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1月1日(木) アラスカ
▼ 昨夜は感動的なオーロラに見入ってしまい、気づいたらあっという間に午前4時半。今朝はチェックアウトぎりぎりまで熟睡。
▼ 昼にフェアバンクスまで車。移動中に、極めて特殊な気候条件が揃ったときにだけ現れるという「幻日(サン・ドッグ、sun dog)」に運良く出会う。これは地平線近くで太陽が3つに分裂して見えるという奇妙な現象で、これまた驚きの光景だった。飛行機でアンカレッジへ。機上からは北米最高峰のマッキンリー山を見下ろす。手前には氷河も見える。さらにアンカレッジ → シアトル → ニューアークと乗り継ぎ、タクシーでNYまで戻ると、すでに翌朝になっていた。アラスカは遠い。


1月2日(金)
▼ 朝大学に行くと、Rafaが「最高のNew Yearプレゼントになったな。もう100%通ったようなものだ」と笑顔で迎えてくれた。あの3人のReviewerたちの返事のどこをどう読めばそんなに楽天的になれるのか私には不明だが、さすがはスペイン人、ラテンのノリか。いずれにしても論文改訂の〆切は1月17日。それまでベストを尽くさねばなるまい。
▼ 私が休んでいる間にRK君が論文を完成させてくれたので、さっそくJ Cell Biolに投稿する。その後、KN君の論文を再チェック。ちょっと書き直す。
▼ その後はずっと論文改訂のためのデータ解析プログラミング。全3つのうち1つはアラスカ滞在中ですでに完成済み。今日もう一つを完成させる。夕方からPCに夜通し計算させるように仕向け、私は帰宅して最後のプログラム作成に取りかかる。
▼ 夜はワインとおでん。
Nature。orphan核受容体のTLXが神経幹細胞の未分化&自己再生状態を維持するのに重要であることを示した論文。なぜこのデータだけでNatureに掲載されるのか不明だけれども、個人的には分野が重なっていて面白い。
NN。鍋倉淳一先生らの論文。上オリーブ核神経は生後にGABA性からGlycin性に変わるのだが、その過渡期には両方の神経伝達物質が同一のシナプス小胞に存在していることを示す論文。
NN。海馬CA1のシナプス可塑性の誘導に、ephrinBがなんとシナプス後側で働いていることを示唆している報告。
NN。体の「影」が自己と非自己の区分けに重要だとする論文。実験方法が面白い。
NN。Somogyiらによるこの論文の続報。in vivo海馬でbistratified interneuronの発火タイミングを調べている。データはdescriptiveだが、こういう知見はネットワーク全体を考えるうえで非常に重要だ。
NN。間欠的低酸素暴露により横隔膜神経の過剰興奮が数時間持続する。この現象はセロトニンを介しているのだが、その下流は不明だった。これがBDNFの発現上昇で完全に説明できるとする論文。BDNFのsiRNAを使っている。
NN。作業記憶(working memory)の強化トレーニングをすると、作業中のmiddle frontal gyrusや特定のparietal cortexのfMRIシグナルが増えるという報告。こんな訓練を5週間を続けたら気が狂いそうだ。
PNAS.。脳がダメージを受けると、損傷部位のミクログリアが活性化され、可溶性因子が放出される。これが神経前駆細胞の移動と分化を誘導するという話。
PNAS。Roger Tsienラボから。小脳のLTPの論文。これはノーコメントにしたい。
PNAS。樹状突起からも神経伝達物質が放出されるのは最近では広く受け入れられている。有名な例では、嗅球や歯状回の顆粒細胞などである。この論文では視床インターニューロンの樹状突起から5-HT2受容体を介して放出されるGABAについて調べている。驚くべきは、この現象がTRPC4からのCa流入を介しているという点だ。
CC。mGluR5に選択的な阻害薬MPEPを使うことでin vivo歯状回のLTPの誘導・発現ともに抑制されるというデータ。空間学習も低下する。
CC。標本はthalamocortical axon。L1がないと軸索が過剰に束化してミスガイドされてしまうという話。
N。嗅球スライス培養。BDNFはわずか30分で顆粒細胞のスパインの形態を変えることができるという論文。
TINS。スパインの中をDyeは均等に拡散できないのではないかという話。
TINS。この論文を巡ってNR1-NR2Aのキネティクスの話。そして、その返事
TINS。Methaらの論文を巡って時系列のcodingの話。synfire chain仮説も顔を出す。その返事。なかなか面白い。


1月3日(土)
▼ 朝はKN君の論文図の直し。その後はずっとプログラミング。昼過ぎには完成。自宅のノートパソコンではクロック数が足りないので、プログラムを実行し研究室まで行く。意外な(面白い?)データが出た。要検討だ。
▼ 午後はちょいとミッドタウンまで出かける。今セール期間なのだ。学生の頃からずっとお気に入りのUSAブランドだった「バナナ・リパブリック(Banana Republic)」で買い物。じつは渡米してから服を買うのは初めて。一年間もまったく服を買わずに、日本から持ってきたモノだけで過ごしていたというのもよく考えたらナンだな。
▼ 帰宅途中、メトロポリタン歌劇場によって、来週と再来週の全4公演分のオペラ・チケットを購入。もちろん$25学生券。すべてS席(こちらでオーケストラ席と呼ばれている場所)だった。
▼ さらに、メトの隣にあるタワーレコードで、プロコフィエフのピアノ協奏曲全曲とスクリャービンのピアノ曲全集のCDを購入。プロコフィエフは、昨年キーシンの実演(第2番)を聴いて感動したので、ぜひ手元に置いておきたいと思ったのだ。
▼ 帰宅後はデータ整理。月曜午前にRafaとGlosterと論文改訂の作戦会議が入っているので、それまでにいくつかのデータをまとめなければいけない。
▼ 私の旅行中にBoazとNiliに赤ん坊が生まれていたようだ。女の子。メールで送られてきた写真を見る限り、むっちゃかわいい。


1月4日(日)
▼ アラスカの極寒が効いたのだろうか、空咳が止まらず、やむなく早起き。おかげで朝からデータ整理が進んだ。
▼ 昼は、3日後にいよいよ帰国される祖父江さんご夫妻とそのご友人夫妻と一緒に6人で「ブーレー・ベーカリー」へ。ここは私の数少ないNYレストラン遍歴のなかではもっとも気に入った店の一つ。にしても、やはり祖父江さん達は楽しい。帰国されてしまうのが残念だ。
▼ 午後は大学で昨日のデータの確認。やはり事実として間違いないようだ。わりと面白い。つまり、私の勘よりReviewerの洞察力のほうが正しかったというわけだ。
▼ その後は家でデータ整理、図作り、本文直し。今しばらく時間が掛かりそうだ。夜半過ぎに切り上げる。


1月5日(月)
▼ 午前はVovanの研究報告。二光子顕微鏡を使ったuncagingがテーマなのだが、ずいぶんと研究が進んできて、実験系自体はすっかり立ち上がったようだ。そして早くも面白いデータがでている。spineの役割に関するこの論文への傍証でもあるし、発展していけばNeuron誌レベルは堅そうな内容だ。
▼ 今日はRafaと作戦会議のはずだったが、なんだか今日はとても急がしそうで延期に。というわけでReviewerのコメントへの対応方法をすべてレポートにまとめてRafaに提出しておいた。
▼ 夕方からKN君の論文。これでずいぶんと完成に近づいたかな。
▼ 夜はメト。ヴェルディの名オペラの一つ「リゴレット」だ。演奏中はずっと咳を押さえるのに必死でなんだか聴いた気がしなかった。ただ、ジルダを歌ったアンドレア・ロスト(Andrea Rost)の安定した声(ジルダにしてはちょっと艶っぽいんだけどね)、リゴレット役のフアン・ポンズ(Juan Pons)の迫真の演技がとくに良かったような。妻はストーリー展開に驚いていた様子。たしかに「結局、勝ち残るのは悪役」という話だからなあ。にしても、この咳なんとかならんか。頭痛も熱も痰も全然なくて基本的に体調は良いのに、咳だけかなりヒドい。これってもしや風邪?認めたくないが。。。
▼ 薬作からチェック原稿が届いたので帰宅後はJAKさんの論文に少し手を付ける。
▼ 新しいメンバーがきた。学部生のDavid。Andyと一緒に研究するらしい。
▼ Nature Neuroscienceに投稿したTK君の論文が一次審査を通過して、正式に審査員に回されることになった。へえ。一番驚いているのは私自身かも。


1月6日(火)
▼ 朝から論文の改訂に打ち込む。
▼ 昨日から今日にかけてラボのメンバーが次々と「おめでとう!」と声をかけてくれる。そりゃまあ嬉しいんだけど、でも、なんていうか、受理されてないだってば、まだ。今日だってRevise作業に必死だったのに。Rafaって意外とおしゃべりなのかな。これで落とされたら恥ずかしいじゃん。
▼ 実際、午後はRafaとトコトン議論して、課題が倍増。うむ、先はまだ長い。Rafaいわく、「これは私のこれまでの生涯でもっとも重要な論文。小分けにすれば確実にJ Neurosci三報になる」と。たしかにSupporting Online Materialsの分量が半端ではない。ただ個人的にはScience一個とJ Neurosci三つだったら後者を取るかも。少なくとも今までの私は(それに将来帰国してからの私も、きっと)そういう方針である。Impact Factorも「Nature≒Science≒J Neurosci×3」だしな。ん、俺、貧乏症か。
▼ というわけで夜もずっと作業。もちろんまだぜんぜん終わらない。
▼ ここ連日、ブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)の「55時間で離婚」の話題が新聞一面トップを飾っている。
PNAS。アルツハイマー病患者の海馬で神経新生がむしろ上昇しているというデータ。死んだ細胞を補っているのではという考察なのだが。。。
PNAS。Hopfieldらしい独特の論調のpaperだ。以前、Dmitryiが文献紹介したこの論文で、筆者らが確立した嗅覚系ネットワークモデルをさらに拡張。可塑性に富んだ神経ネットワークには当然「自動修復機能」があるだろうと仮定して、その法則を抽出してみると、なんとそれはspike-timing-dependent plasticity(STDP)のルールとそっくりだったという話。後半は、このルールが「教師なし学習」にも適用されるという発想で、これはこれで面白いがなんとなく苦しいか。ただ人によっては後半のほうが重要だという人もいるかもしれない。
PNAS。カオス&アトラクター関係なので念のため掲載。私にはこれらの数式が全然理解できないが、やはりSF君だったらわかるんだろうか。
NRN。YusteとBonhoefferが二人で書いた総説。これこれでもそうだがナゼかこの二人は仲が良い。今回は「スパイン形成の機構」についてで、その内容の一部はラボ内でも「ここまで書くか」とかなり議論が割れていた。ちなみに図はCarlosが作ったもの。
NRN。先月の日記でもすでにとりあげた総説。Busrt発火について。内容はマニア向け。
NRN。LeDouxが「構造可塑性」の総説を書いている。意外だ。ざーっと見た感じではわりと良さ気。分野外の人が知識として読むにはちょうど良いかも。


1月7日(水)
▼ 今日も一日、データ整理と図の作成で果てる。
▼ 途中、何度かRafaと相談。それ毎に仕事が増える。。。うーん、私がいつも学生に課している重労働を、今まさにRafaに要求されている。学生もツラいもんだ。よく分かる。でも、私の場合はそれで論文が出せるだからRafaには感謝しないと。しかも、下手くそな英語なのに真剣に話を聞いてくれる。あの辛抱強さは私も見習わないといけないな。
▼ 夜はメト。今日は私がもっとも好きなオペレッタ「メリー・ウィドウ」。この曲はいつ聴いても陶酔できる。たぶん私のfeelingにマッチしているんだと思う。おそらく、ミュージカルとかディズニーアニメとかそう言ったものの先駆けになった作品だと思うのだけど、今日はそれを意識したような演出だった。ドイツ語の歌詞を英語に吹き替えていた(そのせいか今日は聴衆に子供が多かった)のが残念だったけど、指揮が想像以上に良くて満足な夜になった。
▼ 帰宅後はGloster担当部分の図の作成。少し先が見えてきた。Rafaは今週末までに完成させると意気込んでいるけどどうなんだろ。
▼ Nature誌には「News and Views」という欄があるが、その年間ベスト7がHPに挙げられている。神経系の分野で取り上げられているのは、なんとNatureではなくてJ Neurosciに掲載されたこの論文。これはちょうど私が日記を始めたばかりの頃に出版された報告なので、ここでは取り上げなかった。簡単にいえば「頭のいいマウスは何をやらせてもよくデキる」という内容で、賢くなるには好奇心が強さがポイントらしい。。。と、なんだか身につまされる話だ。
JN。LRP6ノックアウトマウスを使ってWnt/βcateninシグナルが歯状回顆粒細胞の正常な発達と増殖に必須であることを示した論文。
JN。海馬神経培養。gephyrin KOマウス由来の培養ではグリシン性シナプスは完全に消失するが、GABA性シナプスは減少するにとどまるというデータ。ちょっとびっくり。変異マウスが生後すぐに死んでしまうとはいえvivoではどうなっているかを詳しく知りたい。


1月8日(木)
▼ ここ両日、気温の低い日が続いている。去年の私だったら「さみ〜っ!」と叫んでいたところだが、なにせ先日マイナス35℃の世界を経験してきたばかりなので、なんとなく平然と過ごせてしまうのが怖い。ちょうど去年の今頃、コロンビア大学のALP(←英会話)の授業を取っていた。その中にロシア人が二人いたのだが、「今日も寒いねえ」と先生が話しかけると、二人とも「これくらいがちょうどいいさ」と返事をしていた。あの時は「うわ、変人だ」などと驚いてしまったが、今はよーく理解できるような気がする。
▼ 朝刊をみたら一面の見出しに「メリー・ウィドウ(Merry Widow)」とデカデカと書かれている。「なんだ?昨日私がみたオペラじゃないか。事件でもあったのか」と思ったら全然違った。同時多発テロで犠牲になった消防士の未亡人が、手にした補償金で、豊胸手術をしたり、1億円の豪邸(←アメリカではスゴい額)を建てたりと、好き放題やっていて、見かねた兄弟が訴えたという話だった。つまり「Merry Widow=楽しい未亡人」だ。別にもらった金を何に使おうが構わないと思うのだが。
▼ 午前:図作り。午後:データ整理。夜:図作り。無心に没頭。
▼ Rafaが「Fig作りが抜群にうまい」と褒めてくれた。あまり自覚はないが、もしお世辞でないとすると、おそらく他のポスドクより多少は論文を書いてきているぶん、気づかぬうちに少しはノウハウが蓄積されているのかもしれない。
▼ ところで、Rafaは「可塑性」というものが好きではない。理由は知らないが、ともかく「脳の機能は可塑性を使わなくても説明できる」ことを見いだすことに異様に喜びを感じているようだ。確かに「反ヘブ派」はいま流行りの視点でもある。ところが、私が今回の論文で出したもっとも重要なデータの一つである「モジュール活動の圧縮再生」という現象をみて、ついにRafaは可塑性の存在を認めた。論文中にも「このデータは可塑性の存在を示している」とRafa自らはっきりと記述した。してやったり。
▼ そして今日、MITのWilsonがコロンビア大学へ講演にやって来た。私は仕事が忙しかったので出席しなかったが、講演後Wilsonと話したRafaが、嬉々として私のデスクにやってきた。「ガヤ!あの現象は可塑性を使わなくても説明できるぞ!そう、Dynamic thresholdだ!つぎの論文でそれを証明しよう」。。。だそうだ。それ、確かに面白いかも。
Neuron。百日咳毒素やGiα1ノックアウト、Giα1アンチセンス(いずれもcAMP↑)で海馬依存性の学習が低下すること示した論文。またGiα1ノックアウトマウスではCA1のLTPが上昇している。これはPKA阻害薬でrescueされる。苔状線維のLTPがどうなっているか興味がある。
Neuron。外側扁桃体に入力する二つの経路(皮質由来、視床由来)にはLTPの入力特性がなく、一方にLTPが生じるともう一方にもLTPが誘導される。ホモ&ヘテロLTPともにNMDA受容体依存性である。これは一方の入力から他方へglutamateがspilloverすることによって生じるらしい。
Neuron。Reelerマウスでは海馬の細胞の並びに異常が見られるが、同時に樹状突起の発達も妨げられる。一方、Reelin(+/-)では細胞は正常な位置にくるが樹状突起は異常なままである。つまりReelinは細胞のpositioningとは独立に樹状突起の形成に関与している。ApoER2やVLDLRやDab1のノックアウトを利用しながら、Reelinによる樹状突起形成にこれらの分子が関与していることを示唆している。
Neuron。β-site APP cleaving enzyme 1(BACE1)の(-/-)でTg2576アルツハイマーモデルの記憶障害が抑えられることを示した論文。


1月9日(金)
▼ 今日も論文改訂。図のほうは90%終わった。でも、この週末にまた新たなデータ整理が入りそうな気配。
▼ Rafaの要求で今日はいろいろと見栄えの良いデータ探しをした。代表例として論文に載せるためのデータだ。バランスのとれた「器量良しデータ」を探すのは思った以上に大変。
▼ 夕方はRochelleによる文献紹介。ちょっと古いけど、この有名な論文がとりあげられた。「Imformation Storageの上限を算出することにどれほどの意味があるのか」、また「シナプスのLocationを無視することで生じる誤謬」が議論になった。
▼ 「この論文は研究室の‘集大成’である」という理由だけで、研究に直接関与していない人間が、いつのまにか新たに3人も著者リストに入ってきた。正直言って、この論文のデータは(全部とは言わないが、それでも9割以上は)私が自分で発見して自分で解析して自分で出したデータだ(残りの一割はGlosterが担当)。なぜ改訂時になって突然、著者が7人にまでふくれあがっているのか私には理解できない。まあ、論文の文章を書いたのは確かに70%以上がRafaだし、それに私はアメリカでは所詮はイエローモンキーの一人にすぎない。(equal contributionとはいえ)first authorにしてもらえるだけでもありがたいと感謝するか。
▼ Rafaが「サウンドファイル」も論文のホームページに掲載しようと決断した。これは大脳の神経細胞一個一個に楽器のそれぞれ音程を割り当てて、神経活動の様子を「音楽」として表現したものだ。音源ファイルをいじっていたら偶然面白いものができたので日記で公開しよう(QuickTimeFile)。なんだか幻想的なSFチックで心地よい。
▼ 夕方は妻の友人が遊びにきた。一緒に夕食。遅くまで楽しくおしゃべり。
JP。著者はもとGaehwilerのところにいた人。海馬スライス培養でoscillationのメカニズムを追求。こういう論文は好き。でも、なんだかここら辺の話は複雑になってきた。
JP。苔状線維シナプスの性質を錐体細胞とインターニューロン間で比較したもの。わりと丁寧に実験してある。stratum lucidum interneuronへのシナプスのrelease siteは1〜2個と少ないが、初回release probabilityは0.1〜0.5とまあまあ高く、quantal amplitudeも大きい(←この論文ではMFと同じくらいだとしている)のでspike transmissionも可能である。ただしspike transmissionの確率はtrainによって不変で10%くらい。
JNP。表紙はクリオネの写真だ。
JNP。Sejnowskiラボ。モデル神経をつかって、スパイクタイミングの信頼性における内因性コンダクタンスの影響の探索。信頼性を得るには特定の周波数インプットが必要であることを示し、さらにこの指向性がチャネルの密度とキネティクスでどう変化するのかを追求している。図6あたりは面白いが、かといってまったく予測できないデータだったというわけでもないかな。
JNP。比較的歴史の新しいニューロペプチドN-acetylaspartylglutamate (NAAG)が苔状線維-CA3シナプス終末においてGlutamateの放出を抑制することを、glutamate carboxypeptidase IIの阻害薬を用いながら示した論文。


1月10日(土)
▼ 外は予想を大きく下回りマイナス17℃だったらしい。もちろん、この冬一番の寒さ。というわけで、外には一歩も出ずにずっと論文の作業。主に本文のほうの改訂。
▼ AuthorshipについてRafaとEメールでよく話し合った。まあ、ここは良い子ちゃん顔で納得しておくか。Rafaの言っていることは「ある意味」では正論だし。
▼ CNNでトム・クルーズが生でロング・インタビューを受けていた。最後に、映画で習得したと思われる日本刀の「太刀さばき」を披露。やはり上手かった。
▼ ちなみに、昨日から大々的に取り上げられいているニュースはこれだ。野生のクーガー(←プーマのこと)が人を襲ったらしい。ペルーに旅行に行ったとき、「一度でも人を襲ったクーガーは殺す」という決まりはインカ時代からあると聞いた。それは復讐ではない。人を狩ったクーガーは「人間は簡単に狩れる」ということを知ってしまうからだという。


1月11日(日)
▼ 励ましのEメールが何通か届いた。 半年前、この日記を始めるときに心に決めたことが少なくとも二つある。「帰国まで続ける」と「仕事のグチはこぼさない」だ。ここ二日間の日記は明らかにグチであった。暖かい励ましをいただき初めてそうと気づいているようでは情けない。そもそも理不尽なことがあるのはどの世界でも同じこと。私だって普段から学生達に理不尽な要求をたくさん叩きつけている。メールをくださった皆様、本当にありがとうございます(今回もお返事できませんがどうぞご勘弁下さい)。『「ラスト・サムライ」では渡辺謙こそが「真の主役」である』という話、ジンときます。感涙。
▼ 朝から文章の直し。夕方には一通り終わる。
▼ 夜。妻が「ロード・オブ・ザ・リングIII」を見に行こうと言う。昨年「II」を見たときに英語が聴き取れなかったので、この映画にはあまり良い思いがしないのだが、ともかく息抜きにと思って出かける。んで実際に行ってみて、一年アメリカに住んでも聴き取れないものはやはり聴き取れない。でも、駄作の声が多かった前作「II」だったけど、「III」のほうがデキはよいかも。諸悪の根元、情けないトラブルメーカー主人公は相変わらず健在だった。映画は思ったより長くて、帰宅したら1時半になっていた。仕事はせずに寝る。


1月12日(月)
▼ 午前は論文の文章の再チェック。Rafaに送信。
▼ 今日はRafaはいないので、これ以上論文の作業はできず、午後はJAKさんの論文改訂を一気に仕上げる。再投稿をJAKさんに依頼。これで通ってくれると良いのだが。早速、投稿してくれたらしい。
▼ 夜はメトロポリタン歌劇場。私の大贔屓のオペラ作曲家プッチーニ。曲は「蝶々夫人」だ。指揮はプラシド・ドミンゴ、蝶々さんはヴェロニカ・ヴィッラロエル(Veronica Villarroel)というなかなかのキャストだ。シーズン初演ということもあり超満員だった。ヴィッラロエルが良いのは言うまでもないが、ドミンゴの指揮が意外に上手かった。演出も日本人の私が見ても違和感のない自然な舞台&演技だった。しかし、なんと言っても今日の収穫はピンカートンを歌ったテノール歌手のマルコ・ベルティ(Marco Berti)だ。すでにミラノ・スカラ座などでは活躍しているが、メトへは今日がデビュー。全盛期のパバロッティーを思わせる朗らかで張りのある声、そしてカレーラスばりの情熱的な演技。観客席は自然と大歓声に包まれた。メトの舞台でこれだけ成功すれば、もはや将来が約束されたようなものだ。楽しみな人材。
▼ 地下鉄の広告を見ていてふと気づいた。ダイヤモンドや金、銀、こういったいわゆる財宝系の自然資源を大量に産出する国って、なんで発展途上国が多いんだろう。例外はカナダやオーストラリアくらいか。鉱脈等の地質学上の問題もあるとは思うのだが、しかし、こうした資源を輸出するだけで富を得られたという歴史が現在の地位を作ってしまったのかもしれないな、などと妄想をふくらませてみる。にしても、今まで世界の古代文明を色々と探訪してきたが、どの文明でも「Gold」は普遍的に重宝がられているあたりが、人間って面白いなあと思ってしまう。しかも、たいてい冠や首飾りという装飾具に使われている。そもそも、「頭」はさておき、「首」や「胸元」を飾るという、共通した人間の習性もなんとなく面白い。ま、ともかく、人間はネアンデルタール原人の時代から墓を花で飾ってきたというから、時代や民族を越えた普遍の美意識というものが存在するのだろう。
▼ 「ロード・オブ・ザ・リングの英語は難しいのか」と質問。はい。ハリー・ポッター同様、若年層に向けて作られた映画だから、むろん難しいはずがない。まあ、それが聴き取れないわけだから、私の英語力、推して知るべしである。


1月13日(火)
▼ 午前、Rafaと議論。図の見せ方を変えることに。そして次の論文の構想も少しずつ。
▼ 午後&夜はSF君の論文ProofとKN君の論文チェック。図の作成。早くデータが出揃うのが楽しみだ。
Fredericksonから突然メールが来る。お互いにレスが速くてチャット状態。春にNYで会うことになった。
Lismanラボの関係者から「Multi-electrode array(MEA)」を使った共同実験の申し込みがあった。確かにMTさんやAB君の論文ではmulti-site recordingを使ったけれど。。。
▼ 残念ながらRK君の論文がReviewerに回らなかったので次策へ。
▼ 昨日、人類普遍の美意識についてほんのちょっとだけ書いた。いや、それで思い出したのだが、顔の表情(たとえば笑顔や憤慨など)は民族を超えて共通である。たとえば、パプアニューギニアの原住民も「ドイツ人の笑顔」を「笑っている」と認識できる。つまり、顔の表情というのは、生後に習得されたものではなくて、遺伝子の組み込また人類共通の遺産であるといえる。
▼ 一方で、「笑う」という行動一つをとっても、数十もの細かい顔面筋肉の運動が巧みに調和されてはじめて「笑顔」が作られる。このあまりにも繊細で複雑な神経活動が、民族を超えて共通しているというのは、脳科学的にみれば神秘的ですらある。まあ、表情が民族間で共通であってくれたからこそ、私は言語のままならない異国の地でこうしてやっていけるのであるが。。。
▼ ところで、日本人(黄色人種)は顔の筋肉が欧米人ほど発達しておらず、彼らからみると我々の顔は比較的「無表情」に見えるらしい。我々には認識できる微妙な表情が彼らには認識できないのだ。逆に、我々から見ると欧米人の表情は「大げさ」にみえる。いずれにしても日本人は「顔の表情に敏感な民族」で、それ故に、無意識のうちにいつも相手の「顔色」ばかりを伺っている。私もアメリカに渡りたてのころ、レジ打ちの女性たちがニコリともせず憮然と仕事をしている様子(←NYだけかもしれない)が気になって仕方がなかったものだ。
PNAS。伊藤ラボ。小脳・顆粒−プルキンエ細胞シナプス。protein phosphatase-2Aの阻害薬で誘導されるシナプス抑圧はuse-dependentで、かつLTDをoccludeする。免染でAMPAと阻害薬の共適用によりGluR2/3のdeclusteringが生じることも示している。ただ、その後の図5も含めてシナプス抑圧との因果関係は不明。
CNR。RK君の書いた総説が、記念すべきCurr. Neurovasc. Res.創刊号の、それもトップに掲載されることが決定。祝。


1月14日(水)
▼ Rafaは不在。Glosterと二人で相談しながら論文の改訂を続ける。
▼ 夜は貯まっていた諸々の仕事。英語の勉強。
▼ 夜から雪が積もり始めた。今年で二回目の積雪かな。このところ零下10℃以下まで冷え込む日が続いていたが、明日はまた一段と寒くなるらしい。予報によれば来週後半までの辛抱だ。
▼ 昨日の日記の続き。欧米人とアジア人の差は、他にもいっぱいあると思うのだが、私にとって決定的なものは何といっても「味覚」の違いである。
▼ 味には「甘味sweetness」「塩味saltiness」「苦味bitterness」「酸味sourness」「旨味umami」の五種がある。それぞれ受容体もおおよそ同定されて、こうした感覚がじつは遺伝子に記載された情報であることが伺える。
▼ ところで、味覚の英語表記をよく見ると、なぜか「umami」だけが日本語である。そう、これは日本で発見されたものなのだ。では、なぜ欧米人はこれを見つけることができなかったのか。理由は簡単。いわゆるアングロサクソン系の人々の舌には、なんと「旨味」の受容体がほとんど発現していないのだ。つまり「旨味」を感じない。気の毒に。。。ずいぶんと昔から日本人は第五の味覚「旨味」の存在を訴えていたが、欧米ではなかなか受け入れられなかった。仕方あるまい。現在では旨味を担う遺伝子まで見つかってしまって、彼らのプライドは丸つぶれ。
▼ 旨さを知らない人種が美味しい料理を作れるハズがない。ドイツやイギリスやアメリカの飯が我々にとってマズかったとしても不思議ではない。しかし彼らを責めることはできない。これは努力でどうにかなる問題ではないのだ。誤解を恐れずに言えば、これは大規模な「遺伝子疾患」である。アングロサクソンは味覚ミュータントなのだ。彼らの味音痴を責めることは、義足の人に「なんで走れないのか」と嘲るのと同じことである。
▼ LAの寿司職人から聞いた話がある。彼は世界の人々に日本最高の食を味わってもらおうと意気揚々とアメリカに渡った。しかし、驚いたことに「最高級のネタ」を出してもアメリカ人は感動しなかった。むしろ、単に「大きなサイズ」の寿司を作ってあげたら、感激して喜んだというのだ。「大きければいい」という精神は街のケーキ屋でよく見かけるあのデカい謎の青色の物体が象徴している(食べるとこうなったりこうなったりするらしい)。「料理は目で楽しむ」とは誰の言葉かしらないが、しかし目でしか楽しめないのもどんなもんだろうか。ともかく「食の快楽」は人生最高の楽しみの一つ。これを理解できる人種に生まれた人は幸せだ。ちなみにラテン系の舌も「旨味」を正常に感じる。実際、フレンチやイタリアンやスペイン料理は世界最高のディッシュの一つである。
JN。海馬スライス培養。苔状線維の伸張と再形成にケラタン硫酸プロテオグリカン(keratan sulfate proteoglycan)である「phosphacan」が関与していることを示した論文。図10も面白い。Micro Rubyの染色もうまくいっているようだ。薬作Mossy Fiberグループは必読。もはや液性因子がなくても苔状線維の軸索誘導は説明できるのか。
JN。これも薬作モッシー軍団は必読。IV型ホスホジエステラーゼ(PDE4)阻害薬rolipramとCREB phosphorylation mutantドミネガのtransgenicマウスを使って、(おそらく新生された)歯状回顆粒細胞の樹状突起の発達にcAMPカスケードが絡んでいることを示した論文。図7の実験の確度は高いのだろうか。
JN。工学や統計学などでしばしば用いられている「状態空間(state-space)」のアルゴリズム(隠れマルコフ)を学習曲線に応用。動物(filtering algorithm)および観察者(smoothing algorithm)の予想に最尤推定期待値最大化(EM)法を用いることで 高い学習効果の検出力が得られるとするもの。手法がベイズ理論のそれに類似しているため、相応の問題点は含んでいるが、こうした手法が有用であることは間違いない。
JN。達朗さんの書いた論文は「BDNFの急性適用でGABA性の伝達が抑制される」ことを報告しているが、データを良く見ると(図1と図4。それに図2も)、適用直後に一過性の増強が生じることが見て取れる(彼は論文中では一切触れていない)。この増強がPKCによるGABA受容体β3サブユニットのリン酸化によるものであることを示したのがこの論文。さらにその後protein phosphatase 2A(PP2A)によって脱リン酸化されて抑制に転じる。このリン酸化状態はcell surface stabilityに関係しているかもしれない。
JN。CA1とCA3ではNMDA受容体の調節機構が違う、という話。Caによる抑制はCA3の方が強く見られ、また、Gq刺激(ムスカリン、DHPG)ではCA1は促進、CA3は抑制方向の調節を受ける。これはCA3錐体細胞のカルシウム緩衝機能が低い(もしくは通常カルシウム濃度が高い)ことが原因らしい。
JN。海馬microisland cultureのautapse。(特に発達中のシナプスでは)高頻度刺激でphasic releaseが抑制される状況下でもasynchronous releaseは比較的耐性である。これはなぜかという論文。


1月15日(木)
▼ Rafaが論文を直しているので、その間はRK君の論文に専念。再読して必要部分を直しJ Neurosciに投稿した。この辺で通ってもらわないと。にしても、なんで投稿するだけで50ドルも取られるんだ。それに自腹を切らないといけない大学の会計システムを何とかしてほしいかも。
▼ 昼に私の住むマンションの一階で火事があった。部屋にいた妻は、しかし、気づかなかったらしい。笑える。外ではサイレンがガンガン聞こえたのに。
▼ 午後はGlosterの担当部分の図の直し。明日もまた新たなデータを組み込むことに。再投稿の〆切は月曜なのだが、いいのか、Rafa、こんなスローペースで。余裕すぎる。
▼ 夜はメトへ。マスネ作曲の「ウェルテル」。これはゲーテの「若きウェルテルの悩み」をオペラ化したものだが、そもそもマスネの歌劇を全曲聴くのは初めての経験。名高い「タイスの瞑想曲」に代表されるように、彼の作風は退廃的とも言える耽美の極み。気持ちよく酔わせてもらった。ただ劇的な盛り上がりには欠けるかな。ちなみに今日は、ウェルテルにロベルト・アラーニャ(Roberto Alagna)、シャルロットにヴェッセリーナ・カサロヴァ(Vesselina Kasarova)という、「マヂかよ」ってくらいの豪華キャスト。アラーニャは相変わらずブレスが上手く、息の長い甘美な声を聞かせていた(でも私は彼のファンではない)。特筆すべきはカサロバの歌唱力。非の打ち所がない。世界最高のメゾソプラノだ。
▼ なんか外が異常に寒くないか、と帰宅後に気象情報をしらべると−18℃。アラスカ並だ。ちなみに−17℃と−18℃の差は日本人にとってはあまり重要ではないが、アメリカ人にとっては大違い。そう!華氏(F)でマイナスに転じるのが摂氏マイナス18℃なのだ。つまり、今日は正真正銘「零下の世界」。むろん一昨年の訪NY以来最低だ。
▼ 朝刊に「トイレの日米差」が特集されていた。最新式TOTO便器の体験談だ。「便座はトーストのように暖かく、会社のデスクよりも心地よい。一日中座ってられるぜ」、「ビデはマッサージのように水圧が変動。水温まで変えられる。ラブリー。エア乾燥まであって至れり尽くせり」、「水洗は自動。脱臭までしてくれる。これなら次の人が嫌な思いをしない」、「日米の便器の差はワーゲンとロールスロイスほどの違い!」などと大絶賛。値段は50万円。ちなみに比較対象のアメリカ製は1万5千円である。
Nature。マスタードの成分allylisothiocyanateはどうやって神経を刺激するのか。なんと、唐辛子(capsaicin)やマリファナ(tetrahydrocannabinol)と同様にTRPの一種であるANKTM1を介して特定の感覚神経を活性化させるらしい(おそらくワサビも同じメカニズム)。この論文、実験がすべて培養&再構成系なのが気になる。あと、当然だが、これでマスタードやワサビのメカニズムが解明されたわけではない。これだけでは、なぜ私がマスタードよりもワサビを好むのかが説明できない。クオリアとして明らかに差がある。それにワサビの辛さは唐辛子と違って一過性である。ANKTM1は全体の機序のほんの一部だろう。
Nature。脳が運動学習の過程でベイズ様の予測を利用しているという話。これだけでは別に驚くほどの話でないが、従来の理論が入力と出力の「関係」だけを中心に考察してきたのに対し、感覚入力に(かつタスクにも)確率を導入したところが新しい。事前分布を実験的にコントロールできるのがこの系の強みだ。アブスト中のイントロの長さが物語っているように、その意義を説明するのに多くの文章が必要なのが、この分野の研究の難しい所か。
Nature。「研究をロボットで代行しよう」という論文。ある現象を説明するためにまず「仮説」を立て、そして仮説を検証するための実験系を組み立て、実験し、データが仮説に合致しているかを検証する、という我々にとってはお馴染みの「作業」を、closed-loop systemを組み込んだ人工知能(artificial intelligence)が行うという試みだ。人間同様、実験に試行錯誤(=四苦八苦?)しているのが笑える。単純な遺伝子の機能解析では、人間並みの仕事効率を再現できるという。今のところ既知の現象を確認するにとどまっているが、新発見となると実際のところどうだろうか。っていうか、この論文、よ〜く考えると、『 所詮「分子生物学・遺伝子工学」なんて機械でもできる単純作業だ 』といっているようなもの。分野の人はムっとしないのかな。少なくとも私のやっている「大脳生理学」の研究は(すくなくともこのレベルの)ロボットでは到底無理だ。
Science。これはきっと吉田さんが日記でレヴューしてくれるだろうから省略。
Nature。じつは昨年末から結構重要な論文をいくつも日記に記載し忘れている。KandelラボのCPEB2連報もそうなのだが、Luthiによるこの論文もそう。今さらなのでもう無視しようかと思っていたが、MTさんの論文がイントロに引用されていることに今日気付いたので掲載。手法は目新しくないもののデータは新鮮。流行りのプレNMDA受容体だ。ただし、後続の論文との整合性をどう取るかが問題だ。なおLTPの起こし方は薬作でも真似したいところ。


1月16日(金)
▼ 一日中、図の作成。夕方にはRafaが最終稿をあげてきた。でも、まだちょっと直しが必要だ。
▼ 今日は怒涛のように論文の仕事が動いた。なんで皆さん、締め切りギリギリになって始めるんだろう。夏休みの宿題を「最後の週」にする人の気持ちが、大人になった今でも、やはり理解できないなあ。まあ、結局間に合っているんだから私がせっかちなだけなんだけど。
▼ 帰り道、Rafaと話しながらキャンパスを歩く。「良い論文が出ると、色々な人から攻撃やイジメにあう。知らない人から誹謗のEメールが来たり変な電話が来たり。私は何度も経験がある。心構えが必要だぞ。でも、反撃するのは私の役目だから、ガヤは無視していればいいさ」とのこと。
▼ ペルーで知り合いになった川野さん夫妻がNYに遊びにいらしているので、昼と夜をご一緒する。昼は大学からも近い「サイゴングリル(Saigon Grill)」。噂どおり確かに旨い。夜は妻の友人夫妻も交えて「ダニューブ(ダヌーブ、Danube)」。ここもブーレー氏が営むレストラン。無論、文句なしに旨い。でもちょっと高いかな。ブーレー・ベーカリーのほうがお得感あり?
▼ JAKさんの論文がCerebral Cortex誌に受理された。これは本当に嬉しい。Development誌とJ Neurosci誌に蹴られ、Cerebral Cortexでも異例の4回の改正を重ねたので、原稿を書いてから今日まで1年半もの月日が経ってしまった。そんなわけで今回の受理はホント涙もんだ。しかも、Cerebral Cortexは私が長らく憧れていた雑誌。嬉しさも一塩。んで、問題は論文の内容。もちろん私は自信があって執筆しているのだが、実験が技巧に走っている傾向もあり、そしてまた細胞種同定の問題もあり、審査員は拒絶派と支持派に。予想できる反応であったとはいえさすがに戸惑った。とりあえず、generalな視点からみて、この論文がスライス培養の応用に新たな1ページを加えたことは間違いない。出版されたら是非多くの人に目を通してほしいな。
▼ 昨日のNYの寒さはアラスカ並だと書いたが、朝刊によれば「昨日はアラスカよりも、またアイスランドよりも気温が低かった」とのこと。今日は多少は気温が上がった。しかし強風のせいで、体感温度的には昨夜より厳しい感じ。ナガセの編集者からのメールによると、センター試験の今日、東京も雪らしい。でも気温がNYとは全然ちがって暖かそう。
▼ 渡米したのは一昨年の12月。あの時も冬だった。東京の温い気候に慣れた体に、この耳のちぎれる寒さは応えた。そして当時の私には、道行く人が皆「イツプレリコーウ(It's pretty cold)」と言っているのが不思議でならなかった。「この極寒のどこがプリティーじゃあ。ちっとも可愛くなんかないぞ!」。。。「pretty」が「very」と同じ意味だと知ったのはその後である。
▼ 昨日のScienceの論文。吉田君が日記でレヴューしてくれた。分野が微妙にかぶっていないので分業(?)できて嬉しい。吉田君は大学&大学院を通じての同僚で大切な友人かつライバル。の仕事の堅実性と深さはちょっと私にはかなわない。


1月17日(土)
▼ 午前、英語の勉強。午後、論文のチェックと簡単なデータ整理。いやあ、Rafaはやっぱり文章がうまいなあ。こればかりはホントに脱帽だ。私にはここまで光り輝く文章は書けない(少なくとも今のところは)。
▼ RafaからMarkamラボの研究を教えてもらった。この論文だ。「ガヤが見つけた現象はまさにここで予言されているものでは」というのだ。ちょっとまった。その前に理解できないんだけど、この論文。流体力学か。それすらも分からん。誰かあ。
▼ 松木先生から連絡を頂き、日本薬学会薬学研究ビジョン部会賞をいただけることが決まったという。自分がエントリーされていたのも知らなかった(汗)。いままで履歴書を書くとき「賞歴」の欄はいつも空欄だったので、この受賞はとても嬉しい。
▼ NYにはホームレスがいる。それもかなりの人数だ。ただ日本とはちがって群れない。てんでに暮らしている。彼らの生活を援助するボランティア団体もある。NYの厳冬はホームレスには寒すぎる。もちろん凍死。ボランティア団体の人の本音がちらり、「だから増えなくて済む」と。厳しいがこれが現実なのかも。
▼ 一週間ほど前にVTRをみた。年末年始の5大格闘技試合の中では、1月4日の新日本プロレスがもっとも面白く感じた。今でもなんとなく興奮が覚めやらぬ感じだ。とりわけ昨年のMVP・高山善広選手と若武者・中邑真輔選手の試合に感動した。かたや準備万全の大男、かたや小柄で目下骨折中というハンディキャップ。プロレスとは真剣勝負であると同時に「ショー」である。観客をいかに盛り上げるかが重要だ。私は高山選手はあの時点でわざと負けたのではとその後フト思った。ここでギブアップすれば会場の雰囲気が最高潮に達することを知っていた。だとしたら高山選手は正真正銘の孤高の武士だ。


1月18日(日)
▼ 午前。アンソニー・ミンゲラ監督の「コールドマウンテン(Cold Mountain)」(ジュード・ロウ&ニコール・キッドマン)。内容はここに詳しいので省略。圧倒的に美しい自然を背景に(色々な意味で)切ないストーリーが救いようもない絶望感の中で展開される。あえて一言で片づけるとすれば戦争の歪みを描いた人間ドラマということになろうか。物語的な新鮮味はないものの、重厚な話が好きな人ならば楽しめると思う。個人的にはレニー・ゼルウィガーが活躍するのでそれだけで満足。
▼ 昼は「ガン・ミー・オック(Gan Mee OK)」で韓国料理を食べる。この店のあたりは2日前にあの奇怪な事件が起こった場所からそんなに遠くない。事件とはこうだ。夕方、女性(30歳)が2匹の飼い犬を連れて散歩していると、突然、犬たちが痙攣(けいれん)し始めた。助けようとした飼い主が近寄ると、彼女も体が震えだし気絶。運ばれた病院先で死亡したというのだ(犬は回復した)。これだけ聞くと一見なんとも奇妙な話だが、捜査官が道路の雪をどけてみると電線がムキ出しになっていたという。そこから漏れた200Aもの電流が彼女の身体を一瞬で貫いたらしい。さすがはNY。もう何がおこっても不思議でない。
▼ 午後は論文の仕事。原稿の最終確認と、Glosterが担当した実験の図作成の手伝い。初稿ではFig1の色がちょっとおかしかったが、今回一から丁寧に作り直したのでもう大丈夫だ。
▼ 今日は気温が上がった。0℃近くまで上がったのではないかと思う。こうなると今度は重たい雪が降る。いわゆるicy rain。道路が汚く染まり、まるで東京の雪のようだ。
▼ SF君からこんなHPを教えてもらった。昨日のMarkramの「Liquid State Machine」は流体力学とはとくに関係ないとのこと。アトラクター(もしくは記憶)を持たなくてもマイクロサ−キットから「期待されるRead-out」が可能になるというのだ。Stateは流動し特定の形を持たない。「空を道とし道を空と見る」。まるで宮本武蔵「五輪書」の精神だな。いずれにしても、私の発見がどうしてこのモデルと関係あるのか、依然、私の鈍い頭脳には不明だ。Rafaの手に掛かると私のショボいデータもスケールがでかくなる。
▼ 先日(1月14日)、アメリカの食事が美味しくない理由を書いた。実際、渡米したての頃はアメリカの食文化に辟易し、日本食が恋しくなったものだ。遅れて渡米した妻が今は毎日和食を作ってくれてホントに助かっている。
▼ ただ、ここでは、もう少し冷静に判断してみよう。なぜなら、アメリカの食事が何もかもすべて不味いというワケではないのだ。中には「日本よりも美味しいぞ!」と唸らせるものもある。たとえばサーモン。アラスカやカナダが近いせいもあると思うが、生サーモンの美味しさ(そして安さ)は明らかに日本以上だ(← あくまで平均的にみての話。日本でもウマいサーモンは食べれる)。他にもオレンジ、チーズ、トウモロコシ、ハム(サラミ)なんかは全般的に日本より美味しい。とくにトウモロコシの心地よい甘さは感動モノだ。ちなみに、こちらではトウモロコシを生のままでも食べる。これがまた意外とイケる。あとカリフラワーやマッシュルームも生で食べるのも面白い。
▼ 身近な(?)ところで日記のスタイル&儀礼的無関心について話題になっている(かも)。これについて私は特に述べることはないけれど、ただ私の日記について言えば、その本意は「備忘録」である。ネットで公開している以上は、不特定の人間が読んでいることはこちらとしても想定しているし、その一方で、誰がこの日記を書いているかも外部から明らかだ。しかし、この日記の内容を「誰に向けて書いているか」といえば「未来の自分へ」としか言いようがない。実際それがこの日記を始めた理由である。ただ最近は特定の人の顔を思い描きながら書くことも一部はある。その場合はほぼ薬作関係者に宛ている。いずれにしても、この日記もあと一年以内には閉鎖される運命にあるわけで、このままのスタイルを貫こうかと思う。


1月19日(月)
▼ 朝から怒涛の仕事。土壇場まで改訂に改訂を重ね、夕方、〆切ギリギリにようやく投稿にこぎつける。この2週間は今まで味わったことのないようなナーバスな時間を過ごした。ふ〜、脱力だ。あとは祈るのみ。
▼ Rafaは今日も大幅に文章を変えた。Abstractからは研究意義やデータ解釈の部分をすっかり抜いた。私が「一昨日までの文章のほうが良かったのでは」と言ったら、「ガヤ、これはゲームなんだ」と説明してくれた。「NatureやScienceの論文は自己主張しなくても皆が率先して読んでくれるから、むしろ論敵をつくらないことに細心の注意を払わなくてはいけないんだ。できる限り主観的な解釈を廃し事実のみを伝える。言いたいこと(つまり他人と意見が違う可能性のある部分)はDiscussionに書くのが良い」ということだ。「トーンを下げて控えめに。そう、日本の心だよ」と微笑んでいた。確かに、この論文の主張はすべて、最後の段落に、Rafaらしい卓越した文章力をもって集約されている。
▼ 夜はエヴリー・フィッシャー・ホールへ。コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団によるシベリウスの交響曲第三番&五番。この組み合わせで悪いわけがない。(期待通り)オーソドックスな解釈ながら雄大な演奏を繰り広げてくれた。昨年聴いたラトル&ベルリン・フィルのシベリウス七番よりも私の好みの演奏スタイルだ。以前、彼らの「幻想交響曲」を聴いたときにも同じように思ったのだが、やはり世界のトップオーケストラだけあって、特に弦のアンサンブルの上手さには舌を巻く。
▼ 帰宅後、過去のコンサートのパンフレットを整理していたら、昨年の一年間で73回も演奏会に行っていることに気づいた(パンフが残っていない分も含めたら80は越えているだろう)。夏はオフシーズンなので、これを除外すると、ほぼ週に2回のペースの計算になる。仕事の合間を縫いつつ、頻繁に超一流の生演奏に(しかも安く)接することができるのはNYならでは。改めて幸せな環境にいるなあと実感。こんな生活を享受できるのも、でも、あと一年未満か。日本に帰ったら年に一度の演奏会もままならない生活が待っている。
▼ 大和書房から2月に発売になるオリヴェリオ著「論理的思考の技術」の献本が届いた。この表紙って「海馬」のそれに似ているような。この本には推薦文を書かせて頂いた。


1月20日(火)
▼ Rafaに一言断って、午前は一時帰国する妻をJFK空港まで送る。例によって大量の荷物を運ぶ妻。成田で大丈夫なんだろうか。空港では完成したばかりのエアトレイン(Air Train)に初めて乗った。五ドル。帰りはトリッキーな路線図に気づかず、思わす全ターミナルを無駄に周遊してしまった。急いでラボに戻るともう昼。Rafa「あれ?今日はもうオフにすればよかったのに」。。。私はまだ日本人気質が抜けていないらしい。
▼ 午後は昨日の投稿の続き。FAXや郵便で送る分の作業(Supplementary Materialなど)をすべて完了させる。これでホントにあとは待つだけ。残りの時間はKN君の論文。
▼ KN君がほぼデータを揃えてきた。in vivo電気生理にしてはきれいなデータが並んだ。論文の完成も近い。
▼ いつも元気な妻がいないと急に部屋が寂しく(静かに?)なる。と同時に飯が問題。この9日間をどうサバイブするかだ。とりあえず、今夜は祖父江夫妻の置きみやげのカレー。あと、プチ独身中のコンサート・チケットをいくつか取った
▼ Rafaが「liquid states」がよほど気になったようで、例の論文の筆頭著者であるMaassに、我々の論文草稿をメールしたらしい。するとMaassからと〜っても長い返信メールが来た。エッセンスは「1.ここで発見された現象はcircuit trajectoryに自由度を残している。これはHopfiekd型回路では説明ができない。むしろ我々のLiquid State Machineに近いのでは」「2.AP5で切れるんだからsynfire chainとは無関係であることは明確」「3.Liquid State MachineにSTDP(もしくはNMDA受容体のkinetics)を組み込むだけで、この現象を説明できるかもしれない。早速試してみるよ」という3点だ。特に第2の点は私としてはガッツポーズ状態。タイトル冒頭にsynfire chainsって書いちゃったんだけど、さあ、Rafaはどうするだろうか。あと、第一点目については「まだ自由度を残している」のは事実なんだけど、私としては「神経ネットワーク活動の自由度をここまで減らした」ということにむしろこの研究の意義を見い出したい。
▼ 昨夜Rafaはラボのメンバー全員にお詫びのメールをしていた。「ようやく論文が投稿し終わったので、明日から正常にラボが機能します」とのこと。
PLoS。いま最もホットな脳研究グループ・Nicolelisラボから。これもまた面白い論文だ。neuronal reverberationがslow-wave睡眠(=非レム睡眠)で最高頻度に達するというもの。これはRafaとじっくり話し合わねば。
PNAS。奥田さんの論文が発表された。副腎皮質ホルモンがemotional arousing imformationの学習のみに影響するらしいという知見を、モデル系を構築して確認した論文。やっていることはシンプルなんだけど示唆に富んでいる。habituationとnonhabituationの差が学習亢進&阻害効果の両方に見られるのが面白い。ところで論文ではemotionの効果と謳っているけど、postraining injectionということだけでattentionの関与を避けきっているといえるのかな。深く関係ないのに私の論文を引用してもらったのには大感謝。
PNAS。Kandelラボ。海馬CA1。なんと五秒に一回という超低頻度刺激でも、ヘテロ入力のburstを組み合わせると連合LTPが生じるという。もちろんtime windowはあって、2つの入力のタイミングの差が大きいとE−LTPしか生じない。それ以降は例によってメカニズムの実験がつづく。


1月21日(水)
▼ 午前実験。久々にスライスを切ったせいか活きがイマイチ。
▼ 昼はレトルト餃子を焼く。
▼ 午後はデータ整理。そしてNeuropharmacology誌の論文審査をする。ひどい内容だったので即Reject。ごめん。そもそもデータが完全にJAKさんの論文の焼き直しなのに、引用すらしていないようではお話にならない。
▼ 夜はカーネギーホールへ。ラドゥー・ルプーの弾くシューマン作曲「ピアノ協奏曲」。伴奏はバレンボイム指揮ドイツ・ベルリン・シュターツ・カペレだ。ルプーは録音嫌いでCDをほとんど残していない。数少ない彼のディスコグラフィーは若い頃のものが多い(でも、いずれも名盤の誉れ高い。特にこれこれは日頃から愛聴している)。つまり、現在ではライヴでしか演奏に接することができない、私にとっては幻の演奏家なのだ。初めて生で接してみて「リリシスト・ルプー」の意味がよく分かった。彼の美音は録音では捉えられない(実はアシュケナージのピアノもそうなのだが)。その意味でルプーが録音嫌いになったのもよく分かる。彼の演奏スタイルは奇を衒うことなくオーソドックス。しかし、そこから紡ぎ出される音はどこまでも透明で叙情的、そして、はにかむように柔らかい。同じルーマニア出身のディヌ・リパッティもさぞかしこんなピアノを弾いたんだろうなと想像を膨らませてみる。驚いたのはルプーはふんぞり返ったような横柄な姿勢でほとんど鍵盤も見ないで演奏することだ。そう、ちょうど有名なブラームスの挿絵にような感じ。それでいて発せられる音楽が超繊細だから、そのギャップが大きすぎてウケる。
▼ 後半の演目は、同じくシューマンの交響曲第2番。今週は4回に分けてシューマンの交響曲全曲が演奏される。今日はその初日(私はあともう一回行く予定)。シューマンの交響曲は、クラシック愛好家の中でも人気が高いが、一種独特の世界を築いている。それはこの作曲家のオーケストラの楽器の扱い方が下手だからである。しかし、この非効率で癖のあるオーケストレーションが、シューマンの独特の音色を産み、その晦渋さが逆に人気にもつがっている。今日の第2番は彼の交響曲の中ではもっとも演奏される機会の少ないものの隠れた名作である(私の愛聴盤はこれ)。実際、第3楽章は彼の書いたもっとも魅力的な音楽の一つであることは誰もが認めるところだろう。ベルリン・シュターツカペレ(ベルリン州立歌劇場管弦楽団)はオーケストラとしての歴史は長いが注目に値するようになったはバレンボイムが指揮をするようになってから。世界最高峰と比べてしまうとやはり響きの魅力には若干乏しいものの(逆にこのいぶし銀のような渋さが良いという見方もあろう)、やはりバレンボイムの棒が冴える。力強い推進力。切れば血が噴き出すような情熱。しかしムーティーやマゼールの指揮ように強引さはなく、統制のとれたバランスの良い演奏を聴かせる。ピアニストから転向した指揮者たちの中では最も成功した人は間違いなくバレンボイムだろう。会場では最近出したばかりのCD(日本では来月発売)を売っていた。
▼ RK君の苔状線維の総説が公開された。顔写真もそこに掲載されると聞いていたのに取りやめになったのかな。
▼ 先日、帰国した祖父江さんが日記を再開。元気そうで何より。
▼ 「海馬」の台湾版が届いた。なんだか面白い。
▼ 全然関係ないんだけど張栩本因坊って80年生まれなんだ。私とちょうど10違う。
Neuron。Pooラボ。新しいタイプのintrinsic plasticity(といっても現象自体はこの論文の裏返し)。STDPによるLTD誘導でプレ側の興奮性が抑制される。これはポストのCaがトリガーになり、プレのPKAとPKCが担い、KSIのactivityを高めることで発現されるようだ。Poo一派はデータの出し方が上手い。勉強になる。
Neuron。 小脳顆粒細胞培養。神経活動→CaMKII→NeuroDのセリン336リン酸化→樹状突起形成。bHLH蛋白NeuroDは神経特異的な転写因子。これをRNAiでknockdownしている。
Neuron。 PDAPPマウスにapoEやclusterinのノックアウト(もしくはそのダブルノックアウト)を掛け合わせると、アミロイドβの代謝が遅くなることを示した論文。
Neuron。臭い学習とNMDA受容体の話。疲れたのでパス。直接は関係ないけど、ついでにこれ(JN)もパス
NeuronNeuron。ともにdoublecortinのリン酸化と細胞移動(migration)の話題。念のため記載。
JN。トリチウムラベルした神経伝達物質(NE、Glu、GABA)を用いて、プレのKCNQ2カリウムチャネル(IM)がこれらの放出を抑制することを示した論文。ここで使っている標本は海馬シナプトゾ−ムとCHO細胞だけなんだけど、実際の神経ではどのくらい寄与しているだろうか。
JN。このLendvaiという人はもとSvobodaのところにいた人で当時の代表作はもちろんこの論文。Two-photon&Oregon Greenを用いて海馬インターニューロンの樹状突起のCa動態を調べている。活動電位の逆伝播およびシナプス入力によるCa上昇はともに、遠位の方が大きいという。手法はYuste研の域を出ていないのだが、良いところを突いた論文。JesseのNeruon論文も引用されている。
JN。GFAP-GFPマウスの海馬スライス。アストロサイトにIP3のuncagingでCa waveを誘導すると、近傍の錐体細胞でAMPA sEPSCの頻度が高くなる。これはグループI mGluR阻害薬で切れる。ATPとかadenosineとかもっと他の阻害薬も試してくれないと結論が尚早かも。
JN。awakeラット。青斑核(locus ceruleus)にGlutamateを投与すると、貫通線維-歯状回シナプスにβアドレナリン依存性のLTPが生じるという論文。差は微妙だが、ES乖離も見られて面白い。よく考えたらこれってKN君の実験系で可能な研究だな。


1月22日(木)
▼ 午前実験。今日はちゃんとムービーが取れた。途中、Rafaと相談。NicolelisのPLoSを持っていった。「どうやら、我々のデータを必要としている研究グループは他にもたくさんいるようだな」と。そして私が「今の論文が通ったらつぎのはNeuron誌か、悪くてもJ Neurosciに出したい」と言ったら、「何を言っているのだ。Natureを狙うさ」だと。うーん、現在の手持ちのデータではちょっと無理のような。。。っていうか、明らかに無理なんだけど。要はもっと実験しろということだな。
▼ 午後はちょっとデータ解析。そしてKN君の論文を最終チェック。まだ全データが出揃ったわけではないけれども、原稿をこの分野の権威であるMcGaugh教授にメールで送ってみる。早速プリントアウトして読んでもらっているみたいだけど、どんな返事がくるかな。
▼ 夜は雑誌用の表紙作り。
▼ 台湾版『海馬』をJianに見せたら、「文字は辛うじて認識できるけど読めない」といわれた。恥ずかしながら私は「台湾でも同じ中国語が使われている」と今日まで思いこんでいた。もちろん簡体字と繁体字の差は知っていたけれども、Jian曰く「そもそも中国は縦書きじゃないんだよね」。。。マヂか。
▼ いただいた『海馬』をペラペラめくっていると面白いことに気づいた。科学誌「Nature」は日本だと「ネイチャー誌」となるけど、台湾では「自然」か。いや、まあ、そりゃそうなんだけど、なんだか妙にウケた。そんな細部の小ネタを見つけながら小さな幸せに浸る。そういえば、私が初めて行った海外は台湾だった。あの時ちょうど上映されていた映画「アダムスファミリー」が「安達家族」と表記されていたのにも笑った記憶が。それって、そのまま日本でも通用しそうじゃん。
Nature。「お手玉」をするとhMT/V5野などの灰白質(神経細胞がある場所)がブ厚くなることをMRIで示した論文。なんだかタクシードライバーの海馬みたいな話だな。効果は3ヶ月で現れるらしいから、さっそく今日からジャグリングの練習か。あ、でも逆に、3ヶ月やらずにいると、またしぼんでしまうらしい。
Nature。これはすっ飛ばそうかと思ったけど、タイトルの「短さ」が気に入ったので掲載。簡単に言えば『「ひらめき」は睡眠から生まれる』という内容。つまり、トレーニングをしてから寝ると、翌朝ヒラメく確率が高くなるというわけだ。緒言にLoewiによるベンゼン環発見の例が紹介されているのも“王道行ってます”って感じ。ちなみにこの論文では睡眠は8時間とっている。
Science。線虫のインタラクトーム(Interactome)。なんだかこの分野、スゴいことになってるな。部外者だけど念のためチェック。
Cell。30周年記念特集。


1月23日(金)
▼ 昨日の実験のデータ整理。10個もムービーを撮ってしまったので大変。。。
▼ 昼前にMalinow研の高橋氏が訪ねてくれたので、ラボを軽く案内して食事を一緒にする。いろいろと裏話などが聞けた。彼のNeuropilinやPlexinに関する論文の経緯は科学的に面白かったし、御子研時代のこぼれ話はほとんど爆笑状態。話上手だ。山田先生が当時の後輩達にとても尊敬されていることも聞く。先日行ったばかりの「サイゴングリル」で食事だったのだが、いや、今日食べたスープはめっちゃウマかった。あれを食べるためだけに何度も通いたいくらいだ。
▼ 夕方はAndyのJournal Club。前ラボ時代の時の仕事で現在投稿中の論文(サイエンス誌)を紹介した。NEURONを使ったシミュレーション。やっていることは簡単そうだったのだけど、それによってMcCormickたちが発見した「同一刺激でUp StateのONもOFFも可能」という不思議な現象が、見事に説明できるのでブったまげた。ちなみにYusteラボではこの現象は「再現性なし」とレッテルを貼られている。
▼ 雑誌の表紙として応募するために作ったイラスト二枚をRafaに見せたら興味を示していた。田村君から聞いたので試してみたのだが、やはり「フォトショップ(Photoshop)」は色々なことができて面白い。ハリウッドSF映画や宮崎駿夫アニメにも使われているだけある。もちろん私は使いこなせてないのだが。。。週末にもう一枚描こう。
JP。モルモット海馬CA3錐体細胞。mGluR刺激でafterhyperpolarizationが減少し、発火パターンがバースト状に変化する。データを見るとなんだかTRPが絡んでいそうな臭いがする。


1月24日(土)
▼ 午前は表紙用のイラスト描き。素材に使う「ピアノ」の写真を撮りに大学の学生ホールに行く。ついでにちょっと弾いてみる。一年以上触ってなかったが意外と指が覚えているもので思った以上に弾けた(いや、覚えているのは指じゃなくてホントは小脳や線条体とかなんだが)。イラストが3つ完成したのでこれで打ち止め。
▼ 午後はずっと英語の勉強。ラジオをかけながらやっていたら、途中、メトのライブ放送が流れる。「蝶々夫人」だ。先日も生で聴いてちょ〜感動したが、音だけでも十分に感動的。今日も同じメンバー、つまり、ヴィッラロエル(ソプラノ)とベルティー(テノール)の組みあわせ。前回もスゴかったが今日のほうが二人ともさらに調子が良いようだ。
▼ 夜はカーネギーへ。今日はシューマン・チクルスの3夜目。前半がクレーメルによるヴァイオリン協奏曲。後半が交響曲第4番だ。オケは前回と同様バレンボイム指揮ベルリン・シュターツ・カペレ。同じシューマンの晩年の曲でもチェロ協奏曲はよく聴くが、バイオリン協奏曲はCDをもっていないせいもあってほとんど聴いたことがない。思ったよりも叙情的で美しい曲かも。ただ独奏バイオリンのパートは難しそうなわりには演奏効果が高くないような。まあシューマンらしいといえばらしいか。クレーメルはいつも通り冷た目の音質だったが、以前聴いたウィーンフィルとのベルクのときよりは、ふくよかに歌っていた。
▼ 後半の交響曲第4番という曲は初めて聴いたとき(←う、ずいぶんと昔話だ…)からずっと好きなシンフォニー。表面的な親しみやすさだけでなく、独創的な曲の構成と全体の統一感が不思議とマッチしている名曲だと思う。演奏のほうは3日前のコンサートのほうがコントロールされていて良かったとは思うのだが、やはり今日も指揮者の情熱が乗り移ったかのような入魂の歌を聴かせる。なんだかミュンシュ&パリ管の白熱コンビを思い起こさせる。
▼ 帰宅後はまた英語。
▼ 朝刊一面より。妊娠中に喫煙すると、子供の知能レベルが下がるらしいのだが、その影響はNYに住んでいる人に顕著に現れるという。どうやら大気汚染のせいらしい。話は変わるが、公の場に限って言えば、アメリカの喫煙率は日本よりもかなり低くて、タバコを吸っている人を探すのは意外と大変。たとえば日本で居酒屋に行けば、まちがいなく服にタバコ臭がこびり付いて翌朝ショックを受ける。こうしたことはアメリカではまず考えられない。帰国中の妻もきっとタバコ臭くなった服をNYに持って帰ってくるんだろうなあ。
▼ なんと、昨年出版されたAB君の論文のうちのひとつがNeurobiology of Lipids誌の「2004年 注目の論文」に選ばれた。いろいろな意味で驚きだ。とりあえず注目してもらえるんだから喜ばないと。


1月25日(日)
▼ 最近、あいかわらず寒い日が続いている。連日零下10℃かそれ以下だ。明日からは気温が上がるよう。妻がNYに戻る頃には少しは暖かくなってくれるとよいのだが。
▼ 朝から夜までずっと英語の勉強。結構すすんだかな。
▼ 今週はまた論文関係でいろいろと忙しくなりそうな予感が。。。今週の後半からはSF君の論文も手を付けないと。
▼ 進研ゼミから「おや?BOOK4年生」の2月号が届く。特集に携わらさせていただいた。
▼ おおかたの予想どおりとはいえ「ロード・オブ・ザ・リング」にゴールデン・グローブ賞(作品賞、監督賞など)。いや、もちろんこれ悪い映画じゃないのだけれども、ただ、例年になく映画不作の年と言われているらしい。
NRN。神経発火のパターンが脳のStateによって変わりうるということを強調した総説。私の興味を的中している。著者がSteriadeだけあって一部睡眠に主眼が置かれているが分野外の人も読む価値があろう。ということでSF君&MTさんは必読。Shimaさんの日記(あ、優勝おめでとうございます!)ですでに触れらているように、この総説には、スライス実験には相応の問題点があることも述べられており、我々(&Yusteラボのメンバーたち)は常に心に留めておかなければないだろう。
NRN。Turrigiano&Nelsonコンビによるnon-Hebbian可塑性の総説。神経接合部から皮質神経までhomeostaticなglobal tuningについて色々と書いてあるが、結局のところ結論は「詳しい機構はよくわからい。でも脳にとってこの現象が重要なことは間違いない」というもの。初めてこの分野知る人にはよい総説か。


1月26日(月)
▼ 今日も寒かった。予報だと多少は暖かくなるはずだったのだが。。。なんだかアメリカの天気予報は日本のよりも正答率が低いような気がする。これは気象予報の技術的な問題なのか、それとも単に地学的にカオス度が高く予報が外れてしまうことが多いだけなのか。うーん、山岳地帯じゃないんだからNYの天気なんて簡単に予測できそうな気がするんだけど、でもこれはたぶん素人考えなんだろうなあ。まあ今回はNY以南でおこっている寒波(結構な死者もでているらしい)の影響もあるのかもしれない。とりあえず、予報によれば明日からは気温が上がる。気温が上がると言うことは、つまり雪だ。
▼ 午前はGlosterのprogress report。Intracellular motifとUp stateの関係を主に論じている。おそらくいま投稿中の論文が済んだら、ラボの次の主要な論文はJasonの現テーマと、そしてこのGlosterのテーマになると思う。ともに私から見てもとても面白い。
▼ 昼はチャネルのスペシャリストBear氏のTalk。自分の研究を紹介しながら、周期的発火のリズムがどう作られるかというイオンメカニズムを広範にまとめたものだった。冒頭で「温故知新。自分にとって大切な論文はこれだ」とLlinasの総説を賞賛していた。この総説は、私が昨日取り上げたNRNのReview中でも重要視されている。15年も前に書かれ、今でも大切に読みつがれている総説なんてそう多くはないと思う。
▼ 午後はデータ整理。データの見せ方をちょっと変えたら面白い(不思議な?)現象が拾えてきた。有意差P=0.00002だとさ。でもこれ、どうやって展開したら良いのかな。にしても大脳皮質の第5層は総ネットワークレベルで一体何をしているんだろう。単純に興奮させるだけではなさそうだぞ。
▼ 前々から興味があった毎日の通勤時間を測ってみた。
▼ Materials&Methods: すべての測定は6時間の睡眠を確保し洗顔・朝食の後に行った。自宅の玄関ドアの前の廊下(4階)に出てドアを閉めた瞬間から研究室の自分のデスク(10階)に着席するまでの時間をストップウォッチ(Casio、Made in China)で測定した。移動は徒歩(Timberland、USA)、またはエレベーター(Vertical Transportation社、USA)を使用した。
▼ Results: 6分53秒±17秒(Mean±SD、N=3)。このうち一日は赤信号に遭遇した。
▼ Discussion: 例数が少なくてRejectされるかもしれない。
▼ ラジオをつけていたら「アルツハイマー病の新しい予防法」というニュースが流れていた。詳しいところまでヒヤリングできなかったが、どうやらビタミン剤を飲み続けると良いらしい。「CまたはE」と言っていたから、まあ、抗酸化作用かなんかだろうな。と言うわけで突然、常備しているビタミン剤なんかを飲んでみたりする。


1月27日(火)
▼ 昨日の夜にPCに夜通し演算させるように仕向けて帰宅したのだが、今朝になっても終了していなくて驚いた。
▼ 午前実験。今日もたくさんムービーを録った。
▼ 午後はデータ整理。
▼ 夜はカーネギーへ。今夜はサイモン・ラトル指揮でフィラデルフィア管弦楽団(なんだか妙な組み合わせだと感じたが過去にもラトルはこのオーケストラを指揮しているようだ)。演目はブラームスの交響曲第2番(ブラ2)。ブラームスの曲は深みがあってよいのだが、内向的なのでとっつきにくい感じがある。そんな中にあってこの2番は親しみやすい楽想に満ちている(と同時に楽理的に凝っていてマニアックな聴き応えもある)。フィラ管はもう何度きいてきたか解らないが、古くからいわれている「フィラデルフィア・サウンド」というのがようやく実感できてきたような気がする。その鮮やかな(そして、ちょっと軽めの)音質はブラ2に思った以上に合う。4楽章はもちろん3楽章がよかった。でもやっぱりスゴイのはラトルの指揮。先まで神経の行き届いたタクト。そして優雅に曲線を描く左腕。ときにはタクトを左手に持ち、右手の指で細かく指示をだす。指揮台で華麗に舞う彼の姿はホントに絵になる。演奏のマニアックさもスゴイ。昨年のベルリンフィルの演奏では「個性」という意味では大人しくてちょっと拍子抜けだったけれど、今日は細部偏執狂ぶりが爆発。あのウィーンフィルとの有名なベート−ヴェン交響曲全集を思い出させるほどだ。その一方でエンディングで金管を必要以上に咆哮させない紳士ブリもあったりしてとにかく楽しめた。じつは今週、もう一度同じ曲を聴く機会がある(学生券があればだが)。リッカルド・ムーティーの指揮だ。彼もブラ2は似合いそうだな。
▼ KN君の論文がMcGaugh教授から絶賛された。やったね、これは行けるぞ。
▼ いま流行の「Hi」とかなんとか言ってくるウィルスメールがたくさん来る。
▼ 明日は妻がNYに帰ってくる。楽しみだ。これでインスタントラーメンの生活から脱出。というか、昨日のクレームが届いたのか今日は天気予報が当たって夜から雪。しかも大雪。明日の妻の荷物運びが大変だな。
▼ 私が午前実験をするときには一番乗りでラボに来てスタートする。そして午後2時くらいは終える。これが通常の私のペース。もちろん、ラボの人たちの来るのが遅いというわけでない。だいたい皆さん9時くらいにぱらぱらと来はじめて9時半にはほぼ揃っている感じだ。Yusteラボに限らず多くの研究室はこんなもんだと思う。おそらく日本の(ほとんどの)研究室のほうが朝が遅いのではないだろうか。
▼ 最近ちょっと思うことがある。それは日本人は「寝るのが大好きだ」ということだ。これは単に「朝寝坊型」という意味でない。たとえば地下鉄。座っている人は寝ているという図式が日本では多くの場合に成り立つ。でもNYの地下鉄では寝ている人はほとんど見かけない(たまにいるが)。「そんなの当たり前じゃねーか。NYは治安が悪いからだよ」という声が聞こえてきそうだが、おそらくそれだけでは説明できない。
▼ たとえば講演会やセミナーでツマラぬ話を聞かされることがある。日本人ならすぐに眠くなるところだ。私も「寝ている学生の総数」で自分の講義が面白いかどうかを判断できたくらいである。でもアメリカ人は寝ない。かといってツマラない講演を真剣に聞いているわけでもなく、机に落書きなどしながら「ボーっ」と時間の過ぎるのを待っている。こちらで講演中に寝ている人をみかけるとアジア人だったりする。どうやら黄色人種は体質的に「暇だと眠くなる」らしい。これは自然淘汰の過程で獲得した性質だろうか。ともかく「アジア人はどこでもすぐ寝る」と欧米人は半ば呆れ顔である。うぐ。。。
NN。MageeとJohnstonのコンビではこの論文がなんといっても印象深かった(←概念的な意味においてLTP研究の一つの区切りとなった)が、現象学的には今回の論文のほうがはるかに重要だと思う。一時間以上も樹状突起パッチを継続するという驚異的なテクニックがあってはじめて可能になった実験だ。論文の内容は、近ごろ報告が増え始めたLTPによるintrinsic excitabilityの変化なのだが、ここでは増強されたシナプスの近傍だけで膜興奮性が上昇するということを主張している。どうやらAカレントの不活性化によって起こっているらしい。これは同じグループがすでに報告している事実と一致する。従来のintrinsic propertyの研究だと「ん?E-S乖離か」と思ってしまうが、この論文はむしろメタ可塑性(metaplasticity)を意識させる。最近のSvobodaの論文なんかも絡んでてくると面白くなってきそうだ。
NN。GFPレトロをin uteroでE16側脳室に注入し翌日にスライス培養を起こす。そして細胞分裂&移動をTime Lapseで観察。Fluoviewかあ。いやあ、きれいに撮影できてうらやましい。
NN。ぜんぜん関係ないっつえば関係ないん内容なんだけど、いま書こうとしているSF君の論文にこの考えが応用できそうかなと思って掲載。ねっ。
PNAS。Ihチャネルを通して流入するカルシウムが活動電位依存性のエキソサイトシスを誘導するという論文。ちょっと実験系が古典的で粗いところがあるけれども、TK君の論文の参考文献に組み込まないと。
PNAS。プレセニリン1(presenilin-1)の7回膜貫通説。というかこれのクリティカルな点は内外がすっかり入れ替わってしまうこと。EMとPlasma membraneでそんなに違うのか。っというか、関係者はどうみるんだろ、この論文。また無視か?
PNAS。海馬培養、autapse。PPDでquantaの大きさが変動するというびっくりな内容(PPFでは変わらないという)。つまり放出されるべきvesicleが可塑的に選り抜かれているということか。PPFとPPDのメカの差−これもTK君の論文に関係あるかもしれない。


1月28日(水)
▼ 午前実験。今日のイメージングは画像的にはかなり良かったんだけど、長期撮影となるとなぜかアングルが安定しない。でもデータ的には結構いいのが出ている予感。データ整理は来週になりそうだな。
▼ 午後はデータの移動などでつぶれる。まあ、これも実験には必要な作業なんだけど。
▼ TK君の論文がreject。妥当な指摘とはいえ、ぐすん、かなりショック。。。どうしよう。
▼ 妻が帰ってきた。これでもかってほどの日本の味を持って帰ってきた。最高。日本酒、やはりこれが嬉しい。
▼ どうも日本の情報が遅くていかん。今さらですが綿矢りささんの実力ってどんなもんなんでしょ。ITKZさんあたり、情報を。
JN。これはまたびっくり。膜電位感受性色素DHPESBPの第二高調波発生(SHG, second harmonic generation)を使って活動電位をoptical recoding。加算平均が必要とはいえ、submsecの時間分解能を達成している。
JN。簡単に片づければ「嗅内野皮質(entorhinal cortex)の萎縮度を観察すればボケ具合が予測できる」という内容。臨床的に重要って言えば重要なんだけど、怖いと言えば怖い。ちなみに海馬や前頭葉は年をとれば萎縮するもので、これはボケとは関係ないと言っている。
JN。スライス培養。線条体のspiny projection neuron。Upstateに移行してすぐにスパイクが生じた方が樹状突起でのカルシウム上昇度が大きいと言うもの。言われてみれば確かにそうかもしれない。
▼ TINSを二つ(これこれ)。ともに樹状突起の話。前者はLTPを例に挙げて樹状突起独自の演算性を主張。後者はYusteラボから。イオンチャネルは実は軸索よりもむしろ樹状突起のほうに多量に発現している。これはナゼかという内容。スパインに興味のある人にとっては刺激的な話が含まれていると思う。手前味噌だけどお勧め。あ、でも原著としてはこれを読めば済むか。


1月29日(木)
▼ データがたまりすぎたので今日は実験ではなくデータ整理に集中。データを取るのは簡単なんだけど、解析するのにすっげー時間がかかるのがこの類の実験の難点。まあ、それだけ脳が複雑っていうか、逆に人類の技術がまだ未熟というか、ともかくヤリガイのある仕事であることは間違いない。
▼ 午後はKN君の論文。McGaugh教授がPNASにcommunicateしてくれるというので慌てて最終仕上げ。にしても奥様のご健康が心配だ。
▼ 学生券があったので夜は予定通りリンカーンセンターへ。リッカルド・ムーティー(Riccardo Muti)指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団でブラームスの交響曲第2番。先日もラトル&フィラ管で聴いたばかりの曲だ。ラトルが古楽器的&分析的なアプローチなのに対して、ムーティーはロマン的&本能的で、テンポを自在に操りながらも歌の流れを大切にした演奏だ。そして(違和感のある説明かもしれないが)「ベルカント」的だ。あえてどちらが好みの演奏かときかれれば、一回こっきりなら今日の演奏かな(CDで何度も聞くんだったらラトルの方かも)。それは私がムーティー好きというのもあるが、オケの実力がニューヨーク・フィルの方が断然上だという理由もある。ところで今日のコンサートはもう一つの目玉があった。前半でモーツァルトを歌ったトーマス・クヴァストホフ(Thomas Quasthoff)である。フィッシャー=ディスカウが引退したいま、男性リート界の第一人者は彼ではないだろうか、と私は勝手に思っている(もちろんグラミー賞や身体的なハンディーキャップという表層的なインパクトを抜きにしてだ)。生で聴くのは初めてだが、やはり声そのものが圧倒的に美しいし、劇性にも不足はない。そして何よりも歌に込められた感情が深い。
▼ 昨日のsecond harmonicsの論文はさすがにYuste研には衝撃が走ったようだ。まあ、このラボでやろうとしていることはもっと高度なことなんだけど手法のアイデアはあまりにも似ている。競合グループがいることは我々も把握していたのだが。
▼ 今日はマイナス2℃まで気温が上がった。うっひょひょ〜ってなくらい暖かかったのだが、しかし、心は一日ずっと沈鬱だった。もちろんTK君の論文だ。Reviewerの返事を読むにつけ、このショックからはしばらく再起できそうにない。
▼ NYにカジノ − パタキとブルーンバーグは意見が逆らしい。そもそも「カジノ」の真の経済的意味は”裏”のカネを表に戻すことにある。いまのNYにカジノは必要なんだろうか。どうでもいいことだけど、先日テレビでパタキの年頭所感をみたが彼はやはりかっこよい(アメリカの政治のことは私にはさっぱしだが…)。
Nature。脳科学じゃないんだけど手法が面白いので。magnetic beadをF1にstreptavidinで架橋。磁力でタンパク質をヒネてやろうなんて私にはとてもじゃないが思いつかない。「this is the first accomplishment of artificial chemical synthesis by a vectorial force (although nature presumably has been doing this for millions of years)」(本文より)の括弧内の記述がウケた。まったくその通りである。
Nature。こういうのってRafaが今とても興味を持っている。同じアイデアがそのまま神経ネットワークに応用できるからだ。
NG。AKT1-GSK3シグナルの異常が統合失調症(schizophrenia)の原因ではないかと示唆する論文。IntroductionとDiscussionしか読んでいないので詳しく理解していない。


1月30日(金)
▼ 午前はKN君の論文。だいたいこれでOKかな。
▼ 昼にはもう一枚、雑誌の表紙用イラストを作った。簡単なものだけど何だかんだでこれが一番良いかも。採用されないかなあ。午後はデータ整理。
▼ 夕方はカルロスの文献紹介。Ghoshラボのこの論文が取り上げられた。KClの妥当性や海馬と皮質に見るapical dendriteの所見の差などが論じられた。後者は発達時のmigrationが絡んでいるだろうという皆の推測。この論文はTN君のデータを考える上でMKY先生にはとくに興味深いものではなかろうか。
▼ 夜は英語の勉強。
JNB。Yusteラボから。昔のデータがなぜか今頃になってpublish。Sema3Aが樹状突起の形態決定に関与するという論文。図3のような実験は隆二のテーマにも使えないかなあ、まぢで。同号のJNBには桐野研・渡邉先生の論文も載っている。


1月31日(土)
▼ 午前は英語の勉強など。
▼ 昼は妻の友人が日本から来ているので4人で「ユニオン・スクウェアー・カフェ(Union Squire Cafe)」へ。人気レストランだというので行ってみたが「アメリカの料理にしてはかなり美味しいじゃん」という感じか。個人的な好みで言えばNYにはもっと美味しいフレンチやイタリアンなどがたくさんあるので再訪することはないかな。
▼ 午後も英語。
▼ 夜はカーネギーホールへ。もともと演奏するはずだったアルカディ・ヴォロドス(Arcadi Volodos)が病気で、代役としてウラディミール・フェルツマン(Vladimir Feltsman)氏が演奏。ヴォロドスは一年前から楽しみにしていたのでキャンセルはとても残念だ。今日の曲目はバッハとショパン。感情を込めて丁寧に引き込むフェルツマンの演奏にはとても好感が持てた。熱狂的なファンが多いのも頷ける。
▼ その後はミッドタウンに住む友人宅でワイン・パーティー。いいなあ、摩天楼街の中心地の、それも34階に住むなんて夢のよう。便が良いだけでなく、景色も最高。あ、でも去夏のNY大停電のおりにはエレベーターが停止したせいで筋肉痛になったらしいんだけど。ちなみに私の部屋は4階だから停電でも平気だな。空けたワイン(1999年)はナパ谷のロバート・モンダビによるものでこれがまた最高だった。こちらに渡ってから飲んだワインでも最高峰の味だ。
▼ 一ヶ月ほど前、「ヴォロドスのロの部分のつづりはLだっけRだっけ?」と思い、Googleで検索したことがある。答えは「L」だったのだが、「R」で引いても何件か検索されてくる。こんな感じ。これを見て笑ってしまった。やっぱりLとRを間違えるのは日本人だけなんだあと。たとえば、最近ちまたで耳にするようになった「コラボレーション(collaboration)」という言葉。これもわざと「R」を「L」に変えて「collabolation」と検索すると、こんな具合にやはり日本のHPが何百も引っかかる。ウケる。
▼ 「私はLとRが区別できない」と告白するとアメリカ人はびっくりする。彼らにとっては「L」と「R」は似ても似つかぬ発音らしく、これが混同されてしまうことがどうしても理解できないようだ。曰く、「rightとlightだったら、rightとwightのほうがよほど似ているのでは」と。ふーん、そうなんだ。
▼ AB君の紹介文がNeurobiol LipidsのNoteworthyのコーナーにアップされた。

(2004年)

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