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11月1日(月)
▼ 午前、Vovanの研究報告。ずいぶん進展している。diffraction optical element (DOE)を使った実験はとてもpotentialが高くて期待。
▼ 午後は実験準備と資料の整理。
▼ 夜は妻が見ていた映画を一緒にみる。『タクシードライバー(1976)』。私はロバート・デ・ニーロが好きなのでこの映画を観るのは3回目。NYに来てから、改めてこの映画(1970年代NYが舞台)を観ると、いろいろな点で印象が違っていてまた新鮮だった。ちなみに、デ・ニーロの映画で他に好きな作品は『ゴッドファーザーPART II(1974)』、『1900年(1976)』、『ディア・ハンター(1978)』、 『レナードの朝(1990)』など 。
▼ LTPを研究し始めたばかりの学生さん用に、この週末と今日で重要論文リストを作ってみた。すっごく大切な論文がまだ抜けているような気がするんだけど、なにか重要なものを発見したら連絡下さい。とくに、榎木さん、KN君、SF君、TMさん、ぜひぜひ。
▼ サマータイムが終わったせいで一気に夜がふけるのが早くなったような気がする。
NRN A NEW ERA IN FUNCTIONAL IMAGING OF CORTICAL DYNAMICS Amiram Grinvald & Rina Hildesheim 総説。


11月2日(火)
▼ 午前実験。一例だけ上手く行く。これによってちょっと面白いアイデアを思いついたんだけど、うーん、どうしよう、日本に帰ってからやって“自分の業績”にしたほうが良いかも知れないなあ、などと色気をみせてみたり。だって、もともとRafaは可塑性にはあまり興味がないみたいだから。あと一年くらいあればこれからもう一仕事できるんだけどなあ。
▼ 午後は雑務と明日の準備と文献コピー。1988年のScience誌には優良な総説が多い。
▼ 夜は薫さんも含めてメトへ。今夜は「アイーダ」。メト演出のなかではこのオペラの演出は「トゥーランドット」と並んでド派手系。わりと好き。歌のほうはドローラ・ザジック(Dolora Zajick)やホアン・ポンズ(Juan Pons)など脇役(のみ?)が素晴らしい。タイトルロール(アイーダ役)はよほど調子が悪かったのか第4幕から控えの歌手に変わった。まあ、ラダメス役のフランコ・ファリーナ(Franco Farina)がしだいに調子を上げてくれたので、とりあえず満足かな。
▼ 帰宅してからはアメリカ大統領開票速報をCNNで見るが眠くなったので寝る。どうせ明日の朝には判かるだろう…4年前みたいなことがなければね。そういえば前回の投票日はSFN会期中で、ニューオーリンズで中継を観ていたなあ(でも、あの時は滞米中に決着がつかなかった)。とりあえず前回の選挙で焦点になったフロリダ州はブッシュ氏が取ったらしい。
PNAS Induction of long-term potentiation and depression is reflected by corresponding changes in secretion of endogenous brain-derived neurotrophic factor Giorgio Aicardi, ... Hans Thoenen, and Marco Canossa  ラット嗅周皮質スライス第2/3層LTP&LTD。LTPでは内因性BDNFの分泌が増え、LTDでは減る。referenceが一部間違っている。本当なら古賀(旧:石坂)さんの論文もそこに引用すべきなんだけどなあ。
▼ 今週のF1000: Neuron Neural correlates of behavioral preference for culturally familiar drinks. McClure SM, Li J, .., Montague LM, Montague PR コカコーラとペプシを飲んだときの脳の反応の差。“Neuromarketing学”の幕開けとなるか。ネタ系。


11月3日(水)
▼ 午前は実験。今日もまた、きれいにデータがでる。Morganeも驚いていた。でも私的にはまだまだ改善したい。というか、最近、自発発火がかなり少ない。。。うーん、どうしてだろう。
▼ 午後はデータ整理とちょっぴり雑用。
▼ 夜はメトへ。マスカーニ作曲『カヴァレリア・ルスティカーナ』、レオンカヴァルロ作曲『道化師』の2本立て(大抵この2曲はセットで演奏される)。前者はとりわけ好きなオペラで、普段からよく聴いている(「ゴッドファーザーV」の長くて有名なラストシーンでは、このオペラが使われている)。今夜の歌手は、前者がファビオ・アルミリアート(Fabio Armiliato)、エヴァ・ウルバノヴァ(Eva Urbanova)、後者が ウラジミール・ガルージン(Vladimir Galouzine)、ダニエラ・デッシー(Daniela・Dessi)、ホアン・ポンズ(Juan Pons)、となかなかの布陣。とりわけ、アルミリアートの甘美でいて張りのある高音が素晴らしかった。
▼ 帰宅後は来年の薬学会年会の発表要旨を書く。
▼ ブッシュ大統領、続投に。ケリー氏が自ら敗北宣言(いろいろな見方があるだろうけど、こう言うの引き際が速いほうが後々印象がいいというのが一番の理由かな)。
▼ ギャリック・オールソン(Garrick Ohlsson)というピアニストを知っているだろうか。五年に一回のショパンコンクールで、1960年はポリーニ、1965年はアルゲリッチ、1975年はツインマーマンが優勝しているのはよく知られた話。オールソンは1970年の優勝者である(ちなみに、この年の準優勝は内田光子さん)。彼はあまり録音活動をしておらず、しかも彼のCDはほとんど国内販売されていないため、それ故か彼の名前は日本ではほとんど知られていない。でも、アメリカでは容易にCDが手に入る(彼はアメリカ人だからかな)。 私は先日ラジオで彼のことを知ったのだかが、今ハマっているのが彼の演奏するショパンの夜想曲集のCD2枚組(こちら)。これは夜想曲演奏の一つの究極の理想を表している。こんなに美しい演奏は聴いたことがない。一音一音が透明で、それでいて深く考え抜かれ無駄がない。テンポは遅め目で曲の細部テクスチャーがよく見えるという意味では、かのアファナシエフに似ているが、もっと懐が深い。ここまで熟聴に耐える演奏ってそんなにないのでは。あえて欠点を挙げると、思わず聴き入ってしまい、ふと我に返ると精神的に疲れている点か。“ながら聴き”を許さないスゴさがある。
JN Transcranial Direct Current Stimulation during Sleep Improves Declarative Memory Lisa Marshall, Matthias Molle, Manfred Hallschmid, and Jan Born ヒト経頭蓋刺激。非REM睡眠中に脳(両側の前側頭部)を刺激すると、陳述記憶(ここでは単語ペア試験)の保持が良くなる。ネタだな。VISAの連載で使おう。
JN  The Kinetic Profile of Intracellular Calcium Predicts Long-Term Potentiation and Long-Term Depression Iskander Ismailov, Djanenkhodja Kalikulov, Takafumi Inoue, and Michael J. Friedlander 幼若モルモット皮質第2/3層錐体細胞パッチ。paringするとLTP、LTD、何も起こらない細胞にきれいに3群に分かれる。refereeに付かれたのか、これをFig. 2-7まで掛けて丁寧にネガデータを並べている。その挙動は可塑性誘導中のカルシウム動態のSteady Stateから予測できるという。
JN  Brain-Derived Neurotrophic Factor Induces Mammalian Target of Rapamycin-Dependent Local Activation of Translation Machinery and Protein Synthesis in Neuronal Dendrites Nobuyuki Takei, ... Hiroyuki Nawa 培養皮質神経。BDNFによる樹状突起内の局所タンパク合成の促進はmTORを介している。その他、その周辺の伝達系について。


11月4日(木)
▼ 今日は最高気温が9℃だった。でも、あまり体感気温は低くない。
▼ 実験。最近、自発発火が少ないので、20日齢のマウス(Adultの方が自発発火が高い)を使ったら、ロード効率が悪くてデータにならなかった。
▼夜は友人の知人が、NYで寿司屋を開業するとかで、 その祝賀会に行ってきた。店の名前は「Shimizu」。ミッドタウンのなかなかいいロケーションにある。サバ以外のネタは日本から仕入れているみたい。試食会にはどっかの社長とかどっかの俳優とか、まあ、とにかくいろんな人が来ていた。世間に疎い私は誰も知らなかった。たらふく食べて、しこたま飲んだ。旨かったあぁ。
▼ 『進化しすぎた脳』が増刷になった。第2刷は20,000冊。。。スゴい。売れ残ったら困るので、皆さん買って下さい(汗)
▼ 昨日一昨日と、LTP論文リストに数報ずつ追加している。それで思い出したのだけど、Yusteラボには大脳生理学の膨大な論文リストがあるのだった。古い論文から新しい論文まで、Yusteラボに関係ありそうものを網羅していて、PDFが存在する物についてはラボのFTPからワンクリックで落とせるようになっている。とても効率のよいシステムだ。関連文献を探したかったら、「そこから探せばいいんだったあ」と思って内容を見てみたけど、しかし、3000報以上あって、すべてをチェックするのはとても無理な作業、ふう。。。 でも、これを利用して「LTPバージョン」だけでなく、初心者向けの「Microcircuitバージョン」をいつか作ろうかなあ。その時は吉田君の助けが少し必要かも。なにせ私はベースが“海馬屋さん”なので。。。とりあえず現時点では計画のみということで。
▼ ちなみに、その“Yusteラボ関連論文集”には、薬作からAB君の論文SF君の論文の二つが名を連ねている。たぶんRafaがアップしたんだと思う。いまのSF君やTMさんのテーマも、もちろん、将来論文になればチェックされるだろうなあ。
Science Nicotine Activation of α4* Receptors: Sufficient for Reward, Tolerance, and Sensitization Andrew R, ... Henry A. Lester ニコチン中毒はα4*サブユニットが含まれたニコチン受容体を選択的に介しているんだそう。もちろん特異的アゴニストはないので、ここでは、Leu9Ala変異体(α4*の感受性が選択的に高まる)をノックインして実験している。
JNC A role for semaphorin 3A signaling in the degeneration of hippocampal neurons during Alzheimer's disease. Good PF, ... Kohtz DS. Sema3Aが細胞内に以上累積して細胞死を誘導することでアルツハイマー病が起こっているのではないかという論文。興味ある人はこれこれこれこれも読むと吉。


11月5日(金)
▼ 今日も一日ずっと実験。Loadの条件を厳しくする。海馬も染めてみたが、この条件で歯状回だけは効率よくLoadできるみたい。
▼ 夕方は文献紹介。Morganeの担当。先日の予告通りReidラボから投稿中の論文原稿が取り上げられた。 この論文はもちろんまだ完璧でないし、まだまだやらねばならないこと(&やれること)は沢山あるけれども、吉田君の日記でも絶賛されているように、これがNature誌をrejectされる理由はないだろう。んで、今日の議論の焦点は「従来の知見の確認に過ぎないのでは」という質問にどう反論できるかという点にあった。まず、single cell解像度を持っているという点。これによって、cortical map transitionがどのくらい鋭いかが初めてわかった → 細胞2、3個を経れば隣の機能領域に到達する。つまり非常に鋭いコントラストがある。またtransition上にある細胞の応答特性も記録できていて面白い。それから、ラットでは方向性マップがorganizeされていないという点も重要で(Fig1,Fig4Aがそれ。というか、これ、今まで誰も示していなかったんだ…知らなかった)、この発見は「皮質の正常な機能にそもそも整然とした“Map”構造が必要なのか」という根本的な疑問を投げかけている。“projection cost”を考えたら機能の近い細胞同士は近くに配置されたほうがいいと私は思うんだけど、でも、ラットはそうなっていないわけだ。もしかしたら、これがRosaや私の論文であまり顕著にspatial organizationが見られないことの理由なのかもしれない、などと思いを巡らせてみる。とりあえず、この論文では自発発火についてはまったく述べていなくて、Rafa研のメンバーにはそこら辺も気になるのだが、Reidは(Rafaの言葉を借りれば)「Bottom-up至上主義のコンサバ系」なので自発活動にはあまり興味がないのだろう、ということ。にしても、RafaはReidラボがいま何をやっているか(&次に何をやろうとしているか)をよく把握している。
▼ アラファト議長が大変なことになっている。
先日も書いたようにMoMAが今月20日にマンハッタンへ戻ってくる。初めのうちは相当混むだろうから今からチケットを取っておいた。


11月6日(土)
▼ いきなりmicrocircuitry関連の文献のリストアップを始める。LTPとはちがってたくさんの重要論文あるのではっきり言って辛い。キリがないので古典的論文は省いて、とりあえず“私の好きな”論文(≒私でも理解できる論文)から集めていくことにする。とりあえず、こっそりアップしたけど、まだまだ完成からはほど遠いので、外部からリンクしていない。「おいおい、これが載ってなかったらマズいだろう!」というのがあったらどんどん連絡ください。
▼ 妻が料理教室の先生から買ってきたパスタがスゲえ旨い。「ジュゼッペ・コッコGiuseppe cocco)」というイタリア・ブランドなんだけど(たぶん)初めて食べた。お勧め。あ、でも日本で買ったら3倍くらい値段がするみたい。
▼ 昨日onlineで出たTINSの総説(こちら)を昨夜ベッドの中で読んだ。面白かったので、著者たちにSF君のin press論文の原稿をEメールで送ってみた。さっそく返事をもらった。


11月7日(日)
▼ 奥田さん夫妻がNYに来られているのでご一緒する。ハーレムやブルックリンなど普通の観光客はなかなか回らないスポットを案内する。
▼ 夜は薫さんも交えて、トライベッカの「タカハチ(Takahachi Tribeca)」という和食屋に行く。旨い。


11月8日(月)
▼ 朝はRochellの研究報告。ニューロンの再構築と、形態から的確にクラス分類するためのClusteringについて。Davidは線形主成分解析よりも、なにか別のSupervisedプロセスを当たったほうがいいかもと言っていたが。。。ところで、Rafaが今日言っていたんだけど、「Markramラボでは今や同時パッチ12本刺しができる」とのこと。どうやってやんのよ。
▼ 午後は明日の実験の準備など。あとはちょっと将来の構想を練る。
▼ 夕陽に映えるマンハッタンの雲が素晴らしく美しかった。ラボのメンバーたちは廊下の窓からその幻想的な風景を眺めていた。カメラを持っていなかったのが惜しい。
▼ 先週Wu JYラボから出たJNS論文。出た時に一応ざっと目を通したものの、その価値が良くわからなかったのでパスしていたのだが、今日になってRafaから皆に読むように指示があった。螺旋波(spiral wave)とは、複雑システムなどにしばしば現れる“興奮活動の非線形伝播”のひとつ(例えば心臓のspiral waveは不整脈の原因とも言われている)。この論文は、tangentialな皮質スライスと膜電位色素を使って、脳にspriral waveが存在することを初めて示したもの。これは自発的に生じ、しかも構造の異なる伝播が現れては消えるというから(cortical state transition)、Yusteラボの研究に関係あるというわけなんだろうと思う。
吉田君の過去の日記でサールの1998年の論文の抄訳が出ているということだったのでいまさら読む(いえ、たしかプリントアウトしていてずっと以前から手元に持ってはいたんだけど)。こういう日本語の文章はとても助かる。ただ哲学・心理学系の文章を“短く”書くことの宿命なんだけど、サールはただの頑固・屁理屈オヤジに映ってしまう(汗)。実際、彼の論拠は確実性に乏しいという批判はある。それから、その日記周辺をうろうろと見ていたら、「影響を受けたHP」として「ガヤのHP」が挙げられていた。なんというかとても嬉しい。私にとって彼は一番の(まちがいなく良い意味での)ライバルだから。というか分野がかぶっていたら、とてもでないか彼には敵わないから微妙に興味が違っていてホントに良かった。。。なあんて安心している場合じゃないか、俺。もっとがんばらないと。


11月9日(火)
▼ 明日から11月も、もう中旬。なんだか信じられない時間の速さだ。
▼ 今朝この冬初めて零下に。最高気温も6℃。昨日網野さんと電話で話したらシカゴではもう雪の予報が出ているというから、それに比べれば随分とマシ。 というか、ニューヨークの冬も今年で3回目なので、今日くらいの寒さならなんとも思わなくなった。だって所詮、東京の冬くらいだもんなあ。
▼ 午前実験。
▼ NeurolunchはBuzsakiラボのHarris氏。Talkの内容はこれこれと同じでとくに新しい情報はなかった。後者についてはやはり「循環理論にすぎないのでは」という問題点を突かれていたが、「Binningが25msで予測正確性が最高になる」というデータをもってしか、まっとうな反論ができないようだった。彼の手法は「Cell Assemblyの存在」をあらかじめ仮定してしまっていると言う意味では、正直言って、私の“教師なし予測アルゴリズム”のほうが一枚上だと思う(両者とも線形計算なんだけど、私の方法のほうが計算も簡単だし)。Harris氏は話をとても慎重に進めるタイプ。彼の姿勢が「DecodingとDecodableの差」に敏感なのは何より重要なポイントで、「海馬の神経細胞が“場所特異的に反応を示す”からといって、その事実をもって(深い意味で)“場所をコードしている”とは結論づけられない」と話していたことに個人的には好感を持った。当然のことなんだけど、こうした“因果的な本質”を忘れている人が結構多いように思う。とくに生化学の分野の人たち(の一部)。
▼ 午後データ整理。久々に図が一個できる。
▼ 先月上梓のした2冊の本。Amazon.co.jpでぼちぼち書評が付き始めている。とりあえず好評なようでホっとした。ちょっと褒めすぎのような気するけど、でも、貯金が減る一方の無給ポスドクには、150円(←1冊あたりの印税)でもホントにありがたい海外滞在費なので大歓迎(爆)。 気が向いたら皆さんも書き込んでください。もちろん気に喰わなかったらケナしてもらってOK。
PNAS Cell-density-dependent regulation of neural precursor cell function Charles L. Limoli, Radoslaw Rola, Erich Giedzinski, Sailaja Mantha, Ting-Ting Huang, and John R. Fike 周囲の細胞の密度が高くなると海馬神経前駆細胞の分裂能が低下するのは、ミトコンドリアのSOD発現の上昇により活性酸素種(reactive oxygen species)量が低下するからだということを、主に培養系を用いて示した論文。論旨が唐突すぎて価値がわからないなあ。
▼ 今週のF1000: JN Experience and activity-dependent maturation of perisomatic GABAergic innervation in primary visual cortex during a postnatal critical period. Chattopadhyaya B, Di Cristo G, ..., Welker E, Huang ZJ
▼ 今週のF1000: JN Superlinear population encoding of dynamic hand trajectory in primary motor cortex. Paninski L, Shoham S, Fellows MR, Hatsopoulos NG, Donoghue JP


11月10日(水)
▼ 午前、Rafaと実験の相談。
▼ 午後、実験。
▼ チリ出身のRobertoはゴキブリが大嫌い。彼の机の周りにはなぜか最近ゴキブリが頻出する。スペイン語でゴキのことを「クカラチャ(Cucaracha)」というんだけど、訊いたら、これは女性名詞なんだそう。Robertoは「なぜ昔の人はゴキブリを女性に結び付けたのか、理解に苦しむ」と苦笑していた。
▼ っつうか、実は、そんなのは訊くまでもないことで、スペイン語やイタリア語では名詞の語尾が「a」で終わっていたらから女性名詞なんだよね。まあ、話題作りということで。ちなみに最後が「o」で終わっていたら男性名詞。だから、マリオは聖母マリア様の男性版というわけ。ってな感じなので、日本の女子名の典型である「○子」というのは、ラテン系の人々には、男子名のように聞こえる。もちろん逆も真で、「あきら」とか「○也(や)」とか「○貴(たか)」という名前は女っぽく響くわけだ。ちなみに「ゆうじ」は「i」で終わっているので名詞でいえば複数形になる。そう、「Stimuli」や「Hippocampi」みたいに。
JCI  Semaphorin 3F, a chemorepulsant for endothelial cells, induces a poorly vascularized, encapsulated, nonmetastatic tumor phenotype. Bielenberg DR, Hida Y, Shimizu A, Kaipainen A, Kreuter M, Kim CC, Klagsbrun M. Sema3Fが血管新生を抑制する効果があることから癌の治療に使えるかもしれない、という内容みたい。
JN The Brain-Derived Neurotrophic Factor val66met Polymorphism and Variation in Human Cortical Morphology Lukas Pezawas, ... Daniel R. Weinberger BDNFのval66met変異患者の脳をMRIで調べたら、海馬のサイズが小さかった。彼らの前報(これこれ)も併せて読むべし。
JN  Plasticity in the Entorhinal Cortex Suppresses Memory for Contextual Fear April E. Hebert and Pramod K. Dash ラット恐怖条件付け。嗅内野皮質にERKシグナル阻害薬を注入すると海馬依存の記憶が増強される。彼らは、嗅内野皮質の可塑性が押さえられると、基底核のfeedfoward inhibitionが抑制されて、扁桃体中心核の活動が高まるからと理由付けをしている。データのわりにちょっと大風呂敷を広げている感じはぬぐえないけど、でも耳を傾ける価値はありそうだ。
JN Assessing the Role of GLUK5 and GLUK6 at Hippocampal Mossy Fiber Synapses Jorg Breustedt and Dietmar Schmitz GluR5とGluR6のノックアウトマウスを使って、GluR6こそが海馬苔状線維の短期促通に選択的に寄与していることを示した論文。
JN  Regulation of the NMDA Receptor Complex and Trafficking by Activity-Dependent Phosphorylation of the NR2B Subunit PDZ Ligand Hee Jung Chung, ... Richard L. Huganir 未読。


11月11日(木)
▼ 午前実験。
▼ 午後はHernan K. Makse氏と回路構造について議論。彼は以前渡した私のデータを元に、あっという間に解析を済ませ、抽出された回路構築が“フラクタル(自己相似)”であることを示していた。いや、お見事。Rafaも喜んでいた。ちなみに彼が投稿中だった論文(これ)はほぼ受理されたようだ。論文のタイトルは「Complex networks are self-similar」。将来、頻繁に引用される論文になるだろう。それより、彼を含めComplex Network界の有名人の多くはH. Eugene Stanleyのラボ出身というのが、改めてスゴい。とりわけBarabasiは格別にスゴいんだけど、彼のスゴさは、またそのうち、彼と直接会う機会があった後に書こう。ちなみにStanleyはEconophysics(経済物理学)の中心人物でもある。
▼ Rafaに仕事を二つ頼まれた。がんばらないと。
神経科学若手のページ(→ http://study.s48.xrea.com/index.php)を盛り上げよう。薬作の人もここの「フォーラム」欄にどんどん書き込むべし。科学に携わる者、情報は享受するだけでは反則だよん。
Science Prospects for Building the Tree of Life from Large Sequence Databases Amy C. Driskell, ...Michael J. Sanderson いつか読むかも。
Science Multidimensional Drug Profiling By Automated Microscopy Zachary E. Perlman, ... Steven J. Altschuler いつか読むかも。
CC Correlation Maps Allow Neuronal Electrical Properties to be Predicted from Single-cell Gene Expression Profiles in Rat Neocortex Maria Toledo-Rodriguez, Barak Blumenfeld, Caizhi Wu, Junyi Luo, Bernard Attali, Philip Goodman, and Henry Markram ラット体性感覚野スライスsingle-cell PCR。発現しているタンパク(チャネルやカルシウム結合タンパク)の種類(ここではclusterと呼んでいる)と、その細胞の電気生理学的性質は一致するというデータ。結論自体は、まあ、そりゃそうなんだろうけど、でも皮質屋は目を通す価値がある。表紙を飾っている。
CC Environmental Control of the Survival and Differentiation of Dentate Granule Neurons Jeong-Ah Kim, Ryuta Koyama, Ryuji X. Yamada, Maki K. Yamada, Nobuyoshi Nishiyama, Norio Matsuki, and Yuji Ikegaya JAKさんの論文。歯状回顆粒細胞を培養海馬スライス上にばら播いて、播かれた細胞の位置とそこから出る突起の方向の関係を調べた論文。苔状線維の伸展にはFasciculationが重要な決定要因になっていること、顆粒細胞層が突起伸展にとって一方通行の壁になっていること、の2点を示唆している。
CC Population Vector Analysis of Primate Prefrontal Activity during Spatial Working Memory Kazuyoshi Takeda and Shintaro Funahashi サル作業記憶と前頭葉。これこれなどで活躍した、いわゆる「集合ベクトル解析」を、記憶出力の予測に使ったという論文。こうした解析は「本当に独立に個々のニューロンが決定に“投票”しているのか?」という根本的な疑問(いわゆるIndependent-Coding Hypothesis批判というヤツ)が常に付きまとうのだが、でも面白いし、少なくとも素人にはわかりやすい。


11月12日(金)
▼ 午前、いろいろとメールを書いていたら終わった。研究関係とはいえメール時間ってちょっと不毛…
▼ 昼は私の好きな研究者Xiao-Jing Wangがブランディス大学から来ていたので、アップタウン・キャンパスまでTalkを聞きに行こうとしたのだが、停電により途中でハーレムで地下鉄broken。結局間に合わず。食事もし損なう。ちなみにtalkのタイトルは「Microcircuit mechanisms of working memory and decision making in the nweocortex」だった。
▼ 午後はデータ解析。まだまだ終わりそうもないけど結構いい手応えかも。
▼ 夕方はVovanの文献紹介。Jaeger&HaasのScience論文Predicting Chaotic Systems and Saving Energy in Wireless Communication)が取り上げられた。これはRafaが大学院の授業でも取り上げたという曰く付きの論文だけど、実際のところサイエンス誌に値するかは微妙。というのは、Maasが提唱するLiquid State Machineと本質的には同じだからである。ただし、この論文のほうがより汎用化されてはいるし、論文タイトルがより謳っている。論文のエッセンスはRecurrent Networkの利用法にある。通常、Networkに学習させるときには回路自体をトレーニングする(シナプスの重みを変化させる)。しかし、ここではRecurrent Networkそのものに手を加えることなく、そこからの出力の部分のみWeightを書き換えることで、的確な学習を達成することが可能になったというわけ(つまり誤差をbackpropagateさせない)。つまり圧倒的に計算の負担が少なく効率が上がる。んで、予測性が恐ろしく正確で、 かのマッケイ・グラス(Mackey−Glass)カオス系列を、なんとトレーニングセッションの長さ以上にわたって予期することができる。こうした使い方は典型的なANNではあるけれども、でも例えば、このアルゴリズムを使えば、「脳スライス標本で天気予報さえもできるだろう」などと発想もできてナニゲに面白い。今日は議論がさらに膨らんで、Recurrent Network自体をトレーニングしないという規制によって、このモデルには (1) より大量の神経細胞数が必要、(2) それらの結合はSparseでなければならない(でもランダムでよい)、などという要請が出てくるのだけど、それ自体はまさに大脳皮質の特徴そのままである。一見、Redundancyに見える皮質細胞は、このモデルとconsistentだし、脳の進化の過程で皮質を異常に大きく(←発達ではなく単に大きく)したのにはそうした意味があるかもしれない。あと、この論文は「皮質や海馬の可塑性は不要である」とネガティブに捉えることもできるが、そうではなく、「出力系だけを変更させるだけで良い」の部分を「回路を局所的に組み変えるだけでよい」と読み変えると、「Local Circuitのmodulationが回路全体のパフォーマンスに多大な影響を及ぼしうる」と いうことになって、我々microcircuitry屋さんには面白い視点となる。なおこの論文を詳しく知りたい人はJaegerのHPのここ(PDF)に親切に解説されている。
▼ 明日の毎日新聞に『進化しすぎた脳』の書評が載るらしい。新聞で取り上げて頂けるなんてこれまた嬉しい。


11月13日(土)
▼ 朝からずっと、私とMorganeの出したデータの整理。プログラムミング&図作り。久々に面白い結果に興奮。そしてFigが一つできる。夕方にはアブストを書く。このデータは数日中に直接McCormick氏に送られる予定。ちなみに彼のラボのHPのメンバー紹介ページにある写真(一番下のヤツ)は、私的には、かなり最悪。
TINS The Bayesian brain: the role of uncertainty in neural coding and computation David C. Knill and Alexandre Pouget この総説はWolpertらの論文と併せて読む必要性がありそうだ。
TINS Discrete synaptic states define a major mechanism of synapse plasticity Johanna M. Montgomery and Daniel V. Madison 自分たちのこの論文に“解釈”を加えた総説。発想は面白いけど、研究としては実は私は評価していない。


11月14日(日) 
▼ 午前、昨日作った図と文章をチェックしてRafaにメールで送る。すぐにお褒めの返事が来る。そして、あっというまにMcCormickへ転送される。
▼ 午後はたまっていた論文を読みながらのんびり過ごす。
▼ 集英社から「Seventeen」の掲載誌が届く。先日のインタビューが載ったのだ。ダジャレ特集、笑える。この雑誌は名前の通り、高校生、それも女子高生をターゲットにしているんだけど、ほかのページにも目を通すと、なんというか、ファッションの気の回し方に、“画一的である(=人と違わない)”ことを最良とする日本人の姿が良くも悪くも反映されている。アメリカの“個性的である(=人と違う)”ことを良しとする価値観とは明瞭に一線を画す。たとえば、この号の表紙には「本当に売れてる服だけが欲しい〜♥」と呼び文句が出ているが、よく考えてみれば奇妙に思えなくもない。日本の“CV値”の低さが、ともすると、気持ち悪く、そしてまた、心地よくもある。  * CV=SD/mean
▼ 昨日の毎日新聞の書評効果で、amazon.co.jpで『進化しすぎた脳』の売れ行きが好調だと、編集部より連絡があった。ということは、書評で褒められた、ということなんだろうなあ。 追記:その後、毎日新聞社のサイト(このページ)に全文が載っていることを知った。


11月15日(月)
▼ 午前、Brendonの研究報告。Vovanが使い始めたdiffractive optical element(DOE)がS/N比の改善に大きく貢献することがわかったところで、次にspatial light modulation(SLM)の使用を計画しているという。これを使えば1 sec/frameというtwo-photon microscopeの制約がついになくなる。つまり時間分解能はCCDカメラ(またはPMT)の性能によって決まり、RosaのNature論文や、ReidラボのOhkiさんの論文のような実験が、今後は高い時間解像度で遂行できるようになるわけだ。ポテンシャルは無限大である。
▼ あとは実験の準備とデータ解析。そしてMorganeと今後の実験の作戦会議。
▼ 昨日、私がRafaに送ったデータは、そのままラボ中に転送され、いろいろな議論を刺激している。もう少し様子を見よう。どうせ、このままでは論文にはならないし。
▼ 夕方はdecorrelationやsparse cordingについて再度文献を当たってみる。
▼ 『進化しすぎた脳』の売れ行きに便乗して、『海馬』も増刷決定。第17刷は5000部。
▼ J PhysiolにAOPでいくつか総説が出ているのに、PubMedスクリーンセーバで気づいた。以下、関係ありそうなところだけ。
JP Molecular diversity of neocortical GABAergic interneurons. Blatow M, Caputi A, Monyer H
JP Hippocampal gamma-frequency oscillations: from interneurons to pyramidal cells, and back. Mann EO, Radcliffe CA, Paulsen O
JP Defined types of cortical interneuron structure space and spike timing in the hippocampus. Somogyi PP, Klausberger T
JP Neuronal mechanisms mediating the variability of somatosensory evoked potentials during sleep oscillations in cats. Rosanova M, Timofeev I


11月16日(火)
▼ 朝から実験。と或る条件を使うとSulforodamine 101の染色選択性が低下することがわかった。というわけで今日はかなり粘ったけどデータは出ず。
▼ 実験後にHernan K. Makse氏からEメールが届いた。面白い案をもらう。早速、解析プログラムを組む。夜まで掛かって完成。そこでデータを整理し直して、彼とその学生であるChaoming Song(彼は例のNature論文の筆頭著者)に送信する。というか、こういうシンプルな名案をなんで自分で思いつけないのか。。。うーん、自分にがっかりする。
▼ 妻が昼にアパートで日本料理教室を開いた。といっても今日は生徒一人だけだったみたい。Boazの奥さんのお兄さんの奥さんが「ぜひに」と言うことで開催された。彼女はイスラエル人。でも和食に興味があるみたい。イスラエル人の多くは宗教的な理由で豚肉や甲殻類(カニやエビ)が食べられないのだが、今日たまたま料理に入っていなかったのはラッキーだった。ちなみに、もちろん、妻の手料理はとても美味しい。おかげで私はこの2年で太った。
▼ Glosterがなにか探し物をしていた。どうにも見つからなかったようで、皆にいろいろと聞い回っていたが、結局、自分の机の下で見つかったらしい。よくある話である(=少なくとも私には類似の事態は頻繁に起こる)。そんなとき日本語だったら「あら、足元にあったよぉ」と言うところだが、英語では「足元」とは表現しない。“足”ではなく「I found it under my nose(直訳:鼻の下で見つけたよ)」となる。日本人はもともと鼻が低いから、鼻の下に隠れて見えないなんてことないもんなあ。
▼ これで思い出したけど、赤ん坊が世の中の風景を徐々に“認識”し始めるときに、絶対位置のreferenceとして「生まれたときから自分の視野の中にいつでも同じ場所に見えている“鼻頭”の存在が重要である」と唱える心理学者が少なくない。この分野のことは私にはわからないけど、そういう発想ってやっぱり鼻筋の張った欧米人だからこそ初めて思い至ったアイデアじゃないかも思いつつも、まあ確かにそうなのかもしれない。。。っていうか、そんなに視野の中で鼻が邪魔なんかいな?一度聞いてみたい。 とりあえず私は、妻にイタリアで買ってもらったメガネがすぐに鼻からズレて下がってしまうのが気になる。見栄を張らずアジア人の鼻の高さにフィットしたデザインを買うべきだった。。。反省
PNAS Long-term meditators self-induce high-amplitude gamma synchrony during mental practice Antoine Lutz, ... Richard J. 仏僧侶の脳は瞑想するとガンマ波を出すんだそうだ。でも、そのためには長年の修行が必要だとか。一見ネタ系だけど、訓練によって神経活動を意識でコントロールできるという意味ではNeural Prostheticsの操作に共通する原理がある。ところで論文には全然関係ないけど「東洋神秘(Oriental Mystery)」の漠然とした魅力に取り憑かれた欧米人は結構多い。NYでは実際、ヨガ(Yoga)が流行中。ちなみさらに関係ないけど、アジア人の女の子(Oriental Girl)は欧米だとかなりモテル。でも、アジア人の男は金髪女性には相手にさえしてもらえない。
▼ 今週のF1000: JN Entorhinal cortex lesions disrupt the relational organization of memory in monkeys. Buckmaster CA, Eichenbaum H, Amaral DG, Suzuki WA, Rapp PR
▼ 今週のF1000: Nat Neurosci11月号のNetrin&FAKの三連報もランクイン(これこれこれ)。


11月17日(水)
▼ 最近暖かい。昼は15℃くらいまで上がる。でも今週までみたい。
▼ 染色方法が変わったことによって、朝からずっとプログラムを改変。夕方には終わる。以前よりも使い勝手も向上させたので、かなり便利になった。
▼ 夜はメトへ。プッチーニ作曲の「ラ・ボーエム」。妻が学生券を取ってくれた。ラ・ボーエムは私の好きなオペラの一つで、悲劇のカタルシスに浸りたいときにはぴったりの作品。ストーリは臭いんだけど、でも台詞や音楽に刺激されて泣ける。というわけで、メトだけでも私は2回目、妻は3回目というリピーターなのだ。今日はマルツェロを歌ったペーター・マッテイ(Peter Mattei)が素晴らしかった。フランク・ロパルド(Frank Lopardo)は声は小さめだけど、歌自体は文句はない出来。ムゼッタのアンナ・ネトレプコ(Anna Netrebko)もストレートな歌が良い。
▼ チリ出身のRobertoがアルファホール(Alfajor)というお菓子を紹介してくれた。チョコレートで包んだ小さなケーキだ。おいしかった。
▼ バルトークのピアノソロの全集CD(これ、CD5枚組なのに驚くべき安さ)をリンカーンセンターの隣にあるタワー・レコードで買った。どうも彼の音楽は一部の有名曲を除いて取っつきが悪い。いずれも芸術芳る珠玉の作品ではあるんだけど。しっかり勉強して理解しよう。いまは日記を書きながらミクロコスモスを聴いている。
JN Short- and Long-Term Effects of Cholinergic Modulation on Gamma Oscillations and Response Synchronization in the Visual Cortex Rosa Rodriguez, Ulrich Kallenbach, Wolf Singer, and Matthias H. J. Munk ネコ一次視覚野の脳波とmultiunit。視覚刺激で生じるガンマ同期が scopolamineの局所iontophoretic投与で切れ、逆にcarbacholで促進される。でもデータはそんなに単純ではない(特に図4以降)。興味ある人は読むべし。
JN Presynaptic Cav2.1 and Cav2.2 Differentially Influence Release Dynamics at Hippocampal Excitatory Synapses Anita Scheuber, Richard Miles, and Jean Christophe Poncer SDラット海馬スライスCA1パッチ。(Cav2.1ではなく)Cav2.2がISI50msec以下のPPFに関与する。これはどうやらGi/oタンパク抑制の解除によるらしい。
JNP Laminar Specific Distribution of Lateral Excitatory Connections in the Rat Superior Colliculus Yasuhiko Saito and Tadashi Isa ラッ上丘スライスDual Patch。低Mgおよび(または)ビククリンで同期活動を誘導し、これを解析している。前報の図8以降の続きみたいな感じ。SF君とTMさんはデータ解析の方法など目を通すべし。質問があったら吉田君に。
JNP Synaptic Enhancement Induced Through Callosal Pathways in Cat Association Cortex Youssouf Cisse, Sylvain Crochet, Igor Timofeev, and Mircea Steriade 麻酔下ネコ。対側皮質刺激で脳梁を通じたシナプス応答をイントラで記録し解析。
JNP Adaptation in Thalamic Barreloid and Cortical Barrel Neurons to Periodic Whisker Deflections Varying in Frequency and Velocity V. Khatri, J. A. Hartings, and D. J. Simons 時間があったら読む。
JNP Endocannabinoid-Dependent Neocortical Layer-5 LTD in the Absence of Postsynaptic Spiking Per Jesper Sjostrom, Gina G. Turrigiano, and Sacha B. Nelson ラット皮質第五層錐体細胞Dualパッチ。簡単に言っちゃえば、STDPで起こるLTDは、実はポストのspikeは不要であるという内容で、これ結構、衝撃的。STDPの“S”はspikeなんだけど、これが事実なら名前変えないといけないんじゃないのかなあ。ちなみにそのメカニズムは、ポストの脱分極によるEndocannabinoidが放出とプレのCB1受容体とNR2B含有NMDA受容体を介した誘導とのこと。彼らの前報も併せて読むこと。
JNP Spontaneous Waves in the Dentate Gyrus of Slices From the Ventral Hippocampus Laura Lee Colgin, ... Gary Lynch ラット海馬スライス。特殊なイオン組成ACSFで現れる歯状回の陰性オシレーション(dentate wave)。これは顆粒細胞の同期発火によってもたらされるのだが、嗅内野皮質からの入力とgap junctionによって発生しており、CA3のsharp waveと同期している。
JNP Effect of Subthreshold Up and Down States on the Whisker-Evoked Response in Somatosensory Cortex Robert N. S. Sachdev, Ford F. Ebner, and Charles J. Wilson ラット麻酔下バレル皮質イントラ。UPとDOWNで刺激応答の差を細かく記述している。ここら辺はかなり知見がごちゃごちゃしてきたなあ。とりあえずWilsonグループの主張はDOWNの方がPSPが大きく、さらに発火閾値も低いということ。これは昨日Brendonの研究報告にモロに矛盾する(SliceとVivoの違いはあるけど)。私の印象では、おそらくUP stateはgain(I-Oのslope)に効いているので、一口に“刺激”といっても、その強度が小さいときと大きいときでは逆に効果が出るのだと思う。McCormickグループの論文を精読して徹底比較する必要がありそうだ。


11月18日(木)
▼ 午前、実験。色素のストックが尽きてしまったので、一昨日、新しいバッチを開封した。するとまったくニューロンに染色できない。一瞬にしてスライスが全部果てる。なんだよ、Molecular Probesさん。。。頼みまっせ。Morganeと共にしばらく考え込む。はて、どうしよう。9月に実験が上手く行かなかったのも結局はロットのせいだった。非常にセンシティブな実験条件のようだ。
▼ 夜はメトへ。今日はワーグナー作曲の「タンホイザー」。ワーグナー好きの私だが、実はこの曲は楽譜はおろかCDさえも持っていない(序曲他の抜粋CDは持っているけど)。メトロポリタン歌劇場ではパリ版が使用されている。今日はトーマス・ハンプソン(Thomas Hampson)やデボラ・ヴォイクト(Deborah Voigt)はもちろん今回がメトの初デビューとなったペーター・ザイフェルト(Peter Seiffert)が最高の出来映え。しかも主役以外の脇役まで素晴らしい歌を聴かせ、合唱やオケも良く歌い、今日はこれまで聴いたメトの中でもとりわけ優れた演奏であった。
▼ 毎日新聞の記事より 「グーグル・スカラー」なるものを知る。要するに学術論文をGoogleで検索できるというわけだ。これは便利。さっそく自分の名前(Ikegaya Y)で検索してみる(←自尊心大…汗)。いずれも引用回数が少なくてか〜なりショボイ感じ。次にYuste Rと入れてみる。おお、やっぱり沢山引用されてるじゃん。やはりいい論文を書く人はちがうな。このCitationリンクはかなり便利かも。かの「Web Of Science」よりも使い勝手がよい。んで今日、気づいたことがある。SF君の論文Konnerthの総説に引用されているではないか。しかも推薦マーク★付き引用。きっと自分たちのデータが支持されているから嬉しかったんだろうなあ。
▼ Curr Opin Neurobiol誌に、MajorとTankによる「Persistent neural activity」の総説(こちら)がAOPで出ている。内容はまあ普通。ただSF君は「刺激入力の強さとPersistent中のFiring Rateの関係」の部分は読む価値があるかも(実験では単一の強さの刺激しか用いていないので)。んで、この総説がスゴイのはSupplementary Tableの驚異的な網羅度。SF君、TMさん、T4君あたりはこの表をプリントアウトして持っていると便利かも。ここで引用されているこの論文はSF君は要チェック(私は知らなかった)。
Neuron Ensemble Dynamics of Hippocampal Regions CA3 and CA1 John F. Guzowski, James J. Knierim, and Edvard I. Moser ミニ総説。
Neuron  Axon Branch Removal at Developing Synapses by Axosome Shedding Derron L. Bishop, Thomas Misgeld, Mark K. Walsh, Wen-Biao Gan, and Jeff W. Lichtman なぜかNeuron誌が大学サーバーから読めないんだけどアプストを読むに、軸索Pruning時には軸索は引っ込むんでなくて、残骸として断片化されるということみたい。断片はシュワン細胞によって消化される。
JP Postnatal maturation of mossy fibre excitatory transmission in mouse CA3 pyramidal cells: a potential role for kainate receptors Cecile Marchal and Christophe Mulle アブストしか読んでないけど、とりあえずRK君は要チェック
JP Anatomical, physiological and molecular properties of Martinotti cells in the somatosensory cortex of the juvenile rat Yun Wang, ... Henry Markram マルノッティ細胞について詳しく調べた論文。さすがはMarkramラボ、よくやるわ。
JP Local protein synthesis and GABAB receptors regulate the reversibility of long-term potentiation at murine hippocampal mossy fibre-CA3 synapses Chiung-Chun Huang and Kuei-Sen Hsu 未読。でもタイトルを見るに付け、まあそう言うことなんだろうと思う。
JP Chronometric readout from a memory trace: gamma-frequency field stimulation recruits timed recurrent activity in the rat CA3 network Shigeyoshi Fujisawa, Norio Matsuki, and Yuji Ikegaya SF君の論文。仰々しいタイトルが付いているけど、でも言いたいことは「脳波は単に神経活動の“結果”として生じているのではなく、脳波それ自体が神経活動に影響を及ぼしうる」ということ。つまり、シナプスを介さないリモート効果で神経回路を調節することができるというわけ。
JP Dissociation of slow waves and fast oscillations above 200 Hz during GABA application in rat somatosensory cortex Richard J Staba, Peter C Bergmann, and Daniel S Barth 未読。


11月19日(金)
▼ 一日実験。新しいロットのDyeを開封したら、また美しいロードが可能になった。Yusteラボの金力に任せて沢山買い貯めしとこうかなあ。
▼ 夕方はRochellの文献紹介。MakramラボのCC論文が取り上げられた。想像通り、「んで、これのどこが面白いの?」派、「これは素晴らしい」派にまっぷたつ。あらら。私はいつものように無言で聞いているだけだったけど、この論文にはちょっと方法に疑問があるので、とりあえず私は中立の立場だな。んで、今日の議論は結局「ここには新しい発見はない。これ単にMethodである」という結論に落ち着いた。
▼ 夜はボジョレー・ヌーボーとチーズ。
▼ その後はMakseに追加データを送るためにプログラミング。夜半には完成。メールで送る
▼ 『進化しすぎた脳』がNHKの「週刊ブックレビュー」という番組で天野祐吉さんに取り上げていただけるとのこと。1月16日(日)放送予定。私は観れない。
▼ 先月Brendonに紹介してもらったEstay Ziv氏から「質問してもらった論文をWebsite(こちら)に載っけたのでダウンロードできるよ」とメールをもらった。


11月20日(土)
▼ 朝からいろいろと仕事。実験関係、薬作関係、マスコミ関係など。Rockland先生からメール。もうひとつ総説を書くことに。
▼ 夕方。ヒューストンから知り合いが来ているので、彼のNYの職場の知り合い関係を含めて「(Matsuri)」という和居酒屋で飲む。この店は味も雰囲気もかなりいい感じ。ニューヨークで和食に飢えている方にはお勧め。


11月21日(日)
▼ 昼前に昨日から再開した、「MOMA」こと、ニューヨーク近代美術館(Museum of Modern Art)に行く。ここは9年前に初めて訪問して以来、マイ・ベスト美術館でありつづけている。超一級の絵画の数々には何度訪れても感動する。
▼ 美術館の近くの「Bombay Palace(ボンベイ・パレス)」でインドカレーをたらふく食べて帰宅。
▼ それ以外の時間は朝からSF君の論文に没頭。どう売り込むか、それが重要だ。 薬作にいた頃、Yusteラボの論文を読むようになって“皮質学”に対するイメージや考え方がずいぶんと変わったが、これはYusteラボでの実際の研究を通してさらに進化している。しかし、それと同時に、SF君との刺激的な議論が私の姿勢に大きな影響を及ぼしている。この意味で、今回の論文も一日も早く出版されて、そして一人でも多くの人に読んで欲しいと、いや、少なくともそういう論文にしたいと考えている。
▼ そういえばTY君の論文の返事が遅いなあ。ちょいとヤバそうな予感がする。
▼ 『カタカナ英語』の読者からURLを教えてもらった。
   これ → http://dad.cside.com/wforum/wforum.cgi?mode=allread&no=5112&page=0
ここでは拙著をきっかけに「カタカナ英語の良否」について語られている。私はノーコメント。


11月22日(月)
▼ 朝はRobertoの研究報告。樹状突起inputのLinear summationについて。
▼ 一日実験。
▼ 夜は総説を書き始める。
▼ チリ人であるRobertoは「ニュースで日本の首相がチリの民族衣装を着ているのをTVで見たよ」と教えてくれた。あれは相当高価な衣装らしい。ちなみに今回のAPECでブッシュ氏を案内しているのはRobertoの伯父とのこと。
▼ どんな社会にもひねくれ者や反発分子がいる。こんな腐った社会を変えたいとホザく人。人と違うことをしたがる人。上司の決めたことに文句ばかり言う人。でも複雑系などの“システム学”が教えてくれる ─ イワシの大群を想像してみよ。一匹がガンバって群れ全体の進路を変えようとしても絶対に変わらない。10匹集まっても所詮だめ。むしろ目立った行動をしようものなら、群れからハグれて大魚に喰われておしまい。つまり結論は、自分の考えを持ってもムダ、まあ、日和見主義で行こうや、となる。
▼ んで、これを踏まえつつ、昨夏一時帰国したときに「こんな変な日本、変えたい」と思ったこと ─ ある日、電車で携帯通話している男性が隣のオバさんに注意されていた。「車内では禁止だよ!やめなさい!」。どうやらが私が不在にしていた1年半でかなり携帯への対策が徹底されているようだ。でも、その時私は、むしろ、オバさんに訊きたかった、「そもそも携帯メールはいいのに、どうして携帯電話はダメなのか」と。 
▼ このオバさんのような「禁止されているから」という考え方は日本人に独特の姿勢。日本人は“罪”よりも“罰”の意識が強いと言われている。「これは規則だから」とか「破ったら罰せられる」ってヤツだ。でも、“携帯禁止”の規則はそれ自体が風変わりだと思わないのだろうか。だって隣の人と会話するのはOKで、電話相手との会話はダメなんだから。かつては携帯電話の性能も良くなかったから大声でしゃべってしまう傾向があったかもしれない。でも、今の携帯なら普通の声量で通じる。実際、叱られていた男性はコソコソと小さな声で会話していた。あきらかに周囲のオヤジ達のほうが声が大きかった。これってどうなの?それ以前に、そもそも車内で他人の会話が聞こえるのってそんなに不快かなあ。電車の中は“公共の場”なんだから静かな方が本来なら気味が悪いと思うんだけど(日本人は車中のお行儀が世界一良い)。んで、ホームでの携帯通話は禁止されていないんだから、さらに訳わからない。
▼ 「禁止されているから」っていう理由だけで素直に携帯通話を諦めてしまう日本人も可笑しいけど、まあ逆の意味で、ニューヨークの横断歩道では信号機を守る歩行者がいないっていうのも可笑しいといえば可笑しいか。とりあえずこの件を巡る私の意見は二つあって、一つは、話したくない人から電話が掛かってきたら「いま電車だから」と一方的に電話を切ることができるのは、このヘンテコな規則が存在してくれることの利点であるということ、もう一つは「こんな不条理な規則でも守ってくれるんだから、日本人ってヤツは従順だなあ」ということ。消費税導入だって、自衛隊派遣だって、初めは文句を言うけど、結局は素直に従って、それに慣れてしまう日本人。自分がもし上の立場だった場合を想像したら、こんな国民だったら扱いやすくてラッキーだろう。だっていつも集団になっていて、個々の人が、いい物はいい、悪い物は悪い、と判断しないから。日本人独特のブランド礼賛主義はその典型かも。 あ、こんなこと書いているけど、私自身は間違いなく“日和見主義”支持派である。要は、それが意図されたものなのか、無考慮にすぎないのかである。結果的には、まあ、どちらでも同じだけど。
Science Regulated Fast Nucleocytoplasmic Shuttling Observed by Reversible Protein Highlighting Ryoko Ando, Hideaki Mizuno, Atsushi Miyawaki うっかり日記に載せ落としていた。いかんいかん。宮脇ラボの最新論文。蛍光を消したり点けたりコントロールできる「ドロンパ(DRONPA)」という新規タンパク。理研プレスリリースはこちら(日本語)。薬作でも活用できるね。情報源は榎木さん。


11月23日(火)
▼ 午前実験
▼ 午後データ整理&Fig作り。
▼ 夜、総説書き。
▼ NYはクリスマス・イルミネーションの準備が進んでいる。キャンパスも今日電飾工事が行われていた。
▼ “Variance(ばらつき)”と“Diversity(多様性)”を混同してはならない ─ 風呂に入りながらIvan Solteszの総説を読む(これ)。個人的に最近注目している神経科学者が彼である。とりわけ今年に入ってから彼のラボから出る論文は(少なくとも私には)とても面白いものが多いし、実際SFNでも注目すべき発表をしていた(まだ論文になっていない)。念のためガヤ付きの学生さん用に要チェックPubMedリスト
▼ 来年の Annual Review of Neuroscienceのタイトル(こちら)。早く読みたいなあと思うのがいくつかある。これが出る頃は私はもう日本か。
▼ オンライン書店でなく、紀伊國屋や三省堂などの一般書店でも『進化しすぎた脳』が総合ベスト20位以内に入っているという知らせを、編集部からもらった。『記憶力を強くする』も『海馬』も共にオンラインでよりよく売れる(販売部数の10%以上がAmazonで)という変わった傾向があったらしいので、これは嬉しい知らせだ。
Cell A Behavioral Role for Dendritic Integration: HCN1 Channels Constrain Spatial Memory and Plasticity at Inputs to Distal Dendrites of CA1 Pyramidal Neurons M.F. Nolan, G. Malleret, J.T. Dudman, D.L. Buhl, B. Santoro, E. Gibbs, S. Vronskaya, G. Buzsaki, S.A. Siegelbaum, E.R. Kandel, and A. Morozov ゴールデンNYコンビ。前脳特異的HCN1ノックアウトマウスの解析(普通のKOマウスも平行して使っている)。前報では小脳に焦点を当てたが、今回は海馬。海馬CA1錐体細胞。HCH1がなくてもIh成分はもちろん減少し(完全に消えるわけではない)、Ihの立ち上がりも遅くなる。それゆえに低周波成分の膜応答が減じる。実際、脳波シータ成分が減少する。貫通線維-CA1 LTP増大(Schafferでは差なし)。空間学習能向上。電気生理データにちょっと突っ込みを入れたくなるけど、全体として重要なことを言っている論文であることは間違いない。TY君の論文にも引用しないと。
PNAS Transient expansion of synaptically connected dendritic spines upon induction of hippocampal long-term potentiation Cynthia Lang ... Eric R. Kandel, Steven A. Siegelbaum, and Stanislav S. Zakharenko M-lineマウス海馬切片CA1二光子。テタヌス刺激してもスパインのサイズが大きくなるのは数としては10%以下。そりゃそうだろう。。。
PNAS Histone deacetylase inhibition-mediated neuronal differentiation of multipotent adult neural progenitor cells Jenny Hsieh, ... and Fred H. Gage ヒストン脱アセチル酵素(HDAC)の阻害薬であるバルプロン酸が海馬神経前駆細胞を神経分化に向かわせる。その有力なターゲットの一つとしてNeuroDが同定された。分化だけでなく、小児てんかんが絡んできそうな雰囲気もあって、なかなか示唆に富んでいる。興味ある人はこれこれこれあたりは必読。
N Fear learning transiently impairs hippocampal cell proliferation K. Pham, B.S. McEwen, J.E. Ledoux and K. Nader ラットContext性恐怖条件付け。“学習獲得時”に歯状回の細胞分裂能が低下する。っていうか、なんだかスゴい連名だなあと思ったら、Ledoux繋がりみたい。
N Polysynaptic olfactory pathway to the ipsi- and contralateral entorhinal cortex mediated via the hippocampus L. Uva and M. de Curtis タイトルに驚いたけど、でも、そういうことらしい。図7に模式図がある。外側嗅内野から内側嗅内野への投射はあまり強くないのかな。あと半球を結びつける役割としてのCA3野の存在をこれだけはっきり示した生理学論文ってあまりないと思う。もしかしたら初めて?


11月24日(水)
▼ 朝、RafaとMeeting。
▼ あとはMorganeとちょっと実験計画の話をして、昼にJFK空港へ。マイアミ経由でアルゼンチンに向かう。
▼ アルゼンチンは日本とはほぼ地球の正反対の位置にある。 でも、位置関係を勘違いしやすい(少なくとも私は誤解していた)。地球儀を見てみよう。 まず、時差だ。ニューヨークとアルゼンチンの時差はどのくらいか。ともに南北アメリカ大陸の東海岸だから時差はほとんど無いだろうと想像する人が多いと思う。実はアルゼンチンの方が2時間も早い。次は距離。直行便でもNYから11時間も掛かる。これは日本と米国間の飛行時間とほぼ同じである。遠い。しかも往路は乗り継ぎなので計14時間半。実に遠かった。サンクスギビングの寸暇でNYから旅行するには無謀な場所であった。今回の旅行は機中2泊の“2泊5日”という超変則的な旅になった。
NN Retinal network adaptation to bright light requires tyrosinase P S PAGE-MCCAW, S C CHUNG, A MUTO, T ROESER, W STAUB, K C FINGER-BAIER, J I KORENBROT & H BAIER
NN Similar network activity from disparate circuit parameters A A PRINZ, D BUCHER & E MARDER
NN Selective reconfiguration of layer 4 visual cortical circuitry by visual deprivation A MAFFEI, S B NELSON & G G TURRIGIANO
JN Mechanisms Underlying Differential D1 versus D2 Dopamine Receptor Regulation of Inhibition in Prefrontal Cortex Heather Trantham-Davidson, Laurence C. Neely, Antonieta Lavin, and Jeremy K. Seamans
JN Encoding of Natural Scene Movies by Tonic and Burst Spikes in the Lateral Geniculate Nucleus Nicholas A. Lesica and Garrett B. Stanley


11月25日(木) アルゼンチン、ブラジル
▼ 早朝にブエノスアイレスに到着後、国内線空港に移動し、そのままイグアス市へ飛ぶ。昼過ぎ、熱帯雨林のジャングルを降り立つとそこはすでに国立公園の中。熱帯雨林の名の通り天気が“雨”なのがちょいと残念。
▼ なぜ限られた日数の休暇なのに、こんな無理をして、はるばる遠い異国の、しかもド田舎までやってきたのか。 そう、目的は「イグアスの滝」だ。世界最大と謳われる大瀑布。これを生で見るのが長年の夢だった。
▼ そして今日、夢が叶った。いや、ここは聞きしに勝る大スペクタクル! かのナイアガラの滝がちっぽけなオモチャに思える程の規模だ。実際にナイアガラの数十倍はあるように感じる! その威厳には神々しさすら感じる。
▼ 到着して早々、ボートツアーに乗る。ライフジャケットを着て、小さなボートで滝壺に突っ込む。文字通りびしょぬれ。不快なほどびしょぬれに。。。でもやっぱりスゴい。ナイアガラの滝の「霧の乙女号」がいかに子供ダマシかわかる。うーん、スゴすぎる。
▼ その後、ブラジル側からも滝を眺める。滝はちょうど国境にある。入国ビザを持っていなかったけどブラジルに入れてもらえたのはラッキーだったみたい。対岸からの景色もまた見事。もちろん写真に収まりきらないデカさだ。というか、TVとか写真とかでよく見るけど、あれらはすべて「イグアスの滝」の真価を伝え切れておらず、明らかに滝の魅力を下げている。実物を見ないと絶対にそのスゴさはわからない。とかいいながら、私も撮った写真をアップ(こちら)。
▼ ディナーは宿泊したホテルのレストラン(ここから滝が見える)で。高級アルゼンチンワイン(といっても2000円台後半だけど…)。なんて贅沢なんだろう。
Science A Probabilistic Functional Network of Yeast Genes Insuk Lee, Shailesh V. Date, Alex T. Adai, and Edward M. Marcotte


11月26日(金) アルゼンチン
▼ 今日は晴れた。午前はイグアスの滝のアルゼンチン側を散策。「悪魔ののどぶえ」という展望台までいく。あまりの迫力に圧倒される。この国立公園は滝だけでなく周囲の自然も素晴らしい。アナグマやアルマジロ、バカでかいトカゲなどの風変わりな野生動物たちに普通に出会う。そして何より素晴らしいのは、ハチドリやツーカンなどの南国の鳥たちや、それに五百種を数えるという鮮やかな蝶たちがあちこちに飛び交っている。まさに絵に描いたような「楽園」。この国立公園はマヂでお薦め。
▼ 午後にはブエノスアイレス市に戻る。ホテルのあるレコレータ地区を散策しながら国立美術館へ。「ラ・ビエラ」で夕食。夜は「エスキーナ・カルロス・ガルデル」でタンゴ・ショーを見る。
▼ ブエノスアイレスとはスペイン語で「良い空気(Good Air)」の意味。その由来は諸説あるみたい。
▼ スペイン語圏のラテンアメリカに旅行すると、いつもそうなんだけど、私の名前「Yuji」は「ジュヒ」と発音される。誰のことかわからない。。。


11月27日(土) アルゼンチン
▼ NYへのフライトが夜発だったので、一日中ブエノスアイレス市内観光。五月広場(大聖堂、カルビド、大統領府)、サン・テルモ地区(ドレーゴ広場、ロシア教会)、ボカ地区(カミート)、レコレータ地区(レコレータ墓地、聖母ピラール聖堂)など。
▼ アルゼンチンは人口の90%以上がヨーロッパからの移住民。それ故に(とくにブエノスアイレス市は)ヨーロッパと見まごう景色が多くある。さらに美人が多くてドキドキ(これはブラジルでも同様)。ブエノスアイレスの特徴のひとつは道路幅が広いこと。世界一広いといわれる「七月九日通り」は全18車線もある。もちろん一回の信号待ちでは歩いて渡りきれない。12車線もあるのに“一方通行”という道路もあった。ちなみにアルゼンチンの物価はNYの三分の一くらい。ちょっとした金持ち気分だ。妻は帰りに免税店で「H.Stern(ブラジルブランド)」の指輪を買っていた。私は知らないんだけど有名な宝石商らしい。マンハッタンの五番街にもある。
▼ イグアスの滝、ナイアガラの滝、ビクトリアの滝は「世界三大瀑布」と呼ばれる。残るビクトリアの滝の制覇は定年後かな。
▼ 今回の旅は慌ただしかったけど、印象の強さという意味では4月のグアテマラ/ホンジュラス旅行と並んで群を抜いている。一生忘れないだろう。


11月28日(日)
▼ まだ暗い早朝、ニューヨークに戻る。雨だ。。。寒い。
▼ ずっとパソコンに向かっていたが、たまったメール処理と雑務、それに妻の長編レポートのチェックだけで一日が終わった。うーん、総説書きとSF君の論文をせねば。
▼ ブラジルの店で「一番高い豆をくれ」といって買ってきたコーヒーを煎れてみた。クセがなくて旨い。しかし1.5kgも買ってたったの1200円ってどういうこと。寝る前には赤ワインをちょっと飲む。これもアルゼンチンではかなり高価な高級ワインだった。2200円。これも文句なしに美味い。また行きたいかも、ラテンアメリカ万歳! っていうか、年末はまた南米に行くんだけど、はい。
▼ 『進化しすぎた脳』 ─ 韓国語にも翻訳本へ。


11月29日(月)
▼ 朝、塗谷さんの研究報告。つうか、まだYusteラボに来てから1ヶ月ちょっと。私の渡米時を思い返してみれば当然だけど、データなんてあるはずがない。と思っていたら、すでにずいぶんと実験が進んでいる。研究構想もしっかりしているし、英語も相変わらずBeautiful。
▼ その後の時間はずっと実験準備と総説書き。
▼ 夜はジャン・ジョルジュ(Jean-Georges Vongerichten)氏の新しいアジア系エスニック・レストラン「スパイスマーケット(Spice Market)」へ。ここは数ヶ月先まで予約が一杯で有名。今回は先月の初めに「今年中で空いている日時をどこでもいいから」と頼みこんで今日の6時半に入ることができた。んで、行ってみると、実際に美味い。でもまあ、もうこのレストランには来ないと思う。エスニックだったら日本でも同じレベルの物が、しかももっと安く食べられる。帰国間近となった今はやはりNYでなければ味わえないことをしたいものだ。
▼ 帰宅してSF君の論文を少し。
▼ 日本テレビから「世界一受けたい授業」への出演依頼がある。『進化しすぎた脳』での中高生への講義が“授業”として一定の評価を受けたということかな。嬉しいことだ。でも、さすがにTV出演はお断りする。
Hippo Differential modulation by carbachol of four separate excitatory afferent systems to the rat subiculum in vitro Ayumi Kunitake, Takato Kunitake, Mark Stewart
Hippo Marked species and age-dependent differences in cell proliferation and neurogenesis in the hippocampus of wild-living rodents Irmgard Amrein, Lutz Slomianka, Inga I. Poletaeva, Natasha V. Bologova, Hans-Peter Lipp
Hippo Heterosynaptic metaplastic regulation of synaptic efficacy in CA1 pyramidal neurons of rat hippocampus Didier Le Ray, ..., Washington Buno
Hippo Two reentrant pathways in the hippocampal-entorhinal system Fabian Kloosterman, Theo van Haeften, Fernando H. Lopes da Silva
▼ 今日のキーワード検索:「浜ホト 女の子 多い」 へえ、そうなんだ。


11月30日(火)
▼ 午前実験。
▼ 午後データ整理と総説書き。
▼ 今日はロックフェラーセンターのクリスマスツリーの点灯式。午後6時に駆けつけるが、あまりの人に特設モニターで見ることに。
▼ 夕食は「バーベッタBarballet)」でイタリア料理。ここは現在ニューヨークでもっとも歴史のあるレストランらしい。格調高い内装には驚いた。味もなかなか。
▼ その後、カーネギーホールへ。今夜はフジ子ヘミングさんのソロ演奏会。別に私は彼女のファンでもないし、彼女に興味があるわけでもない。単に記念に行ったまで。だから日記ではコメントはしまいと思っていたのだが、これが、なんというか、意外と良かった。演奏は古いスタイル。いわゆる“良き時代”が彼女の音楽には残っている。音が綺麗であるわけでなく、また超人的なテクニックがあるわけでもなく(思ったよりは遙かに技巧は安定していたが)、彼女が持ち合わせているものは優しいタッチと奥行きのある深いルバート。それで下品なリストの作品にでさえ芳しい香りが漂うのだ。それから芸術を離れた彼女の慈善活動にも好感が持てる。今年で71歳。まだまだ一線で活躍して欲しい。
▼ コンサートの後に散歩しながら撮ったマンハッタンのクリスマス風景。アップした写真では全然わからないけど、カメラが良くなった分、去年12月6日に撮った写真より遙かに高画質で撮れる。
▼ 伯父が亡くなった。ガン。62歳。
PNAS Ca2+ activity at GABAB receptors constitutively promotes metabotropic glutamate signaling in the absence of GABA  Toshihide Tabata, ... Masanobu Kano マウス培養小脳細胞。GABAB受容体は恒常的に細胞外Caイオンと結合しているのだが(参考文献)。この結合が(GABA非依存的に)Gタンパクを解さずに直接mGluR1受容体の機能を高めているという話。やっていることは良くわかるけど論文の価値が測りきれない。ちなみに、関係ないけど、皮質のGABABの研究について昨年大きな進展があった(=GABABのソースがneurogliaform cellであることがわかった)。この論文がそれ。GABAに興味がある人は必読。
PNAS The organization of orientation and spatial frequency in primary visual cortex Lawrence Sirovich and Robert Uglesich 未読。

(2004年)

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