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3月1日(月)
▼ なぜか今日は気温が15度もあった。街には半袖Tシャツで行き交う人がちらほらと。大学のメイン広場も露出度の高い服で日向ぼっこする人々で溢れる。またまた目のやり場に困るシーズンの到来っ!(←別に喜んでいるわけではない…たぶん) あ、でも、こんなに暖かいのは今日だけらしい。
▼ 午前はJournal Club。Rafaの担当。先日のWhisker論文を取り上げていた。議論は「Sparse Codingのマクロ的な意味」と「CPGの制御系」についてが中心。結構、盛り上がっていた。
▼ 午後はデータ解析。長期記録による退色について。
▼ 先日PublishされたSF君の論文がこの分野の人々の興味を引いたらしく、WSEAS国際学会のシンポジストとして招待された。光栄だ。しかし、運悪く同じ時期に別のシンポジストを勤めることが決まっている。。。開催場所のコルフ島(ギリシャ)はとっても魅力的なのだが、今回は残念。
▼ 突然、Girodという人から「スンクス(Suncus murinus)」に関する質問のEメールがくる。一応は返事をしたけれども、なにせ12年前に半年だけやったきりの実験。ほとんど忘却の彼方。
▼ 一昨日の日記 = 日記を書き始めてから頭が固くなった→それは単に歳をとったからであって日記とはなんの関係もないのでは。う、そういわれてみれば、このところ日に日に肌のシワが増えていくし、腹部には脂肪がたまるし、髪の毛も少なくなってきたような。うむ。
▼ JP。「During the preparation of this manuscript, Kim et al. published the
first evidence」という記述がウケた。その通りでその前報を黒質ドパミン神経におきかえた内容になっている。AB君の論文も結局はmGluRに帰されるのだろうか。どう思う、AB君?
▼ 今頃、薬作では修論発表がされているころだろうか。皆さんどうだったかな。
3月2日(火)
▼ 今日も暖かかった。最高19〜20℃。春か? でも私は室内に籠もり朝から深夜までひたすらプログラム作り。まだまだ掛かりそうだそういえば。最近、実験してないなあ。。。
▼ 仕事中、バッハ作曲「マタイ受難曲」を聴いた。先日観た映画「パッション」の影響だ。この二つ、妙に共通点を感じる。私が好きなほうはもちろん「マタイ受難曲」。これは偉大なるバッハの書いたもっとも感動的な曲の一つ。今日聴いたのはレオンハルトによる録音。このCDはオケのソロ陣が抜群に上手い。
▼ PNAS。ラット海馬スライス。Ca uncagingでアストロサイトを刺激すると、近傍のインターニューロンに入力するIPSC頻度が増大する。これはカイニン酸受容体を介しているらしい。でも、「アストロから放出されたグルタミン酸」と結論づけるのはちょっと尚早だし、そもそも形態だけの判断では刺激しているのが確実にアストロである保証はないような。
▼ PNAS。Kandelラボ。内側前頭前野II/III層刺激&V層細胞外記録。ドパミン刺激はLTPの維持相、LTDの誘導相を促進する。うーん、コメントしがたい。こういうのってマジどうなの。もちろんTrack
III。
▼ PNAS。サル&海馬&記憶。アブストしか読んでいないので勘弁。
3月3日(水)
▼ ひな祭り。今日も一日プログラミング。午前はrepeated sequence検出の効率を上げるべくアルゴリズムの最適化に専念。午後はsingle
cell atractorを探す(定義する?)アルゴリズムの考案。こっちは結構むずかしい。なんらかのBreak
Throughが必要だ。
▼ sequence検出プログラムを実行させて帰宅。仕事場を自宅に移す。高速化したとはいえ明日の朝までに計算が終わらないような予感。別の方法を探すべきだろうか。自宅ではアソシアトロン(associatron)を使った簡単な予備シミュレーション、ほか。
▼ Nature。post-mitotic細胞の核からクローン(マウス)を作ることに成功した。嗅細胞の核が全能性を再獲得するというのは驚きだ。
▼ Neuron。Joe Tsienラボ。doxcyclineシステムを組み込んだNR1の前頭特異的なノックアウトマウスを作成。海馬依存型恐怖学習付けの30日も後にdoxcyclineを与えてNR1をdepletionさせても、記憶が破壊される。となると、今までのLesionや薬物のデータは何だったのか。ところで「synaptic
drift」という言葉は初耳なのだが、これって一般的?それとも造語?
▼ Neuron。ミスセンス変異のCav2.1 Ca channelをノックインするとspreading depressionへの感受性があがるというデータ。恥ずかしながらspreading
depressionが偏頭痛と密接関係していることを知らなかった。なるほどねえ。「可塑性が記憶に関係ある」ってことと同じくらい常識らしい。
▼ JN。対側海馬にDiOを注入したのち、切片を作成してMossy Cell(MC)を同定。太いパッチ電極で“物理的”に細胞を破壊(笑)。すると歯状回の興奮性が落ちるので、MCの脱落は少なくとも急性にはてんかん原性には寄与していない。まあ、そりゃそうだろうな。それよりも歯状回のMCと顆粒細胞はheterogeous反回性回路の優れた脳モデル系なんだから、MCをablationしたら歯状回のGate機能やI-O相関がどうかわるかを見ていって欲しかったところ。とはいえ図4なんかも面白いし、(下町的な)アイデアに溢れた傑作論文だと思う。
▼ JN。McBainラボ。これやこれやこれの続報。今まではMossy fiberの投射先でLTPの機構を分類してきたが、同じSL介在神経へのシナプスでも複数のメカニズムがありそうだという論文。
3月4日(木)
▼ 朝、大学のコンピュータは昨夜仕掛けた計算の99.7%を無事終えていた。さっそくRafaに報告。喜んでくれた。ところが残りに0.3%にどうやらバグがあるらしく、該当部分をチェックして未完部分を帰宅前に計算させるように仕向ける。
▼ Rafaと話すと色々なことが見えてくる。Rafa曰く、いま私のやりたいことは「自己組織マップ(self-organizing
map、SOM)解析」をしないといけなさそうだ。ちーとめんどいがやりがいはあるな。DmitryiがすでにSOMのスクリプトをMatlabで確立しているのでそれを移植させてもらおう。とりあえず今日は他の解析プログラムを書く。Sequenential
ISIプロットなど。ここから類似Trajectoryを抽出するにはどうしたらいいだろうか。
▼ 「私のテーマにはもっと人手が要る」と言ったら、RafaはNeale(大学院生)の他に、もう一人、フランスから来る新ポスドクを弟子に付けてくれることになった(お?パリジェンヌか)。帰国までの限られた時間で早く次の論文を目指したいのでまじデカい。
▼ 意外と知られていない豆知識。Google検索エンジンは電卓にもなる。普通の加減乗除はもちろん「100*(87-ln(4))*3.14/e^sqrt(2)」などの複雑な演算でもググっとやればあっという間に答えを出してくれる。私はよく使っている。ちなみにYAHOOやIndfoseek、gooでは計算できない。
▼ Science。富田進君の論文(良いところに通りそう、あとは例数集めのみ、と昨年のSFNで本人から聞いていた)。transmembrane
AMPA receptor regulatory proteins (TARPs)というstargazinファミリーの膜貫通タンパクは膜上でAMPA受容体をtetherしているのだが、これがアゴニスト刺激で乖離するという内容。そのメカニズムを主に古典的な分子生物学&生化学の手法を使いながら堅実に調べている。今後は実際にどう生理的に機能しているかが焦点となってくるだろう。本論文ではまだスペキュレーションの域を出ていない。
▼ Science。ヒトfMRI。なんだか面白そうだけど時間がなくてしっかり理解できていない。要Help。
3月5日(金)
▼ 昨夜またアイデアを思いついてしまって興奮してよく寝られなかった。予感は確かに的中したようだ。今日アイデアに沿って解析を進め、ちょっとした(大きな?)進展をみた。2月18日の日記で公開した神経活動のムービー。ああした発火パターンは一見すると無秩序に見えるのだけど、驚いたことに現在の活動状態を知れば、次の瞬間に(少なくとも1秒間は)どういうネット活動が生じるかを予測できることが解った。いってみれば大規模な非線形の漸化式、言葉を換えれば「決定論的カオス」みたいなものだ。あの不規則な活動を“平均P値0.00069”という驚くべき正確性を持って予測できるんだから相当なもんだと思う。Nature級ネタ!と勝手に興奮している(熱が冷めたら実はたいした発見でないことに気づくかもしれないが)。でも話はここで終わらない。現段階ではまだモデルの確認作業にすぎない。つまりスタート地点。これから基底ルールの抽出にとりかかる。
▼ 夕方はDmityiの文献紹介。彼自身が別のラボで進めている研究(これとその続き)を説明してくれた。spike timingに新しいパラメータを持ち込むことで従来は区別ができなかったspike列をクラス分けすることができる(=decodable)ことを示していた。エレガントな仕事である。Rafaに「んで、実際に脳でdecodeするのは誰(→どの神経細胞)なんだい?」と聞かれて言葉に窮していたが、彼の数理技能が恐ろしく優秀なのは間違いない。
▼ ブルーバックス「記憶力を強くする」の増刷が決まった。第15刷は15,000冊分。
▼ 日亜化学工業、100億円を供託。中村修二氏はどうでるだろうか。
▼ このところ快適だったが予報によると来週からまたNYは寒くなるらしい。RK君とRXY君には気の毒に。
3月6日(土)
▼ データ解析の続き。自発活動の予測可能性は(まったく違う方向からのアプローチなのに)「Repeated
Motif」に関係ありそうなことがわかってきた。ということは、もしかしたらすでに受理されたScience論文と深く関係している(もしくはその論文の域を出ていない?)可能性がある。吉田君の考察に対する返答コメント。「予測できることが記憶(過去の活動履歴)と関係あるかどうか」は現段階ではまだ解らない(∵単純なI/O関係ではないものの予測演算が可逆[つまり現在から過去を予測することも可能]なので微妙なのだ)。私の勘では「関係あり」という感触。でもそれが作業記憶程度の短期もなのか長期記憶なのか、はたまたその両者かは今のところ謎。解析が進んできたら少しずつ書いていく。
▼ 夜は妻の友人夫妻と「アクアビット(Aquavit)」というレストランで食事。その後は4人でメトへ。
▼ 演目はプッチーニ作曲の「トスカ」。プッチーニは私が大好きなオペラ作曲家。とりわけ「トスカ」は最もお気に入りのイタリア・オペラ。昨年ローマでトスカの舞台となった場所をいくつか訪れてからさらに親近感が増した。今夜はレヴァイン指揮で歌手陣はキャロル・ヴァネス(Carol
Vaness)、ルチアーノ・パヴァロッティ(Luciano Pavarotti)、サミュエル・レイミー(Samuel
Ramey)というメンバー。今夜の公演はなにかと話題だった。一般紙にまで大きく取り上げられた。理由はOCS Newsをご覧いただくとして、随分と前の日記に書いたけれど今日のコンサートの先行予約ではなぜかGrand
Tier席を買わされてしまって意外な出費になった。今日はレイミーのスカルピアがとりわけ素晴らしかった。私が聴いてきた中ではトップレベルのバスだ。パヴァロッティーはまだ想像以上に歌えている。ちなみに彼は今月末に来日する(興味ある方はこちら)。今夜の舞台演出はフランコ・ゼッフィレッリ(Franco Zeffirelli)。パンフレットに「演出ゼッフェリーニ」の名前をみると、映画館で「日本語字幕・戸田奈津子」の文字を見たときと同じくらいの安心感が私にはある。今夜の演出も彼らしく直球勝負な表現だったが、ちょっと物足りなさを感じてしまった。彼ならもっとできるはず。
▼ RK君の論文がDev Biol誌に昨日正式にPublishされたのだが、なんと表紙を飾っているではないか。知らなかった。雑誌の表紙に載るのは10年間研究をやってきて初めての経験だ。なお、この写真はJAKさんが撮影したもの。ご提供どうもありがとう。
▼ BC。山口陽子ラボ。シータ位相歳差と非対称ヘブ則を海馬Neural Networkに組み込んで時空順を一回の学習で習得させるという内容。このポイントは行動に応じて学習則が変化するというところ。ところで山口先生ときいて思い出すのは大学3年生のときの学生実習だ(当時の清水博ラボが担当)。あの頃は「粘菌」とか「引き込み現象」とか聞いてもさっぱりだった。意味はおろか、内容さえも。今考えると山口先生からはもっと学んでおくべきだった。あの後はメールで一、二回やりとりしたきり。帰国したらぜひRIKENを訪ねよう。
3月7日(日)
▼ 朝からずっとデータ解析。予測ルールの抽出作業。やっぱりMotifの出現と何らかの関係があるようだ。うーん、微妙。
▼ 昼飯。私は作ったインスタントラーメンを丼に移さず直接鍋から食べる。それがオレ流(口が裂けても「めんどくさいから」などとは言わない。。。つもり)。このノリで今日は作ったチャーハンをついにフライパンのまま食べてしまった。「料理の盛りつけは芸術なのよ」と言っていた母親の言葉を思い出す。つまりオレ流料理プレーティングは芸術の分野でいえば「ナチュラル派or素朴派」に分類されわけだ。ま、これはともかく、妻がいないととたんに食事が質素になるわけで、これも一種のダイエットである。
▼ 夕食はペルーで知り合った友人夫妻がピッツバーグかいらしているので一緒にイタリア・レストラン「イソラ(Isola)」へ。楽しく会話。
▼ ここ両日も新聞トップ記事はマーサ・スチュワート(Martha Stewart)のインサイダー疑惑→有罪判決。
▼ 昨夜のパヴァロッティについてNew York Timesに載った評。この記者は天下のNew York Timesとは思えないほどの“文才無し”に私には思えるのだが、コンサート直後に速報として発表された記事だから書くための時間が十分になかったのかな。(それともこの記事はAP通信から?)
▼ 渡辺謙さんの次のハリウッド映画「バットマン5」。なんと指揮をとるのはクリストファー・ノーラン監督ではないか。期待だ。彼の作品「メメント」の公式HPにこんな文章を寄せたこともある。いま読み返すと私も“文才無し”だってことがよくわかる。これでも書いているときには真剣にとりくんだつもり。。。人のこと言えないな。
3月8日(月)
▼ 朝起きてびっくり、雪が降っているではないか。先週まであんなに暖かかったのに。。。去年も思ったことなのだが、季節の変わり目のNYは寒暖の差が激しい。日本もこの時期は「三寒四温」などというが、NYのそれはもうちょっとスケールがでかい。週が変わると20℃以上の気温差があることもある。個人的にはあんまり歓迎できる気候ではないかな。
▼ 今日もデータ解析に重要な進歩を見た。ホップフィールドが1982年に提唱したエネルギーの概念を採用すると面白い現象が拾えることがわかった。これもまた私には興奮ものの結果だ。でも、他人がみたらどう見えるんだろうか。まずはRafaに評価してもらうことが重要だ。どこまで解析したら論文になるかの線引きがつかめない。
▼ JNP。SDラットCA3錐体細胞。Caged Caを使ってポストのCa上昇が苔状線維のLTP&LTDに必要十分であることを示している。またCA1錐体細胞よりもCaバッファー能(or/and
ポンプ能)が5〜10倍高いらしい。
▼ JNP。これ、タイトルがいいな。Neural Correlates of Beauty か。著者はもちろんZeki。「美」については彼のこの本を読んだことがあるけど、原著論文はパスかな。
3月9日(火)
▼ 今日もデータ整理の一日。
▼ 昼はBisleyのTalk。AttentionとWorking Memoryの話。まあ言ってみれば「道路わきに美女がいたとき、気をとられて事故ってしまう運転中の男の神経反応」といったことろか(←意訳しすぎ)。Attentionの評価をlateral
intraparietal area (LIP)だけの神経活動だけで、しかもSingle Unit記録で行おうとしているところに若干の無理を感じてしまった。とりあえず「いつか読まないと」と思っていたこの論文を読まずにすんだので話を聞けてラッキーかな。
▼ 昼過ぎはSilaの博論発表練習。
▼ ラボにあたらしいポスドク。フランスから来たMorgane。初めのうちは私の弟子として働く予定。彼女にとってこれが吉とでるか凶とでるか−−−は、私のがんばり次第か。。。
▼ New York Timesの情報によれば、オペラ歌手のヴォイクト(Voigt)がロイヤルオペラの役をひとつ降ろされたという。太りすぎて舞台衣装が着れなくなったんだとか。どっかのバレリーナみたいな話だな。ヴォイクトはメトで何度か聴いているが、まあ、さもありなんといったところか。
▼ MCN。見学美根子先生。小脳顆粒細胞の移動をmicroexplant培養で調べている。やっていることは、以前読んだことのあるこの論文と似ているんだけどGFPを発現させて神経突起との関係を調べられるのが強み。ムービーも説得力があってよい。JAKさんとNK君は必読。
3月10日(水)
▼ 今日もデータ整理。んで、昼前に最近の発見をRafaに見せた。(妻以外の)他人に公開するのは初めて。まだ解析のレベルが完璧じゃないんだけど、なんとなくこの興奮を早く伝えたかったし、私のやっていることが重要な発見なのかそれとも(意外な落とし穴があって実は)ムダなことなのかの判断に今ひとつ自信がなかったこともあって、できるだけ早い段階で誰かに確認したかったのだ。
▼ 結果は。。。見事にRafaまでをも私の興奮の渦に巻き込んだ。「今まで見てきた中でもっともimpressiveな仕事だ」。とりあえずホッとした。
▼ 実はYuste研にはどうしても抜け出せないある呪縛がある。Bo-Qingの論文がそれだ。この論文はYusteラボの最高傑作。実際、昨年のRosaによるNature論文も今回の私とGlosterによるScience論文も、残念ながらBo-Qingが報告した知見の域を出ていない。つまり、特別な新発見があったわけでなくデータの見せ方と主張を変えただけでNatureやScienceに受理されているのだ。しかし!今回の発見は明らかにそれとは違う。この発見はYusteラボを過去の呪縛から解き放つものだといえそうだ。今日のRafaの「どうしてこんなアイデアを思いついたんだ!私は考えてみたこともなかったよ。これはRosaのNatureやガヤのScienceよりも重要でかつ深い」という言葉がそれを物語っている。アトラクター、ノイズ、予測可能性、エネルギー、可塑性。今後ますます面白くなりそうだ。
▼ 今の研究について平瀬肇さんに相談したところ大変貴重なご示唆をいただいた。まずはGersteinの重力クラスターアルゴリズムを勉強しないと。アイデアと計算自体はシンプルなものに見えるので、つまり私の焦点は、これをどう自分のデータに応用できるかということになる。
▼ なんとAbeles本人が筆を執り、我々の論文を「The news and views」に紹介してくださるそうだ。びっくり。んで、いつ掲載されるんだ?
▼ CNN。デブったからといってマックを訴えてはいけなくなったらしい。
▼ sooogiさんの日記からこのHPを知る。ラーメン専門のページ。アメリカにいて何が恋しいって、もちろん旨いラーメンでしょ。このHPは今の私には目の毒。喰いて〜喰いて〜。でも、あと一年の我慢すればまた食べられる。でも、やっぱ今喰いて〜。
▼ Nature。サルの損得判断。back-to-backで三連報(これ、これ、これ)。昨年の論文を巡っての、いわば“質疑応答”である。
▼ JN。海馬神経は中隔野に投射して、そこで先端がバラける(defasciculation)のだが、EphB2とEphB3をノックアウトするとdefasciculationが起こらなくなるという。リガンドのephrin-B3は中隔野に発現している。
▼ JN。BDNF関連三つ。(1)NT-3とBDNFに機能がredundancyでないことをGeneticに示した論文。NT-3 promoterの下流にBDNFをノックインすると、前庭繊維は大まかには正しい方向に投射するが、有毛細胞に到達する直前で急旋回して蝸牛に向かって異常伸展する。(2)BDNF(+/-)マウスではバレル刺激にともなう皮質再編成が生じないことを示した論文。図3のような解析ってどのくらい意味があるんだろう。(3)BDNF/TrkBシグナルの活性化でGABA受容体およびNMDA受容体は共にシナプス部位への集積するが、後者は前者に依存しているという話。やはり発達にはGABAが重要なようだ。MKY先生の論文も引用されているが、これは本来なら薬作でやるべき研究だったような気も。。。
3月11日(木)
▼ 今日は久しぶりにCarlosが仕事でラボに顔を出した。積もる話など。彼はスペイン語のネットラジオを聴きながら仕事をしていた。そう、故郷マドリッドで起こったテロの続報が気になるのだ。事件現場のひとつ「アトーチャ駅」は私も昨年8月2日に訪れている。なんだか他人事な気がしない。ちなみにYusteもマドリッド出身。ふたりとも母国では上流階級の出身らしい。
▼ 今日はデータ解析は一休み。1月以来ほっとかれていたTY君の論文の手直しを進める。
▼ 夜はメトへ。ロッシーニの歌劇「アルジェのイタリア女」。指揮はレバイン、歌手陣にオリガ・ボロディナ(Olga
Borodina)とフアン・ディエゴ・フローレス(Juan Diego Florez)というこれまた豪華キャスト(っていうか、メトは世界の名だたるオペラ劇場の中でも明らかにキャストの豪華さはトップだな)。楽しい演出だった。
▼ 帰宅後もTY君の論文。午前中で仕上げる予定だったのだが予想外に手間取った。ちっ。でもまあ、ほぼ終了か。来週には投稿しよう。
▼ というわけでScience誌の最新版は明日読む。
▼ ここ連日、吉田君の日記が面白い。
3月12日(金)
▼ 午前はTY君の論文の残り。途中で妻の大学登録手続きにちょっとつきあう。妻は現在、大学&大学院と二校に通っているが、さらに今月からコロンビア大学の語学学校(夕方のみ)にも通うことになった。大学を3つも掛け持ちするなんてスゴいなあ。少なくとも私にはできない芸当だ。
▼ 午後はモンテカルロ・シミュレーションのプログラミング。実行させて帰宅。
▼ 夕方はJasonの文献紹介。昨年のArieliらの論文が取り上げられた。今日の議論でもっとも重要なポイントは「このデータは麻酔下であることのartifactではないか」という指摘だ。麻酔下では脳全体のactivityは覚醒時よりも少なく、しかもシンクロしやすい傾向にある。とすればこのデータは単に回路のarchitectureの特徴が浮き彫りにされているだけであって、純粋な意味で自発活動のorganizationを示しているわけでないという結論になる(つまり前報の域を出ていない)。もしこの論文がトップダウンを示唆しているとすれば、この実験に使われたネコは眠りながら何か(この場合は方向性のある棒)を“想像”していることになる。そういわれてみれば、私も目を瞑るといろいろな情景が脳裏に浮かぶが、決して「単調に敷かれた棒」は思い浮かべないよな。日常の視覚刺激における方向性の分布はevenである。
▼ またまたsooogiさんの日記から。東大モデルデータベース。こう聞いて六條華や菊川怜を思い出した人は私だけではないはずだ。簡潔な神経モデルの解説もある。
▼ Science。イーストウッドの映画を鑑賞しながらfMRI(Shimaさん丁寧な要約ありがとうございます)。これ個人的にバカウケ。こういう論文がもっとトップジャーナルを賑わせばいいのにと私は思う。少なくとも息抜きには良い。
▼ Science。Takao Hensch先生の2連報。まず一報目。眼優位性カラム(ocular dominance
column)の臨界期(critical perioid)に、ベンゾジアゼピン(benzodiazepine)結合サイトのアゴニストおよび逆アゴニストを投与すると、カラム幅が肥大したり減少したりする。視覚野の機能は正常を保っている。とくにジアゼパム(diazepam)の投与では30%近くの増幅がおこり、同時にニューロンの反応選択性がシャープになるらしい。これらの知見は、カラム発達における側方抑制(lateral
inhibition)仮説に合致している。
▼ Science。2報目。より特異的なアゴニストzolpidemを使用したり、ベンゾジアゼピン非感受性のGABAA受容体α1,2,3サブユニットをそれぞれノックインすることで、α1が臨界期可塑性に重要であることを示している。ちなみにα1は籠細胞の一種「fast-spiking
large basket cell」に主に発現しているらしい。論文の最後の“drugs designated
for use in human infants”の一言には「なるほどそういう視点もあるのかあ」と思った。小児てんかんって結構やっかいだからな。
3月13日(土)
▼ 昨日の仕掛けたモンテカルロ・データーを大学に取りに行き、自宅で解析してみると、意外な結果が。。。これでこれまでのデータに対する確信がさらに深まる。モンテカルロ法は自分のデータの「どんな点がどんな風に有意なのか」が手軽に把握できるので面白い。
▼ 午後はモデルを改良して、自発発火の予測p値を最高10-28(平均10-4)まで高めることに成功。しかも、この新モデルのほうがエネルギー算出に圧倒的に有利なのだ。
▼ クラウス指揮のリング全曲CDを聴きながら仕事。これ、バイロイトのライブ録音でモノラルなんだけど名演で気に入っている。
3月14日(日) 妻に小さな薔薇の花束
▼ 昼過ぎにTY君の論文の仕上げ。それ以外は明日の研究報告の準備。昨日のデータを盛り込んでスライドは完成。しかし、どうにも英語が苦手だ。‘同郷’の平井さんの日記でないが、私も(いつものように)「質疑応答で撃沈」するのは目に見えている。はあ、なさけな。
▼ そういえば先日、Rafaとの会話中に廊下から隣の研究室の人々の話し声が聞こえてきた。「いやさあ、オリンパスの顕微鏡担当者、変わっちゃったみたいよ。転勤で日本に帰ったんだって。んで、新しい日本人が来たんだけど、彼がまた英語が下手でなに言ってんのかわかんないんだよ、がはは」。。。思わずRafaと目を見合わせて笑ってしまった。話はこう続いた。「でも、彼もまた誠実そうな奴で、仕事は信用できそう」。そう!海外における日本人の評価はまさにこれ。意思の疎通は困難だけど、人柄が良く勤勉。つまり、扱いやすい。まるでペット犬だ。っていうか、私は日本にいるときに、人から「転勤で海外に」なんて話を聞くと、「すげえ、英語ペラペラなんだなあ」などと反射的に感心したが、そんなのは無根拠な妄想だってことに、こちらに渡ってようやく気づいた。
▼ ずいぶんと前の日記で約束した「脳の奏でる音楽」を公開しよう。Quick Time File(13Kb)。神経の活動パターンをピアノ・サウンドに置きかえて得られたナチュラル音楽だ。Sciece誌で公開するのは別のファイルだけど、“芸術”としてはこちらのネズミの脳のほうが好み。Neuronal
Ensembleが作るOscillatory Synchronyとそのゆらぎが何ともいえず心地よいのだ。このファイルを作った(=創作した?)のは昨年の6月だが、初めてRafaに報告したときには「“命”とは尊いもの。こんな使い方をするとは!」と怒られるのではないかとビクビクしたのは言うまでもない。まさかRafaも面白がってくれるとは。
3月15日(月)
▼ 午前は私の担当で研究報告。なんというか、まあ、時間切れ(もちろん私の英語力の問題)。予想外に皆が興味をもってくれて質問&議論の嵐にあったのだ。用意したスライド50枚(それでもまだデータを載せきれない!)のうち、後半20枚は次の金曜の夕方に発表することになった。話題としては後半の発見のほうが断然優れている(と私は信じている)のに、ストーリーの核心に入るまえにストップが掛かってしまいなんともいえない物足りなさが残った。でも、まあいいや。楽しみは金曜日にとっておこう。
▼ 午後は、なぜかすでに受理されたはずのScience論文の改訂のためにプログラミング&データ解析&図作り。Rafaが論文中のデータの一部が弱い(証拠不十分だ)と気になったようだ。実は私も以前からその箇所はmathematical
artifactである可能性があるなあと感づいてはいた。つうか、以前Rafaに説明したんだけどなあ。。。通じてなかったのはこれもまた英語力不足だな。んで、実際調べてみると一応artifactでは説明できないくらいの有意差があることがわかった(とはいっても一部のスライスでは個人的にはちょっと納得できない程度のレベル(P<0.05)なんだけどさ)。んで、いまさら文章や図の追加ってできるんだろうか。
▼ 夜はロックフェラー大学まで足を延ばしてブザキ(Buzsaki)らの主催するHippocampus
Clubへ。定期的に行われているのだが今回が初めての出席。今日はMiglioreのTalk。「モデル屋はなんでもできる」という彼の言葉通り、基本の系さえ確立してしまえば数理系の研究者は強い。内容は彼がすでに発表してきている研究の総括に近かった。ところでBuzaki先生が「Pooラボのin
pressの論文で海馬の苔状線維の可塑性のlong temporal windowが…」などと話していたが、いつ出るのだろうか。そしてそれは小林さんの論文の続報?
▼ 講演後は中村さんに案内してもらってロックフェラー大学の図書館にある野口英世の銅像や写真を見た。入り口付近にいきなり飾ってあってびっくりした。英雄なんだな。その後は一緒に食事。研究(彼は同じ海馬同業者なのだ)やフィアンセの話など。
▼ 時々Yusteラボ内に「この論文に目を通すように」と伝言Eメールが回るのだが、今日Rafaから皆に回ったメールではこれとこれが挙げられていた。むふむふ、ほおーん。たしかに面白い論文ではある。とくに後者は今日の私の発表があったからメールが回ったんだろうな。いや、まちがいない。実際、ちょっと役立ちそうだ。
▼ JP。P9-14SDラット海馬スライスCA1錐体細胞パッチ。細胞体にさまざまな形態のカレントを入力することでスパイクタイミングの正確性について調べている。K+ currentがより発火タイミングに寄与していそうだという。マニアックだけどそれなりに面白い。
3月16日(火)
▼ さむー。豪雪。でも来週はまた暖かくなるようだから赤井さんはラッキー?
▼ 昨日指示された論文のデータ解析についてRafaとさらに相談。もう一つ別のパラメータでもmathematical
artifactでないことを示すシミュレーションがあったほうがベターだろうとのこと。再びプログラム作成&データ解析。PCが計算で重たくなったので放置して、仕事場を自宅に移す。主成分解析のプログラミングや図作りなど。「専門の審査員が3人もついていながら全員がこれを見過ごしていたなんて不思議な話だ」とRafa。この分野でも超一流の審査員たちがきちんと理解できていないような論文を他の研究者が理解できるんだろうか(=突き詰めれば単に「メソッドをどこまで詳しく書くか」の問題なんだけど)。
▼ 途中で休憩として薬作の仕事。日曜に完成させたTY君の論文を再度イントロの後半を大幅に書き直してJ
Neurosciに投稿する ← SOさんの論文がうまく仕上がっていたので刺激をうけたのだ。さすがはMKY先生。
▼ 先週の木&金曜日にRafaが不在だったのだが、聞けばマドリッドに帰っていたんだそう(てっきり学会にでも行っているのかと思っていた)。家族は無事だったらしいんだけど、あのテロで友人がなくなったんだとか。
▼ PNAS。神経の代替現象(死んでは生まれ死んでは生まれする現象)が初めて見つかったのは鳥のhigh
vocal center (鳥のさえずり文法が格納されている脳部位)だが、秋に分裂形成されたニューロンは春に生まれたものよりも長寿だという。へえ。ところが春生まれの神経でも誕生後2〜3週間の時期にBDNFを処置すると秋生まれ並みの人生(?)をまっとうできるらしい。
▼ PNAS。Cherubiniラボから。発達期海馬のgiant depolarizing potential (GDP)について検討した論文。GDP誘導と同時に苔状線維を刺激するとLTP様の現象が生じる。これはポストのカルシウムを必要としている。やっていることはシンプルなんだけど、(苔状線維の)シナプス可塑性およびシナプス形成(もしくはターゲット選択)の両方が視野に入った薬作的にはなかなか面白い論文。
3月17日(水)
▼ 零下。でも雪は軽め。
▼ 午前は実験。ラボ新人のMorganeにデモ。彼女は電気生理屋ではあるんだけど今まではザリガニで実験をしてきているとのことでマウスは初めてなんだとか。彼女が書いてきた論文はなかなか面白い。非脊椎動物をつかった神経生理学っていいなあ。なんとなく憧れる。哺乳類よりもゴールが近そうで、つまり、やりがいがありそう(=知見が進歩しているという実感がありそう)に見えるのだ。隣の芝は青いだけ?
▼ 午後は論文用の追加解析。余った時間は金曜の発表用のスライドの手直し。ほぼ完了。
▼ 湯舟に入りながら「散逸構造論」と神経ネットワークのbehaviorについてちょっとマジメに考えてみる。
▼ 妻がクルミのチョコを食べている。そのシワを見てサルの大脳皮質を思い出してしまった。そういえばここ最近、脳のことしか考えていないなあ。それは如実に日記の内容にも現れている。
▼ Yusteラボpaperを引用している最近の論文を調べていて見つけた論文。標本は脊髄神経だし、データも内容も弱いけど(←データ表記が直球すぎておそらく大切な情報を見落としているのでは)、これを海馬や皮質に応用してもっと解析を強化したのを日本に帰ったらやりたいな。MKY先生もこういう方向で進めばSO論文を掘り下げられるのでは。
▼ Nature。ヒトfMRI。プライミング記憶の実験なんだけど、私の読みの深さが足りないんだろうか、ホントにこの実験系で良いのかどうかよくわからなかった。どなたかの日記での解説を期待。とりあえず「実験参加の謝礼金50ドル」という部分がなんだかとっても現実的でヒット。
▼ JN。ラット脊髄後根節。一次感覚求心性神経の軸索から吸引電極で電位記録。プレにNMDA受容体があることを示し、これが伝達物質の放出を抑制していることを示唆。また軸索上に存在しているNMDA受容体は活動電位の伝導を遅らせることができるを示している図6は面白い。
▼ JN。皮質の介在神経の発達。interneuron数が減ってしまうNkx2.1やDlx1/2ノックアウトマウスなどをin
vitro transplantation assayに用いながら追跡した比較組織学。parvalbumin系インターニューロンは内側神経節隆起(medial
ganglionic eminence)に、calretinin系は尾側神経節隆起に由来しているという。
3月18日(木)
▼ 昼には雪が止む。
▼ 午前実験。ロングムービーの例数揃え。1例増える。
▼ うーん、午後はいろいろな意味で疲れた。もう日記に書くのもめんどくさい。夜は久々にワインを飲んで紛らす。また明日だ。
▼ Cell。Gageラボ。海馬神経幹細胞ラインHCN A94。 NRSE/RE1の配列に相当するsmall RNA(noncoding double-stranded RNA, dsRNA)が、神経特異的リプレッサーNRSF/RESTの作用を拮抗して、神経幹細胞を神経に分化させるという論文。つまり、このdsRNAはこれまで報告されているsiRNAやmiRNA(これらはmRNAに干渉する)とはちがって直接転写を制御するわけで、small
RNAの新しい作用機作様式である。
▼ Cell。Bargmannラボ。線虫SYG-1に関するこの論文の続き。SYG-1と結合する相棒としてSYG-2を同定した。これらは「どこにシナプスを作るべきか」の道しるべとなっているという話(あまり詳しくは読んでいない)。
▼ Science。言いたいことは良くわかった。でも鳥は別にMC1Rの遺伝子検査をして異性を選択しているわけでないのだから、結局は恋は「外見」で決まるってわけか?こりゃ敵いませんな。
▼ ScienceよりCellのほうがimpact factorが低いのに、なぜかついついCellを先に書いてしまう。
3月19日(金)
▼ 今日も朝のみ雪。でも明日からは暖かくなる(はず)。
▼ 一日中、昨日の午後の仕事の続き。つまりScience論文のデータ解析。より優れた非線形モンテカルロ・シミューレーションのアイデア(ちょっとしたものだけど)を昨日Rafaに提示したら、「お、いいね。そしたら“すべて”のデータをそれで解析しなおして、論文の図(Fig5のみ)を差し替えよう」といいだしたのだ。昨年3〜6月頃の古いデータをHDから引っ張り出すだけで一苦労。わたし的には「もう受理されているんだから、新しい解析法は続報でもいいのでは」と思ってしまうのだが、やはりRafaはこの論文に相当に気合が入っているようで、徹底的に追求しようという。うーん、私は“足踏み”より“前進”したいタイプなので、「こうなるんだったら新シミューレーション法なんて提示するんじゃなかったなあ」という気も正直するんだけど、でもまあ、より深く解析することは研究姿勢としては間違いなく「良いこと」ではあるから、ここは気合を入れてプログラミング&解析に専念する。実際、今日の解析によって初めて明らかになった真実があって、これは意外な収穫になった。
▼ 夕方は私の研究報告の後半編(=月曜の続き)。今日は自発発火の「予測可能性」と「回路エネルギー」に関する成果を発表した。予想通りとはいえ、またも大議論を呼んでしまった。ふう。その内容は「かなり刺激的。でもToo
New」なんだそうで、Rafaを含め、誰もがその価値を把握できないようだ。もちろん私も。つまり、私の使った方法&結果は確かにexcitingだけど、実のところ重要なのかそうじゃないのかさっぱりわからないのだ。うーん、これじゃあ、論文にならないじゃないか。。。とりあえず、Rafaにもらったコメントを元に来週また別の視点でシミュレーションしてみよう。
▼ 夜はメトへ。R・シュトラウス作曲「サロメ」の新演出。ヘロデ役のジークフリート・イエルザレム(Siegfried
Jerusalem)が別の歌手に変更になったのは残念だったけど、それでもカリータ・マッティラ(Karita
Mattila)、アルベルト・ドーメン(Albert Dohmen) というメンバーが並んでいる。私は「サロメ」が、いや、もっというとR・シュトラウスの音楽が全般的に好きだ(クラシック・ファンにはゲテモノ扱いするひとも多いけど)。今夜は指揮者ゲルギエフが彼らしくなく(?)、ソフトかつ繊細かつ流麗な曲作りだった。これによって曲の持つ妖しい官能性が浮き掘りにされて、えも言われね独特の効果を上げていた。すばらしい。あと、サロメ役のマッティラは幕後、これまで私がメトで聴いてきた中でもっとも熱烈な「ブラボー」の嵐を浴びていた。ちなみに、あの有名な場面、つまりサロメが踊りながら全裸になるシーンで、予想通り(?)会場が一斉にオペラグラスを持ったのには笑えた。もちろん私も。
3月20日(土)
▼ 午前、佐藤さんの紹介でGardenerさんとお会いする。昼過ぎまで楽しく会話。「虫」を語るときの情熱的な目が印象的な方だった。またお会いしたいな。ところで教えて頂いたクリオネの論文。今までこの論文を知らなかったのは脳科学者としてちょっと恥ずかしいが、今更ながらコレ、すげー面白い。ついでながらNatureのletterなのに図が6個っていうのもスゴい。さらについでながら、クリオネって英語だと「クライオン(Clione)」って発音するのね。なんだか「海の妖精」という艶やかな姿に似合わず、じつは猛獣みたいな名前なんだ。
▼ その後は月曜日の準備。いったい高校生達は何を聞きたいのかわからず悩む。まずは一般的な教材を用意。
▼ 午後、ラジオをかけていたらメトロポリタン歌劇場のライブ放送が流れた。今日の放送はワーグナーの『ニーベルングの指輪(リング)』の「ラインの黄金」。耳で聴いた感じでは結構期待がもてる印象だ。メトでは今年「リング」が3サイクル予定されている。今日はその初日というわけ。レバイン指揮&シェンク演出のメトの「リング」はクラシック音楽界ではちょっとした話題作で、過去の公演の日本語字幕のDVDはもちろん、いくつかの日本の旅行代理店では鑑賞ツアーまで催行しているくらい。そういえば、話は変わるけど、来シーズンのメトの演目が発表になってちょっと興奮気味(→魅力的な公演が目白押し!日本に帰りたくないぞ)。
▼ ここ数日、表示がおかしくなっていたPubMedスクリーンセーバーの不具合を修正。ご使用されている方は最新版をダウンロードしてください。
▼ 妻の友人を通じて「いかりや長介さん死去」のニュースを知り驚く。なんだかショック。本名が「いかりや
ちょういち」さんだとは知らなかった。
3月21日(日)
▼ 朝から夜までずっと明日の準備。今日はより素人的な話題を整理する。夕方には家に遊びにきた妻の友人に素人代表として話の核部分を聞いてもらう。感謝。
▼ 夜、ラジオから美しい演奏の「ミサ曲ロ短調(バッハ)」が流れてきた。HPを調べてみたらヘンゲルブロック(Hengelbrock)という私は初めて名を聞く指揮者による録音だった。閑かな雰囲気なのに躍動感にもこと欠かない素晴らしい内容で、演奏も人間が奏でているとは思えないほど丁寧でかつ完璧なアンサンブルだ。今度CDショップにいったら購入しよう。
▼ 母親に贈った胡蝶蘭が実家に届いたようだ。先週還暦を迎えていたのだ。「自称マザコン」の私とあろう者がうっかりしていて配送の手配が遅れてしまった。マザコン失格。言い訳チックだけど、やはり自分の心の中の「母」というのは永遠に若い存在で、まさかその母親が還暦を迎えるなどとはこれまで考えたこともなかったのだ。うん、感慨深い。母親は時々この日記を読んでくれているみたいなので一言。「まだまだ。これからも楽しい人生っすよ、かあさん。帰国したらうんと孝行するからね」。
3月22日(月)
▼ 午前はSmithラボのNiellによるTalk。Gardenerさんの日記ではないが、私もスゴいものを見ると、心から感心すると同時に自分のふがいなさに気落ちする。今日のTalkはまさに私にとってそんな感じだった。平均場理論(mean
field theory)を使った「樹状突起の形態」の巧みな数理解析はもちろん、なんといってもNat Neurosci論文のその後の展開がすごいのだ。単細胞レベル解像度をもったin vivo二光子イメージングで、膨大数の神経細胞の受容野を一気に同定してしまう方法には正直まいった。Talk後にきいたら「まだN=3」と言っていたけど、私的にはあれはヤバすぎ。
▼ 午後はちょっとだけデータ整理をして、あとは夕方に備えてあれこれ考えを巡らせる。
▼ そして、夕方からいよいよ高校生たちと対談するために慶應高校NY校まで出かける。全四回の連続脳講義の第一回目。ニコレリスやスールの研究を切り札にしつつ「脳機能の局在化」と「身体に制御される脳」と「ガヤ仮説その1:脳の過剰進化説」の三点について話す。しかし!伝えたいことを上手く伝えられた感触が全くない。理由の一つは思ったような反応が返ってこなかったからなのだが、妻によれば私の(たぶん無意識な)レトリックによって「高校生の反応を封印している」のが主な原因だという。これは次回に向けた反省点だ。と同時に「準備の重要さ」を感じた。学会とは違って「気軽さ」を出そうと意図したこともあり、あまり系統立てた準備をしていかなかった。言葉選択が下手なのは自分の才能不足だから仕方がないとして、今日は全体として話が空回りして散漫になった。次回は高校生から“連鎖”反応を引き出しつつ、今日播いた話題を収斂していくよう心がけよう。何はともあれ今日の自分には不満が残ったものの、しかし一度経験したことによって「何をしたらよいのか分からない」状態から「これをすれば改善されそうだ」という状態になったのはデカい。次回は木曜日だ。「脳における自由意志のありかた」について話したい。
▼ TINS。Kim, Chiba。「Dendritic guidance」
▼ TINS。Averbeck, Lee。「Coding and transmission of information by neural ensembles」。短いけど興味ある人にはお勧め。
▼ TINS。Prinz, Abbott, Marder。「The dynamic clamp comes of age」。よくまとまっている。実践的な総説なので頭の整理のためにも薬作パッチクランパーは皆必読。自分の研究に活かすべし。
3月23日(火)
▼ 午前、画像データの分割作業。その後、RXY君の論文の図作り。
▼ 今は薬作の仕事にあまり時間を割くつもりはなかったのだが、やはり私のサガ。思わず熱中してしまい、午後も引き続きFig作成にひたすら専念。ふと気づけば夕方。
▼ 今日は結婚1年半の記念日(?)。というわけで夜はフレンチ料理「ペトロシアン(Petrossian)」へ。このレストランはキャヴィアとサーモンで有名。今夜はキャビアにウォッカを合わせる。知っている人も多いと思うんだけどキャビアが取れるチョウザメには3種類ある。それぞれベルーガ、オセトラ、セブルーガと呼ばれている種だ(ここやここを参照)。今日は生まれて初めてその3種を同時に食べ比べてみた。私はもっとも安価なセヴルーガが一番美味く感じた。相変わらず貧乏性な私である。
▼ 帰宅後は再びRXY君の論文図。ほぼ完了。
3月24日(水)
▼ 今朝、先日の「第1回・高校生向け脳科学講義」のテープ起こしの一部が上がってきた。これは将来一般向けの本(『進化しすぎた脳(仮題)』)として出版される予定なのだ。読んでみると、思っていたほど悪くない(相当苦労して編集されたにちがいない)。私としては「まだまだ脳について伝え足りない」というもどかしい思いは残るのだが、一般の方々が読むレベルとしては現時点の文章ですでに十分に面白いのではないかとさえ感じた。
▼ 午前はあとTY君の論文用の追加図も一つ作成(「これを入れてから投稿するんだったあ」と早くも後悔)。さらにScience論文の図の最終版も仕上げる。
▼ 午後はSOMの文章の直しとチェック。明日は本文をやる予定。そしたら編集部に送れる。
▼ 夕方は明日の講義で話す内容を整理。半分くらいは終わる。
▼ 夜はメトロポリタン歌劇場へ。モーツァルトの「ドン・ジョバンニ」。メトでドン・ジョバンニを見るのは今夜で2回目なのだが、今年の公演はメト新演出なのだ。というわけで指揮者はレバイン、歌手もトーマス・ハンプソン(Thomas
Hampson)、ルネ・パーぺ(Rene Pape)、アニヤ・ハルテロース(Anja Harteros)、ヘイ=キュン・ホン(Hei-Kyung
Hong)と脇役までに主役級のメンツが並ぶ。んで今日の私の目的はトーマス・ハンプソンだ。一年前に彼のヴォルフ歌曲コンサートでシビれて以来、彼がオペラに出るところを見たかったのだ。彼の舞台姿は予想通り格好よかった。あと当たり前なんだけどモーツァルトってやっぱいいなあ。「一番好きな作曲家は?」と聞かれても私の場合はモーツァルトは挙がらないと思うんだけど、でも「一生無人島に行くとして一人だけ許されるとしたら誰を選ぶ?」と聞かれたらたぶんモーツァルトを選ぶだろうな。
▼ Nature。Grinvaldラボ。麻酔下ネコ視覚野&電位感受性色素。「動き」を感じるゲシュタルト錯視における脳の反応を調べている。いや、これは最高のタイミングで出たなあ。明日の高校生の講義で取り上げよう。
▼ Nature。嗅覚受容体がどうして細胞あたり一種類だけしか発現しないのかという話。たぶん論文をまとめている途中で先行論文が出ちゃったんだろうな。M71-IRES-CreをZ/EGと交配させたマウスを使った図3から後の部分が独創的で面白いものの、結論自体は予想の範囲を出ていない。
▼ Neuron。嗅神経にアデノでGFPやβGalを発現させ、細胞のturnoverを可視化。この系をつかってodorantが細胞生存を高めることを示している。isoamyl
acetateやcitralvaなどのodorantがそもそも何割くらいの細胞に反応を惹起するのか私は知らないんだけど、その観点からここで見られた生存上昇率は妥当なんだろうか。あと、MAPK/CREB系を介するのは良いとして、これだけのデータではodorantがlife-spanを延ばしたのか、単にadenovirus毒性を抑制しただけなのか(図8はあるけど)が明確でないと感じたがどうだろう。
▼ JN。川口泰雄ラボ。表紙を飾っている。ラット帯状皮質(cingulate cortex)、無顆粒皮質(agranular
cortex)の非錐体細胞の形態を比較した論文。解析が丁寧なのは言うに及ばず、まずこれだけ数の軸索をreconstructするだけでもすごい労力だったと思う。
▼ JN。ハムスター皮質神経培養。netrin-1、Sema3A、FGF-2が軸索分枝に与える影響の話(この手の内容でもまだ論文になるんだあ)。データ、およびその見せ方は非常に美しい。RXY君必読。
▼ JN。Gageラボ。「Novel Neuronal Phenotypes from Neural Progenitor Cells」というタイトル。アブストしか読んでいない。
3月25日(木)
▼ 朝は脳講義の準備。
▼ 午前、データ解析。MonteCarloシミュレーションで数学的に自然発生する繰り返しスパイク配列数を見積もる。
▼ 昼休みにはJAKさんの論文の表紙を作成する。早速メールで送信。
▼ 午後、データ解析続き。Chance Level分を差し引いて再解析を試みるが意外と相関のデータがキレイにならず落胆。
▼ 夕方から慶應高校へ。第2回・高校生のための脳科学講義。私たちにとって非常にやっかいな問題「心と意識」をとりあげた。こういう話をするときはやはり私はナーバスになる。内容は「視覚におけるトップダウン現象」と「クオリア」をベースに「ガヤ仮説その2:世界を認知するために視覚があるのではない」、「ガヤ仮説その3:意識の3つの要素」、「ガヤ仮説その4:言語の幽霊」の新三説を説く。各タイトルの通りで、ここら辺は脳科学(もしくは心理学、哲学)の専門家のあいだでも絶対的な共通の認識はなく、どうしても私の「個人的」な仮説にとどまる。今日も私が一方的に話してしまう時間が多かったのは反省点だか、意外なことに高校生たちはこんなハードな話に想像以上に付き合ってくれる。しかも飲み込みが速い。こういう哲学系の話は好きなのかな。次回、月曜日のテーマは『脳における「具体←→抽象」交錯と「記憶」』の予定。これも楽しみだ。
▼ 夜は赤井さんにいただいた日本酒「作(ざく)」で疲れを癒す。いやあ、フルーティーでいてかつ流麗でな喉ごしがまぢ美味しい。そこに私の大好物の香菜(コリアンダー)を合わせる。妻のオリジナル味噌ダレ、これがまた香菜にあって旨いのだ。
▼ 深海ダコ出現。こういう話ってなんかいいなあ。ダイビングやったことのある人ならわかると思うんだけど、素人ながらこれだけ美しい写真を取れるのは相当な腕前だと思う。さすがはダイビングインストラクター。
▼ Science。嫌悪刺激で活動する腹側被蓋神経は実のところドパミン系ではないとする論文。結論は単純だけどなにげに巧妙な実験をしている。
3月26日(金)
▼ 午前、Science論文の本文の最終チェックをして送信。その後は連載コラムの6月号分を書く(プラセボの話など)。またまた1200字の制限(50円/字)を大幅にオーバー。いかんなあ。午後は神経活動予測アルゴリズムのプログラムの改正。
▼ 今日はショスタコーヴィッチの弦楽四重奏曲を聴きながら仕事(これ)。15曲いずれも傑作揃いで、交響曲と並んでこの作曲家の重要な部分を占めている作品だと思う。とりわけ晩年の灰色をした曲たちの深みは恐ろしいほどだ。沈鬱で重苦しい戦争映画でも観たときのような空虚なあと味が残るので、私はふだんはあまりこのCDに手が伸びない。実際、いざ聴いてしまうと仕事をする気が失せる。人の心の深い部分にまでズカズカと侵入して無遠慮に精神を引っ掻き回す曲である。逆に若い頃の作品(第1番など)は純粋に朗らかで好きだなあ。
▼ 夜は妻とレンタルDVD「メトロポリス」を観る。大学の宿題で「メトロポリス(独1926)と戦艦ポチョムキン(露1925)を“semantic”に比較せよ」というレポート課題が出たらしいのだ。実は私はメトロポリスを観るのは初めて。あちこちに斬新なアイデアが見て取れて、当時としてはきっと画期的な映画だったとは思うのだけれど、ストーリー自体は私には何とも言えない感じだなあ。
▼ KN君の論文の返事が返ってくる。審査員の一人は絶賛なんだけど、残りの二人は追加実験を要求している。KN君のいつもの体力実験に期待しよう。んで、審査員2の「The
authors enjoy stylistic hyperbole」というコメントは個人的にウけた。さすがに「メタ可塑性のメタ制御」とか「オートポイエティックな自己アレンジ」という表現はやりすぎたかな。論文では(も?)もっと謙虚にならないと。
▼ 吉田君の日記から。先日の日記でちらりと取り上げたPhys Rev Lett誌の論文なんだけど、今週のNature誌のNews and Viewsでずいぶん大きく取り扱われていたんだ。気づかなかった。というか、やっぱりこれ、重要な論文なんだなあ。さすがはRafa。
▼ NN。竹市雅俊ラボ。胎仔海馬培養神経。ノックアウトや過剰発現系を使ってαN-cateninがスパインの安定化に貢献していることを示したとても明解な論文。TTXによるfilopodia化をαN-cateninの過剰発現で抑制できるのには驚いた。
▼ NN。鳥類の視蓋ネットワークのモデルなんだけど、何だか面白そう。というか重要そうなことをいっているような気がする。改めてじっくり読もう。
▼ NN。培養海馬神経の興奮性&抑制性入力のホメオスタシス様のバランス取りについて調べた論文。「同一樹状突起内で」という点を除けば、劇的に新しい知見はないように見えるんだけど図4とかは面白いかな。普段からMKY先生はLiuに比較的近い発想をするので、きっとこれも興味ある論文だろう。
3月27日(土)
▼ なんと22℃まであがったらしい。外出せず。
▼ リストのピアノ曲CDを聴く。かつてリストという作曲家に凝っていたことがあったんだけど、とりわけ1870年頃(リストが60歳を越えた頃)から後の作品(このCDなど)は私のコレクションの中では格別の位置を占めている。表向きは晦渋で、どちらかといえば枯木死灰の境地なんだんけど、その奥には秘められた耽美性がある。それだけではない。楽理的にもフォーレやドビュッシーに先駆けて「全音音階」「平行5度」「増和音」を自在に使っていて、その前衛性と後世に与えた影響力は「トリスタンとイゾルデ(ワーグナー)」に匹敵するさえと私は思っている。
▼ K-1 WORLD GP 2004。この写真は男からみるととっても痛い瞬間だ。鳥肌が立つ。こう言うの見たときにはやはり“感情移入”の脳部位が活動してるんだろうな。ところで、この「感情移入ニューロン(empathy neurons)」の記述は「ミラーニューロン(mirror neurons)」のヒト・バージョンとして、一般向けの“おはなし的”には最近の脳科学の知見の中ではわりと重要なトピック物ではないだろうか。んで、この論文のデータによれば「同情はできても痛みまでは分かち合えない」ということが脳側からも証明されてしまったわけで、たとえカーター・ウィリアムスがこの写真の後に悶絶したとしても、私にはやっぱり“他人事”なんですな。まあ、だからこそ格闘技観戦が「娯楽」として成り立つわけなのだが。
▼ 今朝、妻と「名字」の話をしていた。日本には「鈴木」とか「佐藤」とかっていう名字が多いんだけど、仮に、「閉じた社会(=日本国)のなかで人々が結婚相手をランダムに選択するとの仮定のもとで、二人の名字が一方に吸収される(=夫婦別姓を認めない)」という単純な伝播モデルを考えたとき、最終的な安定(平衡)状態では名字の頻度分布はどんなになっているだろう。今の日本はすでに平衡状態だろうか、それとも勝者総取り式にいずれ全員が「鈴木」になるだろうか。後者だとしたらあと何世代で均一になるだろうか。モンテカルロ・シミュレーションで簡単に調べられそうだな。
3月28日(日)
▼ 妻とZak夫人の3人でマンハッタン最北端にあるクロイスターズ美術館へ。ユニコーンのタペストリーが繊細で美しかった。
▼ その後は実験のデータ解析。数種のプログラムを書いて試行錯誤するがどうも上手い具合に行かず。。。神経活動パターン予測は意外と手強い。
▼ なぜかフト思い出した。電車マニア(?)だった小学生の頃ぜひ訪れてみたいと思っていた駅。それはここ。
▼ 朝刊一面トップ「松井、日の出ずる国に戻って」。スポーツ欄では幼少時の写真や松井パパへのインタビューまで掲載されていて相当に気合いの入った扱いだ。
▼ 昨日の日記で書いた「名字頻度の世代変化」のシミュレーションを昨夜実際にやってみた。Visual
Basicを使って15分余りでざーっと書いたプログラムなのでとってもシンプルな試行だけど、まあ大まかには正しい結果だろう。使った条件は以下の通り。
1.国民の人数を1000人とする。男女比は1:1。
2.苗字の初期分布はこのホームページの上位50種を採用した。
1000人のうち64人は佐藤、57人は鈴木・・・ってな具合
(池谷姓も1人だけ混ぜた)
3.結婚相手は私(=神)が無作為に選び、1000人を同時に結婚させた。
つまり500カップルの合同結婚式である
4.苗字はカップルのいずれかからランダムに選定し、夫婦別姓を認めなかった。
5.各夫婦は二人の子供(男女それぞれを一人ずつ)を産んだのちすぐに死亡。
これで全人口は男500女500で世代を超えて一定になる
6.行程3〜5をひたすら繰り返す。
ランダムなので場合によっては親族結婚もありうる
▼ さて、以上の条件のもとで苗字の分布はどう変動するか。結果はこの図の通りで、2665世代の後に1000人全員が「伊藤」になった。ちなみに池谷は3世代まで粘ったが絶滅。もちろん、これはシミュレーション一回分の結果だけど、何度か試した結果、苗字の栄枯盛衰のパターンは試行ごとにまったく異なるものの、いずれも最終的には全人口を一つの姓が独占することが分かった。
▼ ということは現在の日本は安定な分布状態ではないわけだ。私が思うにその理由は、@
極限値に達するまでにまだ世代数が足りない(今回のデータによればあと約2千5百世代、つまり5万年以上はかかりそうだ)、A
田舎地方では地域内同士の結婚が多く小コミュニティー(つまり非平衡系)を形成している(=
ジオメトリー問題)、B 個々の行動はランダムではなく意志をもった「複雑系」である(そもそも苗字がこの世に一つだったら苗字の意味がないしな)、などが考察される。あと、夫婦同姓制度は算術的には明らかに非可逆行程であるから、「夫婦同姓システム」はマイノリティーに不親切だという原理主義的な考えも成り立ちうるわけだ。ん?野田聖子さんが知ったら喜びそうな話題か? 実際、最終的に生き残る姓名はケースバイケースだがいずれの場合も初期値で或る程度大きな集団をもった名字群から勝ち姓が選ばれたし、池谷姓に限らず小数グループ姓の大半は初めの数十世代で消滅してしまう。韓国は姓名の種類が少ないが(末期状態?)、夫婦別姓制度を採用していることと何か関係があるかもしれないななどと妄想を膨らませてみたり。
▼ あ゛、こんなことに時間を費やしても脳力のムダづかいです、はい。
3月29日(月)
▼ 朝、Jasonの研究報告。後半の話題である「“回路”可塑性(おそらく局所アトラクターのrecruitment)」と「第4層神経のintrinsic
UP stateと視床から入力の相互作用」のデータがとても面白かった。見せ方次第では大化けしそうな雰囲気がある。
▼ 残りの時間はずっとデータ解析。昨日から予測アルゴリズムの制限を厳しくしたときの変化を探索しているのだが、予測可能性がかなり絶妙な均衡の上に成立しているようで、ちょっとモデルシステムをいじったり、数値に制限をかけるとたちまち予測制度が落ちることがわかった。もちろん「研究の有意義さ」に影響を与えるほどの問題ではないんだけど、個人的にはあまり嬉しくない(モデルを改良しにくいので)。そこで至適条件を探すべくシラミつぶし作戦にでる。夕方にPCに大量の計算を仕込んで帰宅。
▼ 夕方から第3回・高校生のための脳科学講義。「ガヤ仮説その5:抽象思考の意味とその有用性」「神経のメカニズム」「BOIDシステムとしての神経ネットワーク(→還元主義への批判)」について話す。前回は抽象的でつかみにくい話題だったので、今回はもっと具体的な内容を指向して「神経オペレーションの様式」を中心に据えて解説。かなり詳細までつっこんだが、さすがは理系学生だ。イオンとか活動電位とかNMDA受容体の話をすると目を輝かせる。ヘブ則やモデル回路の話もウケが良くてびっくり。とくに行列計算を使ったアソシアトロンの板書での実演には先生方も驚いていた(←これは本に掲載されるのかな?)。今日は今まで以上に色々と反応があったが高校生たちもだんだんと慣れてきたのかな。でも講義もあと一回でおしまい。少なくとも仮に私が高校生の頃にこんな一連の講義を受けていたら、きっと人生が変わっていたんじゃないかってくらいの講義内容と密度だと自分では思っている。まあ、フツーの高校生にはどうか知らないけど。
▼ 夜に大学のPCに計算結果を見に行く。まだ計算中だったが、途中までのデータを持って帰り自宅で解析。かなり良い感じ。挙動の傾向がつかめたのでさらにプログラムの改変をして自宅のPCで夜通し計算。
▼ SF君の論文がJNからRejectされてしまった。今回は完全に私の勉強不足のせいだ。。。うむ、ショック
3月30日(火)
▼ 今日は予報を下回り気温が6℃までしかあがらなかったらしい。4日前と大違い。
▼ 一日中データ解析。そして予測活動の至適ポイントの同定に成功した。これは大きな一歩だ。つまり「過去何秒(or
分)までの神経活動が未来何秒(or 分)の活動に影響を与えるか」という話だ。吉田君と以前ちょっとだけ話した重マルコフの問題でもある(ただ厳密に言えば私のやっていることは純粋な非マルコフ的記述ではないと思んだけど)。Biningの最適化が済んだので、昨日から「どの程度“過去”が重要なのか」について調べていたのだ。ここ最近予測モデルの改良に私が苦しんでいたのは「(私が勝手に思っていたほどには)“遠い”過去は重要ではない」という今日の発見がなかったからだということが判明。いや、もっと言うと、あまりに“昔”を参考しすぎると予測精度がひどく落ちることがわかったのだ。これは意外な結果だった。というわけで次の課題は「(その最適な条件のもとで)どこまで遠い未来が予測可能か」である。夕方はそのプログラムをざーっと組んでPCに実行させて帰宅。
▼ 夜は初めてお会いするカンザスの友安さんを交えてコロンビアの友人(佐藤さん&谷口さん)と近所の韓国料理へ。私も含めて皆さん自分の研究のことになると妙に熱く語る。思い入れを感じる。いやあ、やっぱり昆虫って面白いなあ。カブトムシにマニキュアを塗った話はマジ渋い。
▼ NN。Turrigianoラボ。PubMedスクリーンセーバーにタイトルが表示されていてAOPで公開されていることを知る。去年のオーランドSFN学会でもっとも感激した演題の一つ。ラット視覚野培養&スライス。LTPの本質はAMPA成分の増大だとされてきたが、これだとLTPが生じれば生じるほどNMDA/AMPA比が減少してしまうというジレンマがある。この論文ではLTPのあとHourオーダーでNMDA成分も増大し、結局長期的にはNMDA/AMPA比は一定に保たれるということを示している。NMDA成分の増大にはAMPA受容体の挿入は必須(GluR1CT発現で抑制される)だが、AMPA活動は必要ではない(DNQXは効果がない)という図4は面白い。
▼ PNAS。川人ラボ。短いアブストを読む限り下オリーブ核のモデルを使って、なにやら「chaotic
resonance(カオス共振?)」なるものを提唱しているようだが、なぜか大学サーバーでは「期限切れ」との表示で本文が閲覧できない。
3月31日(水)
▼ もう明日から4月ってな時期なんだからせめて最高気温10℃は欲しいよなあ。。。
▼ 朝から夕方までデータ解析。どこまで遠い未来が予測できるかという話。「現時点の状態を知るとすぐ次の瞬間の状態が予測できる」ことは何度も日記に書いてきているが、この予測は過去の活動状態を参考にしながら行っている。ここ数日の解析で“参考期間”が長いと上手く予測できないことがわかったのだが、昨夜から今日にかけての解析は「未来」に目を向けたもの。現在を知るとどのくらい未来がわかるのか。その結果、ヤバいくらい未来がわかってしまうことがわかった(私はほんの次の1秒程度の未来だけが分かると思っていたのだが…)。いや、これホントにやばくて、私の数理モデルそのものを根本から見直さないといけないくらいの精度の良さなのだ(必要とされる過去のデータ長と同程度の未来までもが予測できる)。まぢかよ?なにか数学的にミスっているんだろうか。これは疑ってかからねば。明日Rafaと話してみよう。
▼ というわけでふと気づけば「高校生のための脳講義」の時間になっていた。セミナーはぶっち。今日は最終回の講義である。反回性回路の意味と密度。脳の薬とかアルツハイマー病とかの話をする(薬学部の人間としてここら辺を啓蒙するのは義務だろう)。そして総括。
▼ Nature。顔の認識の話。顔だけ(頭髪や衣類なし)で男女や民族や表情を把握する基準には順応(adaptation)が起こるという話。日本人の交換留学生も実験に参加しているようだ。まあ、言われてみれば普段から怒ったような顔をした一見怖そうな人でも長く接して慣れてくると細かい表情とか見分けられるようになるもんな。関係ないか。。。
▼ JN。Katzラボ。おお、ようやく論文になったか。vivoで海馬CA1スパイン観察。大脳皮質を吸引して海馬をむき出しにして二光子顕微鏡で観察、さらに呼吸や心拍によるブレは後から修正というアラワザ実験。てんかんでもあまりスパインには影響ないらしい。
▼ JN。proopiomelanocortin (POMC)のプロモーターの下流にEGFPをつないだtransgenicマウスでは、分裂後の顆粒細胞にGFPの発現が見られた。分裂後1ヶ月以内にはシグナルが消えるので、幼若顆粒細胞を選択的にdetectしていることになる。この場合、図2ってなにげに重要な意味をもったデータではないだろうか。神経マーカーの供給源や電気生理のデータもあるのでJAKさん&NK君&SF君の「移植グループ」は必読。
(2004年)