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9月1日(水)
▼ 昨夜、『進化しすぎた脳 ─ 中学・高校生と語る脳科学の最前線(仮題)』の第2稿ゲラチェックをAM3時までやっていたこと&時差ボケのせいで、起床が遅くなった。大遅刻でラボへ。でも、夏休みモードのラボはなんとなくのんびりムード。Rafaは明日から復帰らしい。
▼ 一日中、データ解析。プログラムの変更も行う。昨夜から計算中だったアルゴリズムは無事終了して、まあまあ予想通りのデータが出ているものの、有意差はそれほど顕著ではない模様。
▼ SF君の論文の最終稿をJ Physiolに再投稿。といっても「タイトルの単語を一つ変えよ」という要求だけなので、これは通ったも同然。
▼ 夜は再び『進化しすぎた脳』のゲラチェックに専念。
▼ 来週、Henry MarkramがYusteラボを訪問するらしい。
▼ TY君が論文を改訂してきたので、こちらも手をつけないと。
▼ Nature Netrin-1 controls colorectal tumorigenesis by regulating apoptosis MAZELIN, ... MEHLEN 念のため掲載。
▼ Nature Biological abnormality of impaired reading is constrained by culture WAI TING SIOK, CHARLES A. PERFETTI, ZHEN JIN & LI HAI TAN 念のため掲載。
▼ JN Hippocampal Plasticity across Multiple Days of Exposure to Novel Environments Loren M. Frank, Garrett B. Stanley, and Emery N. Brown ラットCA1 Place
Cellの特性が新規環境への長期暴露によってどう変化するかを調べた論文。Remappingは暴露一日目に生じるが、それは4分以上の暴露があったときであって、それ以下の場合は、翌日の再暴露でRemappingが生じる。RemappingはSilent
NeuronのRecruitmentによって行われる。面白いことに、新規環境による行動上の馴化(running
velocityを指標)はこれに比べたらずいぶんと遅く、海馬回路の再編成とは独立であるらしい。
▼ JP Coexistence of gamma and high-frequency oscillations in rat medial entorhinal
cortex in vitro M. O. Cunningham, David M. Halliday, Ceri H. Davies, Roger D. Traub,
the late Eberhard H. Buhl, and Miles A. Whittington Wistarラット海馬-嗅内皮質スライスに200-400
nMのkainateでSuperficial layerにガンマ波を誘導。その特性を調べた論文。各種神経のSpike
Timingとのcorrelationを観察。carbenoxoloneで切れるからGap Junction依存性であるとのこと。この論文と一緒に読むと吉。
▼ JP Changes in AMPA receptor currents following LTP induction on rat CA1pyramidal
neurones Bertalan K. Andrasfalvy and Jeffrey C. Magee SDラット海馬スライス。LTPはAMPAR特性(kineticsやconductanceやaffinity)変化でなく、純粋に数の増大によるものだという結論を、outside-out
patchやnon-stationary fluctuation analysisなどで示している。がんばっているなあという感じの論文。
▼ JP Dendritically released transmitters cooperate via autocrine and retrograde
actions to inhibit afferent excitation in rat brain Michiru Hirasawa, Yannick Schwab, Sirajedin Natah, Cecilia J. Hillard,
KenMackie, Keith A. Sharkey, and Quentin J. Pittman SDラット視交差上核スライス。Oxytocinのプレ抑制効果は実はendocannabinoidの逆行性抑制が媒介していましたよ、という論文。
▼ NRN STRATEGIES FOR DISEASE MODIFICATION IN ALZHEIMER' S DISEASE Martin Citron 総説
▼ NRN ADULT NEURON SURVIVAL STRATEGIES: SLAMMING ON THE BRAKES Susanna C. Benn & Clifford J. Woolf 総説
9月2日(木)
▼ 一日、実験。暗室にいると、夕方五時くらいにはさすがに眠くなる。毎晩メラトニン飲んでるんだけどなあ。今日は新しいDye
Loadingの検討。
▼ Rafaは昼過ぎにやってきた。2ヵ月半ぶり。Stephは髪型が変わっていて初め気づかなかった。「スペインは湿度が20-30%くらいだったのよ。何よ、この蒸し暑さは?」とのこと。。。あの〜、日本はもっとひどかったんだけどなあ。NYは今日だって最高気温25℃だし、とても快適だと思うのだ。日本に比べれば(とはいっても最近の東京も涼しいらしいけど)。
▼ 夜は『進化しすぎた脳』のゲラチェック。
▼ 今日出たCell Pressはなぜか本文が読めない・・・
▼ Cell Alternative Splicing of Drosophila Dscam Generates Axon Guidance Receptors
that Exhibit Isoform-Specific Homophilic Binding W.M. Wojtowicz, J.J. Flanagan, S.S. Millard, S.L. Zipursky, and J.C.Clemens DscamはIgドメインを持っていて、何万というisoformが生まれる。同型だとよく結合するが、異型同士だとあまり結合しないという(←本文が読めないのでE-mail
AlertとAbstractから抜粋要約)
▼ Neuron Analysis of Dscam Diversity in Regulating Axon Guidance in Drosophila Mushroom
Bodies X.-L. Zhan, J.C. Clemens, G. Neves, D. Hattori, J.J. Flanagan, T. Hummel,
M.L. Vasconcelos, A. Chess, and S.L. Zipursky 本文が読めない。上の論文と同じ著者。
▼ Neuron Normal Patterns of Spontaneous Activity Are Required for Correct Motor
Axon Guidance and the Expression of Specific Guidance Molecules M.G. Hanson and L.T. Landmesser 本文が読めない。自発発火は通常ならば、回路形成の最終段階(Synapse
eliminationなど)に必要だと考えられているが、この論文ではもっと前の段階でも関与しているということを示しているらしい。この効果は遺伝子発現を介しているみたい。
▼ Neuron Docosahexaenoic Acid Protects from Dendritic Pathology in an Alzheimer’s
Disease Mouse Model F. Calon, G.P. Lim, F. Yang, T. Morihara, N. B. Teter, O. Ubeda, P. Rostaing,
A. Triller, N. Salem, Jr., K.H. Ashe, S.A. Frautschy, and G.M. Cole 本文が読めない。アルツハイマー変異遺伝子トランスジェニックマウスが実際にアルツハイマー病様の所見を示さないのは、エサにomega-3
fatty acidが入っているからだ、という内容のようだ。というわけで、DHAはアルツハイマー病の予防に役立つという結論らしいのだが。。。ネタ系
▼ Neuron Neuronal Synchrony Mediated by Astrocytic Glutamate through Activation
of Extrasynaptic NMDA Receptors T. Fellin, O. Pascual, S. Gobbo, T. Pozzan, P.G. Haydon, and G. Carmignoto Neuron-astrocyte
crosstalkの話題。でもやはり本文が読めない(なぜだ・・・)。アストロサイトは、神経細胞からのシグナルを受け取ると、グルタミン酸を放出し、これがシナプス外NMDA受容体に作用して複数の海馬神経細胞に同期した活動を引き起こす、という内容のようだ。
▼ Neuron In Memoriam: Francis H.C. Crick T.J. Sejnowski 念のため掲載。
9月3日(金)
▼ なんだか寝付けなくて、『進化しすぎた脳』の再稿ゲラチェックをしていたら、朝の6時になっていた。。。時差ボケもあるのだが、いま新年度のシーズンなので、コロンビア大学の新入生たちがブロードウェイ街(私のアパートの窓はブロードウェイ側にある)で夜中の3時過ぎまで奇声を発しながらどんちゃん騒ぎをしていて眠れないというのもある。昨年もそうだったが、あのキチガイじみた騒ぎ方はホント止めたほうがいいと思う。おそらく他の住民もひどく迷惑しているはず。
▼ 今日はMorganeにNissl共染色の方法を教えた。なぜかNissl染色を同時にすると、Fluo-4が神経細胞により良く導入される。彼女も感動していた。
▼ 夕方はRafaが年度初めのLab Meetingを開催。いろいろあった。とりわけ、1月に開催されるMcCormickラボとの共同合宿と、Rafaがハワード・ヒューズ財団の研究費申請で最終候補に残ったことの2点は興味深いニュースだ。後者については、ここまでくると申請が通る確率は6分の1まであがるとのこと。いやはや、通ったらすごいことになる。今のうちに欲しいものの高額リストを作っておくようにとの指示があった。この予算申請のために70ページも書いたらしい。
▼ Rafaが6月からずっと書いていた『スパイン(Spine)』という本をついに書き上げたらしい(著・編者)。発売は9ヶ月後とのこと。その大まかなストーリーを教えてくれた。スパインの役割として、@
Calcium compartmentalization(Rafaの得意分野)、A Synaptic Plasticity
(河西ラボの論文を高く評価していた)、B Virtual dendritic theory (あまり説明がなかったので内容は不明)、C
Amplification(これもRafaの得意分野)、D Filtering (個々のスパインをRC成分と見ることでニューロン全体をSlow
Integratorとして捉えることができる)、ELinearity (Non-linearなチャネル特性がActive
processによってCollectivelyに単純加算性を生みだす)、という6点を上げていた。とりわけ第6点目を、強く主張していて、Neuronの挙動が複雑なのは結局は高度なLinearityを生みだすためであって、結果として(マクロには)挙動が単純になるという考え方を打ち出していた。これによってNeuronを“Input
Counter”と捉えることができるというわけだ。Theoriticalにみてもfunctional
Linearityは「local minimumに陥ることなくsolutionを効率よく高速で見出す」のに利点があるとのこと(もとはMaasの発言らしい)。もちろん、これは数理モデルにおいても、ネットワークを単純なマトリックスで表すことができるわけで、理論家にとっても利点も多い。
▼ 妻が大学帰りに「クリオ・ブルー(Clio Blue)」とかいうブランドのネックレスを買ってきた。最近、日本にも店舗ができたらしい(こちら)。
▼ JNP Theta Rhythmic Stimulation of Stratum Lacunosum-Moleculare in Rat Hippocampus
Contributes to Associative LTP at a Phase Offset in Stratum Radiatum Sarah J. Judge and Michael E. Hasselmo SD♀ラット海馬スライス。Schaffer-CA1のLTPの効率が、S.L-MへのRhythmic入力のPhaseによってどう変わるかを調べた論文。SF君、MTさん必読
9月4日(土)
▼ のんびり起床。午前は過去の日記の整理など。日付を昇順に直した。
▼ 4時ぐらいからぶらぶらと出かける。まず「ミート・パッキング地区(Meat Packing District)」に行ってみる。そのままチェルシー・ピアまで歩く。A Lineに乗ってブルックリン・ブリッジを眺めるポイントまで行き、帰りに中華街の「福臨門海鮮酒家」で食事。さらにタイムズ・スクエアに寄って、妻が大学で映画の勉強に使えるように、Mutlicode(Area
Code Free)のポータブルDVDを買う。私もオペラ鑑賞などに使えそうだ。
▼ 今日は日本で買ってきたデジカメ(Panasonic Lumix DMC-FZ3)の映りをチェック。レンズは確かに素晴らしいんだけど、どうにもフォーカスの挙動にクセがあってまだ慣れない感じ。とりあえず今日撮った写真4枚(ニューヨークの風景)。
▼ あとはTY君の論文のチェック。
▼ イチロー選手。今日もスゴい。5打数5安打。ぜひメジャーの新記録(シーズン最多安打)を狙って欲しい。
▼ 今週のF1000: Neuron A double dissociation between hippocampal subfields: differential time
course of CA3 and CA1 place cells for processing changed environments. Lee I, Rao G, Knierim JJ
▼ 今週のF1000: NB Theta-contingent trial presentation accelerates learning rate and enhances
hippocampal plasticity during trace eyeblink conditioning. Griffin AL, Asaka Y, Darling RD, Berry SD
▼ 今週のF1000: NB Medial temporal lobe function and structure in mild cognitive impairment. Dickerson BC, Salat DH, ..., Albert MS, Sperling RA
▼ 今週のF1000: BI Efficient sampling algorithm for estimating subgraph concentrations and
detecting network motifs. Kashtan N, Itzkovitz S, Milo R, Alon U 必読
▼ 今週のF1000: JN Natural stimulus statistics alter the receptive field structure of v1 neurons. David SV, Vinje WE, Gallant JL
▼ 今週のF1000: EJN Striatal contributions to working memory: a functional magnetic resonance
imaging study in humans. Lewis SJ, Dove A, Robbins TW, Barker RA, Owen AM
9月5日(日)
▼ 東京もそうらしいけど、こちらもすっかり秋の気配。最高20℃で快適だ。フロリダの方では台風は大変なことになっているみたいだけど。
▼ 今日も朝はゆっくり起きる。食料の買い出し以外は自宅に籠もり、TY君の論文の直しに徹する。夜には投稿に漕ぎつけた。Cerebral
Cortex誌へ。
▼ JN The Type IV-Specific Phosphodiesterase Inhibitor Rolipram and Its Effect
on Hippocampal Long-Term Potentiation and Synaptic Tagging Sheeja Navakkode, Sreedharan Sajikumar, and Julietta Uta Frey Wistarラット海馬スライスCA1からLTPの長期モニター。テタヌス中にPDE阻害薬Rolipramが存在するとEarly
LTPをLate LTPに転じるという話だが、これがテタヌス中にPDE阻害薬Rolipramが存在しなくても、その後に別のsynapseをテタヌスするときにRolipramが存在していれば十分だというから面白い(Synaptic
Tagging)。このHeterosynaptic Time-lag AssociationはドパミンD1受容体を介している。LTPを長時間(7時間とか)観察する気力のある人はFreiが長年にわたって提唱している「Synaptic Tag」に手を出してもみるのも良いかもしれない。
9月6日(月)
▼ 今日は「レイバー・デー(Labor day)」という休日。日本流に言えば、勤労感謝の日。この週末連休を境にアメリカは一気に秋の雰囲気になる(はず)。Yusteラボは土日は休みだけど、休日は基本的に休みではない。
▼ というわけで朝いちに起きて、昼過ぎまで実験。悲しいほどに無収穫だった。
▼ 午後は帰宅して、妻が観ていた「Japanese Story」というオーストラリア映画を一緒に観る。意外なストーリー展開を見せる映画だ。切なくも爽やかな感じ
▼ そして、マディソン街を散歩。「シャーパー・イメージ(Sharper Image)」で、妻用のExerciseマシーンと超音波クリーナーを入手。っていうか、どうやってこんなに重たいものを日本に持って帰るんだ?
▼ 夜はVisa誌連載の文章書き。12月号分の原稿なんだけど、今月は忙しくなりそうなので、今のうちに執筆。今回はこれとこれを取り上げた。
▼ YIMさんが出産前から続けていた膨大な追加実験を終わらせて、今朝、Revise投稿したようだ。この気力は私も見習わねば。
9月7日(火)
▼ 朝はRafaとMorganeと3人でMeeting。終わった後で、私に向かってRafaがしたウィンクには何の意味があるんだろう。
▼ その後は実験。まだまだ改善点がありそうだ。
▼ 夕方は古いデータを持ち出してきて、別の側面からデータ解析をしてみる。PCに計算を仕掛けて帰宅。
▼ 夜は論文読みなど。
▼ 課税の疑問点について本郷税務署に電話で聞く。
▼ 予想通り今日からキャンパスは学生でひどく賑わっている。先週は主に新入生のオリエンテーションの期間で、Labor
day weekendを終えた今週からが授業の始まりだ。いやはや、4月のみ異常に混み合う本郷キャンパスを思い出すなあ。ただ基本的に、アメリカの大学の学生は日本の学生よりも授業にはきちんと出席している。今の時期は、本学期に取る授業を自由に(=つまり無料で)変えられる、いわば試行期間なので、いろいろな授業に試しで出てみるというケースが多いらしい。んでキャンパスが混んでいるというわけ。勉学に対して積極的なのが良いところ。
▼ これでフと思い出したが、日本人の学生がよくやる「だって、そんなの習ってないもーん」や「それ、テスト範囲になかったじゃん」的な発言、あれってどう見ても見苦しいよな。勉強は「誰かが教えてくれるもの」とばかり思い込んでいる。もちろん、そんな姿勢では実験なんかできないわけで。
▼ 先日の共和党大会ではニューヨークの街は交通規制や厳重警備で大混乱。んで、大会の成果があってかブッシュ大統領の支持率があがりつつあるらしい。キャンパス内にブッシュ大統領とケリー上議員議員二人の写真が飾られているのを昼に見かけた。その写真の下には大きく「Whoever
wins, we lose」と書かれていた。
▼ PNAS Real-time imaging of single nerve cell apoptosis in retinal neurodegeneration M. Francesca Cordeiro … Frederick W. Fitzke。通常は脂質二重膜の内側にしか存在しないホスファチジルセリン(phosphatidylserine)が、アポトーシスを起こす前に外側に出てくるので、これを結合タンパクannexin
5で検出してやろうという試み(こちら)を、vivoに応用した論文。Alexa Fluor 488-labeled annexinをラットの硝子体に注入し、Staurosporineでアポトーシスを誘導すると、網膜神経節の細胞死を単一細胞レベルでリアルタイムに共焦点モニターすることができる。
▼ PNAS Enhanced neurogenesis in Alzheimer's disease transgenic (PDGF-APPSw,Ind) mice Kunlin Jin ... David A. Greenberg アルツハイマー病モデルマウスの若い脳では、歯状回とsubventricular
zoneの神経新生が2倍くらい高いことを示した論文。死に急ぎか?
▼ PNAS The learning curve: Implications of a quantitative analysis Charles R. Gallistel, Stephen Fairhurst and Peter Balsam 個々の被験体(者)の学習曲線を定量解析するための提案らしい。読んでないんで、よくわからないけど、結論は「the
group-average learning curve cannot give a meaningful measure of rate of
learning. The best measure of would appear to be the latencies to the onset
of responding. 」ということらしい。論文のいたる文面から“怒”を感じる。
▼ PNAS Firing properties of dopamine neurons in freely moving dopamine-deficient
mice: Effects of dopamine receptor activation and anesthesia Siobhan Robinson ... Richard D. Palmiter multiunit記録した黒質ニューロンからドパミン作動性神経を分離。ドパミン欠乏マウスの発火パターンを解析。Basalの発火率はWildと差はないが、ドパミンへの感受性が上昇しており、また麻酔によっても発火率は低下する。
▼ PNAS Changes in connectivity profiles define functionally distinct regions in
human medial frontal cortex H. Johansen-Berg ... P. M. Matthews ヒトfMRI。内側前頭葉をConnectivityに基づいて分類すると、それは機能的にも異なる部位であった。つまり、それぞれ補充運動皮質(supplementary
motor cortex)と前補充運動皮質(pre supplementary motor cortex)であった、という話。「教師なしクラスター解析」をしているのかと思ったら、cross
correlation matrixを作って、“目測で分類”しているようだ。なんと原始的な。
9月8日(水)
▼ 今朝はバス停が混んでいた。大雨でマンハッタンの地下鉄がおおかた止まったかららしい。3時間も電車に閉じこめられたというDavidは「まるで日本の満員電車缶詰状態だったよ、あれは…」とコメント。Jasonが「日本ではホームに乗客を押し込む専門の駅員がいるらしいぜ」と笑っていた(アメリカの駅にはそもそも駅員はいない)。ちなみに私は雨を避け9時半くらいにラボへ。
▼ Markram氏はすでにラボにいた。簡単な自己紹介だけして、すぐに実験開始。実験を始める前にMorganeが両手の指2本をクロスして“えんがっちょポーズ(死語?)”をしている。なんの意味かと訊いたら「フランスでは幸運を呼ぶおまじないなのよ」とのこと。実験が上手く行きますようにっていうヤツだな。ちなみにそれって日本では仲間外れを作るための印だぞといったら驚いていた。んで、肝心な実験だが、パラメータを多少いじってみたが、結局今日もダメだった。今回の実験系自体にそもそも問題があるのではないかという気がしてこないわけではないが、まあ、再トライだ。実験後はMorganeとプロトコールの作戦会議。
▼ 夜は「進化しすぎた脳」の図版チェック。これでほぼ終了。
▼ 今日「フォレスト・ガンプ」を観ていて気づいたこと: 哲学的な問い掛け「(人は)どこから来て、どこへ行くのか」という表現は、英語ではたいてい「where
they're going, where they've been」と言い表す。よくみると「未来(どこへ)」を先に言ってから「過去(どこから)」を後から追記している。日本人の感覚からすれば表現順が逆だ。
そう言われてみれば「遅かれ早かれ」も「Sooner or later」なので逆だよな。。。これって国民性なんだろうか。
▼ そういえば、「さあ、未来へ向かって歩め!」とジェスチャーでゆび指すとき、我々は体の前方向に向かって指し示す。でも、古代ギリシャ(現代でもアジアのどこかの民族)ではまったく逆で、進行方向は過去で、背後方向が未来を表すらしい。時間の概念って民族性がよく現れるのかもしれない。ちなみに、なぜ背中側が未来なのかという理由は「先がまだ見えない」からなんだそう。妙に納得。
▼ Nature Recollection-like memory retrieval in rats is dependent。 記憶の再生には「想起(recollection)」と「以前見たことのあるような親しみ(familiarity)」の二つがある。この二つの記憶再生は「受診者動作特性曲線(ROC曲線:receiver operating characteristic curve)」(← 成績を正答率 vs 誤認率の空間にプロットする方法)によって分離解析することができる。この解析法をラットのOdour
recognition taskに応用したもの。海馬が関与するのはrecollectionの方だけらしい。この解析法は初めて知ったがliberalとconservativeというワードが面白い。
▼ Nature Calcium transients in astrocyte endfeet cause cerebrovascular constrictions SEAN J. MULLIGAN AND BRIAN A. MACVICAR。GFAP promoter-GFPマウスから脳スライス標本を作製。アストロサイトを同定。Rhod-2AMでカルシウム濃度計測しながら、DMNP-EDTA-AM(Caged
Ca2+)をTwo-photonでuncaing。一秒くらいすると小動脈の収縮が起こる。これはPLA2→アラキドン酸→20-HETEを経由している。面白い。
▼ JN Differential Roles of NR2A and NR2B-Containing NMDA Receptors in Cortical
Long-Term Potentiation and Long-Term Depression Peter V. Massey ... Zafar I. Bashir。perirhinal cortex切片2/3層Field記録。なんと成体ラットでもLTDを引き起こすことができるとのこと。どうするかというと、グルタミン酸トランスポーターの阻害薬(t-PDC、TBOA)を適用すればよい。つまり、ExtrasynapticなNR2B含有NMDA受容体を刺激すればLTDが誘導される。面白いことにdepotentiaionはNR2A型のSynaptic
NMDA受容体がトリガーらしい。例のScience論文はこの論文が投稿されたあとに出版されているとのこと。折角だからここら辺の論文もあわせて読むと面白いかも。
▼ JN Brain-Derived Neurotrophic Factor Plays a Critical Role in Contextual Fear
Conditioning Ingrid Y.C. Liu ... Richard F. Thompson。BDNFを海馬内にinfusionすると、BDNF+/-マウスのcontext-dependent
fear conditioningの学習障害が部分的にrescueされるという内容。
▼ JN Hypothermia-Associated Loss of Dendritic Spines Martijn Roelandse and
Andrew Matus。K-ras 4BのC末20残基にfusionしたGFPを導入したGFPtKrasマウスを使ってspineを可視化(ニポウ板共焦点)。室温(24℃)や低温(4℃)に長時間さらすと、スパインのmotilityが減り、さらに数も減る。では、Sliceを切るときはどうしたらいいのやら。。。
▼ MCN RhoA, Rac1, and cdc42 intracellular distribution shift during hippocampal
neuron development Jorge Santos Da Silva, Vanessa Schubert and Carlos G. Dotti
▼ MCN The transcriptional repressor Mecp2 regulates terminal neuronal differentiation Valery Matarazzo ... Gabriele V. Ronnett
9月9日(木)
▼ 午前はデータ解析。Shufflingを用いてWeight DistributionのChance Levelを計算。
▼ 昼はHenry MarkramのTalkを聞きにuptownの病院キャンパスへ。しかし何度みても168 street駅は汚いなあ。
さて、今日のTalkのタイトルは「Reconstructing the Neocortical Microcircuit」。in pressのCC論文を話の導入として、形態学&生理学を中心にこれまでの発見を、未発表データを含め盛り沢山に示してくれた。Microcircuitryの研究を始めてから彼はまだ10年くらいだと思うのだが、一つのテーマを徹底して追い続ける姿勢が研究者にとってとても大切だと感じさせられた。彼はもう大宇宙を築いている。私もやりたいことをもっと絞っていかないと。時間は有限だから。
▼ 今日はTalkを聞きに行く地下鉄ではMarkramの最近のJP論文を読んだ。読むのは二度目なんだが、でもTalkを聞いてから、さらにもう一回読んでみる。ようやくその重要性を認識。SF君とMTさんもぜひ読むべし。概念だけでなく実験方法とデータ解析も参考になるかも。ちなみに、この論文は、今日のTalkの最後に“Operation
Properties”として話の締めに使っていた。Talk中は何度も“Chemograph”という単語を使っていた。わかるようなわからないような微妙な感じだけれど、これが今のMarkramの殺し文句らしく、同論文中にも出てくる。そういえば「タブラ・ラーサ(tabula
rasa:白紙)ニューロン」なんていう言葉もTalk中に飛び出してたな。
▼ ちなみにMarkramラボのデータベースはこちら。Yusteラボのよりも充実している。
▼ 帰りにはハーレムに寄り、「シルビアズ(Sylvia's)」でソウルフードを食べる。有名店なんだけど行ったのは今日が初めて。わりと旨い。
▼ ラボに戻ってからは再度シミューレーション。夕方にはLeslie Loewのsecond harmonicsに関するTalkもあったがこれはやめておく。
▼ 夜は「魔法の発音 カタカナ英語」の第2稿ゲラチェック。こんなアホ本を出版して良いのか。。。不安だ
▼ 寝る前に妻が買ってきた「マリーベル(MarieBelle)」のトリュフを食べる。ここのチョコは旨い!お勧め。
▼ SF君の論文「Chronometric readout from a memory trace: Gamma-frequency field oscillations
recruit timed recurrent activity in the rat CA3 network」がJ Physiol誌に正式に受理された。おめでとう! これはかなり良い論文だと、私は思う。
▼ Science Activation of Endogenous Cdc42 Visualized in Living Cells Perihan Nalbant, ... Klaus M. Hahn Wiskott Aldrich Syndrome Protein(WASP)の201-320aa部分ペプチドのF271にindolenine,
benzothiophen-3-one-1,1-dioxide(I-SO)というDyeを付加すると、Cdc42の活性化に伴って蛍光強度が上昇する。そこで、normalize用にEGFPをfusionしてfibroblastsに注入してみたら、生きたままリアルタイムでCdc42の活性を追跡できた。MeroCBDと名づけられたこの手法の利点は“内因性のイベント”を追跡することができる点。例えばFRETではCdc42/WASPを強制発現させる必要があり、そもそもCdc42自体をGFP等の付加でmodifyする必要があるため、正常な状態を反映しているかどうかは疑わしい。。。という主張。化学に強いラボらしく、そのメカニズムを詳しく調べているが、これが今後ブレークするかどうかは汎用性が高いかどうかにかかっているだろう。
▼ Science Asymmetric Cochlear Processing Mimics Hemispheric Specialization Y. S. Sininger and B. Cone-Wesson
▼ N Targeting of GLUR4-containing AMPA receptors to synaptic sites during in
vitro classical conditioning M. Mokin and J. Keifer 「in vitro conditioning」とはなんだ?と思ったら、脳幹標本に、USとして三叉神経(trigeminal
nerve)を単発刺激、CSとして前庭神経を高頻度刺激することで誘導する神経応答の条件付けということらしい(前報はこちらなど多数あるようだ)。そして、この条件付けをすると外転神経(abducens motor
neuron)のシナプスにGluR4含有AMPA受容体が増えるという内容の論文。
▼ N Remodelling of synaptic morphology but unchanged synaptic density during
late phase long-term potentiation(ltp): A serial section electron micrograph
study in the dentate gyrus in the anaesthetised rat V.I. Popov, ... T.V.P. Blissc and M.G. Stewart SDラットvivo歯状回LTPに伴うシナプス形態を電顕で調べたもの。LTPが生じてもシナプスの数は不変で、その形態が変わるだけだという(shaft/stubby型スパインはelongated
thin型スパインへ、mushroomスパインはPSDのサイスが増大)。→ 松崎先生の論文と比較すべし。
▼ Hippocampus Long-term effects of amygdala GABA receptor blockade on specific subpopulations
of hippocampal interneurons Sabina Berretta, Nicholas Lange, Sujoy Bhattacharyya, Ronnie Sebro, Jessica
Garces, Francine M. Benes
9月10日(金)
▼ 早朝から実験。正直、まだ時差ボケが治っていなくて眠い。今日もプロトコールをちょっといじった。少し改善したけどまだまだだ。パッチすると細胞自体は至って元気に保たれていることが分かったので、さらに激しい条件を検討してみたいところ。
▼ 午後は昨日のMarkramのTalkに関連した論文チェック。それとデータ解析。
▼ 夕方はGlosterのJournal Clubの担当で「Course in Neuroinformatics 2004,
Woods Hole, MA」で得てきた情報を話す。Spike Shufflingのヌル仮説について、主にOram et alのJNP論文の問題点を指摘する。同論文への批判は、(1) Spike Rateの推定分布を前提にしている、(2)
Single Neuronのみで情報を持っているときのみしか有効でない(しかし実際には脳内情報は回路レベル(ensemble)にあるとする考え方が現在では主流)、(3)
コンピューターへの負荷が大きい、(4) ・・・(聴き取れなかった)、の4点に要約されている。んで結局はどのヌル仮説が最適かなんてことは誰にも分からないわけで、つまるところGlosterの結論は「Abondon
these statistical phantoms」ということだった。要するに「計算で悩んで時間を費やすより、実験せよ」ということだ。実験の目的は、(1)
メカニズムを知る、(2) repeat数を操作することができることを示す(刺激、薬理)、(3)
sensory processingに関連づける(究極的には“予測”を可能にし、BMIに活かすこともできる)、ということで、これは最近のpooneil氏からの指摘通りである。ちなみにGlosterが今夏に参加したこのコースはEmery Brownラボの主導で行われたもの。Brown教授が最近Nat Neurosci誌に書いたPerspectiveはこの分野の人はとりあえず読むべきだろう。
▼ 夕食では「稚加榮(ちかえ)」 の明太子を食べる。旨い!
▼ 帰宅後は「魔法の発音 カタカナ英語」の第2稿ゲラチェックを終わらせる。
▼ 科研費公募が発表された(こちらとこちら)。留学中でも申請できるということなので時間を作って書こう。正直いうと申請書書きは大の苦手なのだが、研究費をcontinuousに取得できることは科学者には絶対に必要な条件だから、こればかりは避けられない。
▼ 英単語としての「ニューロン(neuron)」: これを代名詞で受けるとすれば、もちろん「it」。でもMorganeはいつも「she(her)」を使う。「Wow, she is living!」などなど。。。きっとフランス語では「神経」は女性名詞なんだろう。そういえば、昨日のTalkでMarkramは「He」で受けていた。彼はイスラエル国籍として南アメリカで生まれているんだけど、母国語はいったい何だろう。ヘブライ語かな?
▼ Robertoが「おお!Natureの今週号の表紙は(チリの)友達の論文だよ!」と叫んでいた。Natureの表紙かあ、いつか飾ってみたいものだ。友人の初めての論文らしい
→ Nature Restricted growth of Schwann cells lacking Cajal bands slows conduction
in myelinated nerves FELIPE A. COURT, ... PETER J. BROPHY
▼ CC Top-down Dendritic Input Increases the Gain of Layer 5 Pyramidal Neurons Matthew E. Larkum, ... Hans-R. Luscher AOPで読んでいた論文。WistarラットP26-43体性感覚野スライスL5錐体細胞パッチ。Tuftへの入力は近位dendriteやsomaへの入力に比べF/プロットの傾き(Gain)が大きく、さらに同時に入力があるとsomaのgainも上昇させることができる。two-compartment
integrate-and-fireモデルでも同現象を確認している。
▼ CC Selective Amplification of Neocortical Neuronal Output by Fast Prepotentials
In Vivo S. Crochet, ... M. Steriade これもAOPで読んでいた論文。ネコ皮質のregular-spikingまたはintrinsically
bursting neuronからin vivoイントラ記録。Fast prepotential (FPP)と名づけられた、大きさ数mVでsubmillisecondのrising
timeをもった脱分極成分(立ち上がりが速いのでEPSPとは異なる現象)に関する報告。FPPはall-or-noneで、電位依存性(=閾値あり)である。皮質内刺激で惹起することができる。FPPは発火閾値を下げるので、Spike
OutputをBoostすることができる。もしかしたらUp Stateへの移行に関係しているかもしれないなあ、などと思ってみたり。なお、このFPPの現象自体はKandelらが60年代に海馬ですでに報告しているらしい(J
Neurophysiol 24:272-285, 1961)。
▼ CC Identification of the Genes that are Expressed in the Upper Layers of the
Neocortex Yun Zhong, ... Nobuhiko Yamamoto 山本亘彦ラボ。皮質層特異的遺伝子の探索。
▼ CC Preferential Origin and Layer Destination of GAD65-GFP Cortical Interneurons Guillermina Lopez-Bendito,... Ole Paulsen GAD65 promoterのコントロールでGFPを発現させたtransgenicマウスの皮質の全般的解析。培養も使っている。柳川先生のGAD67-GFPノックインマウスの論文と比較すべし。
▼ Nat NeurosciのAOPに林康紀先生とDavid Fersterの最新論文が出ている。とりあえず後者を読む。
9月11日(土)
▼ 朝からいろいろと雑務。講談社のPR誌『本』に寄稿するための原稿書き、年末旅行の計画などなど。
▼ 夜はCarlosとYvetteのFarewell Partyがあるので、ケーキでも買っていこうと、夕方5時くらいから買い物に出かける。「マルケ・パティスリー(Marquet
Patisserie)」で一息ついてから、「パン屋ベーカリー(Panya Bakery)」でイチゴケーキを買う。そのまま「エル・エデン(El Eden)」というチョコレート屋まで歩いたが店自体が存在しなかったので、さらに「ポート・リコ・インポーティング
D・MO(Porto Rico Importing Company)」まで散歩してコーヒー豆を2種類購入して帰宅した。ちなみに今日は「セプテンバー・イレブン(同時多発テロの日)」だけあって、さすがに街の雰囲気がちょっと違った。
▼ そして夜9時前くらい送別会へ。Carlosは最近Karel Svobodaラボで研究しているので、今日のパーティーはラファ研とカール研の合同パーティーだった。安田さんや佐藤さんら日本人勢がいらっしゃらなくて残念だったが、Svoboda先生と個人的にお話しする機会があったのはとても良かった。ただ、彼のラボがカリフォルニアに移転する(かもしれないという)話題に触れると表情を曇らせた。これはかなりsensitive
matterだったようだ(汗)
▼ 去年は男子決勝戦を見たから(こちら)、今年は女子決勝を観戦しようと思っていたUSオ−プンテニス。結局行けなかった。残念。
9月12日(日)
▼ 午前、『本』に寄稿するための原稿をほぼ完成させる。これは書店店頭で無料配布される講談社のPR誌で、つまるところ、近著『魔法の発音
カタカナ英語』をそこで宣伝したいということらしのだ。留学費確保のためには少しでも多く売れて欲しいところが、しかしコレが売れたら大変なことになる。だって内容がヤバすぎる。。。しかも、さっきチェックしたら、すでにamazonなどのオンライン書店では予約を開始しているではないか。全く知らなかった。本当にヤバいって。妻も「かなりマズいんじゃないの」とコメント。。。 イーエスブックスに至っては『気鋭の脳科学者が提唱する、逆説の英語習得法! 「アニマル」では通じないが「エネモウ」なら通じる!
独自のカタカナ英語ルールでネイティブ並の発音が可能に。日本人の脳にもっともフィットした英会話実践術』とまで高らかに謳われている。ひえ〜、皆さん、それウソです(私の英語を聞いたことがある人ならわかるはず)。明らかに一人歩きしているなあ。 あー、もうどうなっても知らん。ところで、まだ出版社と契約してないんだけど、印税ってどのくらいなのかしら
(爆) まさかゼロ?
▼ 午後はデータ整理とシミュレーション。待ち時間はもろもろのスポーツ番組を、テレビやらネットやらで見る。
▼ 一昨日、「neuron」という単語について書いた。これで、ふと思ったのだが、neuronの語源はラテン語でいう「弦」という意味だ。これはそれなりに理解できる気がする。でも日本語の「神経」いう単語をよくよく眺めてみると「神が通る道」って意味なんだよなあ。まあ、これも或る意味では理解できるけど。
▼ 今週のF1000: NN Multiplexing using synchrony in the zebrafish olfactory bulb. Friedrich RW, Habermann CJ, Laurent G
▼ 今週のF1000: JBC Systemic catabolism of alzheimer's Abeta 40 and Abeta 42. Ghiso J, Shayo M, ..., Rostagno A, Frangione B
▼ 今週のF1000: Science That's my hand! Activity in premotor cortex reflects feeling of ownership
of a limb. Ehrsson HH, Spence C, Passingham RE
▼ 今週のF1000: PNAS Varicella-zoster virus infection of human neural cells in vivo. Baiker A, Fabel K, ..., Weissman I, Arvin AM 帯状疱疹の動物モデル
9月13日(月)
▼ 朝から実験。少しは前進を見るがまだまだだ。。。
▼ AM9時からGlosterの研究報告。Neuronに投稿するんだそう。これは通りそうな予感がする。
▼ 夕方はSmall network modelのシミュレーション。
▼ 今日は妻の誕生日。夜は大学帰りの妻と合流して「ピカソ・レストラン(Picasso
Restaurant)」でスペイン料理を食べる。こういう肩肘張らなくて安い(でも美味しい)店が僕は好きだ。
9月14日(火)
▼ 朝、実験。また条件をいじる。ちょっと改善。
▼ 午後はデータ整理&図作り。
▼ 夜は再び実験。もっと状態が改善されて、久々にデータが取れる。
▼ 日本人にどうにもなじみの薄い習慣はチップ(tip)という制度。レストランやタクシーや美容院などで感謝の気持を込めて払うのだ。だいたい総額の15〜20%が相場。サービスが良かったらもっと払っても良い。んで、これは任意なのかと思っていたんだけど、意外や意外、チップの支払いは義務みたいで、払い渋ると「サービス窃盗」の容疑者として逮捕されるらしい(記事はこちら)。まぢですか。。。
▼ 昼にスーパーでネギと卵をかって「1ドル78セント」の買い物をした。2ドル8セント払って切りよく30セントのおつりを要求。アホだった。アメリカには25セント硬貨があるので、こんなときは2ドル3セントを払うべきなのだ。。。疲れてるな
▼ PNAS Deletion of Bax eliminates sex differences in the mouse forebrain Nancy G. Forger, ... Geert J. de Vries 分界条床核 (the bed nucleus
of the stria terminalis=BNST)はオスのほうが、腹側前脳室周囲核(anteroventral
periventricular nucleus )はメスのほうが神経数が多い。でも、Bax KOマウスではこの雌雄差がなくなる。ゆえにBAXは性ホルモン依存性細胞死に絡んでいるのではないかという内容。ただ、KOしても完全に雌雄差がなくなるというわけではないらしい。というか、BAXなんて壊しちゃったらもっと別のところでがんがん差が出そうなんだけど。。。(参考文献はこちら)
▼ PLoS Emerin Caps the Pointed End of Actin Filaments: Evidence for an Actin Cortical
Network at the Nuclear Inner Membrane James M. Holaska, Amy K. Kowalski, Katherine L. Wilson エメリン(emerin)は、その欠損がエメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー(Emery-Dreifuss
muscular dystrophy (EDMD)を引き起こすことで知られているタンパク。これはActin
FilamentのP端(pointed end)に結合する。それゆえに核内膜での αII-spectrin/actin
networkを安定化しているのだろうと推測。MKY先生の研究テーマにちょっと関係ある?
▼ PLoS The Rab5 Effector Rabankyrin-5 Regulates and Coordinates Different Endocytic
Mechanisms Carsten Schnatwinkel, ... Parton, Marino Zerial Small GTPaseであるRab5で活性化されるRabankyrin-5についての話題。
▼ PLoS Amplification of Trial-to-Trial Response Variability by Neurons in Visual
Cortex 同じ視覚刺激でも応答する神経の発火率はTrialごとにばらつく。それを説明するためのシンプルなモデル。
9月15日(水)
▼ 早朝に大学に行き、昨夜にやったデータの整理。その後、9時から昼前までRafaと相談。まだいろいろと改善点はありそうだ。
▼ ところで、いまだにどうにもなじめないのは「きれいなデータが一例とれたら、そのデータが真実を表しているんだよ」という“一例至上主義の(生理学者の)視点” Rafa研のメンバーにはこの考え方がよく浸透している。相手は生物なんだからいつでも同じ応答をするとは限らない
−− たしかにそうなんだけど、でも、データのばらつきや普遍性を気にする薬理学を背景に育った私にはどうにもなじめない考え方だ。“一例主義”の視点で言えば、すでに持っているデータでもうばっちりOKということになるが、でも、私には再現性の“容易さ”がどうしても気になる(再現性自体はあるんだけど)。現時点ではImagingする前に“染色の良さ”を基準に70%以上のスライスを捨てている。さらにImaging後に“ActivityのLevel”をクライテリアにして50%以上が廃棄される。つまり、ベストを欲したら平均10枚のスライスから1枚データを取るのが精一杯。実験自体は一日4枚がMAXだ。これでは再現が容易だとはいいがたい。しかも、スライスを“選んでいる”というBiasがデータに与える影響は計り知れないと思う。誰になんと言われようとも、もっともっと効率を上げないと。。。ちなみに先のScience論文では“非ベスト”スライスを含めたすべてのムービーを解析してデータとして示している。
▼ ま、でも、今日、Rafaと話して、なんというか、最近無意味に焦っていたのが少しは気持ちが落ち着いた。こういうボスの元で実験ができるのは本当に幸せだと思う。
▼ 午後はデータ解析。なんだか気合いが入らないので、主に図を作る作業。夜まで続ける。
▼ ゲルギエフが来日公演に合わせてチャイコフスキーの交響曲第4〜6番を録音したみたい(こちら)。しかもウィーンフィル(5番はすでに録音発売済み)。欲しいなあ。しかし、CD3枚組で高いので買えない。
▼ Nature Long-lasting self-inhibition of neocortical interneurons mediated by endocannabinoids ALBERTO BACCI, JOHN R. HUGUENARD & DAVID A. PRINCE SDラットsomatosensory
cortexスライス。layer Vのlow-threshold-spiking (LTS)interneuronを連続でburst発火させると、Kコンダクタンスが上昇し、静止膜電位が過分極側にシフトする。これは刺激を止めても数分間は可塑的に持続する。この現象は2AGで再現され、またAM251で阻害される。したがってカンナビノイドが絡んでいる。データは美しいし面白い。今後の課題はネットワークレベルへの寄与を追求していくことだろう。MTさん必読。
▼ Neuron A CaMKII/Calcineurin Switch Controls the Direction of Ca2+-Dependent Growth
Cone Guidance Z. Wen, C. Guirland, G.-l. Ming, and J.Q. Zheng Xenopusの培養脊髄神経にcaged
Ca2+で成長円錐の針路変更を惹起。んで、CaMKIIが誘因性、calcineurin-protein
phophatase-1 が反発性に絡んでいることを示唆。lこの知見はPooらが提唱するcAMPレベルによる双方向性制御を考える上で重要なのはもちろん、成熟神経でもこの二つのタンパクはLTP/LTDにおいて相反的に働いているので、その意味でも面白い。RXY君必読。
▼ Neuron Endocannabinoid-Mediated Metaplasticity in the Hippocampus V. Chevaleyre and P.E. Castillo ラット&マウス海馬スライスCA1錐体細胞。カンナビノイドは抑制神経にLTPを引き起こすのだが、これによって興奮性のLTPが起こりやすくなるので(priming効果)、結局、カンナビノイド制御系はメタ可塑性のサポートだということになる。
▼ Neuron Extinction Learning in Humans: Role of the Amygdala and vmPFC LeDouxの論文なので載っけとく。ヒトfMRI。未読。ネタ。
▼ JNS Hippocampal Long-Term Potentiation Suppressed by Increased Inhibition in
the Ts65Dn Mouse, a Genetic Model of Down Syndrome Alexander M. Kleschevnikov, ... Robert C. Malenka, and William C. Mobley ダウン症のモデル動物である「Ts65Dnマウス(16番染色体がトリソミーになっている)」ではGABA系が亢進していて、それでLTPが抑制されているらしい。
▼ JNS Epilepsy in Small-World Networks Theoden I. Netoff, ... John A. White スモールワールドネットワークを使ったてんかん発火伝播のシミュレーション。シンプルなモデルだけど思わず反応。
▼ JNS In Vivo Measurement of Brain Extracellular Space Diffusion by Cortical
Surface Photobleaching Devin K. Binder, ... A. S. Verkman マウス脳に Fluorescein-dextran (4-500
kDa)をvivoロード。photobleachingからの回復で細胞外間隙の容積を測定。pentylenetetrazolで発作を誘導すると拡散速度が減少、逆にAQP4
KOマウスでは上昇。いちおうspilloverの論文を書いたことがあるので、ここも反応しておく。
▼ JNS Mechanism of Spontaneous Firing in Dorsomedial Suprachiasmatic Nucleus
Neurons Alexander C. Jackson, Gui Lan Yao, and Bruce P. Bean ラット視交叉上核
(suprachiasmatic nucleus)背側部の神経細胞を急性単離。この細胞はTTX存在下でもsubthreshold
actiivtyを示す。これの解析。けっこうごちゃごちゃしていて実験としては切れ味悪い感じだけど、とりあえず、backgroundカレントとTTX感受性Naカレントの特性が重要なんだということは確か。あとで熟読予定。
▼ JP Persistent decrease in synaptic efficacy induced by nicotine at Schaffer
collateral?CA1 synapses in the immature rat hippocampus Laura Maggi, ... Enrico Cherubini Wistarラット(P1?P7)海馬Schaffer-CA1シナプス。高シナプス確率のシナプスではニコチンは放出抑制し伝達効率を下げる。逆に低確率シナプスでは増強させる。その効果はPersistentである。DHβE
(1 μM)と-BGT (100 nM)を使って、抑制効果がα7およびβ2含有nAChRに、促進効果はα7-nAChRによっていることを示している。
▼ JP Lesion-induced enhancement of LTP in rat visual cortex is mediated by NMDA
receptors containing the NR2B subunit Markus Huemmeke, Ulf T. Eysel and Thomas Mittmann ラット視覚野をレーザーで局所破壊。2〜6日後にスライスを作成すると、Lesion近傍の4→3層シナプスでLTPが増幅している。この増幅成分はifenprodilできれる。つまりNR2B。
9月16日(木)
▼ 午前、実験。今日はスライスの活きそのものが今ひとつ。神経活動が見られたのは一つだけ(汗) いかんいかん
▼ 昼に従兄弟2人が遊びにきた。これから3泊していく予定。
▼ でもとりあえず大学にもどり、ちょっとした調べものと、データ解析&図作り。結構進んだ。
▼ 夜はNY名物のピザを食べにブルックリンの「グリマルディーズ(Grimald's Pizzeria)」へ。なかなかの味。その後はRiver Cafeの経営する「ブルックリン・アイス・クリーム・ファクトリー(Brooklyn
Ice Cream Factory)」
▼ Cell Neuroprotection in Ischemia: Blocking Calcium-Permeable Acid-Sensing Ion
Channels Zhi-Gang Xiong, ... Roger P. Simon プロトン感受性チャネル (acid-sensing
ion channel)の一種であるASIC1aは、虚血時のアシドーシス(acidosis)に伴って開口し(pH0.5
= 6.2)、Caを流入させる。 ASIC1a阻害薬であるPcTX毒素(タランチュラ毒)の脳室内投与や、ASIC1aノックアウトマウスで、middle
cerebral artery (MCAO:中大脳動脈)の一過性局所虚血による梗塞が抑えられるという。臨床的にはNMDA受容体ブロッカーは無効だとされているので、これは重要な知見。
▼ Science 表紙にもなっているように今号は北朝鮮の特集。
▼ Science Two Distinct Actin Networks Drive the Protrusion of Migrating Cells A. Ponti, M. Machacek, S. L. Gupton, C. M. Waterman-Storer, and G. Danuser
9月17日(金)
▼ 午前、大学およびその周辺を従兄弟たちを案内。リバーサイド教会、グラント将軍の墓、アポロシアターなど。
▼ 午後実験。新しい色素も試してみる。
▼ 今日はBoazの文献紹介。ちょっと古いNeuroscience Research誌のこの論文が取り上げらた。議論の内容はここに書かない方が良いと判断。ちなみに論文のP173の脚注はかなり笑える。
▼ 夜は従兄弟をYankee Studioに連れて行く。今日は人気チーム・レッドソックスとの一戦なのでチケットは取れなかったため(2ヶ月前に売り切れ!)、ダフ屋から買って入場(20ドル)。ゴジラ松井は今日で3戦連続の無安打になってしまった。デジカメで12倍の光学ズームと4倍のデジタルズームで、席に座ったままここまで拡大して撮れた。もちろん画像は荒いけど。。。
▼ 妻からの情報。チップは払わなくても良くなったということ(CNN記事はこちら)
▼ ラジオからバーバー作曲の組曲「思い出(Souvenirs)」という曲が流れていた。私は初めて聴いた曲。でも知っているメロディーがいっぱい詰まっていた。「借用音楽」のようだ。
▼ ベリオの「シンフォニア」を引き合いに出すまでもなく、“借用(パクリ)”という手法は「芸術」として立派に認められている。「コラージュ」と呼ばれる技法である。過去の作品から部分を借りてきて新作品を作るのだ。極端なケースではすべてが借用ということもある。なんだか、私の書く科学論文みたいだな。英語が苦手で、しかも、プロの英文校閲に依頼するだけのお金を持っていない私がこの世界で生き延びるための唯一の手法は、いろいろな論文から英文をパクって、それを細かくツギハギしながら論文を仕上げるという方法である。いってみれば、私の英文は「コラージュ」で成立している。だから、私の場合は論文を“書いている”というよりも、英文を“編集”しているにすぎない。キルト手芸である。
▼ そう考えてみると、日本語だって同じことが言える。こうやって“言葉”を使って日記を書いているが、でも、こうした日本語の表現法や修辞法などは、なにも私が編み出したわけではない。会話やテレビや本などから日常のうちに知らず知らずに学んだ言葉を、つなぎ合わせて文章を書いているにすぎない。すべて借用だ。オリジナルがもはや何処かわからないだけの話で、私の書くコラージュ論文と本質的には変わらないわけだ。
▼ これを突き詰めると、言葉に限らず、結局、人間にはオリジナルなんてないようにさえ思えてくる。模倣の人生。そうなのだ。自分にできるのは、せいぜい「既に存在しているモノ」の組み合わせ具合を変えるだけなのだ。
▼ 「人生とは編集作業」 −− じつは、これは妻の人生哲学そのものである。私が『海馬』という本のあとがきに書いた文章は、まさにこの内容なんだけど、実をあかせば、内容そのものはまったくの妻からのパクリである(本人から許可取得済み。あ?これもまた借用か)。
▼ ちなみに、「所詮、編集にすぎない」という考え方は決してネガティブな思想ではない。少なくとも私には「まあ、どんなにがんばってもどうせパクリなんだから、初めから堂々とパクればいいさ」となる。それが私が書く科学論文の文章の姿である。唯一の問題は著作権との兼ね合いだな。
9月18日(土)
▼ 午前は薬局と本屋へ。日本で流行中とかいう「コエンザイムQ10(CoQ10、ビタミンQ)」を買う。健康と美容のためなんだそう。純100mg錠が100錠入って33ドルなんだけど、これって日本よりは安いらしいんだけど、でも出費:効果比として安いんか?
本屋では姪っ子に英語の絵本を買ってあげる。明日帰国する従兄弟に持たせて、日本から郵送してもらう予定。さらにコロンバスサークルにある行きつけの画材屋で念願だったマンハッタンの風景写真を2つ入手。
▼ あとは夜までデータ解析と図作り。途中、ラボに文献のコピーに行くが、ラボには誰もいなかった。
▼ ドラゴンクエストVIIIの発売日が決まったらしい。11月27日。もうTVゲームは何年もやっていし、これもやらないだろうけれども、でもドラクエだけに気になる。公式ページはこちら。
▼ 今日は松井選手は打ってくれた。100打点到達。良かった良かった。 ところで、昨日は知らないうちにボンズ選手が通算700号ホームランを達成していたようだ。素晴らしい。彼の今季の成績は現在打率.372、ホームラン43本、打点97なんだけど、一番スゴイのは四球の数で207もある。松井選手は選球眼が良くてメジャーの中でもトップレベルに四球は多いんだけど、それでも82個だから、ボンズの207という数字がいかに突出しているかわかる。もちろんメジャー新記録。
▼ Christopher deCharmsの言葉:『認知や行動を視野に入れることなく神経活動を理解しようと試みることは、音楽を聴かずして楽譜の数学的特徴を解析することに似ている』 名言だと思う。Raster解析に精を出す私への自戒の意を込めて掲載。
9月19日(日)
▼ 従兄弟たちが朝帰っていった。午前は仕事。んで、午後は、入れ替わりでやってきたお母様とお姉様を迎えにJFK空港まで迎えにいく。初めて地下鉄EラインのJamaica駅側からエアスカイで空港にアプローチ。こっちのルートのほうが早く現地に到着できることが判明。
▼ 待ち時間は、昨日まとめてコピーした、NTT基礎研の前田英作先生や神保泰彦先生らのMEA関連の論文を7,8報まとめて読む。ここら辺の論文(1,2,3)はやはり何度読んでも圧倒的に面白い。
▼ Gardenerさんの日記から、明神選手がバッシングを受けていることを知る。今のチームの不甲斐ない成績の責任を、柏レイソルのサポーターは彼に押しつけているだけなのだろうけれど、過密な試合スケジュールの合間を縫って我々の結婚パーティーに参列してくれたという個人的な強い思い入れもあって、私はどうしても明神君を応援したくなる。がんばれ。
9月20日(月)
▼ 早朝、お母様、お姉様、妻を見送って、すぐに実験に取り掛かる。RafaがTobias Bonhoefferをラボに連れてきてビックリした。
▼ 9時からはLab Meeting。今日はBoazとJiangの研究報告。Spike起始部の確率的変動とそのImagingについて。
▼ 昼過ぎまで実験して、残りの時間はデータ解析&雑務。
▼ 夜、ナイアガラの滝へ日帰り観光にいった3人をアパートで出迎える。天気も良く、楽しめたようで何より。
▼ PNAS Amygdala stimulation modulates hippocampal synaptic plasticity Kazuhito Nakao, Koji Matsuyama, Norio Matsuki, and Yuji Ikegaya KN君の論文がオンラインで掲載された。おめでとう。
▼ JP Chronometric readout from memory traces: Gamma-frequency field stimulation
recruits timed recurrent activity in the rat CA3 network Shigeyoshi Fujisawa, Norio Matsuki, and Yuji Ikegaya SF君の論文が既にオンラインで掲載されていたのに気づかなかった。こちらもおめでとう。
▼ PLoS A Neuroeconomics Approach to Inferring Utility Functions in Sensorimotor
Control Konrad P. Kording, Izumi Fukunaga, Ian S. Howard, James N. Ingram, Daniel
M. Wolpert 未読。ニューロエコノミクスだとさ。。。 メモ:「効用関数(utility function)」から変数次元を落として“特定の効用水準を与える消費量の集合”を表した曲線が「無差別曲線(indifference
curve)」と呼ばれる。なるほどね。
▼ JNP Properties of Quantal Transmission at CA1 Synapses Sridhar Raghavachari and John E. Lisman ここら辺(1,2,3)の新知見を元に、AMPA受容体の活性化/脱感作のモデルを作り、グルタミン酸vesicle放出の時空パターンをMonte
Carloシミュレーションすることで、量子的反応のKineticsを比較的正確に記述できたという論文。
▼ JNP Contribution of Ih and GABAB to Synaptically Induced Afterhyperpolarizations
in CA1: A Brake on the NMDA Response Nonna A. Otmakhova and John E. Lisman 上の論文と同じくLismanラボから。Long-Evansラット海馬スライスCA1錐体細胞パッチ。Schaffer線維と貫通線維のEPSPに続く後過分極(AHP)の機構を調べたもの。前者はIhに、後者はIhとGABAbに依っている。そのほかもろもろ。
▼ JNP Slow Afterhyperpolarization Governs the Development of NMDA Receptor-Dependent
Afterdepolarization in CA1 Pyramidal Neurons During Synaptic Stimulation Wendy W. Wu, C. Savio Chan and John F. Disterhoft F344XBNラット左側海馬スライスCA1錐体細胞パッチ。後過分極(AHP)はNMDA受容体のMg再ブロックを促進するという、まあ、言ってみれば当たり前のデータなんだけど、でも、AHPが、Neuromodulator(図1)やプレの発火パターン(図2)で変化を受けたり、細胞によっても差があったりして(図3)、こうした前置きデータを丁寧に示しているから、論文の結果や結論がとても活きる。
▼ JNP Functional Connectivity in Layer IV Local Excitatory Circuits of Rat Somatosensory
Cortex Anna I. Cowan and Christian Stricker Wistarラット体性感覚野スライス第4層star錐体細胞とspiny
stellate細胞同時パッチ。synaptic parameterの比較。Yusteラボ用に掲載。
▼ JNP Brief Trains of Action Potentials Enhance Pyramidal Neuron Excitability
Via Endocannabinoid-Mediated Suppression of Inhibition Dale A. Fortin, Joseph Trettel and Eric S. Levine マウス皮質スライスL2/3錐体細胞。depolarization-induced suppression of inhibition (DSI)について調べた論文。ただし、ここではAP Trainで誘導している(前報を参考)。もちろんこのDSIカンナビノイド受容体を介しているのだが、これによって錐体細胞のスパイク確率が上昇するというのが新しい点。興味があればMTさんあたりどうぞ。
▼ JNP Functional Connectivity Between the Red Nucleus and the Hippocampus Supports
the Role of Hippocampal Formation in Sensorimotor Integration Audny T. Dypvik and Brian H. Bland 未読。
▼ JNP Brain State-Dependency of Coherent Oscillatory Activity in the Cerebral
Cortex and Basal Ganglia of the Rat Peter J. Magill, Andrew Sharott, J. Paul Bolam and Peter Brown 未読。
9月21日(火)
▼ 朝から実験。今日もまたちょっと進歩。でも残念ながらスライスの調子がいまいち。
▼ 9時からRafaとMorganeの3人でちょっとばかし話し合い。Rafaはこの新しい方法に期待を寄せているようだ。でも、まだ期待するには早そう…というか、どちらかというと、私としては、なかなかうまく行かずにフラストレーションがたまり気味。
▼ 午後はデータ整理ほか。International OfficeでDS2019の更新。
▼ 夜は今シーズン初のクラシック音楽コンサートへ。ようやく今季もシーズン開幕。今夜はメトロポリタン歌劇場でビゼー作曲の「カルメン」。実はメトのカルメンは3回目。でも今日は、指揮がジェームズ・レバイン(James
Levine)、歌手がオルガ・ボロディナ(Olga Borodina)、ニール・シコフ(Neil
Shicoff)、ヘイ・キュン・ホン(Hei-Kyung Hong)という超豪華な布陣。さすがはSeason
Premiereだけあるな。演奏のレベルは過去三回の中では最高。とても楽しめた。私はヘイ・キュン・ホンをとりわけ高く評価している。その透き通った声はミカエラにぴったしだ。シコフの「花の歌」も感涙ものだった。それにしても、カルメンはホントに良い曲だなあ。
▼ オペラは2幕で抜けて、タクシーで「レインボー・ルーム」へ。ここは2月20日に行って以来2度目だ。やはりマンハッタンの夜景は美しいなあ。
▼ Markramが最近出したinterneuron関連のNRN誌への総説がラボに一斉配布された。読めということか?
▼ 台湾のマスコミでもYusteラボのScience論文が取り上げられていたことを知る(ここ)。タイトルは「日科学家:部分脳神経細胞活動有固定節奏」とある。なんとなくわかるようなわからないような。。。
▼ イチロー選手5打数5安打。大記録達成がいよいよ現実的に。
▼ マンハッタンでは犬の散歩をする人々の姿をよく見かける。見たこともないヘンテコな犬(正直に言えば、人間の手でここまで姿をいびつにされてしまって気の毒なくらいに奇妙な犬たち)を、これ見よがしに連れてあるく上流階級の方々が多い。そうした風変わりな犬を見るのもマンハッタンならではの楽しみである。
▼ 犬は糞をする。もちろん礼儀として、飼い主はその場で糞をビニール袋に拾って持ち帰ることになっている。こうしたマナーが徹底されているのは東京でも同じだ。今日、大学の帰り道、盲導犬を連れた婦人を見かけた。盲導犬はもちろん、道ばたで糞をしないようにシツケられている。でも、盲動犬だって動物。ときには体調も悪くなるだろう。盲目の主人を連れて歩いている“仕事中”に、糞をしたくなることもあるにちがいない。今日私が見かけたのは、そんな風景だった。もちろん、盲導犬が路上で糞をしているのを見るのは初めてだ。目の見えない婦人は、しかし、マナーに則り、糞を持ち帰ろうとしている。手探りで糞を探し、手を汚しながらも、拾い上げていた。その懸命な姿に、「手伝いましょうか?」と声を掛けたかった。。。が、なぜか、できなかった。どうして手伝ってあげられなかったんだろう。なんとなく声を掛けるタイミングが合わなかったのか。。。 いざというときに“優しさ”をストレートに表現できないようでは、それこそダメ人間だ。自責。とても
とても とてーも 後味のわるい夕方だった。
▼ PNAS Molecular basis for catecholaminergic neuron diversity Jan Grimm, Anne Mueller, Franz Hefti and Arnon Rosenthal
▼ PNAS A nontransgenic mouse model shows inducible amyloid- (A) peptide deposition
and elucidates the role of apolipoprotein E in the amyloid cascade Iftach Dolev and Daniel M. Michaelson
▼ PNAS A balance between excitatory and inhibitory synapses is controlled by PSD-95
and neuroligin Oliver Prange, Tak Pan Wong, Kimberly Gerrow, Yu Tian Wang and Alaa El-Husseini
▼ N Environmental enrichment reduces the mnemonic and neural benefits of estrogen J.E. Gresack and K.M. Frick いろいろな内容が詰まっているが、Richな環境が海馬のBDNF発現を減らすっぽいのが面白い。
▼ 今週のF1000: J Comput Neurosci Oscillations in large-scale cortical networks: map-based model Rulkov NF, Timofeev I, Bazhenov M 新しい神経モデル。あとでじっくり読むべし。
▼ 今週のF1000: Nat Neurosci Synchrony and covariation of firing rates in the primary visual cortex
during contour grouping Roelfsema PR, Lamme VA, Spekreijse H
9月22日(水)
▼ 朝から実験。途中でO2が切れた。。。マジかよ。ありえないミス。エアがどこかから漏れているようだ。
▼ 午後はもろもろのたまっていた仕事。そしてデータ解析。
▼ 夜はヤンキー・スタジアムへ。ブルージェイ戦。ゴジラ松井2塁打。でも、試合は負けたので、マジックは8のまま。
▼ どうでもいい知識だけど、今日訪れたブロンクスにあるヤンキースの本拠地球場を「ヤンキース・スタジアム」と呼ぶ人が結構いるけど、正確にはYankee Stadium、つまり「ヤンキー・スタジアム」である。単数形だから要注意。ちなみにStadiumの正しい発音は「ステイディアム」。似た単語に「Studio(スタジオ)」があるけど、これは「ステューディオ」となる。あ、ほんとにどうでもいい知識だなあ。
▼ おっと、これでふと思い出したので、ついでに書いておく。「アボカド(avocado)」を「アボガド」と言う人が圧倒的に多いけど、これはとっても不思議。「c」だから濁らないのが正解。 あ、さらに、ついでに「茨城」は「いばらぎ」じゃなくて「いばらき」。これも濁らない(こちら)。
▼ 今日久々にアクセス解析してみると「小山隆二」というキーワード検索で私のHPにたどり着くケースが何度かあったみたい。小山隆二って誰だろう。芸能人?
▼ イチロー選手、4安打。あと10本。
▼ Nature A frequency-dependent switch from inhibition to excitation in a hippocampal
unitary circuit MASAHIRO MORI, MATHIAS H. ABEGG, BEAT H. GAHWILER & URS GERBER Wistarラット海馬スライス培養。顆粒細胞とCA3錐体細胞のDualパッチというびっくりの技法。ネットワーク特性を通じて、低頻度発火のときは抑制系が、高頻度発火のときは興奮性が優位になるというデータ。interneuronの同定の問題が残るものの、海馬屋さんには重要な論文なので、MTさんはもちろん、SF君とRK君も読むように。
▼ Nature Impaired PtdIns(4,5)P2 synthesis in nerve terminals produces defects in
synaptic vesicle trafficking GILBERT DI PAOLO, ... PIETRO DE CAMILLI ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸(PtdIns(4,5)P2)の合成酵素PIPキナーゼ1γのノックアウトマウスの解析。プレ終末のvesicle
recycling rateが落ちる。
▼ JNS Theta-Modulated Place-by-Direction Cells in the Hippocampal Formation in
the Rat Francesca Cacucci, Colin Lever, Thomas J. Wills, Neil Burgess, and John
O'Keefe ラット海馬傍回に存在する「場所&(頭の)方向」の両者をコードする細胞(theta-modulated
place-by-direction cell)の話。この細胞の発火タイミングはシータ波の溝にロックされていて、非常にregularである。とりわけ面白いのが“方向性のcoding”には環境を越えた普遍性がありそうだという結果(図8)。O'Keefeは超スペシャルな発見を低IF雑誌にひょいと出したりするので(有名な例はこれやこれ)、彼の出す新作はどの論文も侮れない。ちなみに海馬周辺の(単純)場所細胞については、MoserによるScience誌のArticle論文が非常に重要な知見を報告しているので、海馬屋さんは必読。
▼ JNS Cycling of NMDA Receptors during Trafficking in Neurons before Synapse
Formation Philip Washbourne, Xiao-Bo Liu, Edward G. Jones, and A. Kimberley McAllister ラット皮質神経培養(onアストロサイト)。シナプス形成以前の樹状突起上でのGFP-NR1のtraffickigを見ている。exo/endocytosisを盛んに起こす“ホットスポット”があって、スポット−スポット間はmicrotubule
transport-based traffickingで受容体の移動があるという内容。スポットの50%のNMDA受容体は絶えずリサイクルされているのにもかかわらず、17%しか横移動が見られないことから、exo/endocytic
cyclingは安定なstreamであると考えられる。
9月23日(木) 結婚記念日
▼ 朝、コロンビア大学とリバーサイド教会を案内した後に、お母様とお姉様をJFK空港まで見送る。
▼ 今日は休みを取っていたけれど、午後はラボへ行って、Morganeの実験の様子を見ながら、今後の対策を検討。
▼ ちょっと早めに帰宅して『進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線(朝日出版社)』の第三稿ゲラをチェック。帯文句は「『海馬』の著者による面白くてちょっと恐ろしい脳の話。自由意志からアルツハイマー病の原因まで、おどろくべきトピックスの数々。脳の謎と魅力と潜在力をわかりやすく解き明かす、どこにもない独特の内容です」だそうだ。これは、まあ、あながち間違ってないかも。
▼ 夜はエヴリー・フィッシャー・ホール。ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団のコンサート。地下鉄が止まって、一曲目のメシアン作曲「忘れられた捧げ物」が聴けなかったけど、マキシム・ヴェンゲロフ(Maxim Vengerov)のソロによるメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」には間に合った。ソロの輝きのある音がホレボレする。アンコールのバッハの「無伴奏バイオリンソナタ」がこれまた好い。彼はいつの日か“巨匠”と呼ばれるようになるだろうな。そんな風格が二十代の今からすでにある。後半のプログラムはベート−ヴェンの交響曲第7番。マゼールの指揮だけに悪いはずがない。二楽章の甘美な弦や、最終楽章の疾走ぶりがとりわけ良かった。アンコールはドヴォルザークのスラブ舞曲作品72-1。にしても統一感のない演目だなあ。演奏が良いから、まあ良いんだけど。
▼ 私はベートーヴェンの交響曲第七番が大好き。ベートーヴェンは三十代に作曲技法を大胆に開拓して自分の作風を確固たるものにした。この曲は四十歳のときに書き始めている。つまり、彼の集大成とも言うべき作品だ。実際、管弦楽曲の分野において、この曲は彼の最高傑作だろう。少なくとも私はそう信じている。対位法は粋を極め、リズムの統率力は入神の域に達している。
▼ 帰宅後はシャンパンで結婚記念日を祝う。
▼ ヤンキース、プレーオフ進出決定。
▼ Cell A behavioral role for dendritic integration: HCN1 channels constrain spatial
memory and long-term potentiation at cortical inputs to distal dendrites
of CA1 pyramidal neurons Morozov、Kandel、Siegelbaum、BuzsakiというNYメンツで論文が通ったらしい。アブストはこちら。たぶん去年のCell論文の続報系だろう。いつ出るのかな。たぶん今月か来月。
▼ Science Recycling Endosomes Supply AMPA Receptors for LTP Mikyoung Park, ... Michael D. Ehlers 海馬神経 Rme1やその変異体Rme1-G429R、もしくはRab11a-S25Nを用いてrecycling
endosomeのrateをコントロールすることで、AMPA受容体transportやLTP誘導におけるrecycling
endosomeの重要性を示している。
▼ Science Comment on "Role of NMDA Receptor Subtypes in Governing the Direction
of Hippocampal Synaptic Plasticity"この論文の結果に基づいた提案。「Liu et al. modestly omitted reference to a previousstudy from the same group supporting
precisely this principle」という皮肉の効いた表現が面白い。SpilloverによってヘテロLTDを説明できるというもの。Kullmannラボらしい。これに対するWangの返答はこちら。
9月24日(金)
▼ 朝から実験。ふう。。。だめだ今日も。でも変わりにMorganeがわりと良さ気なデータを出してくれた。ありがとう。
▼ 昼休み。日本語で「メロンパン」と書いたビラを持ちながら、アメリカ人が自作パンを路上販売していた。値切って1ドルで買った。手作りにしてはまあまあかな。
▼ 午後は文献の整理やデータ解析。それにちょっとだけプログラミング。
▼ 夕方はJiangの文献紹介。今日はこれが取り上げられた。正直言って今日の議論の50%は聴き取れなかった(あぁ、なさけな)。でも、個人的な意見でいえば、この論文は重要なものだし、実験も論旨もエレガントなんだけど、でも、結果自体は単純なケーブル理論で予測可能な範囲をそれほど出ていない。というわけで、名人芸的な手法がNat
Neurosci誌に値したんだろうな、と感じる。
▼ 夜はSF君の論文のProofと、「進化しすぎた脳」のゲラチェック。すべて終了。
▼ Rafaから皆に「サン・ディエゴのSFN学会ではTILL Photonicsブースの新型Polychrome
V monochromatorと Imic Digital microscopeを見てくるように」というメールが一斉送信された。これなに?
9月25日(土)
▼ 朝、SF君のProofの返事をJPへ。それからプログラミングとデータ解析。
▼ 午後はアッパーイーストに買い物。Leviのジーンズやバカラのタンブラーを買う。
▼ 夕方からは、マディソン街にある「伊藤園(Ito-En)」の「会(KAI)」という和食レストランで食事。ここはZagat Surveryで“日本の宝石”と謳われた名店。妻の知り合いのまた知り合い(うーん、遠い関係だ…)が伊藤園の社長をしているらしく、その社長さんがわざわざ日本から「我々の結婚記念日に」と席を手配して下さったのだ。なんとも嬉しい話である。どうもありがとうございました。料理は、もちろん、まじ最高に美味い。それに何ともバブリー。だって、お吸い物にトリュフとたっぷりの金箔をいれるとは、今の日本ではなかなか見られない料理だ。今度はちゃんと自腹でいこう。
9月26日(日)
▼ 朝、明日の準備。
▼ 昼からはブルックリンのアストリア地区へ。まずは昼食、「タヴェルナ・キクラデス(Taverna Kyclades)」でギリシャ料理。まあ、美味いんだけど、私はあまりギリシャ料理が好みではないようだ。2年前にギリシャに行ったときにも感じた。っていうか量おおすぎ。料理は半分で、んで値段も半分にはならないのかな…まあ、値段自体はわりとリーズナブルだけど。「タイタン・フーズ(Titan Foods)」というギリシャ食材専門店でカラマタ(Kalamata)産オリーブから作ったイリアダ(ILIADA)製のオリーブオイル(こちら)を仕入れる。
▼ その後、念願だった「イサムノグチ庭園美術館(ISAMU NOGUCHI Garden Museum)」へいく。彼の才能は本当にほとばしるようだ。妙なる調和。アメリカ人たちが彼を深く尊敬しているのも頷ける。彼のデザインしたインテリアはいつか欲しいなあ。
▼ 夕方マンハッタンに戻り、「ニューヨーク紀伊国屋」でちょっと新刊チェックして、コロンバス・サークルの「Time Waner Center」の地下食品街で寿司を食べて帰る。そんな、ギリシャと日本づくしの一日だった。
▼ 夜、明日のLab Meetingの発表練習。
▼ 今日、仕入れた変わり物: スタバ特製“自由の女神衣装”のクマのぬいぐるみ。妻はとても気に入ったようだ(イサムノグチ美術館にて)。
▼ 今週のF1000: Visual Pattern Recognition in Drosophila Is Invariant for Retinal Position Shiming Tang, ... Martin Heisenberg
▼ 今週のF1000: Optical Sectioning Deep Inside Live Embryos by Selective Plane Illumination
Microscopy Jan Huisken, ... Ernst H. K. Stelzer 数mmもある巨大な物体(ハエ幼虫やメダカ)を、生きたまま3D透過観察する新しい原理の顕微鏡。「plane
illumination microscopy (SPIM)」と名付けられているが、原理はConfocalと似ている。レーザーを横から投射する。
9月27日(月)
▼ 今朝のLab Meetingは私担当の研究報告。英会話は相変わらずだけど、まあまあ好評だったかな。昼過ぎにはニコニコ顔のRafaから、今の路線で続報をしっかり考えるんだぞ、と声を掛けられたのがなにより嬉しい。
▼ 最近実験にはまっているので今日はMorganeと共に実験室をきれいに掃除して、還流装置を一から作り直した。明日はどうかな?
▼ 昼休みは滞米中の坂野仁先生によるTalkを聞く。スッゲえ手間隙掛かっている実験を、惜しげもなくサクっと流しで説明されると、なんというか、かえってスゴさを感じる。それが彼の話術か?
▼ 『進化しすぎた脳』の表紙案をいただく。けっこうお洒落でインパクトもあるのでとても気に入った(こちら)。『海馬』と並べても似合いそうだ。私の強い希望で、わりと厚い単行本にもかかわらず定価1500円で抑えてもらったのには感謝。
▼ 今日、妻は通学途中、人が飛び降りて死ぬ瞬間を目前で見たらしい。
▼ JCB Presenilin 1 mediates the turnover of telencephalin in hippocampal neurons
via an autophagic degradative pathway Cary Esselens, ... Wim Annaert
9月28日(火)
▼ 朝から実験!と思いきやマウス部屋の鍵がなくて、いきなり出鼻をくじかれる。皆で探してようやく発見。2時間遅れで実験スタート。
▼ 昼にはNeurolunch。今日はコーネル大のStewart Anderson。タイトルは「Origins and specification of cortical interneurons」。実験中だったので後半から聞く。
▼ 午後は実験準備など。夕方からBoazと話をして、明日から彼のprojectに参加することに。彼はあと1ヶ月でラボを出るので、それまでに実験を勝負しなければならない。
▼ 夜はアッパーウェストまで佐藤さんとダーツのリーグ戦を見に行く予定だったんだけど雨なのでやめておいた。
▼ 先日買ったタンブラーが届いたけど、違ったモノが届いた。ふうぅ…アメリカって何でこうなんだろう。研究業者だって同じだ。注文の品を間違ったり、注文そのものを忘れてしまったりするのは日常茶飯事。驚くべきことは冷凍すべき試薬が常温で運搬されて来ることがしょっちゅうあることだ。まあ、そのアバウトさがアメリカの可愛いところでもあるわけなんだけど。。。
▼ ラボに調査官が入って、電子レンジや食事の残骸を発見され、かなりお咎めがあったらしい。ラボでは食事禁止だとは知らなかった。まあ、私は食べていないけど。だって食事をするにはあまりにこのラボは不衛生すぎるのだ(汗)
▼ 昨日の飛び降り自殺の一件は、今朝の新聞に大きく載っていた。私は名前の知らない人だったけど、彼は芸術家らしくて、ここ十年、統合失調症をわずらっていたという。
▼ PubMedスクリーンセーバーを見ていたら面白い論文を見つけた。Phys Rev E Stat Nonlin Soft Matter Phys Random walks for spike-timing-dependent plasticity。ダウンロードしてみたら、数式がさっぱり意味がわからなかった。。。まあ、でもLTPとLTDのメカニズムが等価な裏返しだとしたら、synaptic
weightの変化は結果としてプラマイゼロではなく、ランダムウォークに近い挙動を示すわけで、自発発火屋さんにはこうした視点も必要だよな。
▼ NN 今号は“The sexual brain”と題し、「脳と性」の特集。表紙はクリムトの「接吻」。私が大好きな彼の作品の一つ。
▼ NN Recording spikes from a large fraction of the ganglion cells in a retinal
patch Ronen Segev, Joe Goodhouse, Jason Puchalla & Michael J Berry II 網膜パッチからplanar
multi-electrode arrayを使ってスパイクを抽出する手法を紹介。それだけだとMeisterラボとかでやっている方法と同じなんだけど、電極間が30ミクロンしか離れていないので、より正確なSortingが可能になる。いってみればtetrodeの拡張版。これで実質上、電極プレート上のほぼすべての網膜節細胞から記録が可能になったという。
▼ NN The contribution of spike threshold to the dichotomy of cortical simple
and complex cells Nicholas J Priebe, Ferenc Mechler, Matteo Carandini & David Ferst 視覚野の単純細胞(simple
cell)と複雑細胞(complex cell)を分離するための方法なんだけど、今日も改めて読んでみたが論文を前半くらいしか理解できん。
▼ NN Rapid and persistent modulation of actin dynamics regulates postsynaptic
reorganization underlying bidirectional plasticity Ken-Ichi Okamoto, Takeharu Nagai, Atsushi, Miyawaki & Yasunori Hayashi NIH3T3や組織培養海馬CA1細胞に、CFP-アクチンとYFP-アクチンを共発現させ、fluorescence
resonance energy transfer (FRET)でFアクチンとGアクチンの比をモニター。LTP刺激ではFアクチンが増えスパイン増大、LTD刺激ではGアクチンが増えスパイン縮小。恐ろしほどエレガントな実験。松崎さんの論文も併せて読むべし。
▼ NN Control of axonal branching and synapse formation by focal adhesion kinase Beatriz Rico, ... Louis F Reichardt L7プロモーターCreを使うことで小脳プルキンエ細胞と一部の海馬神経特異的に、FAKの一つであるPtk2の欠失させることに成功。すると軸索の分岐数が増え、それゆえにシナプス数も増えた。FAKはp190RhoGEFを動員することでシグナルを伝えるらしい。
▼ NN Early and rapid perceptual learning David J C Hawkey, Sygal Amitay & David R Moore
▼ PNAS Cortical interneurons become activated by deafferentation and instruct
the apoptosis of pyramidal neurons V. E. Koliatsos, ... K.-X. Huang 嗅球からの入力が絶たれると、梨状葉皮質(piriform
cortex)の興奮性細胞が死ぬんだけど、これは介在神経のnNOS誘導が媒介している。ちょっとびっくりのデータ。
▼ PNAS Amygdala stimulation modulates hippocampal synaptic plasticity Kazuhito Nakao, Koji Matsuyama, Norio Matsuki and Yuji Ikegaya KN君の論文。扁桃体の刺激パターンに応じて、歯状回シナプス可塑性が亢進されたり抑制されたりするという面白いデータ。編集部のProof行程でなにか変更があったらしく、アブスト中でBLAという短縮表記が断りなく突然出てきてしまっている。。。あらら
▼ 今週のF1000: PNAS Modulation of long-range neural synchrony reflects temporal limitations
of visual attention in humans Gross J, Schmitz F, ..., Hommel B, Schnitzler A
▼ 今週のF1000: PRSLBBS Evolution of spite through indirect reciprocity Johnstone RA, Bshary R これ、かなり笑える。悪の蔓延る世の中の形成。言って見ればBarabasiらが提唱するScale-Free
Networkの組織原理「益は益を呼ぶ」の裏バージョンである。
▼ 今週のF1000: JCN Modeling Compositionality by Dynamic Binding of Synfire Chains Abeles M, Hayon G, Lehmann D 読まないと…
9月29日(水)
▼ 朝からずっと実験。
▼ 昨日のPublishされたKN君の論文で、お祝いメールやPDF請求メールを数通いただく。予期していなかっただけにとっても嬉しい。ただこの論文でスゴいのは、けっして私ではなくKN君とMcGaugh教授の二人なんだよなあ。お二人にはホント感謝。
▼ 夜はリンカーンセンターへ。マゼール指揮NYフィル。ランラン(Lang Lang)のピアノでチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」。一番前の真ん中やや左よりの席だった。ランランというピアニストは前々から興味があって一度聴いてみたかった。彼の昨年11月7日のNYカーネギーでのライブでは伝説的な成功を納めていたことは知っていた(私はSFN学会の前日だったので行けなかった、残念)。ある日、大学のデスクでクラシック音楽ラジオを聴いていると、仕事の手を休めて思わず聴き入ってしまう演奏が流れてきた。それが、まさにこのライブ録音だったのだ(この模様はCDやDVDでも発売されている)。それ以来ずっと彼の演奏を生で聴いてみたかった。んで、感想。確かにスゴい。何がスゴいって、超人的なテクニックはもちろん、アーティキュレーションやルバートが個性溢れていて、それでいて全体として息づかいが自然なのだ。強奏でもピアノを力任せに鳴らすことはしないので曲作りがしなやかで余裕がある。どちらかと言えば抒情系のピアニストにいれたい感じだ(反論も多いだろうけど)。いずれにしても今年でまだ23歳。11歳上のキーシンの懐に深さにはまだまだ及ばないものの、今後がますます楽しみなピアニストであることは間違いない。プログラムの後半は聴かずに帰宅。
▼ 昨夜気づいたこと: J Physiol誌のSF君の論文が掲載されたwebsiteの右の方に「ガヤのホームページ」へのダイレクトなリンクが貼られてる。日本語のサイトなのに… っていうか、他の論文でも今までもこういうLinkって貼られていたっけ? こりゃ、いよいよ英語サイトもつくらないとだな。
▼ ゴジラ松井選手、今日2本ホームラン。これで今季30本到達! あと目指すは3割打者。現在.299だ。
▼ Nature Small modulation of ongoing cortical dynamics by sensory input during natural
vision JOZSEF FISER, CHIAYU CHIU & MICHAEL WELIKY フェレットの一次視覚野(17野)からmultiunit。自発活動と視覚刺激による活動に、Matureほど時空パターンに相関があるというもの。そもそもintrinsic
dynamicsが過去の活動履歴に依存していることを考えれば、これはまあ特に驚くべき程のことでもないかも知れないが、でも、Fig
3のFree-movingのデータはかなり意義深いと思う。
▼ 今号のNeuronはReview Issue。「記憶」がテーマみたいなので気にはなるが、総説なので基本的にパス。時間があったら読む。
▼ JNはCaMKIIの特集。上のNeuron誌と共に促販用にSFNで配布するための企画と見た。おそらくScience誌も近々なにか神経系の特集を組むだろう。
▼ JN Facilitation of L-Type Ca2+ Channels in Dendritic Spines by Activation
of β2 Adrenergic Receptors Tycho M. Hoogland and Peter Saggau SDラット海馬スライスCA1錐体Basal樹状突起。action
potentialのbackpropagationでspineにcalcium transientを誘導。これはR型およびT型カルシウムチャネルによる。ところがβ2受容体を活性化するとL型が寄与してきてcalcium
transientが大きくなる。この論文も一緒に読もう。
▼ JN Phase Segregation of Medial Septal GABAergic Neurons during Hippocampal
Theta Activity Zsolt Borhegyi, ... Tamas F. Freund ラット内側中隔野(medial septum)の海馬への投射神経でjuxta。アブストと図しか見てないけど、よくやるわい、スゴいなあ。さすがはハンガリーの研究グループだ。
▼ JN Actin/α-Actinin-Dependent Transport of AMPA Receptors in Dendritic Spines:
Role of the PDZ-LIM Protein RIL Torsten W. Schulz, ... Pavel Osten 未読
9月30日(木)
▼ 午前、自分用の実験。
▼ 午後はMorganeと今後の対策を練った後、すぐに帰宅して科研費申請書の作成に取りかかる。久々の予算申請でもうすっかり書き方を忘れている。夜まで続けるが、あまり進まず。
▼ 夜は米大統領候補のテレビ討論(一回目)を見ながら書く。
▼ 今日、Rachel Wong教授がラボを訪問した。2光子を導入するためにRafaに習いに来たらしい。
▼ ヤンキース地区優勝! ゴジラ松井、今日もHR。メジャーで3戦連続は初だそう。
▼ 来週、妻は大学の試験らしいんだけど、その対策用にネオリアリズム派やヌーヴェルバーグ派のモノクロ映画をガンガン見まくっている(一日2〜3本ペース)。今日はヴィスコンティーとデ・シーカを観ていた。デ・シーカは「自転車泥棒」と「ひまわり」くらししか観たことがなかったが、今日観ていたのは「ウンベルトD(Umberto
D)」。これは心が痛みすぎる映画だ、ありゃぁヤバいって。。。 ところで全然関係ないけど、ゴダールはあんまし僕の好みじゃない。妻も同感みたい。もっと関係ないけど、私はコクトーも苦手。
▼ CON Neurotrophin action on a rapid timescale Yury Kovalchuk, Knut Holthoff and Arthur Konnerth
▼ CON Intrinsic neuronal regulation of axon and dendrite growth Jeffrey L Goldberg
(2004年)
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