日記のリストへ

2004年4月1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

4月1日(木)
▼ ずっとプログラミング。予測アルゴリズムを多少(といってもなぜか苦労したが)改良したほか、インターフェース(=使い勝手)と、将来論文にすることを見込んで“魅せるデータ表記”のためのモジュールを作る。
▼ ところで私の受理済みの論文は今、掲載号の表紙を選定中のようで、全5枚の候補の中からどれを使用するか最終的に決めている段階だという。私の提出した2枚の画像は両方とも最終候補に残ったらしい。ラッキー。んで、もし表紙に選ばれるとなると論文の掲載は予定より1ヶ月以上遅くなるとのこと。なぜだあ。
▼ 情報によれば私が先日の日記でやった名字シミュレーションについては、「シミュレーション科学(草野完也著)」という本が出版されているようだ。著者はこれで授業もやっているらしい。たしかにモンテカルロの手始めにはもってこいの課題だよな。なお、上記の本には「血液型」のシミュレーションについても書かれているようだ。これも簡単で面白そうだ。時間があるときに私もやってみよう。バイアス試行をして現在の血液型の分布と比較すれば「B型同士はウマが合わない」などと世間に流布したウワサ(?)が本当に正しいかどうかもわかるはずだ。
Cell。Thomasはβアドレナリン系と動物の行動の関係を調べてきている。(これこれが代表作)。今回はdopamine β-hydroxylaseノックアウトマウスやβ関連薬を使いながら学習能をより詳細に調べた論文。でも一部の知見は古くから知られている内容だし、使っているβブロッカーは低特異性のプロプラノロールだし、論文全体としてはちょっと評価できないかも。ただマウスだけでなくラットも使っている点はよい傾向。あと個人的にはやはりCA1より苔状線維終末周辺に高密度に存在しているβ受容体が気になるな
▼ 今日、最近得たデータについてRafaと話した。「この方向で良いと思うから自由に進めなさい。ガヤのやろうとしていることにほとんどコメントはないよ」とのこと。うむ、微妙だ。。。未来の予測率が良い(私に言わせれば“良すぎる”)ことについてはRafaは取り立てて問題視しなかった。それどころかもっと正確性を上げるべくモデルの改良点を指摘してきた。そのパラメータについては実は私は最近ほとんど無視していたので、たしかにイジり甲斐がありそうだ。Rafa曰く、「このプロジェクトは言ってみれば、実った果物を狩って、それを搾ってジュースを作りはじめたことに相当するのだ」。うーん、意味不明。
▼ でもRafaはいつも喩え話が上手い。今日もこんなことを言っていた。「ニューヨークの“人の流れ”を空から眺めていることを想像してごらん。朝には人の群れはマンハッタンに移動して、そして夕方にはてんでに散っていく。でもそれを拡大して各個人を追跡したら毎日特定の通路を使っているだけで、全員に共通した法則性はないだろう。もしかしたら微視的(=個々)に見ればランダムに感じられるかもしれない。でもニューヨーク全体は秩序をもっている。ガヤのやっている予測はそれだよ。(一見ランダムに見える)部分からなる非線形集合から全体の流れを総合的に掌握し、さらにその総合データに基づいて再び“個々”のクセのある行動を予測する。次に我々のやらねばいけないことは、この論文の読者に向けてモデルの“説得力”を高めることだ。まあ、その前に存分に遊んできなさい」
▼ え?遊べ? というわけで、来週には雪の予報も出ている寒いNYは離れて、私は灼熱の国に飛ぼう。PCは持っていくけど明日からきちんと日記を更新できるかは不明。


4月2日(金) グアテマラ
▼ 朝NYを経ちメキシコ経由でグアテマラ市に夕方到着。
▼ 食事がてらちょっと散歩したが想像以上に発達していない街で早くもNYに帰りたくなる(うそ)。明日は市内観光など。楽しみだ。
▼ 飛行機の中ではコピーして持ってきたJefferys JG や Schiff SJ の論文などを数報読んだが、ちょっと落ち込むなあ。この内容。SF君もぜひ一読してみて。


4月3日(土) グアテマラ
▼ 午前、国立考古学民族博物館と国立近代美術博物館、そしてちょとだけ旧市街へ。ここにはカルロス・メリダのデザインした壁画がけっこうあるのに驚いた。昼からはアンティグアへ。昼飯中に現地ガイドが私と妻の荷物を持ったまた車ごと消息不明に。。。からがらにグアテマラ市に戻る。
▼ アンティグアはけっこう楽しみにしていた。実際、廃墟が多いとはいえコロニアル風建築物がリマ旧市街(ペルー)よりもはるかにキレイに残っていて美しかった。ただ当時の石畳でできた道路は何度か足を挫くほどデコボコしていてちょっと頂けないなあ。ちなみに有名なイースター祭セマナサンタの「花絨毯」はちょうど明日なんだそうでニアミス。惜しい。


4月4日(日) グアテマラ
▼ いきなり旅行のハイライト。グアテマラ北部にある純マヤ文明最大の古代遺跡「ティカル」を訪れる。ティカルといえばピラミッド状の巨大神殿(←非常に整った形をしていて見事としか言いようがない)を想像する人も多いと思うんだけど、実際には広大なジャングルにはまだ発掘されていない遺跡があちこちに点在している。その数は3000を越えるという。
▼ そして、とりわけ私の心を奪ったのは遺跡群を取り巻く圧巻な大自然だ。熱帯雨林ジャングルの小道を歩くと野生の動物や植物がそこかしに顔を出す。極彩色の鳥や、見たこともない虫たち(お約束のタランチュラも!)。口から漏れるのは「うわ~っ」と感嘆のため息ばかり。どピンク色のトンボなんてはっとする美しさだ。掲載画像はホエザルと葉切アリ。この写真のアリはなぜか花びらを運んでいて桃色に連なったながーい行列ができていた。
▼ 夜は論文読みなど。


4月5日(月) ホンジュラス
▼ 今日は昨日とは逆にグアテマラ市から南東へ向かう。はるばる国境を越えて隣国ホンジュラスへ。この国には有名なマヤ遺跡「コパン」がある。同じマヤ文明でも昨日のティカル遺跡とはかなり趣が異なる。ティカルが建築物の圧倒的な造形美で魅せる男性的な遺跡なのに対し、コパンは無数に施された繊細な彫刻で華やかに飾り立てた女性的な遺跡だ。エジプトで言うところの男性的な「カイロ遺跡(ピラミッド)」と女性的な「ルクソール遺跡」の対比に似ているような気もする。私はコパンのレリーフやルクソールの壁画のほうが見応えがあって好きだ(取り巻く自然環境はティカルジャングルやサハラ砂漠のほうが断然面白いけど)。
コパンの画像。この写真の左下は神殿トンネルの内部。こんな感じで“神殿の中にはさらに神殿が”と何重にも神殿が重なった重箱構造になっているらしい。この写真は大神殿のすぐ内部の層「ロサリラ(Rosa Lila)神殿」(発掘中)だ。恐るべき建築技術である。そんなマヤ人も最盛期を迎えた或る時に予定調和のように一斉にどこかに消えてしまったというから不思議な話だ。ちなみに、この遺跡には均整の取れた球技場(サッカ-グランドと観客席)がある。しかもその裏手には選手用のロッカールームまで備え付けられているからびっくり。もちろんすべて石でできている。それもこんな感じで色鮮やかなのだ。まじスゴい。
▼ コパン遺跡は交通の便が悪くさすがに観光客も少ない。ところが驚いたことに、閑散としたコパン博物館で、妻がニューヨーク市立大学のクラスメイトにばったり出くわした。笑える。
一昨日、我々を案内している最中に突如失踪してしまった観光ガイドがやっと見つかった。危惧していたとおりアンティグアで強盗グループに拉致されたようだ。彼はなんと遠くメキシコ国境付近まで連行されたのち、頭部に打撲を負わされた状態で発見され、現在入院中とのこと。つまり、たまたま私たちから離れている間に襲われたというわけだ。グアテマラって今でもそんな国なんだな。ちなみに我々の荷物は彼とともにすべて発見された。盗賊たちにはまったく価値がなかったってことね。。。


4月6日(火) グアテマラ
▼ 今日は東に向かう。道中は主要高速道路だというのに、なぜか牛が散歩してるし、イグアナは横切るしで、完全に我々の常識を越えた世界。道路わきにはバナナやパイナップルやマンゴーやココナッツが植えられていてとってもトロピカル。作物の無人販売まである。もはやハイウェイとは思えない。車でリオドゥルセへ、ここからさらに船に乗り換えて河口までくだり、カリブ海岸の村「リビングストン」へたどり着く。この村に通じる陸路はない。まさに陸の孤島。5000人のカリブ人が陽気に暮らしていて、他の地域のグアテマラとはかなり雰囲気が違う。
▼ でも、私の心を捉えたのは、船上からのリオ・ドゥルセ(Rio Dulce)の景色だ。こんな感じ。秘境に迷い込んでしまったような風景。そこに暮らす土着の人々、そして動物。異質な時間が流れている。感動だ。
▼ 帰り路にはキリグア遺跡に寄る。これも世界遺産のマヤ遺跡である。遺跡の規模はそんなに大きくないが、やはり彫刻が美しい。
▼ Rafaからのメール添付で論文のAuthor Proofが届く。ファイルサイズは1Mb程度とそんなに大きくないのだが、サーバーから落とすだけで1時間半を費やす。グアテマラのネット環境、もう少し何とかならないかなあ。
▼ Web論文が読めないので気になったタイトルのみ掲載。
JP。Markramラボ。「Synaptic dynamics control the timing of neuronal excitation in the activated neocortical microcircuit」
PNAS。「Homeostatic scaling of neuronal excitability by synaptic modulation of somatic hyperpolarization-activated Ih channels」
PNAS。Danラボ。「Intracortical mechanism of stimulus-timing-dependent plasticity in visual cortical orientation tuning」
PNAS。Goldman-Rakicラボ。「D2 receptor regulation of synaptic burst firing in prefrontal cortical pyramidal neurons」


4月7日(水) メキシコ
▼ グアテマラを後にして、午後にメキシコ市に到着。近代美術館でリベラやシケイロスの絵画をみる。中でも私の心を打ったのは、フリーダ・カーロの「二人のフリーダ」。館内の人に聞いたら、市内にフリダ・カーロ美術館があるというので、そちらも訪問する。
▼ 空港や機内、ホテルでは論文のauthor proofなど。いくつか重要な印刷ミスを発見。
JNP。「Equalization of Synaptic Efficacy by Activity- and Timing-Dependent Synaptic Plasticity」。Editorical Focus 「Rebuilding Dendritic Democracy」
JNP。「A Model of Reverse Spike Frequency Adaptation and Repetitive Firing of Subthalamic Nucleus Neurons」。Editorical Focus 「Is the Purpose of Reverse Spike-Frequency Adaptation to Enhance Correlations?」
JNP。「Small-Conductance Ca2+-Dependent K+ Channels Are the Target of Spike-Induced Ca2+ Release in a Feedback Regulation of Pyramidal Cell Excitability」
JNP。「Synaptic Interactions Between Thalamic and Cortical Inputs Onto Cortical Neurons In Vivo」
JNP。「Low-Probability Transmission of Neocortical and Entorhinal Impulses Through the Perirhinal Cortex」
N。阿部先生。「GABAA receptor-mediated inhibition by ethanol of long-term potentiation in the basolateral amygdala-dentate gyrus pathway in vivo」


4月8日(木) メキシコ
▼ 朝はソカロ歴史地区を観光。国立宮殿のリベラの壁画は見応えがある。
▼ 昼はテオティワカンへ(画像)。小中学生の頃から「テオティワカン」と「チツェン・イツァー」の古代遺跡を訪れるのがずっと夢だった。今日は前者の夢が叶ったわけだ(後者は3日後に訪問予定)。感想:でかい、ひろい、でも観光客で混んでる。
▼ 夕方は国立人類博物館へ。メキシコ市はスペイン人に占領されたときは谷間の大湖に浮かぶ水郷の街(ベニスのような感じ)だったのだが、当時の全景模型なども置かれていて、(古代文明(画像)のみならず)いろいろと勉強になった。現在、メキシコ市の人口は2千4百万人(もちろん世界一)なんだが、当時の姿と現在の姿は似ても似つかなくてびっくり。
▼ Neuron。成長円錐関連の論文4つ(これこれこれこれ)→とくに二つ目のRaft関係のはしっかり読まないと。
Neuron。「Presynaptic CaMKII Is Necessary for Synaptic Plasticity in Cultured Hippocampal Neurons」
Neuron。「The Presynaptic Active Zone Protein RIM1α Is Critical for Normal Learning and Memory」→苔状線維グループ必読(?)
Neuron。「In Vivo Imaging of Neuronal Activity by Targeted Expression of a and Genetically Encoded Probe in the Mouse」
JN。「Dendritic Control of Spontaneous Bursting in Cerebellar Purkinje Cells」
JN。「Optical Quantal Analysis Indicates That Long-Term Potentiation at Single Hippocampal Mossy Fiber Synapses Is Expressed through Increased Release Probability, Recruitment of New Release Sites, and Activation of Silent Synapses」→実験方法チェック


4月9日(金) メキシコ
▼ 朝、「メキシコ国立自治大学(UNAM)」に寄って構内にあるオリンピック競技場や壁画などと見つつ、「ドローレス・オルメド・パティニョ美術館」に行く。ここにもフリダ・カーロの有名な絵画があるのだ。彼女の絵にはなんとなく深みと怖さを感じる。ちなみに、この美術館はドローレス夫人の元私邸で、彼女の大富豪ぶりがよく分かる。収集品のレベルが高くて彼女の芸術的センスも伺える。邸宅だけでなく庭も広く美しいし、なかなか良い美術館である。
▼ その後は「ソチミルコ」へ。ここはスペイン侵攻前の旧メキシコの姿を残す水郷の街。しかし、『ガヤ選「まじ?なんでここが世界遺産なの」ランキング』のNo.1だった「チンクエテッレ(イタリア)」を抜いて、今日、ここがトップに立った。まあ、行楽としては楽しいのでいいか。
▼ 夕方には大都市メキシコ市を後にして、メリダ市(ユカタン州都)へ飛ぶ。
▼ 昨晩からPCに仕掛けてあった神経活動予測アルゴリズムの演算が今朝終了していたので、今日はこれを解析するためのプログラムを書く。
Nature。「Long-lasting sensitization to a given colour after visual search」
Science。「Transmembrane Segments of Syntaxin Line the Fusion Pore of Ca2+-Triggered Exocytosis」
Science。「Neuronal Activity Related to Reward Value and Motivation in Primate Frontal Cortex」
CC。「High-throughput Morphometric Analysis of Individual Neurons」


4月10日(土) メキシコ
▼ 朝、Rafaからメールが届く。論文の掲載日が決定されたらしいのだが、その号は宇宙関係の特集になったらしく提出した表紙は採用されなかったようだ。残念。
▼ 今日はマヤ文明の「カバー遺跡」と「ウシュマル遺跡」を訪れる。後者は今回の旅行で「ティカル遺跡」と並んでもっとも訪問を楽しみにしていた場所。Rafaからも「ウシュマルには行った方がいい」と強く薦められた。確かに素晴らしい。繊細な石紋様で遺跡が埋め尽くされている。こんな感じ。でも一つ問題が。。。暑いのだ。まじ暑い。一昨年に訪問したルクソールの酷暑を思い出してしまった。なんで古代人はいちいち熱帯域に文明を築くんだろう。未来の観光客の利便も考えて欲しかったな。でもウシュマルはとても良いので推薦。
▼ ホテルに戻ったら今朝仕掛けたシミュレーションの計算が終わっていた。これまた驚いた結果 -- 回路の学習にpenalizationは必要ないのかもしれない。というわけで、プログラムを改良してさらにアルゴリズムを磨く。ともかくアルゴりズムの工夫次第でどんどんと「予測正解率」が上昇していくのが面白い。
▼ さすがは森山さん。参りました。
MCN。「Spontaneous retinal activity modulates BDNF trafficking in the developing chick visual system」
MCN。「Differential MAP kinases activation during semaphorin3A-induced repulsion or apoptosis of neural progenitor cells」


4月11日(日) メキシコ
▼ 朝、食中毒に苦しむ。腹痛と吐き気のみなんだけど、激痛のうえに嘔吐物が目にも鮮やか青緑色をしていたので、病院嫌いのこの私が屈辱的にも町医者を呼ぶハメに。んで、注射2本と抗生剤でアっという間に元気になる。それはそれでなんだか悔しいかも。原因は昨日食べたエビだったらしい。まあ、熱帯地域に旅行すればよくある話である。
▼ というわけで朝9時には元気よく出発。バスで「チツェン・イツァー」へ。この遺跡は他のマヤ文明の遺跡とはちょっと趣が異なる。おそらくトルテカ文明の影響があるからだろうと思う。規模が大きく、建築物の造形美にもこと欠かない。さすがにマヤで最も有名な遺跡だけあるな(画像)。
▼ その後バスで「カンクーン」へ。ここはカリブ海に望むリゾート地。アメリカ人にとって、日本で言うところのグアムやハワイに相当する場所だ。海の青がどこまでも美しい楽園。
▼ ところで、つくづくマヤは世界でももっとも(一見)残酷な文明だ。生きたままの人間から心臓を取り出したり(上の画像の右下)、首を切ったり、泉に落としたり。。。当時の刃物は切れ味は良くなかっただろうから相当痛かっただろうなあ。少なくとも麻酔下で処置しないと「実験動物取り扱いに関するNIH基準」に抵触すると思うのだが。
▼ 夜はプログラムをさらに改変して実行。
▼ ここ10日間ほどスペイン語ばかり聞いていたので、なんとなくスペインの作曲家・モンポウの曲を聴いてみたりする。彼の世界の静謐さは、なんとなくフェルメールに通じるものがある。うーん、いいなあ。ちなみに、フェルメールは英語圏では「ヴァーミエ」と発音される。渡米した頃にはこれを知らなくてまったく聴き取れなかった。ついでながら、ゴッホは「ゴー」となる。


4月12日(月)
▼ 朝、カンクーンの透き通る海でシュノーケリング。そこはイグアナも喜ぶパラダイス
▼ 昼過ぎに空港へ。夜NY着。さ、寒い。気温差はちょうど30℃。しかも雨ときたか。。。
▼ TY君の論文が3人目の審査員に回されたらしい。うむ、微妙なラインなんだな。ここは幸運を祈ろう。
N。長野ラボ。「Distinct glutamate receptors govern differential levels of nitric oxide production in a layer-specific manner in the rat cerebellar cortex」


4月13日(火)
▼ 午前、貯まっていた仕事やEメールなど処理。学会の要旨書き。
▼ 昼はNeurolunch。HolmesのTalk。内容は面白いんだけどちょっと散漫としていた感じ。
▼ 午後は予測プログラムの改良など。再計算。
▼ 今日知ったニュース。ここ10日ほどの間に、コロンビア大学生物学部でシティーバンクの違法データ操作があって、学生たちの口座(←アメリカの学生は銀行口座を所属大学を経由して開ける)の預金額が0ドルになってしまう事件が連続して発生しているらしい。電脳社会、怖すぎる。
PLoS。Buzsakiラボ。二光子vivoカルシウムイメージングでニューロン-グリア相関を調べた論文。平瀬さんらしく解析が手堅いが、個人的にはなぜvitroの場合とこんなにもdye loadingの結果が異なるのかが不思議だ。お互いにお互いの利点を利用した実験になった。
PNAS。mPer2Luciferaseをノックインしたマウスでリアルタイムにサーカディアンリズムを検出。視交叉上核(suprachiasmatic nucleus、SCN)を破壊しても(desynchronyは起こるものの)肝や肺などの抹消組織に見られる日周リズム自体は消えないという内容。


4月14日(水)
▼ 一日中無心にプログラミング&演算&データ解析。ここ連日のパラメータの検討を受けて、アルゴリズムの数式を根本から変えることにした。ちょっと複雑になっちゃったけど、よりエレガントではあるかも。変数も減ったし。
▼ 夜はSF君の論文の改訂。
NatureNature。作業記憶の容量に関してなんだか重要そうなことを言っていそうに見えるけど、時間が取れずまだアブストしか読んでいない。(うーん、旅行のツケはでかい)
JNS。P0-2SDラット海馬培養。CaMKIが軸索の伸展&分枝化を促進しているという論文。CaMKIの上流はCaMKKである(論文中ではダイレクトな証明でない)。Figureが美しい。薬作でもこのくらい出したいな。
JP。Stuartラボ。ラット皮質スライス。NMDA受容体のMgブロック解除のタイミングは意外と複雑で、速いキネティクス(0.1ミリ秒) と遅いキネティクス(ミリ秒&百ミリ秒オーダー)からなっているらしい。この動態をマルコフモデルで模してSTDPのシミュレーションをしたところ、遅いキネティクスが可塑性誘導の時間窓を決定していることがわかった。このデータ以外にもFig3などが示唆に富んでいて、コンパクトながら私の好みの論文だ。


4月15日(木)
▼ 昨日改変したアルゴリズム数式は、なんとショックなことに、回路エネルギーの計算に使えないことが今朝のPC結果で判明した。いやはや、この無惨な結果は高校レベル程度の微分積分で事前に予測できるものだった。。。ウカツだった。というわけで、再度、数式を根本から(今度はよりシンプルなものに)変えることにした。このことをRafaに報告したら「私は気にしないよ。そもそもホップフィールド回路のアイデア自体が正しいとは限らないからね」と励ましてくれた。感涙。ついでに、このプロジェクトの将来の(まだ内緒な)プランを提案したら、Rafaは興奮しながら賛同してくれた。実行はいつになるやらだけど、仮にうまくいけば、これはきっと神経科学界にちょっとしたブームを引き起こすだろうなあ。
▼ SF君からのレスが速かったので、昼には論文の最終チェックをして、早速J Physiolに投稿。うーん、早業。論文書きがこんないい加減でいいんだろうか。
▼ 午後はひたすら計算 計算 計算 ・・・
▼ 夜は別のデータ解析(意外と汚いデータだった)。そして、新たなアルゴリズムのプログラミングを開始(お?楽しいかも、これ)。これは将来論文のFig3の一部になる予定。ところで、(今シーズン初めて)MBLの中継をTV観戦しながら仕事をしたのだけど、メッツ松井の評価がめっちゃ高くて驚いた。いや、日本人の目から見れば高くて当然なんだけどさ。ともかく、期待されているのは良いことだ。
Scienceこれの続報と思われる論文。アルツハイマー病患者の脳では、AβがAβ-binding alcohol dehydrogenase(ABAD)と特異的に複合体をつくり、NADとABADの結合を阻害することでミトコンドリアの機能異常を引き起こすという論文。ここら辺はなんだか色々あってもはやワケがわからない状態。ただ、この論文について言えば、結晶解析をはじめ、生化学、阻害ペプチド、細胞毒性試験、ラジカル濃度測定、学習行動解析と内容が幅広く、しかも、いずれもデータがきれい。でも、やっぱり疑問なのは、アルツハイマー病の症状にそもそも“細胞死”がどのくらい深く関わっているかだよな。
Science。SNARE系の話題はわりかし矛盾が多いのだけど、この論文はシナプトタグミンIのcytoplasmic部位がvesicle fusion時のカルシウム感知に重要であることを、慎重(?)なliposome再構成系を使って示している。
Science。「山手線の車両は緑色と赤色で酸味があって、いつも混んでいる」という文章を読んだら、一瞬「え?」っと思うだろう。電車が「酸っぱい」なんてありえなし、そもそも山手線に「赤色」は使われていない。一般に言葉には「文脈として意味をなすか」と「その内容が正しいか」の二つの側面がある。直感的には「文が意味をなすかどうかを理解して、次にその内容が正しいかどうか判断する」という作業が逐次的に脳で行われているように感じられる。ところが実際には、両者は独立に同時平行処理されている。それを示したのがこの論文。下前頭葉が重要らしい。


4月16日(金)
▼ 新しい予測アルゴリズムでわりかし満足な結果が得られることがover nightの計算結果から明らかになった。
▼ というわけで、次のステップへ。3月5日の日記で「これから基底ルールの抽出にとりかかる」と書いたが、まさにそれを昨夜から開始している。モデルのmodifyに手間取って、このスタート地点にまで辿り着くのに1ヶ月以上も掛かってしまった。。。さて、気合いを入れてがんばろう。
▼ まずはLaminar-specific connectivityを調べるプログラム。だいたい直観通りの結果が得られた。図式化すると説得力があるな。ただ第4層は意外と現象に関わってこない。(外部入力のない)脳スライスのデータだからかな。次に、遊び感覚で簡単なプログラムをつくり、脳スライスのネットワークが「スケール・フリー(Scale-free)」になっていることを確認。まあ、当然といえば当然か。ただしEdgeが少ない部分ではむしろ「single-scale」に従っているようにみえるが。調子にのって「スモールワールド(small world network)」かどうかも確認しようとプログラミング。でも、こちらのアルゴリズムは計算に時間が掛かるので、簡単にプログラムの最適化をしてから週末越しでPCに計算させるように仕向けて帰宅。うむ、本来ならこんな遊びなんている場合ではないのだが。でも、面白い。
▼ 『進化しすぎた脳(仮題)』の第一稿があがってきたので、夜はその文章直しなどをする。


4月17日(土)
▼ 早起きしてブルックリンへ。妻の大学の宿題でショート映画の撮影というのが出たのだが、そこに役者として出演する。いやはや、ジャンプしながら走るシーンを何度も撮り直したのは体力的にしんどかった。うーん、俳優はえらい。
▼ 夕方は佐藤&黒川邸でコロンビア大の日本人友人らでパーティー。うーん、いつもあのご夫妻は楽しい。料理もそつないし。


4月18日(日)
▼ 昨日の撮影の後遺症=筋肉痛(足だけなら分かるが、ナゼが顔の筋肉も。。。表情作りで相当使ったからなあ)に苦しみながら、一日中『進化しすぎた脳(仮題)』の原稿直しに費やす。相当ねばったがまだ3分の1くらいしか終わらず。
▼ 妻がルーズベルト島に花見にいった。NYもそんな季節になったわけだ。今日の気温は23℃晴れ。花見にはもってこいだ。ちなみに明日は30℃という予報がでている。一週間前があんなに寒かったなんて信じられない。
▼ Daniに子供が生まれた。双子の女の子らしい。
▼ 私もこのDVD欲しい。ショパン国際ピアノ・コンクールの記録「ワルシャワの覇者」。「生涯で最高のできばえ演奏はショパン・コンクールで弾いたピアノ協奏曲だわ」とアルゲリッチがみずから語ったあの演奏を映像で見てみたい(ほんの一部(3楽章の後半)ならTVで見たことがあるけど)。むろんポスドク身分の私に買えるはずがない。
▼ そういえば今朝、海外でも日本のTVが自由にネットで見られるサービスを申し込んだ。日本のニュースに疎い今日この頃なので、帰国に備えて準備。んで、いつから見られるんだ?


4月19日(月)
▼ 一日中プログラミング&PC計算。重要なところはクリアできたが、まだ一つどうしてもアルゴリズムが思いつかない。回路を「人間の目」にもっとも美しく分かり易く図示するための“Node配置決定”のアルゴリズムだ。つまりデータ解析ではなくてFig作りのためのアルゴリズム。自己組織マップを利用するしかないか。でも、まずは独自のアルゴリズムを開発して試してみよう。
▼ 夜は『進化しすぎた脳(仮題)』の校閲。ふう、ようやく半分までおわった。
▼ 我々の論文がいよいよ今週のScience誌に公開されるらしい。Abelesがこの論文についてコメントしたN&Vが入手できたので読んでみた。自身の「Synfire Chain仮説」に陶酔することなく、慎重かつ公平な筆運びだ。最後の段落がすばらしい。たとえばこれ。「Can such precise spatiotemporal firing sequences (motifs) serve as a code that can be recognized by other neurons? Probably not.」。シビれるね。ずばり言い抜いている。私の研究内容を人に説明すると、ほぼ確実に次の質問をうける。「んで、sequenceは具体的に何を表しているわけ?」。でも、答えは「何の意味もない」だ。もちろん、この答えは「役に立ってない」ということではない。それどころか回路演算に深い役割を演じているだろう。でも<具体的な意味>はないのだ。どうも、分野外の人にはここら辺の感覚が理解してもらえない。その観点から言って流石はAbelesである。それから次の記述でも重要なことに言及している。「sequences are only a signature of synfire activity, which may be used by the experimenter」。この文を広く解釈すれば、“decoding”と“decodable”の違いを指摘していることになる。今の脳科学ではまったくといって良いほど、この問題にメスを下ろせないでいる。脳科学のジレンマ。いや、脳科学だけではない。そう!「科学」というものが“実験”という媒体を利用している限り永遠に解けない謎だとさえ私は思う。


4月20日(火)
▼ 午前。予測性能が繰り返し配列と関係しているかどうかを別の角度から確認するプログラム。苦労した割には、思ったほど有益な情報は得られなかった。
▼ 昼過ぎ。隣のラボのChalfieが「National Academy of Sciences」の会員に選ばれたいうので祝賀パーティー。「どうしたら名誉あるアカデミー会員になれるの。ぜひアドバイスを!」とのみんなの声に、彼は「Be Lucky!」と答えていた。でも、彼の業績を知らない生物系研究者はまずいないだろうな。初めてGFPを“実験に役に立つ”ように生体に活用したのは彼である(この論文)。そう、今年はGFP十周年というわけだ。
▼ パーティーの後は、私の最近のプロジェクトについてラボのメンバーであるDmitriyに相談に乗ってもらった。彼はまだ大学院1年生だけどYusteラボの頭脳的存在だ。主要な論文にはきちんと顔を出している(もちろん私の論文にも)。一時間半に渡って丁寧に議論し、親切なコメントをもらった。うれしいことだ。彼によれば、私のデータからはむしろ「脳はカオスではない」ことを結論づけられるという。
▼ 夕方。昨日の日記にも書いた“Fig作り”のためのアルゴリズム。ぜんぜんうまく行かない。
▼ 夜は『進化しすぎた脳(仮題)』の校閲。なかなか進まず、ちょっと精神的に辛くなってきた。
▼ いまYusteラボでの流行は「Fussy K means algorithm」。これ、けっこう簡単でかつ面白い。コンピュータへの計算負荷も軽いので、おすすめだ。
▼ チャンピョンカーニバル、武藤敬司優勝。かっこいい。
PNAS。Hopfieldの新作。読んでないけど念のため掲載。


4月21日(水)
▼ 先週から作動しっぱなしだったPCの計算がようやく終了。その結果、大脳皮質のfuctional connectivityがちゃんと"Small World"になっていることが判明した。いや、だから別にどうってことないんだけどさ。っていうかSmall World様式になってなかったらそれこそオカシイわけで。
▼ おお!次の月曜日はAbbottがTalkをしにコロンビア大学にくる。タイトルは「Scale-Invariant Dynamics in Neural Systems」。しかもアブストには“Neurons, synapses, and neural circuits exhibit temporal dynamics on time scales ranging from milliseconds to years. Furthermore, these dynamics appear to be scale-invariant rather than being characterized by fixed time constants”という私の興味を的中したツカミが。でも、私用につき出席できない。。。と思われる。
Nature。河野友宏ラボ。ついに作ってしまった、単為発生マウス。クローンでも十分だったが、いよいよこれで、哺乳類からオスという“性”が必要なくなった。ラジオを聴いていたら、米国の一般ニュースでも紹介されていた。それはさておき、この論文はこうした表面的なセンセーショナルさよりも、どういう仕組みで普段は単為発生が抑制されているのかという遺伝子機構の仮説を実証したという意味でより有意義。
Nature。vivoで小脳顆粒細胞にパッチするというスゴ業。抑制系の影響がどうのこうのとかいろいろ書いてあるけど、これはまたより大きなプロジェクトへのスタート地点だな。わかりやすい論文なので学生さんの文献紹介にでもどうぞ。
Nature。Sejnowskiラボ。このHPが実験に関連したページ。どなたかの解説を期待しつつタイトルのみ掲載。「Perceived luminance depends on temporal context」。
Neuron。習い事は“見よう見まね”。そのときの脳の活動をfMRIで調べている。ここではギターの練習。
Neuron。Kandelラボ。海馬の場所神経(place cell)の安定化がtask-relevant landmarkへの注意力に依存しているという論文。attentionalとmnemonicを完全には区別し切れていないようには思うけど、チェコで生まれた空間学習試験法がヒントになったという新規なspatial taskも面白いし、刺激的な論文である。


4月22日(木)
▼ 朝からずっと、最近のデータ解析の結果をレポートにまとめる。半分ぐらい終わる。こうしてまとめてみると、足りない部分や問題のある部分が浮き彫りになって、次に何をしなければならないかが明確になる。
▼ 夕方、週末越しでPCに計算を仕向け、私はJFK空港へ。
Science。Yusteラボから(私とGlosterによる論文)。一見ランダムにみえる神経細胞の自発活動が、じつはその裏には特定の活動パターンが潜んでいることを見出し、神経発火の自由度を制限することに成功した論文。「Regatta」と呼ばれるスーバーコンピュータ(演算速度だけでなく、値段もサイズも消費電力も一般PCとは4桁くらい違う)を用いている。このスーバーコンピュータは普通なら防衛庁やら気象庁などで使用されているものだ。なぜかコロンビア大学にあって自由に使える。


4月23日(金) スペイン
▼ 朝、セヴィリアに到着。カテドラルやアルカサルを回る。前者はなんといっても圧倒的な規模だし、後者はムデルハ様式のイスラム建物などが見事。あとは『カルメン』の舞台になった「旧タバコ工場」なども。んで、『フィガロ』の舞台はどこなんだ。
▼ にしてもアンダルシアは気温の日内変動が激しい。


4月24日(土) スペイン
▼ 朝、バスでグラナダに移動。王室礼拝堂やカテドラルなどを回る。ハモン・イベリコやトレベレス産ハムなどを仕入れる。スペインの生ハムは世界一うまい。NYに持って帰って、これをつまみにZakさん夫妻と飲もう。
▼ 午後は今回の小旅行の最大の目的であった「アルハンブラ宮殿」を訪れる。ここに来るのは長年の夢だった。いやあ、すごい。繊細でいて華麗。華麗でいて静寂。美しいけど切ない感じ。中庭は画像1のように透き通るような空間。内装は一面に画像2のようなイスラム装飾が施されていて幻想的。まじ感動だ。入場規制をしていて人が少ないのもよい(NYで予約をとってきた)。ここには親を連れてきてあげたいと思った。
▼ Rafaからメールがあり、来週の個別Meetingが延期になったので、研究レポート書きは中断して、『進化しすぎた脳(仮題)』の校閲など。


4月25日(日) スペイン
美しいグラナダを去り、コトルバへ移動。
▼ コトルバの街並みはまさに絵に描いたような“アンダルシア”。黄色の瓦と白い壁にこれでもかと鮮やかな花が飾られていて目に眩しい。
▼ 午後には今回の目玉の一つ「メスキータ」を訪れる。1000年以上も昔に建てられたイスラム建築だ。これもスゴイ。


4月26日(月)
▼ ニューヨークにもどる。うむ、AbbottのTalkには間に合わなかった。
▼ たまっていたメールの返事(←たくさんのお祝いメールありがとうございました)。あとは『進化しすぎた脳(仮題)』の校閲--これで80%くらいは終了か。
▼ 旅行のまとめ。文化:今回の週末旅行のテーマは「スペインのイスラム文化」に触れることであったが、やはりイスラム文化はすごいなあ。いずれは本場も訪れてみたい。ところでイスラム文化そのものは独自のものというよりも、中国の影響をモロに受けているわけで、こうして世界中を旅行して回ると、結局は中国という国がどんなにスゴいのかという事実を実感させられることになる。やはり中国はいろいろな意味で世界一の国だ。
▼ 飯:西欧料理の中ではスペイン料理がもっとも私の好み。今回もこれでもかというほど堪能した。この食事のためだけでさえスペインには何度も足を運びたい。
▼ 嬉しいこと。本の読者の方から生ラーメンをいただいた。さっそく食す。うーん、旨い。和、最高なり。
▼ ショックなニュース。明後日のアルゲリッチのコンサート → キャンセル。昨年に引き続きまたもや。。。こんな具合で彼女の演奏はまだ一度も生では聴いたことがない。
▼ スペインでうつつを抜かしている間に、吉田君が日記上でかなり丁寧に我々の論文をまとめて下さった。問題点もふんだんに挙げて下さり大感謝。中原&甘利先生の論文は知らなかったので、これから勉強。また同BLOGにどなたかが書き込んで下さったご指摘もごもっともで、実際、「local population modulationによるartifactを如何に回避するか」というのは、最近もRafaと議論したことがある。今のところ完璧な方法はないのだが、この問題に真正面から手を付けることができれば、逆に“Cell Assembly”の数理的記述(or 検出)に向けて一歩前進することになる。コレに関しては、すでにアイデアがあるので、次の次の論文あたりで主眼にしたい。とりあえずキーワードは“Transient Attractor Dynamics”。っと今は煙に巻いておく。失礼。
▼ ちなみに、この論文は新聞上で取り上げて頂けることになっていたのが、やはり内容(=研究意義)が難解なこともあって、今回は記事にはならなかったらしい。残念。
▼ グレン・グールド(Glen Gould)というピアニストが好きで、彼のCDを集中的に集めたことがある。でんかからこんなHPを教えてもらった。グールドの肉声や録音が聴ける。
▼ 小橋選手がムーンサルトの封印を解いたらしい。びっくり。


4月27日(火)
▼ 午前、パソコンが感染したらしく復帰に苦しむ。ウィルスの種類をいまだ特定できず。
▼ 午後はEJN論文の審査など。とくに大きな問題点はないのでacceptableと返事。
PNAS。ネコ視覚野。単一細胞の発火率よりも、活動の同期を指標にしたほうが、方向の区別&選択が高いという話なのだが、ここで使われている統計手法をきちんと理解しておこう。どうにもこうにも情報幾何学はまだまだド素人の私。モデル屋さんにとって何が当たり前の手法なのかを、実験屋はもっともっと知っておかないといけない。ただ(私の研究もそうだが)この論文も“純粋な意味”で脳科学の「進歩」に芯から貢献しているのかにはおっきな疑問が残る。
以下タイトルのみ。
PNAS。McCormickラボ。「Histamine modulates thalamocortical activity by activating a chloride conductance in ferret perigeniculate neurons」
PNAS。Squireラボ。「The anatomy of semantic knowledge: Medial vs. lateral temporal lobe」
TINS。トレースパラダイム試行における海馬の役割について多様な視点から述べた総説。最後の一文「In the mean time, we persist in making memories of ourselves, as noted by a famous author whose name escapes me」はお茶目?


4月28日(水)
▼ 午前は『進化しすぎた脳(仮題)』の校閲。ほぼ終了。
▼ 午後はPCと格闘。感染はウィルスじゃなくて、W32.Gaobot.AFJというワームだった。私がスペインから帰る飛行機に乗っている頃に感染したようだ。この週末越しで計算させまくっていたからなあ。そんなこんなで駆除作業で精魂尽きる。でも、まだ終わらず。
▼ 夜はエヴリー・フィッシャー・ホールへ。デュトワ指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団。シューマンのP協。ピアノ独奏がアルゲリッチからルイ・ロルティに変更になった。そういえば、昨年ポリーニがキャンセルしたときにも彼が代役を務めた。あの時はあまりいい演奏ではなかったな。んで今日も同じ。音は美しいんだけど、印象に残らない演奏だった。ちなみにデュトワの指揮はふくよかで素晴らしい。
▼ 吉田君の願いが通じたのかNat NeurosciのFULL TEXTに図が入った。
NN。acute whisker deprivationで4層と2層のスパイク順が入れ替わることを慢性多点電極記録で示し、それによって皮質マッピングに変化が生じうることをSTDPを組み込んだモデルで証明した論文。
NN。小脳・抑制性シナプス可塑性。ポストを脱分極しただけで生じるシナプス抑圧(いわゆるDSI)に、シナプス前終末のNMDA受容体が関与していることを示唆した論文。Retrograde。プレのNMDA受容体はこのところ一種の流行だったが、ついにここまで来たか。
NN。Buzsakiによるperspective。多数の神経からスパイクを記録する方法や注意点など。以前、平瀬さんから原稿をもらった印刷中のJNPのデータもFig.2になっている。functional topographyはまさにいま私がやっていることだ(手法は全然ちがうけど)。
NN。「http://neurodatabase.org/」について。未読。いずれ時間を作って読もう。スパイク時系列データなどをラボを越えて共有できたら確かに素晴らしい。私のデータも誰かに解析してもらいたいものだ。
JN。ラット海馬培養神経。PLCδ1のPHドメインにGFPをくっつけてIP3センサーとし、ムスカリン受容体のシグナルの脱感作におけるG-protein-coupled receptor kinases(GRK)の関与を調べた論文。海馬でのIP3のリアムタイム検出は初めてだと書いているが、でもここら辺の論文は引用しておくべきでは。


4月29日(木)
▼ 午前。私のPCのワームが原因でラボのLANが落ちてしまった。でも、なんとか駆除できて復帰。ラボのみなさんご迷惑をおかけしました。
▼ 午後はRafaに提出するレポート書き。先週の土曜日以来止まっていたものだ。
▼ ウィーン国立歌劇場のチケットが取れた。一月前から発売するのだ。演目はモーツァルト「魔笛」。ラッキー。というわけで来月の週末旅行はウィーン。折しもこんなニュースが。これってマンハッタンも相当臭いから対応すべきかと。。。そういえば先日のセビリヤも臭かった。
▼ はてなダイアリーにあるマップの“scramble”ボタンを何度も押しては回路網の動きをみていたら、ふとしたアイデアを思いついてしまった。皮質ネットワークのダイナミクス。やはりattractorはcost&benefit方式だな。さっそくデータ解析のプログラミングを試みよう。
▼ 『脳トレ』第10刷。2500部。
Science。Neuregulin-ErbBシグナルがシュワン細胞のミエリン厚の増大に関与しているという話。これがもし同一個体内でダイナミックに変化するんだったら面白い。
Science。Sakmannラボ。sensory入力とバレルのL2/3 inter-column connectionの発達の話。一般には、皮質map可塑性の入力競合は「よりactiveな入力がinactiveな入力を退けて影響力を拡大する」と記述されるが、この論文では視点がその逆で、受け手ニューロン側からの考察になる。この場合、「感覚入力の少ないニューロンは隣の領域にrecruitされる」と記述されるという。
Science。BNPAでcageしたconstitutively active cofilinをMTLn3に注入して局所的にphotoactivationすると、そこにprotrusionが誘導されて、その方向に細胞が移動する。でも、これだけの実験でタイトルの“Cofilin … defines the direction of cell motility”は言えるのかな。主語が「実験者が」だったら問題ないけど。


4月30日(金)
▼ 一日中レポート書き。ほぼ完成。A4 single spaceで10ページにも達した。『進化しすぎた脳(仮題)』は現時点で14万文字を超えているので、それに比べればずいぶんと短いが、でも盛りだくさんであることには変わりない。来週Rafaと議論しよう。。
▼ 夕方はJasonの文献紹介。GrinvaldラボのNature論文が取り上げられた。そういえば最近日記で書いてこなかったけど、ここ一ヶ月にラボで議論された文献はこれ(Rochelle担当)、これ(Andy担当)、これ(Brendon担当)である。
▼ 今日のニュースで個人的に興味をもったのは「VPOとBPOの共演」。やるな、ラトル。日本語版ニュースはこちら
NRN。中沢さん&利根川先生。海馬のNMDA受容体と記憶形成の関係についての総説。よくまとまっていて、彼らの一連の研究の“意図”と“概念”を知るのに都合がよい。

(2004年)

日記のリストへ