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12月1日(水)
▼ 2004年もあと一ヶ月。去年も一昨年もNYでは12月の初めに大雪が降っている。今年は一度だけ雪の予報が出たものの、実際にはまだ雪の気配はまったくない。それどころか今のところ暖冬といっても良いのかもしれない。今日も10℃以上まであがったし。
▼ 一日実験。果てた…
▼ 『脳はなぜ「心」を作ったのか』という本に興味を持ったので、著者の前野隆司先生(慶應大学)にEメールしてみる。すぐに返事があって、本を頂けることになった。私も『進化しすぎた脳』をお送りする。
上大岡トメさんご本人から『キッパリ』という本をお送り頂いた。日本にいないのでまったく知らなかったが全85万部の超ベスト・セラーになっていたらしい。自分を変える方法、、、か。 この本、細部へのこだわりが面白い。
▼ ついでに、日本にいないので知らなかったこと。女子高校生“柴門たまき”さんがいろんなところで熱い議論を巻き起こしたとのこと。きっと、この日記を読んでいる人でわかる人がいるはずなので、(妻には反対されたが)思わずここに書いてしまった。いや、私はぜんぜん関係ないんだけど、マヂで。
Nature A synaptic laminin calcium channel interaction organizes active zones in motor nerve terminals HIROSHI NISHIMUNE, JOSHUA R. SANES & STEVEN S. CARLSON 電位感受性カルシウムチャネルのリガンドとしてラミニンが同定されたという、ありそうでなかった話題。 ラミニンβ2のLRE配列とCav2.1の第11細胞外ループが直接結合するようだ。んで、重要なことは、この結合が神経筋接合部でシナプス前構造を誘導するということ。 彼らの前報もちょっと古いけど参考になる(これこれ)。
Neuron Enhancement of Synaptic Plasticity through Chronically Reduced Ca2+ Flux during Uncorrelated Activity Inna Slutsky, Safa Sadeghpour, Bing Li, and Guosong Liu 海馬培養細胞FM1-43でプレシナプスの活動をモニター。TTXで獲得される可塑性(Quantity)の能力は内在性のBDNFが介していて、これは48時間以内に消失する一時的な現象である。しかし活動パターンのmodulationによってより長い可塑性能の維持が可能になる(Quality)。細胞外Mgがメタ可塑性の内因的な誘導因子になりうるという図5は重要。MKY先生グループの人は読んだ方が良いかも。
Neuron Shrinkage of Dendritic Spines Associated with Long-Term Depression of Hippocampal Synapses Q. Zhou, K.J. Homma, and M.-m. Poo、Neuron Bidirectional Activity-Dependent Morphological Plasticity in Hippocampal Neurons U.V. Nagerl, N. Eberhorn, S.B. Cambridge, and T. Bonhoeffer 海馬CA1錐体細胞。両者ともにLTDでスパインが小さくなることを示した論文。後者は発達にともないスパインRetraction能が減少することも示している。10月のSFNで発表されていたもの。
Neuron Rho GTPases Regulate Axon Growth through Convergent and Divergent Signaling Pathways J. Ng and L. Luo 未読。念のため掲載。
Neuron Maintaining Accuracy at the Expense of Speed: Stimulus Similarity Defines Odor Discrimination Time in Mice N.M. Abraham, ...A.T. Schaefer アブストしか読んでないけど面白そう。
JN Direct Excitation of Inhibitory Interneurons by Extracellular ATP Mediated by P2Y1 Receptors in the Hippocampal Slice Masahito Kawamura, Christian Gachet, Kazuhide Inoue, and Fusao Kato 海馬スライスCA3錐体パッチ。ATPを適用すると、adenosineに分解され、プレのA1受容体を解してEPSPの頻度を亢進するが、その一方で、ATPのままで P2Y受容体を解してIPSPの頻度を亢進する(もちろんこの効果のほうが短時間で終了する)。実際、P2Yアゴニスト2meSATPでOriensのインターニューロンが発火する。これは納得。でもよくわからなかったのは、それがインターニューロンに入るEPSP入力が増えるからというのが理由らしいんだけど、じゃあ、そのEPSPはどうやって生まれるのだろうか。
JN Nuclear Calcium/Calmodulin Regulates Memory Consolidation Klara Limback-Stokin, Edward Korzus, Rie Nagaoka-Yasuda, and Mark Mayford 骨格筋ミオシン軽鎖キナーゼのカルモジュリン結合部位はCa/calmodulinのドミネガになるのだが、これが核移行シグナルを持っていることを利用して、核のCa/calmodulinだけを選択に阻害できる前脳特異的なInducible Transgenicマウスを作ってみたら長期増強と長期記憶に異変があった。MayfordはKandelのところで活躍していた人。
NRN TOWARDS A STRUCTURAL VIEW OF GATING IN POTASSIUM CHANNELS Kenton J. Swartz 総説。ざっと見たけど網羅的でよさげ。
NRN BIOCHEMICAL MECHANISMS FOR TRANSLATIONAL REGULATION IN SYNAPTIC PLASTICITY Eric Klann & Thomas E. Dever 総説
NRN RECEPTOR TRAFFICKING AND SYNAPTIC PLASTICITY Graham L. Collingridge, John T. R. Isaac & Yu Tian Wang 総説
▼ 今週のF1000: JNP Threshold firing frequency-current relationships of neurons in rat somatosensory cortex: type 1 and type 2 dynamics. Tateno T, Harsch A, Robinson HP
▼ 今週のF1000: PNAS Associative learning shapes the neural code for stimulus magnitude in primary auditory cortex. Polley DB, Heiser MA, Blake DT, Schreiner CE, Merzenich MM
▼ 今週のF1000: EJN Locus coeruleus activation shortens synaptic drive while decreasing spike latency and jitter in sensorimotor cortex. Implications for neuronal integration. Lecas JC 読まないと。
▼ 今週のF1000: JNS Encoding of Natural Scene Movies by Tonic and Burst Spikes in the Lateral Geniculate Nucleus. Lesica NA, Stanley GB これは今週のBrendonの文献紹介で取り上げられる予定。文句なしに面白い論文。


12月2日(木)
▼ 一日ずっとNeuroscience Research誌のUpdateを書く。いろいろ調べながら書くので、なんというか、あまり進まず。明日もこれに掛かりきりの予定。
▼ 一つ下の階の山田陽一先生が来週帰国されるので、夜は同じ建物のごくごく親しい仲間数人で中華料理店「フェニックスガーデン(Phoenix Garden)」に 飲みに行く。ここは飲み物が持ち込めるので安く上がる。山田先生は、実は、私とまったく同じ日にコロンビア大学に留学された仲である。先に帰国されてしまうのはちょいと寂しい。彼の仕事はYangラボから最近でたこの論文に名前が載っている。そのほか今日集まった人は鹿島先生田中先生玉田先生の全5人。


12月3日(金)
▼ 実験の準備をちょっとした以外は、ずっとUpdate書き。今日はわりかし進んだ。
▼ 夕方はBrendonの文献紹介だったが、Update書きに熱中していたら思わず遅刻してしまった。今日は先日の予告通り、視覚刺激に対する外側膝状体神経の反応に関するJN論文が取り上げられた。やっていることはシンプルなんだけど、かなり重要なことを言っている(ただ新規性が低いのでJNになったのだろう)。いろいろ議論はできるけど、重要なのは「integrate-and-fireモデルだとバースト発火分の情報を過小評価していまうので(バースト特性を組み込んだintegrate-and-fireモデルで予測正確性があがるのでこう言える)、ニューロンはspike counterではなく、バーストに関してnon-leanerに情報を処理しているfilter素子であると結論付けられる」という点であろう。また図2を見るとtemporal codingの特徴が伺えるし、図1のベキ分布も面白い(←これは新規は発見ではない)ので、SF君は興味を持てる論文だと思う。
▼ 夜もUpdateを書き続ける。図も作る。ようやく2時過ぎに初稿を書きあげる。
JP Metabotropic glutamate receptors modulate feedback inhibition in a developmentally regulated manner in rat dentate gyrus  James J Doherty, ... David D Mott 幼若&成体ラット海馬スライス。hilar border interneuronへの苔状線維入力は幼若のほうがDCG-IVに敏感で、STDのkinetcsが速い。この差はLY341495で切れる。この結果を踏まえれば図3&4は“まあ当然かな”的データなんだけど、でも、こういう“回路”を意識した後半の実験は私の好みで、帰国後はこの路線でも研究を展開したい。
▼ ちなみに、いま薬作には私の弟子数が少ないんだけど、誰か新人さんたち、私と一緒にやってくれ〜、まぢで大募集。 あ゛、いま「弟子」って書いたけど、私は弟子なんてちっとも思っていなくて、学生とは上下のない同じ土俵の科学者だと考えている。こちらとしても、そういうスタンスの学生とやりたい。ついでながら、もう一個やりたいタイプの実験がある。それは“in vivo”ならでは特徴を活かした電気生理。例えばこれとかこれなど。もちろん私は海馬でやる。そろそろ、学生のリクルートということで。(この日記を読んでいる薬作の皆さん、読んでいない他の学生さんにも、ぜひ、そう宣伝してください)
▼ ところで、上のvivo論文の著者Lecas JCという人。先週のF1000で初めて知ったのだけど、気になって過去の研究をPubmedでチェックしてみたら、さらにどういう人か気になってしまった。


12月4日(土)
▼ 今日は皆が遊びに来るので、朝から部屋の掃除。終わったら夕方だった(汗) まあ、年末大掃除ということで…。
▼ その後、慌ててゼイバーズに買い出し。そして6時には「薫さんと塗谷さんのNY歓迎会&忘年会&クリスマス会」という名目でNYの日本人友人達が遊びにくる。個人的には花嶋かりなさんに念願かなってようやくお会いできたのが嬉しい。
▼ 最近PCの挙動が不安定だったので、スパイウェア検索ツール「ad-aware」でチェックすると76個も引っかかった。削ったらかなり解決した。ちなみに妻のPCは133個検出された。こまめにやらないといかんなあ。


12月5日(日)
▼ 案の定、二日酔い。
▼ 午前実験。Nat NeurosciのAOPに両眼闘争 (binocular rivalry) の論文が載っている。自分には関係ないけど思わず実験中に読んでしまった。
▼ 実験がある日はいつも昼が遅い。その後、昨日一通り書き上げたUpdateの一から見直してMorganeに送る(彼女に加筆を依頼している)。これでいよいよSF君の論文にも本格的に手をつけられるな。
▼ 或る人がBlogで 「仕事には “緊急だが重要でないこと” と “重要だが緊急でないこと” があって、その両者をこなすバランスが大切だ」みたいなことを言っていた。我が身を振り返ると、うーん、なんとも痛い。
▼ ボンズ選手の薬物使用 ─ マグアイア選手のときも議論になったけど、ある種のパワーを付けるのは薬物で可能かもしれない。だからホームラン数は薬物で変わるかも知れない。でも打率ってどうだろう。馬力さえ備わればヒット率が上がるという単純な物でもないような気もする。この意味では彼の打者としての記録は、仮にルール違反のドーピングがあったとしても、そのスゴさはさほど変わらないと思う。


12月6日(月)
▼ 朝はDavidの研究報告。前半はEMアルゴリズム(expectation maximization algorithm)を使ったimagingデータのクラスタリング法を、後半にはPDS(またはUP state)をガウス混合隠れマルコフモデル(Gaussian mixture hidden Markov model)を使って分離する方法を提示。後者はまだ一部うまく作動しない点がありswitchedカルマンフィルター(switched Kalman filter)を使って補強していく必要があるとのこと。ところでHMMで単離されたPDSの類似性行列(similarity matrix)を作ると、フラクタル性をもったカオスアトラクタ-(chaotic attractor)が検出されるデータを出していたが、実際にはchaoticというよりもmultistageの自己相似性のようにも見え、個人的には結構インパクトがあった。
▼ 昼から実験。夕方からはそのデータ整理。PCが重たい。
▼ 妻が試験対策用にチャン・イーモウ(張芸謀)監督の中国映画「至福のとき(幸福時光、Happy Time)」と観ていた。コメディーなんだけど、なんだか切ない感じ。
▼ Yusteラボには隣のラボから逃げてきた猩々蝿(ショウジョウバエ、Drosophila)がよく飛んでいる。でも、数ヶ月前から、これとは別にゴキブリが湧き出してきていて、最初は1mmくらいの小さなヤツだったんだけど、最近は3センチくらいまでに成長し、はやく手を打たないと大変なことになりそうな雰囲気だ。今日も2ひき捕獲した。
▼ 薬作の秘書さんから、「糸井重里さんから、発売前の本で、かわいい犬の写真が載っているのが届いている」と連絡があった。もしかしたら「Say Hello!あのこによろしく」かな。アメリカまで転送してくださるそうで、届くのが楽しみだ。
▼ カオス関係の本を買おうとオンライン書店のAmazon.comをウロウロと閲覧してした。いつも思うんだけど、amazon.co.jp(日本)amazon.com(アメリカ)では、カスタマーの質に決定的な違いが、二つある。
▼ 一つは、読者が書き込む感想や書評(レビュー)の数がアメリカのほうが多いという点。これは小さな頃から自分の意見を言うことを徹底的に教育されているアメリカ人ならでは特徴かもしれない。ともかくそれ故に、本を探す側の人間にとっては、いろいろと道しるべがあって助かるわけだ。ありがたい話である。
▼ んで、もう一つの特徴は、ほかの読者がそうした書評を評価する投票にある。「このレビューは参考になりましたか?はい−いいえ」というの部分なんだけど、アメリカのほうが「はい」と答える率が圧倒的に高い。『120人中、120人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています』というスゴい高得点を与えられている書評もときどきある。日本だったらこんな極端な絶賛は起こらない。日本なら75%の支持が得られたら十分健闘したといえる。この差を生む理由は、私が思い当たる限り二つ、(i) 日本人は陰口が好き、(ii) 日本人は減点式、つまりちょっとでも悪い部分があると全体の評価がガタ落ちする(→支持率が下がりやすい)が、アメリカ人は“良いところ”を徹底的に褒める(→支持率が上がりやすい)傾向がある。こう言うのは、いずれも一長一短で、どちらが良いとも悪いとも言えない。まあ、あえて揶揄すれば、日本人は陰湿で、アメリカ人は単純バカ、ということになる(…ごめん)。ちなみに、シャノンの平均情報量(=エントロピー)「-Σ(P×log2P)」はP=0.5で最大になるので「日本人の投票傾向のほうが情報の“量”自体は多い」と、まあ、言えるには言える。


12月7日(火)
▼ 朝からずっとデータ解析。夕方にほぼ終わる。久々の長時間(28分)ムービーだ。にしてもOregon Greenは退色が速い。
▼ 夜はカーネギーホールへ。五嶋みどりさんのヴァイオリン。ドビュッシー、ヤナーチェク、ブラームスのソナタや、NY初演とかいう現代曲「花の骸(マイケル・ハーシュ作曲)」という渋〜い選曲にもかかわらず、かのアイザックスターンホールを満員にできるのだから、彼女の人気ぶりには目を瞠るものがある。彼女の演奏は端正で美しい。女流バイオリニストにありがちな「過度の情熱」からは縁遠く、つねに気品を保っている。しかも演奏のクオリティーが高い。大抵の演奏家はCDの方が丁寧でミスもないが(何度も録り直せるから)、実演では荒かったり細かいミスが目立ったりするもの。しかし、彼女にはそれがない。非常に質の高い、かつ品の良い演奏を聴かせ、それと同時に上品すぎない華美さも持っている。この意味においては決して彼女を褒めすぎるということはないだろう。ピアニストの内田光子さんに近いのかもしれない。確か私と同じ年齢だったと思うけれど、もっと歳をとってからの彼女のモーツァルトのソナタなんかを聴いてみたい。今日で一気にファンになった。
▼ にしても今日のコンサートは玄人好みの選曲、玄人好みの演奏家。となれば聴衆の雰囲気もいつもと違う。演奏中に携帯を鳴らす人もいなかったし(当前のことなんだけどアメリカではこういう不届き者が毎回いる)、それに演奏の最後の音がホールに閑かに消え入る余韻まで味わってから拍手を始める。うーん、こういう質の高い聴衆を集められるところもさすがは五嶋みどりさん。
PNAS Imaging of receptor trafficking by using α-bungarotoxin-binding-site-tagged receptors Yoko Sekine-Aizawa and Richard L. Huganir αブンガロトキシンの結合アミノ酸配列13残基をGluR2のN端細胞外部位につけて、AMPA受容体のトラフィッキングを可能にした、という論文。共焦点を使えばrhodamine-BTXがbath中に存在していてもtime-lapseが可能みたい。賢いかも。表紙になっている。


12月8日(水)
▼ 久々に良い天気。
▼ 午前、Rafaと会議。かなり長く話した。今日はなぜか結構言いたいことが言えた(わりと英語が話せたという意味。もちろん、まだまだ、ちょー低レベルだけど)。Rafaには「ガヤは重要なデータを溜め込んでいるんだから、帰国までにそれを一掃するように、あと2報書きなさい」といわれた。うーん、1報のつもりだっただけにプレッシャーが。。。ただ、もちろん、これは光栄な話なので気合が入る。J Neurosciに2報かな。 Rafa的には「でも一報はCerebral Cortexレベル」だそうだ。うーん、がんばって質を上げ、Neuronを狙いたい。めざせ有言実行!?いちおう公言。
▼ とかいいながら、いきなり午後は本業を離れて、SF君の論文に。夜まで粘る。
▼ 近所の日本コンビニの前を通りかかったら、店頭配布の日本語新聞の一面に「NYにもオレオレ詐欺が」と大きく出ていた。ふーん、そうなんだ。んで偶然にも夕方、大学の友人から「日本の実家に『海外に行っていらっしゃる息子さんに大変なことがおこりました・・』と電話があった。みんなも気を付けて」とメーリングリストに投書があった。うぬ。
▼ 新聞といえば、今朝のNYローカル新聞のトップ記事は「NYの大富豪ドナルド・トランプ氏が婚約者にプレゼントした、全13カラットのダイヤの指輪は推定1億5千万円」。 ちなみに彼をキャラにつかったボード・ゲーム「TRUMP the Game」もある。どんなんだろう。
Nature  TRPA1 is a candidate for the mechanosensitive transduction channel of vertebrate hair cells  DAVID P. COREY,... DUAN-SUN ZHANG すでに日記でとりあげた。こちら
Nature Early motor activity drives spindle bursts in the developing somatosensory cortex RUSTEM KHAZIPOV, ...GYORGY BUZSAKI  以前、SF君が言っていたのは、この論文のことかな。幼児ラットvivo体性感覚野。四肢の動きと協調して発生する紡錘波をL5錐体細胞へのパッチでモニターすると興奮性と抑制性のシナプス入力のbarrageとして観察される。四肢の動きを伴わない紡錘波が14%存在し、それゆえに脊髄Lesionで完全には切れない。ということは自己組織的だと結論付けられる(本当か?)。個人的にはmovement-linkedとunlinkedの波形の類似性に関する定量解析が見たい。
JN  On the Initiation and Propagation of Dendritic Spikes in CA1 Pyramidal Neurons Sonia Gasparini, Michele Migliore, and Jeffrey C. Magee SDラット海馬スライスCA1樹状突起パッチ。樹状突起に局所スパイクを誘導するためには、時間的にも空間的に同期したシナプス入力が必要だというデータで、それ自体は驚くべき事実はないんだけど、これを詳しく定量化しているので重要。たとえば、樹状突起スパイクの閾値は、細胞体のそれよりも10mV高いとか、3ms以内に50個のシナプス入力が100μm以内の狭い範囲で同時に起こってようやく樹状突起スパイクが生じるとか、などなど。あとAMPAコンダクタンスのshunting効果がNMDAコンダクタンスによって消されるという考え方についてはJohnstonのJNP論文をしっかり読まねば。
JN Boosting of Action Potential Backpropagation by Neocortical Network Activity In Vivo Jack Waters and Fritjof Helmchen 麻酔下ラット皮質L2/3パッチ UP stateは細胞体、樹状突起で同時に起こり、UP stateの方が活動電位の逆伝播の効率が良いという論文。言ってしまえば、結論はそれだけなんだけど、でも、Fig4Bなどちょっぴりスパイスが効いたガヤ好みの論文。


12月9日(木)
▼ 昨夜Robertoが殺虫剤をラボの小部屋に撒いたので、今朝、私の机のわきにゴキが20匹死んでいた。Robertoは「ゴキ」という日本語で覚えてしまった。正しく教え直した方がいいかなあ。
▼ 朝から一日、実験。昨日届いた新しいFluo-4はなぜかまたダメみたいなので、Oregon Greenで実験。Oregon Greenもロット差があるんだけど、でも最近克服した。Fluo-4のロット差は今のところお手上げ。
▼ 夜はSF君の論文。あまり進まず。
▼ 今日突然Amazon.comからメール。「在庫がないので注文はキャンセルさせていただきました」。それって、あのお、6月に注文したヤツだあね。いまさらだけど…笑える。
▼ 今日は妻は「さらば、わが愛 覇王別姫」を観ていた。いろいろと印象深い映画だ。私はなぜか予定のタイミングがあわず当時リアルタイムで観られなかった。
▼ 私もFirefoxにした。ついでに大学PCでナゼかBeckyが走らなかったので、今更ながらメーラーをThunderbirdに変えた。両者とも快適。
▼ 学校の「学」という漢字は旧字体では「學」と書く。この漢字の成り立ちを高校生のころ先生が教えてくれた。「學」の部分構造をよく見てみよう。そう、これは「両手」で「×(知識)」を「子ども」に与える動作、つまり<教育>を意味している。「×」は“知”を表しているというのがポイントだ。となると、「脳(腦)」という漢字は「知(X)の入った箱器」という意味だろうか。ご丁寧にてんっぺんには「<<<」と“髪の毛”らしきものまで付いている。ってな話を妻としていた。その観点から類推すると「悩(惱)」という漢字は味がある。りっしんべん「小」は“心”を表しているわけだから、「知」から生まれた心は<悩み>、ということになる。もちろんタダの邪推。ホントなら面白いけど。
JNB Differential properties of dentate gyrus and CA1 neural precursors H. Becq, I. Jorquera, Y. Ben-Ari, S. Weiss, A. Represa 
JNB BDNF regulates primary dendrite formation in cortical neurons via the PI3-kinase and MAP kinase signaling pathways Paul A. Dijkhuizen, Anirvan Ghosh


12月10日(金)
▼ 一日実験。きれいな写真用のデータが取れた。
▼ 夕方はフランスから来たJean Rossier氏のTalk。脳スライス標本からのsingle cell RT-PCRで有名な人なんだけど、今日のTalkでとりわけ面白かったのは、一個の皮質インターニューロンを刺激するだけで、近傍の脳毛細血管の弛緩や収縮がおこるというデータ。弛緩か収縮かはインターニューロンの種類によって異なる。これは最近のJN論文とその続データである。トーク中、「私は薬理学者だから次に○○を追求したくなった」といって話題を展開していく姿勢が面白かった。これ、私もよく使う手。
▼ 夜はメトロポリタン歌劇場へ。オッフェンバッハのオペラ「ホフマン物語」。ロマン派作家ETAホフマンの奇怪小説を元にしたストーリー。今夜は主人公を歌ったラモン・ヴァルガス(Ramon Vargas)を筆頭に歌手達は皆レベルの高い歌唱を聴かせた。とりわけ、今日がメトへのデビューとなったアレクサンドリア・クルザック(Aleksandra Kurzak)は、そうでなくても難しいオランピアのコロラトゥーラ・アリアをさらに難易度を高めて歌っていて、その技術力には驚かされた。
▼ 『Spiking Neuron Models』という本がよいという評判を聞いたので、昨夜ネットでいろいろと調べていたら著者のサイトにこんなに風にほぼ全内容が公開されていることを発見。すげえ太っ腹ぶり。参考文献へのリンクも付いていて便利。ただ、やっぱり紙媒体(=本)として手元に欲しいかも。お金に余裕ができたら買おうかな。
▼ 昨日、


12月11日(土)
▼ 朝、雑務。
▼ 昼、SF君の論文。やはりあまり進まず。途中、大学に行ったらBrendonとイメージングのbase subtractionの話になって、彼の書いたMatlab routineを3つもらった。うち二つはムービーのXY adjustment、もう一つはCell contour detection用のプログラム。前者はシンプルながらとても賢いアルゴリズム。うーん、負けた。
▼ 夜、ブルーノート。妻の友人と薫さんと。マッコイ・タイナーMcCoy Tyner)のピアノトリオ。知らなかったんだけど、今日は彼の66歳の誕生日だったらしい。会場は大盛りあがり。演奏後、彼に「It was beautiful!」って声かけたら、日本語で「ありがとう」って返ってきてウケた。ところで今日ベースを担当したスタンリー・クラーク(Stanley Clarke)、彼、ちょースゲえ。演奏スタイルがベースという楽器の域を超えている。
▼ 妻が「ル・クルーゼLE CREUSET)」の鍋類をいろいろと買い足してきた。あはは、ミーハーだ。でも、これ、確かに素晴らしく良くて、同じように調理しても、ルクレーゼ製品を使うと、かなり美味しく作れるのだ、ホントに。まだ持ってない人がいたら、ちょーお勧め。 あ゛、もちろん私はル・クルーゼの回し者ではない、念のため。
▼ 昨夜、ほぼ日の「Say Hallo!」が届いた。深夜、思わず読みふけってしまう。静かな感動をもらった。 早速、ほぼ日にメールをしたら、なんと15分以内に糸井さんから長いお返事をいただく。いつもレスが早い。しかも心を打つ言葉がつぎつぎと流れるように出てくるなんてすごい。文字入力も速いみたい。
▼ 心理学者ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)は自著「科学的心理学草稿(Project for a Scientific Psychology)」を“(その内容が)時期早々”として生前に公開しなかったという(参考文献(pdf))。そこには、しかし、シナプスを“contact barriers”と呼び、ψニューロンなるものを想定し、そして、その“permanent alteration following an event”が記憶の基礎になっていることを早くも示唆している(参考文献)。同書にはLTPに関する重要な性質“Input Specificity”と“Heterosynatpic LTD”までもが述べられている。なんと、ドナルド・ヘブ(Donald Hebb)よりも50年以上も昔の話である。しかし、それよりもさらに前に、連想心理学者デービット・ハートレー(David Hartley)が1700年代に、また心理学者アレクサンダー・ベイン(Alexander Bain)が1800年代に、すでにヘブ仮説について考察している(参考文献)。
CON Pacemaker neurons and neuronal networks: an integrative view Jan-Marino Ramirez, Andrew K Tryba and Fernando Pena
CON Persistent neural activity: prevalence and mechanisms Guy Major and David Tank
CON Functional diversity and specificity of neostriatal interneurons James M Tepper and J Paul Bolam
CON Selecting the signals for a brain machine interface Richard A Andersen, Sam Musallam and Bijan Pesaran
CON Signal acquisition and analysis for cortical control of neuroprosthetics Stephen I Helms Tillery and Dawn M Taylor


12月12日(日)
▼ 今日でアメリカに渡って丸2年。昨年の今日、日記に書いた目標は二つとも達成できていない。いかん。いかん。本当にいかん。めざせ有言実行(再)。
▼ 昨夜、就寝直前にワインを飲んだせいか朝寝坊。
▼ 一日中、SF君の論文。少しずつだけど進み始める。
▼ 出版社から情報:『ダ・ヴィンチ 2005年1月号』の「絶対読んでトクする20冊」と「今月の注目本130」の2つのコーナーで同時に『進化しすぎた脳』が取り上げられたみたい。ついでにもう一個もらった情報。『脳の中の幽霊』がいまアマゾン売り上げ第1位になっている。日本はちょっとした脳ブームなのかな。薬作の人で『脳の中の幽霊』を読んだことがない人がいたら(多分ほとんどの人は読んでいるとは思うんだけど、でも、念のため)、ぜひ読んでおこう。


12月13日(月)
▼ 朝、Dmitriyの研究報告。UPstate関係。盛りだくさん。とりわけ後半に彼が話した多重安定性モデルの内容はSF君と議論したい所なんだけど、情報漏洩になってしまうのでやめておく。とりあえずヒントはこの論文。日記でもちょっと書いたことがある(こちら)。
▼ 昼は実験。なぜか今日は染色が良くない。不思議だ。
▼ 夕方、火災警報が鳴った。別に誤報は珍しくないんだけど、Jasonが「部屋がちょっとキナ臭い」というので、念のため外に避難。すると多くの人がすでに避難していた。アメリカに渡って驚いたことの一つに、誤警報でもみんな毎回ちゃんと避難するということ。いや、まあ、それが当然か。。。とりあえず今日の警報も原因不明らしい。
▼ 夜はSF君の論文。
▼ そろそろ榎木さんが帰ってくるかな。エジプト報告が楽しみだ。
▼ 出版社からまた情報:今日の読売新聞夕刊に『進化しすぎた脳』が取り上げられたという。ダ・ビンチの書評と共にスキャンしたものをメールで送ってくださった。講義やってよかったあ。
PLoS A Chemoattractant Role for NT-3 in Proprioceptive Axon Guidance Genc, P. Hande Ozdinler, April E. Mendoza, Reha S. Erzurumlu NT-3が筋肉に投射する脊髄神経の軸索をガイダンスする。


12月14日(火)
▼ 今日から一気に冷えた。初めての零下。最低気温がマイナス5℃だったとか。たしかに寒かった。
▼ 朝からデータ整理。
▼ 夕方からSF君の論文。
▼ New York Timesがトップで伝えたところによると、Googleが電子図書館としても機能すべく動いているという。デジタル化されたの本を検索&閲覧できるとのこと。来年4月までに7万冊、最終的には1億5千冊。うーん、すごい。まだ色々な困難が伴っているらしいんだけど、個人的にはけっこう期待。
PNAS Evidence that injury-induced changes in hippocampal neuronal calcium dynamics during epileptogenesis cause acquired epilepsy Mohsin Raza, ... Robert J. DeLorenzo ピロカルピン癲癇モデル海馬&皮質。てんかんが慢性化したラットでは細胞内のカルシウム濃度が恒常的に高い。MK801で発作の進展もカルシウム上昇も消える。
PNAS Common scale-invariant patterns of sleep-wake transitions across mammalian species Chung-Chuan Lo, ...d Plamen Ch. Ivanov 寝ている人(や動物)を見ていると(本人は記憶にないものの)しばしば覚醒していることがわかる。その覚醒時間がベキ分布になるという論文。これは種(マウス、ラット、ネコ、ヒト)に依存しない。一方、連続睡眠時間の分布はポアソンに。
PNAS Toward an evolutionary perspective on conceptual representation: Species-specific calls activate visual and affective processing systems in the macaque  Ricardo Gil-da-Costa, ... Alex Martin


12月15日(水)
▼ 今朝、夢にタイチが出てきた。
▼ 一日中気温がマイナスだった。
▼ 朝から自宅のノートPCが壊れた。復帰に夜まで費やすが…HDが物理的に壊れているようで結局直らず無駄に時間を費やした。買い替えか?
▼ 午後は研究棟10階のクリスマス会。その後、Hernnan Makseと彼の学生であるChaoming Songを交えてRafaと4人でMeeting。巨大ネットワークシステムがどのように生じるかという問題はグラフ理論屋にとって今もっともホットな話題の一つ(例えば有名な論文はこれ)。私の Hopfield回路のデータは世界で初めて“時系列”をもっているのだそうで、とてもよいサンプルになるんだろう。自己相同性がどのように生じるかというのがこのデータによって判明し始めたらしい。こりゃ、当初の予想とは異なり、彼らの土俵に入り始めた感じだな。彼らの次の論文はフラクタルの形成機構なんだそうだ。
▼ 今日連絡があったところによると、一昨日の火災警報は本当に火事だったらし い。焦げ臭かったのは正しかったわけだ。
Neuron Competing for Memory: Hippocampal LTP under Regimes of Reduced Protein Synthesis Rosalina Fonseca, U. Valentin Nagerl, Richard G.M. Morris, and Tobias Bonhoeffer ラット海馬スライス。あるシナプスにLTPが先行すると他のシナプスのLTPの“維持”を助けることができる、という「synaptic tagging」と呼ばれる現象があるんだけど、これはその概念 を拡張した論文。つまり、synaptic taggingはLTP維持に必要なタンパク質があらかじめ存在すれば後発の弱いLTPも同様に維持できるという説明なんだけど、この考えに従えば、あるLTPに使われるべきそのタンパク質が他のシナプスのLTPに横取りされてしまったら、本来のシナプスではLTPが生じにくくなるはずで、彼らはこれを「competitive maintenance」と名づけた。
Neuron Modality-Specific Control of Strategic Spatial Attention in Parietal Cortex Christopher D. Chambers, Mark G. Stokes, and Jason B. Mattingley 下頭頂小葉(inferior parietal cortex)は視覚刺激に注意を向けるのに重要だが、体性感覚刺激には関与していないとして、supramodalityの存在を否定している(みたい)。
Neuron Dendritic Spine Dynamics Are Regulated by Monocular Deprivation and Extracellular Matrix Degradation Serkan Oray, Ania Majewska, and Mriganka Sur Experience-Dependent Pruning of Dendritic Spines in Visual Cortex by Tissue Plasminogen Activator Nobuko Mataga, Yoko Mizuguchi, and Takao K. Hensch in vivoイーメジング。片側閉眼で生じる視覚野可塑性はスパインの消失レベルで生じていて、これはtissue plasminogen activator(tPA)が媒介している。前者の論文はSpine Motilityを詳しく測っているが、論文の質は後者のほうがはるかに高く、内在性のtPAが関与していることを示しているだけでなく、GAD65 KOマウスを使ってpuruningが興奮と抑制のバランスに依存していることも示している。両者とも2/3層錐体細胞を見ているとはいえ、注意すべき点は前者がBasal、後者がApical Dendriteで実験している点である。これは重要な違い。にもかかわらず、両論文を 取り上げた同号のミニ総説ではこの点が論じられていない。
JN Localization of Brain-Derived Neurotrophic Factor to Distinct Terminals of Mossy Fiber Axons Implies Regulation of Both Excitation and Feedforward Inhibition of CA3 Pyramidal Cells Steve C. Danzer and James O. McNamara M-lineマウスを使って苔状線維終末のBDNF分布を丹念に調べた論文。Composite confocalを使って高精度画像を得ている。RK君要精読。
JN Different Presynaptic Roles of Synapsins at Excitatory and Inhibitory Synapses Daniel Gitler,.... George J. Augustine 3種のシナプシンをすべてノックアウトしたマウスの培養海馬神経。興奮性伝達はSTDの亢進、抑制性ではBasal伝達の低下が見られた。
JN Molecular Dissection of the Semaphorin 4D Receptor Plexin-B1-Stimulated R-Ras GTPase-Activating Protein Activity and Neurite Remodeling in Hippocampal Neurons Izumi Oinuma, Hironori Katoh, and Manabu Negishi
JN GABAA Receptor-Associated Protein Traffics GABAA Receptors to the Plasma Membrane in Neurons Tarek A. Leil, Zi-Wei Chen, Chang-Sheng S. Chang, and Richard W. Olsen
JN Step Training-Dependent Plasticity in Spinal Cutaneous Pathways Marie-Pascale Cote and Jean-Pierre Gossard
JN Inferior Olive Oscillations Gate Transmission of Motor Cortical Activity to the Cerebellum Sarah P. Marshall and Eric J. Lang 下オリーブ核にapaminやcharybdotoxinを投与し、自発オシレーションのレベルを上下させたときの、運動野繰り返し刺激応答の周波数依存的な応答を調べた論文。
JN Different Sensory Systems Share Projection Neurons But Elicit Distinct Motor Patterns Dawn M. Blitz, Mark P. Beenhakker, and Michael P. Nusbaum


12月16日(木)
▼ がーん、1月3日からラボセミナーが入っていることを知る。いや、まあ、アメリカには正月はないので、これで普通なんだけど、でも、なんていうか、私、思いっきり旅行中(汗)
▼ 午前、Glosterの論文にコメント
▼ 昼、SF君の論文を校正。一通り終わらせたので、これで道程の半分まで来た。
▼ 夕方は壊れたノート・パソコンの代替機を買いに行く。帰国間近ということもあって、日本直輸入のパソコンを買う。NYにはそういう専門店がある(ここ)。んで、買ったパソコンはもっとも安価だったFUJITSU BIBLO MG50J。まだまだ環境は元通りになっていなけど、こうして日記をアップできるまでには復帰。もちろん過去のデータはほとんど消えた。まあ、それもよい。っていうか、このアパート、無線LANが4種類も届いているのね。
Nature Neurosurgery: Functional regeneration after laser axotomy MEHMET FATIH YANIK,... ADELA BEN-YAKAR 非常に弱いレーザー光で線虫の軸索1本を100%の確率で切ることに成功。その後の再生は神経レベルでも行動レベルでも観察される。
JP Persistent changes in the intrinsic excitability of rat deep cerebellar nuclear neurones induced by EPSP or IPSP bursts Wei Zhang, Jung Hoon Shin, and David J Linden


12月17日(金)
▼ 午前、実験。
▼ 午後、研究棟全体のクリスマスパーティーだったけど、ほどほどで抜けて、SF君の論文に専念。
▼ 夜はRafa宅でラボ内のクリスマスパーティー。いろいろと盛り上がっていたけど、個人的に一番ウケたのは、この日記でも何度も登場したチリ出身のRoberto、そう、ラボで私の隣に座っていてゴキブリが嫌いな彼。 彼は、なんと、例のチリ人妻ことアニータ・アルバラードさんと個人的な知り合いであるということ。彼女の経営する豪華レストランに招待されたこともあるという。「日本人で彼女を知らない人はいないよ」と言ったら驚いていた。
▼ その後はPCの環境復帰へ。少し改善。
▼ 今日の薬作の博士発表はどうだったかな?
Cell The Importance of Dendritic Mitochondria in the Morphogenesis and Plasticity of Spines and Synapses Zheng Li, Ken-Ichi Okamoto, Yasunori Hayashi, and Morgan Sheng ラット海馬培養細胞またはスライス培養。Creatineでミトコンドリアの機能を高めるとスパインおよびシナプス数が増える。逆にシナプス活動によってもミトコンドリアのスパインへの局在がおこる。局在にはDrp1 (dynamin-related protein-1)やOPA1 (optic atrophy1)など、ミトコンド リアの分裂/フュージョンを担う分子(dynaminファミリーのlarge GTPase)が必要である。
Cell Specific Polyunsaturated Fatty Acids Drive TRPV-Dependent Sensory Signaling In Vivo Amanda H. Kahn-Kirby, ... Jennifer L. Watts
Science Human Amygdala Responsivity to Masked Fearful Eye Whites Paul J. Whalen,... Tom Johnstone ヒトfMRI 扁桃体は白目の部分が多い瞳によく反応する。それは驚いたときの目の表情に相当する。目は口ほどにものをいうってやつ?ネタ


12月18日(土)
▼ 朝はパソコンの環境整理。
▼ その後は妻の友人たちのクリスマスパーティー。Metro Northに乗ってハリソンまで出向く。長く滞在。
▼ 夜、帰り道にメトロポリタン歌劇場に寄る。今日はヘンデルの「ロデリンダ」。ヘンデルのオペラは全曲通しては聴いたことがない。それでも、聴きに行ったのは、主役をレニー・フレミング(Renee Fleming)が歌っていたからだ。彼女の舞台姿は文句なしにすばらしい。メトは“集客効果”の低いオペラ(ちなみに「ロデリンダ」は曲そのものはなかなかよいのだが知名度が低い)を上演する時にはいつもそうなんだけど、普段以上に実力歌手を揃えてくる(ビジネス面だけで言えば「カルメン」や「椿姫」などの人気歌劇を上演していたほうが収入がよいわけだが、それをしないのが芸術の世界みたい)。そんなわけで、今日も脇役まですごく粒がそろった人選だった。とりわけ、フレミングの相手役を務めたカウンタテナーのデビッド・ウォーカー(David Walker:今回がメト・デビュー)が際立っていて、第2幕の幕切れの二重唱などはとりわけ美しかった。曲もペルゴレージの「スターバートマーテル」に通じる透明感があった。それからオーケストラの演奏もよかった。ビブラートを使わない小編成の弦、リュートやハープシコードなど、今まで知っている彼らの伴奏とはまったく違う一面を見せてくれた。
▼ ところで、どうでもいいんだけど、この新パソコン、「舞台姿」と変換したかったのに「豚椅子型」って出てきおった・・・思わずどんなモノか想像してしまった。
JNP Gamma Oscillation Maintains Stimulus Structure-Dependent Synchronization in Cat Visual Cortex Jason M. Samonds and A. B. Bonds データ解析法の改良点などをきちんと読まないと。
JNP Background Synaptic Activity Modulates the Response of a Modeled Purkinje Cell to Paired Afferent Input  Fidel Santamaria and James M. Bower
JNP Synaptic Integration in Rat Frontal Cortex Shaped by Network Activity Jean-Francois Leger, Edward A. Stern, Ad Aertsen, and Detlef Heck 麻酔下ラット前頭葉イントラ。UP stateの時にはシナプス応答が減じるためintegrationの時間窓が狭まる。ただし線形加算は変化がない。SF君必読。
JNP Membrane Bistability in Thalamic Reticular Neurons During Spindle Oscillations Pablo Fuentealba, Igor Timofeev, Maxim Bazhenov, Terrence J. Sejnowski, and Mircea Steriade これもUP/DOWNの話。ネコ視床網様核(thalamic reticular nuclei)神経vivoパッチ。図3にはUP/DOWN stateからpersistent UPへの移行、図7にはQX-314でUP/DOWNが消えるというデータもあって面白い。
JNP Reversal of Hippocampal LTP by Spontaneous Seizure-Like Activity: Role of Group I mGluR and Cell Depolarization Bin Hu, Sergei Karnup, Lei Zhou, and Armin Stelzer
JNP Role of Mossy Fiber Sprouting and Mossy Cell Loss in Hyperexcitability: A Network Model of the Dentate Gyrus Incorporating Cell Types and Axonal Topography Vijayalakshmi Santhakumar, Ildiko Aradi, and Ivan Soltesz 苔状線維発芽と苔状細胞脱落という二つの現象がてんかん様発火にどのように貢献しているかを数理モデルで調べたところ、前者がCriticalであることがわかった。個人的偏見が入っているけど優良論文のひとつに挙げたい。
JNP Functional Properties of Electrical Synapses Between Inhibitory Interneurons of Neocortical Layer 4 Jay R. Gibson, Michael Beierlein, and Barry W. Connors
JNP Interactions Between LTP- and LTD-Inducing Stimulation in the Sensorimotor Cortex of the Awake Freely Moving Rat David J. Froc and Ronald
JNP Stimulus Dependence of Disparity Coding in Primate Visual Area V4 Jay Hegde and David C. Van Essen


12月19日(日)
▼ 午前はPCの設定。ようやくほぼ前の環境レベルにもどった。これで仕事やデータ解析もできる。
▼ 午後は寄稿ふたつ。ほぼ終わらせる。うち、ひとつは「親父ギャクのススメ」みないな内容。書いていて笑ってしまった。もうひとつは原稿料がよいみたいで、こちらとしても好きなことをやらせていただいているだけに、とても嬉しい。妻に何かクリスマスプレゼントでも買ってあげようかな。っていうか、よく考えたら新PCの購入ですでに消えているんだった。。
▼ 夜は明日提出の妻の宿題を見る。
▼ 今夜はなんだか冷えるなあと、外を見ると雪だった。例年よりもずいぶんと遅い初雪。
▼ 今日気になったこと。「稲妻(いなづま)」の語源。なんでこんな漢字を充てるんだろう。Goo辞書で調べてみたら、「稲の夫(つま)」の意。古代、稲は稲妻をうけて結実すると信じられたことから、っと書かれていた。ふーん。そういわれてみれば、8月の後半に雷は多いよな。


12月20日(月)
▼ ひぇーすっげー寒い。予報を大きく下回り気温は真昼の最高でも−9℃だったとか。
▼ 午前、Faridの研究報告。主成分解析vs因子分析、相関係数vs共分散、さまざさなクラスター解析の比較、などなど、なんだか講義を受けている気分になった。とりわけ最後の話題、密度情報を元にクラスター解析するDensity-based algorithmという比較的新しい手法はなかなか期待が持てる感じだ。
▼ 午後は実験。
▼ 夜は映画館へ。アメリカで(なぜか?)すごく評価されているチャン・イーモウ(張芸謀)監督の「Lovers(十面埋伏、House of flying daggers)」を観る。日本での評価はどうだったのか私は知らないけど、こういう耽美映像系の映画は個人的になかなか好き(ストーリーや演出は好みじゃないけど)。その意味では北野武の「ドールズ(Dolls)」も同じ意味で私の好み。ただし、「ドールズ」はまた見たいと思わせるけど、「Lovers」は一回で十分かな。
▼ このところ妻は期末試験の勉強の関係で中国映画を多く見ていたのだけど、それを横で見ていた限りでは、同じ第5世代でもチャン・イーモウ監督よりもチェン・カイコー(陳凱歌)監督の方が私は好きみたい。
▼ Science論文を読んだというEshel Ben Jacobラボの学生からRafaにファン・メールがあったようだ。よく知らなかったので調べてみたら割と面白いことをやっているラボであることが判明。PubMedリストはこちら
▼ Rafaが数年前に編纂した「Imaging in Neuroscience and Development: A Laboratory Manual」という本が共通デスクの上におかれていた。ペーパーバック化されたらしい。こちら。でもあんまし値段は安くなってないなあ。買い換えるのはやめよう。
▼ 発信日が1969年12月31日となった空っぽのEメールが届いた。谷川俊太郎さんの詩を読んだときのような不思議な気分になった。


12月21日(火)
▼ 一日実験。装置の関係で今年最後の実験になるかも。どうもありがとう、と、実験装置に一年間のお礼を言いたい。いろいろな興奮を私に与えてくれた。
▼ 夕方からアパートのクリスマスパーティー。これは純粋のパーティーではなく別の意味を持っていることは昨年の日記に書いたとおり(こちら)。チップは一人に対して20ドルが相場。改めて考えてみたら、このアパートには100家族くらい住んでいるから、一夜にして彼らの懐に2000ドルも入ってくる計算になる。ちょっとしたボーナスだな。もちろん税金申告はされないものと想像される
▼ 夜はメトへ。ヤナーチェク作曲のオペラ「カーチャ・カバノヴァー」。途中で歌手の一人が歌えなくなったため、演奏が中断されるというアクシデントがあったものの、主役のカリタ・マッティラ(KARITA MATTILA)が良かった。
▼ ところで、ヤナーチェクという作曲家はふだん私は聴かない。CDも一枚も持っていない。食指が動かないからではない。まったくその逆で、彼はおそらく私の好みのド真ん中。きっとはまりそうな感じなので、まだ手を出さないでいるだけ。いつか徹底的に攻略してみたい。10年後には一番好きな作曲家は?と訊かれて、ヤナーチェクと答えている自分もありえる気がする。
▼ ここ連日、さまざまな取材の依頼が一日1、2個のペースでずっと続いている。アメリカにいる以上は、お断りするしかないのだが、今日のは異色だった。水口哲也さんと湯河原の名湯につかりながら、ある雑誌用に対談するというもの。私は(下手クソだったけど)「セガラリー」というゲームの大ファンだったので、かなり惹かれたが、むろんそのために帰国できるわけもなく、お断りする。
▼ あと、そうだ、ついでに言っておこう。ほかに一度会ってみたい人は天山広吉という私と同い年のプロレスラー。妻には「あなたにもっとも似合わないスポーツは格闘技」と言われつづけているが、自分が小柄で華奢な体だからこそ格闘技観戦が好きというもの。K-1やPRIDEはもちろんいいけど(以前はリングスのファンだった)、何気にコテコテのプロレスが大好き。天山選手は、若かりし頃、海外修行から帰国してすぐ、長州力選手を片足フォールで3カウントをとったときから惹かれるものがあったが、やはり天コジ時代に彼のよさに気づかされた。彼の本性はきっと(格闘技に似合わないほど)優しく、かつ、おひとよし。そして口下手。だからこそ会ってそのギャップを感じてみたい。今月12日にIWGPベルトを取ったときの映像はもう3回も見たし、昨年と一昨年のG1選手権の優勝ムービーだって今でも時折見返している。毎回泣ける。とりあえず、彼の所属する新日本プロレスには彼をもう少し大切に扱って欲しいなあ、なんて。まあ、わかる人にはわかると思うんけど、いくらビジネスだからだとはいえ、あれはちょっとかわいそう。
JCB BDNF-induced recruitment of TrkB receptor into neuronal lipid rafts : roles in synaptic modulation Shingo Suzuki, ... Masami Kojima 皮質培養細胞&海馬スライス。BDNF処置でTrkBがラフトへ移行し、そしてまた、methyl-β-cyclodextrinでコレステロールを減じさせ(ラフト構造を崩壊させ)るとBDNFのシナプス増強効果が消える、という二つの独立した現象のパラレリズムを示した論文。
PNAS Control of a two-dimensional movement signal by a noninvasive brain-computer interface in humans Jonathan R. Wolpaw and Dennis J. McFarland きっと吉田君が解説してくれるだろうと思っていたら、すでに言及されていた。


12月22日(水)
▼ うーん、暖かい♥ 昼は11℃まであがった。最高気温が二日前と20℃も違うのって、でもさあ、どうなのよ、ニューヨークって。
▼ 朝からプログラミング二つ。夕方には両方とも完成したのでMakseラボにデータを送信。ついでもちょっと新しいシャッフリング法も完成。
▼ その後はRXY君の論文の図をModify。だいたい出来たのでFTPに入れておいた。大きな論文になりそうだね。
▼ 夜は総説書き。
▼ 今日からラボの多くのメンバーがクリスマス休暇に入った。おっと、そうだった。アメリカでは“クリスマス休暇”とは言ってはいけないのだった。国民全員がキリスト教徒というわけではないかららしい。たとえば「メリークリスマス!」ではなく「ハッピーホリデー!」などとお祝いするのが普通。そこらへんは日本とはちょいと違った気の使い方が必要。
▼ 今日、RafaがみなにEメールを出した。「ラボの皆さん。一年間よく働いてくれてありがとう。カードを送る代わりにこれを紹介します」 ── そして送信されたものはこの画像。これはラモニ・カハール(Ramon y Cajal)がローレント・ド・ノー(Lorent de No)に宛てた直筆手紙の写真。スペインの脳解剖学者カハールはRafaにとっては神に等しい存在だ。この手紙には「これからはスパインに注目しないとだめだ。それからマウスではインターニューロンが見つけにくいのでウサギを使ったほうがいい」と書かれている。まさに最近10年の脳科学はインターニューロンとスパインに多くの注目が集まった。カハールらしい先見の明が感じられる。抑制性インターニューロンは数では興奮性神経細胞の10〜20%程しかないマイノリティー。しかし、その多様性は興奮性細胞をはるかにしのぐ。また種差も大きく、皮質インターニューロンの種類が豊富な動物ほど「知能」が高いのでは、とさえ言われている。カハールがすでにそのことに気づいているのが、なんとも参った、という感じ。彼はこの手紙の2日後に亡くなっている。1934年、このとき彼は82才であった。
Nature Obituary: Yasutomi Nishizuka (1932-2004) TASUKU HONJO Cキナーゼの発見者・西塚泰美先生の追悼記事。死んでNatureに載るくらいに科学者になりたいものである。
CC Post-pubertal Emergence of Prefrontal Cortical Up States Induced by D1?NMDA Co-activation Kuei Y. Tseng and Patricio O'Donnell AOPで読んでいたもの。生後一ヶ月ラット内側前頭前野L5/6錐体細胞パッチ。ドパミンD1受容体とNMDA受容体の共刺激でUP状態が現れるというもの。これはネットワークDrivenで、PKAが関与している。
CC Modulation of the Activity of Pyramidal Neurons in Rat Prefrontal Cortex by Raphe Stimulation In Vivo: Involvement of Serotonin and GABA M. Victoria Puig, Francesc Artigas and Pau Celada 詳しく読んでないけど、でも、こういうvivo実験をしてみたい。
▼ 今週のF1000: PLoS Biol Representation of attended versus remembered locations in prefrontal cortex. Lebedev MA, Messinger A, Kralik JD, Wise SP
▼ 今週のF1000: Proc R Soc Lond B Biol Sci Fish can encode order in their spatial map. Burt de Perera T
▼ 今週のF1000: Neuron Identification of PSD-95 Palmitoylating Enzymes. Fukata M, Fukata Y, Adesnik H, Nicoll RA, Bredt DS
▼ 今週のF1000: Learn Mem Hippocampal sharp wave bursts coincide with neocortical "up-state" transitions. Battaglia FP, Sutherland GR, McNaughton BL
▼ 今週のF1000: Eur J Cell Biol Neuroligin 2 is exclusively localized to inhibitory synapses. Varoqueaux F, Jamain S, Brose N MKY先生付きの学生には重要かも。
▼ 今週のF1000: Trends Cogn Sci Cognitive neural prosthetics. Andersen RA, Burdick JW, Musallam S, Pesaran B, Cham JG


12月23日(木)
▼ 朝、塗谷さんがフィアンセを連れてこられた。
▼ 一日、総説書き(日本語)。例によって書き始めはさまざまな文献を勉強しながらなので、あまり進まず。
▼ 夕方からは友人宅へ日本人クリスマスパーティー。帰宅したら2時を回っていた。


12月24日(金)
▼ 午前、総説書き。でも、ラボにはRafaと私しかいなかった。Rafa曰く、「ガヤ、君はいつも働いているね」だそうだ。私のどこをみてそんな言葉が出てくるのかわからないんだけど、とりあえずポイントを稼いだので、昼過ぎには帰宅。そして明日からの旅行の準備。今回の旅行は奇妙な場所に行くので準備がいつもの観光系旅行とは違う。
▼ 午後はメトへ。念願かなって舞台裏ツアーに参加。感動した。オペラ好きなら参加すべし。平日の15時半から毎日やっている。
▼ 夜は「メグ(Megu)」という和食レストランヘ。田酒を飲む。内装は洒落てて、料理も手が込んでいるけど、味は並かな。
CC Axons in Cat Visual Cortex are Topologically Self-similar Tom Binzegger, Rodney J. Douglas, Kevan A.C. Martin AOP  軸索の分岐形態が自己相似であることを示した論文。フラクタル性は細胞種を超えてほぼ共通しており約1.5次元。その形態がGalton-Watson分枝過程(ゴルトン-ワトソン過程)で簡略化できるということはarborizationはランダムということかな?うーん。。。ちなみに、ここで使われているHorton-Strahler法はもともと河川支流の形態を解析するために開発された手法。もう一個ちなみに、Complex Networkが自己相似であることを示したHernnan Makseの論文が来年にNature出る。この論文は私がここ一年で読んだ論文のなかでもっとも感動したものの一つ(こちら)。興味ある人はぜひ読んでみよう。
▼ 明日から2週間に旅に出る。


12月25日(土) エクアドル
▼ 昼にニューヨークを経ち、マイアミ経由でエクアドルの首都キトへ。夜12時過ぎに到着。
▼ 赤道直下の街なのに12℃と意外と寒い。高度が2800mなんだそう。


12月26日(日) エクアドル
▼ 午前、グアヤキル経由でガラパゴス諸島へ。太平洋を西へ1時間半ほど飛ぶとガラパゴス諸島が見えてくる。バルトラ島に降り立ち、サンタクスル島へ。チャールズ・ダーウィン研究所へ。
▼ いろいろな動物や鳥などがいて思ったよりも面白い。
▼ ガラパゴス島にはほとんどホテルがない。んで、どうするかというと客船に乗り込んで、そこに泊まる。昼間は各島を転々と上陸しては、食事や睡眠を取りに船に戻るわけだ。
▼ つまり今夜から早速、船中泊なんだが。。。こうしてパソコンを打っていると、船酔いする。なので、あまり日記は書かない。もちろん持ち込んだ研究関係の仕事にはまったく手がつかない。
▼ 今日見た動植物の写真はこちら。もちろん全部は掲載できないのでほんの一部だけ抜粋。


12月27日(月) エクアドル
▼ 奇しくも今日は173年前にダーウィンがビーグル号に乗って世界に旅立った記念日である。
▼ 午前はバルトラ島の海岸でスノーケリング。もちろん船着場はないので、客船から小さなゴムボートに乗り換えて、ビーチ付近でビチャビチャと裸足で降り立つ。ウェットランディングという上陸方法だ。そこで2時間ほど泳いだが、朝早くの、しかも曇天だったのでちょいと寒かった。
▼ 午後はノース・セイモア島を散策。ガラパゴス諸島の動植物のほとんどは固有種。つまりここにしかいない生き物たち。目に入るものすべてが初めて見る奇妙な生物ばかり。しかも人間を恐れていないので間近くで見られる。好奇心旺盛なガラパゴス・アシカに至っては足元まで寄って来さえする。今回の長旅の中でガラパゴスは観光としては(個人的には)期待してなかったけど、意外や意外、か〜なり面白い。楽しい。そして動物臭い。
▼ 今日見た鳥たち(一部)の写真はこちら
7月に怪我をして浮いたままだった足の親指の爪。午前、フィンを付けて泳いでいたら、ついに剥がれた。足爪の伸びる速さがわかる。
NN Spike phase precession persists after transient intrahippocampal perturbation M B ZUGARO, L MONCONDUIT & G BUZSAKI


12月28日(火) エクアドル
▼ 今日は一日、ヘノヴェサ島を散歩。昼にはダーウィン湾でスノーケリング。
▼ ただ手違いがあって深夜に上陸させられるはめに。サン・クリストバル島の港付近のホテルに泊まる。
▼ 今日はカツオドリたちの顔とそのカラフルな足の写真でもアップしておく(こちら)。雨季にはもっと色鮮やかな足になるらしい。にしても、しかし、変な鳥だ。
▼ ガラパゴス諸島は火山島。私が見た風景は、いわば、溶岩でできた砂漠である。それでも圧倒数の動物がいるのは4つの暖流寒流がここで合流するからなのだそう。
PNAS Self-referential phase reset based on inferior olive oscillator dynamics V. B. Kazantsev, V. I. Nekorkin, V. I. Makarenko, and R. Llinas


12月29日(水) エクアドル
▼ 残念ながら今日は島の探索が出来ず、後ろ髪を引かれる気分でガラパゴスを経ちキト市に戻る。空港の待ち時間では総説書き。
▼ 夕食は「ママ・クロリンダ(Mama Clorinda)」でエクアドル料理。うーん、うまい。そしてめっちゃ安い。夜は貯まったEメールを裁く。そして再び深夜まで総説書きを続ける。
▼ ガラパゴスは完全な離島。ネットはおろか、なかなか情報も入らない。スマトラ島沖地震の話は今日になって知った。
▼ 物理学の「エーテル理論」、化学の「錬金術」、そして生物学の「進化論」は世界三大トンデモ理論と言われている(らしい)。んで、何が問題って、「進化論」は、今でも本気で信じているケナゲな人がいるということ。島泰三氏によれば「『最適者生存セオリー』は“同語反復”である」という。「最適者は生き残る」とし、最適かどうかをどこで判断するかというと「生き残っているから」となる。これは事実の追認、つまり、根拠と断言の堂々巡りである、とのこと。
Cell Neurexins Induce Differentiation of GABA and Glutamate Postsynaptic
Specializations via Neuroligins
 Ethan R. Graf, ... Ann Marie Craig
Cell Accelerated Evolution of Nervous System Genes in the Origin of Homo
sapiens
 Steve Dorus, ... Bruce T. Lahn
TiNS Spike times make sense Rufin VanRullen, Rudy Guyonneau and Simon J. Thorpe
TiNS Dissecting neural circuitry by combining genetics and pharmacology Peer Wulff and William Wisden


12月30日(木) コスタリカ
▼ 午前、キト旧市街を散歩。ここは市街全体が世界遺産になっている。スペイン占領時代のコロニアル風建物 (あ、そうだ、昨日までいたガラパゴス諸島は世界で最初に登録された世界遺産でもある)。コロニアル風の世界遺産としては、ペルーの旧市街、グアテマラのアンティグア、メキシコのメリダ市などを訪問したけれど、もっとも保存状態がよいのが、ここキト市。街並みがとても美しい。ちなみに、もっともサビレた感じで“味”があるのがアンティグワ。
▼ 昼は新市街へ。昨日おいしかった「ママ・クロリンダ」をまた訪問。昼食。その後、民芸品の買い物をちょっと。
▼ 午後にはエクアドルを離れ、コスタリカの首都サンホセ市へ。ホテルでずっと仕事。夕食は寿司。総説をほぼ書き終える。あと図を作らないと。でもその前にSF君の論文の最終チェックを開始。


12月31日(金) コスタリカ
▼ コスタリカ共和国という国がどんな国か知っているだろうか。永世中立国であることさえ知らない人もいるかもしれない。軍隊は持たない。もちろん治安はよい。明らかに先進国。実際、国家予算の22%を教育予算に当てている。世界で最初に公衆電話が設置された国でもあるようだ。国は狭い。しかし、その特徴は豊かな自然にある。面積はわずかに北海道の60%くらいなのだが、なんと世界の5%の動物種がここに棲息する。鳥については10%の種がここで見られるという。まさに自然の宝庫。そのためか国土の27%が国立公園に指定されている。私も近年ブームになっている「エコツアー」とやらにあやかってこの国にやってきた。
▼ さて、今回の長旅の目的は二つある(ガラパゴスでは、決して、ない…汗)。そのうちの一つはコスタリカの「コルコバード国立公園」を訪問することである(もう一つは来週にでも)
▼ 今日はまさにその「コルコバード国立公園」に向かう日。『地球の歩き方』によれば「豊かな自然を誇るコスタリカのなかでも熱帯雨林がほとんど手付かずで残り、最後の秘境とさえ呼ばれている」となる。もちろん道路は通じていない。どうやって行くかというと、セスナ機で最寄の空港まで飛び、そこから四駆車で海岸までいき、さらにボートで海岸を移動して、ようやくロッジに辿り着ける。まさに秘境。 そして、そこは動物たちのパラダイス。
▼ 早朝わくわくしながらサンホセ市を経つ。セスナの滑走路は舗装されてさえいなかった。道中どんどんと異次元の世界に入っていくスリルはたまらない。昼前にはコルコヴァード公園付近のロッジに到着。風景はこんな感じ。いま右下の写真をパソコン壁紙に使っている。
▼ 午後はガイドなしで周囲を散歩。体調が優れない中、3時間ほど歩き回る。かなりきついトレール。サルやコウモリは見つけたけど、でも、素人には動物探しはかなり難しい。明日はプロのレンジャーと一緒に回ろう。
▼ ロッジはお湯はおろか、電気さえも通じていない。夕方のみ自家発電はしているけれど、夜10時には電気の供給が途絶える(うーん、夜にこそ電気が必要なんだが…)。念のためロウソクは持ってきたけれど、でも、実際に使ってみるとロッジの中に虫が入ってくるので、ロウソクも消す。結局、蚊帳の中で寝ることに。日暮れとともに寝る生活も悪くない。ともかく、本当に秘境だ。
▼ 今夜はロッジ主催の年末カウントダウンがあったけれど、微熱があったので参加せず、年明けを告げる浜辺の花火に目が覚める。テラスから眺める。

(2004年)

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