログラムを組んで解析。データを追加。明日には投稿できるかな。
▼ 解析の待ち時間は新アルゴリズムのプログラムに手入れ。重大なバグ発見。
▼ 夜、妻とカレーを作っていたら、タマネギの汁が飛んで目に入った。うっ、痛い。。。当たり前か。でも痛い。ただ、子供の頃に、母親の手伝いで切ったタマネギの方がもっと目に滲みたように感じるのは気のせい? 品種改良が進んでいるのかな。それとも子供の目の方がタマネギに感受性が高いのかな。てなことを考えながら、ふと、この論文を思い出した。
▼ 夜も論文、論文、ひたすら論文。
NN。培養海馬神経を使ってβ-catenin(カテニン)が樹状突起のarborizationを促進することを示した論文。データ自体は単純だが、後半の実験のactivity-dependent branchingの細胞内メカニズムの話には興味がある。
NN。神経突起の分枝解析(表示)でFig.3gのように単純化する方法は今後有効に活用できそうだ。
NN。 C. elegance.におけるGABAの筋肉収縮作用はEXP-1という陽イオンチャネルが媒介している。つまり、EXP-1は新しいタイプのGABA受容体で、しかも興奮性というわけだ。ヒトGABARβ2サブユニットと21%のhomologyを有しているが、ヒトnAChRα7とは11%のみ。こういう論文には読者に有無を言わさぬ説得力があるが、中枢神経系ではないし今後の進展を静観しよう。
JCB。ビオチンまたは125IでラベルしたBDNFを使って、培養海馬神経の活動依存的なTrkBのエンドサイトシスを観察している。NMDA受容体依存性カルシウム流入とTrkBキナーゼ活性化の両方がトリガーとして必須らしい。
JN。異なった周波数特性をもつ神経同士がSpike-timing dependent plasticityによって同期しうるという報告。STDPの新規な役割だ。こういうタイプの実験&モデル研究は面白い。それに「アトラクターへの引き込みが可塑性によって安定化される」という点は、私がいま書いている論文の主張に合致する。
JN。カイニン酸受容体刺激により内側嗅内野皮質でガンマ波が生じるという報告。海馬とは独立にガンマgeneratorを持っているらしい。星状細胞のIhがキーかもしれないとのこと。
JN。Type 8 adenylyl cyclaseのKOで海馬苔状線維のLTPが低下しているという話。Type 1とのDouble KOでも完全にはLTPが消失しないのでcalmodulin/cAMP非依存の成分があるのかもしれない。でもこの論文、前半と後半でストーリーが乖離しているような。
JN。McBainラボから。CA3 networkのnon-Hebbian可塑性。CA3錐体細胞を脱分極させただけで、mossy fiberシナプスにLTDが起こるという。この可塑性の発現部位はポスト側で、L型カルシウムチャネルや細胞内CaストアによるCa動因でAMPA受容体の数が減ることが原因らしい。ACシナプスはLTPやLTDなどスライスによって異なる。直接は関係ないけれどもMTさんの論文を引用してほしかった。


10月30日(木)
▼ 今日も朝から論文の仕上げに専念。昼前にようやく完成にこぎつける。すぐに投稿。にしても怒涛のような一週間だった。
▼ 投稿し終わると、早速、Rafaと今後のテーマの相談に入った。私の現テーマは特異なアイデアが必要なので、Rafa曰く「神経科学界で情報をあさってもダメだ。他の分野にアイデアを求めたほうがよい」とのこと。確かにその通りかも。特に「言語学」や「楽理」などから学ぶことが多いだろうとアドバイスをもらう。ちなみに楽理は私の得意分野だ。
▼ 夕食はタヌキうどん。和食万歳。食事後はTY君の論文に手を付ける。
Nature。論文を投稿し終わった直後に掲載されたTsodyks、Grinvald、Arieliの黄金トリオの論文だ。膜電位感受性色素を用いてネコの皮質の自発発火の時空構造を解析している。コホーネン写像アルゴリズム(Kohonen map algorithm)で抽出された特徴がevoked orientation mapに近いという結果は衝撃的だ。こうした内容は、でも、私の研究結果にかなり近い。実際、この実験を脳スライスで行えば私の論文と大差なくなる。実験の確度や解析の精巧さは、私の実験の方がはるかに高いけど、やはりin vivo研究は強いなあ。私の論文の審査に悪い影響がなければよいのだが。。。この論文についてRafaと話したところ、「この著者の誰か(とくにGrinvaldあたりが)がReviewしてくれれば我々のも通るだろう」と楽観的だった。というか、Rafaは事前にこの論文の情報をつかんでいたようだった。だから急いでいたのかあ、と合点。
Science。今号は神経疾患の特集。
Science。articleじゃないのに図が6個もある。MeCP2がリプレッサーとしてBDNFのpromoter IIIに選択的に結合するという話。しかも、活動依存的にカルシウム動因→リン酸化を介してこの抑制が外れるときた。次頁の論文もほぼ同じ内容。いずれの論文も薬作では笑えるネタか。これらの論文、きっと将来すごく引用されるんだろうなあ。
Neuron。前庭核の神経。膜電位を過分極させただけで発火頻度が上昇するという新しいタイプの可塑性。BKカリウムチャネルで説明が付きそうだ。この論文といい、昨日のMcBainのJNといい、これこれが報告されて以来、「非シナプス可塑性」の探索が流行りなのかな。いずれにしてもMTさんの研究の今後の展開が楽しみだ。
Neuron。活動が低下するとNMDA受容体のスプライシングに変化が生じて、C2'カセットをもったNR1サブユニットが増加し、PSDに集積するという論文。いずれもBulkレベルの話なので、こうした変化がいかにシナプス特異的に生じているかが今後の課題だろう。後半のERの話は面白い。


10月31日(金)
▼ 午前、プログラミング。午後はさっそく実験を再開。昨日のNatureの論文に刺激を受けてちょいと試し実験。
▼ 夕方はSilaのJournal club。ephrin-A3/EphA4の話題
10月末日。っということは、そう!今日はハロウィンである。ハロウィンに海外にいるのは生まれて初めての経験。街が無数のカボチャで飾られている。道行く子供たちには仮装している人もちらほら。あちこちでパーティーの歓声。アパートのロビーでも早い時間帯にパーティーがあった。不慣れな私は何をしたらよいかわからず、とりあえず帰宅後、子供たちにあげるための沢山のお菓子を用意して自宅で待機。でも、、、誰も来なかった。ショック。っていうか、こんなに沢山のチョコレートやらクッキー、どう処分しよう。私は太りたくないからSF君とTY君の若い二人に食べてもらおうか。
▼ 夜はTVで「フランケンシュタイン(1931)」と「フランケンシュタインの花嫁(1935)」をやっていた。夕食&仕事をしながら観る。ともに現代でも十分に通用する映画だな。
▼ 投稿した論文。Rafaと二人で書いて解った。彼は文章が上手い。いや、そんなことはもちろん、ここに来る前から知っていた。彼の論文はすべて読んだからだ。
▼ 実際、私がこのラボを選んだ理由は、Rafaがポスドク時代に出した論文に感銘を受けたからである。あの文章は私には書けない。Discussion部分には研究者の才能が反映されるというが、あの最後の短い一段落は当時の私には衝撃だった。その後に彼が書いた論文にだって驚いた(例えば、これこれ)。こんなスゲえ人の近くで研究をしてみたい。これが私の希望だった。
▼ 夢は叶って、いまRafaの指導のもとで研究している。しかも論文まで書かせてもらった。彼の仕事ぶりを間近でみられるなんてホントに幸せなことだ。しかし !!
▼ 今回まざまざと感じたのだ。彼には敵わない。これは私の決定的な英語会話能力の欠除からそう感じるのではない。彼の賢明さと仕事の的確さをはたで見ていると、なんだか自分という人間が情けなくなってくる。レベルが違いすぎ。ほとんど自信喪失だ。私が何かを学ぶには、ちょっと相手が悪かったかなという気さえする。
▼ ただ気付いたこともある。Rafaの才能は一見、天才的に見えるが、実のところ、彼は非常に努力している。たとえば、短い文章一つをとっても、それは自然と脳裏に浮かんできたものではなく、たくさんの候補を比較検討して、もっとも効果的な表現を選んでいるのである。しかも、彼はそういう泥臭い過程を隠すことはせず、赤裸々に苦労のあとを見せてくれる。感服というほかない。こうした道しるべは、私にとって得るものが多い。いや、今回、学び得たことは、実際のところ、それだけである。つまり、努力あるのみだ、と。
▼ いつの日か私の論文がどこかにpublishされたら(でないと困るが)、そんな目で薬作の学生達に読んでもらえればうれしい。キラリと輝く表現はRafaが、平凡な文章はガヤリンが書いたんだな、とね。 っていうか、なんでガヤリンって呼ばれてるんだ、俺?
MN。タイトル通りの内容。マラリアの感染に肝細胞成長因子HGFとその受容体Metが必須。そういえば、関水先生の研究ってあの後どこまで進展してるんだろう。

(2003年)

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