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5月1日(土)
▼ 朝から上原財団の研究報告書と留学記を作成。夕方前にはほぼ終了。
▼ その後は連載の文章書き。またもや字数を超過。今回はちょっとエッセイ風に趣を変えてみる。取り上げた論文はこれこれ
▼ 夜は上原財団に提出する用の写真を撮りにラボにいく。ついでに昨日仕掛けたPC計算データを持ち帰る。
▼ 勉強していること、勉強したいこと、勉強しなければいけないことが山ほどある。このところ消化不良気味で焦りを感じていたのだが、ふとネタ探しに「高校生の勉強法」という本をパラパラめくっていたら、105頁に引用されている文豪ゲーテの言葉に出会った。『何かを理解しようと思ったら、遠くを探すな』。そう!そうだよね、さすがはゲーテ。いいこと言うなあ。手元にある本や文献からひとつづつ片づけていこう。
▼ 最近のお気に入り。先週セビリアで手に入れた焼き物。先週はずっとこれを使って食事をした。もっといろいろと買っておくんだった。
▼ 昨日と今日は私の永遠のライバルであるベートーヴェンを聴いた(そもそもベートーヴェンをライバルだと思うこと自体フツーじゃないと妻には言われている)。「ワルトシュタイン」という傑作とされる彼のピアノ・ソナタは私の好きな曲の一つなんだけど、私と同じ年齢のとき(つまり今からちょうど200年前)に作曲されているんだよな。彼はこの時にはもう耳疾を克服して、人生で最も油の載った時期にさしかかろうとしていた。うーん、負けてられん。オレもやるぞお。今月末はウィーンでベートヴェンの残した息吹を生で感じてこよう。これは私にとってかけがえのない糧となるはずだ。


5月2日(日)
▼ 早朝3時。窓から喧騒音。慌てて飛び起きて、窓から体を乗り出してみたら、ブロードウェイ通りで数十人が奇声を発っしながら暴動やら喧嘩やら。銃声らしきものも。思わず4階からデジカメで写真やムービーを撮ってしまった。そのうちに10台以上のパトカー(このサイレン音がまたさらにうるさくて近所迷惑!?)、それに救急車がやってきた。たぶんドラッグ・パティーかなにかだろう。
▼ そんなこんなで睡眠を妨げられ、朝起きたらすでに9時過ぎだった。。。明日からは大切なワーグナーの「リング」週間だから不規則な生活は禁物だ。
▼ 今日は『進化しすぎた脳(仮題)』の「はじめに」と「おわりに」を書いた。このほかの諸々の執筆や事務処理に没頭。夜にはレポートを最終チェックをしてRafaにメールで送信。
▼ 『PLUS』というインタビュー記事を中心したフリーマガジンがあるのだが、その第11号の『科学者入門』のコーナーに「探究する科学者」と題して“池谷裕二”を取り上げていただいた。私がそこで話した内容はちょっぴり辛辣ぎみだけど、でも私の主張が何点か含まれている。PLUSの小島さんから快諾をいただいたので、この日記でも公開。PDFファイルはこちらから(ファイルサイズ5.34Mb、用紙サイズA3)。ちなみに『PLUS』という雑誌をみるのは今回が初めてだったのが“若さ溢れる優良誌”だと感じた。書店や喫茶店などで配布されているらしいので見つけた人は手に取ってみて。
▼ そっかあ、日本はゴールデンウィークなんだね。今朝の新聞の社会欄の見出しには「松井観戦に来た日本人観光客で街が溢れる(Japanese tourists flood city to watch Matsuis' play)」と出ている。原文ではMatsuiが“複数形”になっていることに注目。去年一年間は日本人旅行者数が例年の2.4倍に増えた。んで、今年はどれほどになるだろうか、という記事内容。
▼ そういえば、先日のアメリカの火星探索機からの一連のレポートで「生命は存在したか」というのが話題になっていた。今のところ答えはネガティブのようだ。それでフと思い出したことがある。昨年の日記で「インカ文明には文字がなかったと言われているが、そうではなく、現代の我々の文字(←2次元の空間に図形を書くという方法)とはまったく異なる性質の文字であったので、まだ発見されていないだけでは」と書いた。「生命の跡探し」についても同じことが成り立つのではないかな。生物は細胞からできていて、細胞膜があって、核酸という遺伝情報があって。。。という先入観があっては発見できないかも、なんて考えてみるのも楽しみが増えていいね。あ゛、「じゃあ、生物の定義ってなんだよ」という問いが返ってきそうだが。


5月3日(月)
▼ 朝はWeissの研究報告。geometric hashingとK-means clusteringをつかった皮質構造のモティーフ解析。
▼ 新しいムービーの解析を開始。途中、Morganeに私のデータ解析法の手順を教える。
▼ パソコンってコーヒーこぼして止まっちゃっても、乾けばまた正常に動くんだあ。
▼ 夜はメトロポリタン歌劇場へ。レバイン指揮でワーグナー作『ニーベルングの指輪(通称「リング」)』の初日。ギネスブックに「世界一長いオペラ」として挙げられているくらいだから、この楽劇を知っている人も多いと思う(ロード・オブ・ザ・リングとは登場人物も内容もまったく別物なのでご注意)。世界中の神話をマンガというスタイルで啓蒙しつづけている里中満智子さんも「リング」を題材として取り上げているのでストーリーに興味ある方はどうぞ(こちら)。『リング』は物語はもちろん台詞、作曲、演出、それに専用の劇場の設計までをすべてワーグナーが一人で手がけた神がかり的な大作。総演奏時間は15時間にも及ぶので、4回にわけて演奏される。今日はその初日の『ラインの黄金』というわけ。
▼ シェンクが演出を手がけるメトのリングは、ワーグナーの意図にもっとも忠実なものと言われていて世界的に評価が高い。メトの目玉だけあって起用される歌手もウォータンのジェームズ・モリス(James Morris)をはじめ、イェヴォンヌ・ナエフ、フィリップ・ラング リッジ、ジェニファー・ウェルチ=バビッジとすべて立派である。奇を衒わない演出が作品のメルヘン性を強調し、深い感動を呼び起こしてくれた。かつてワグネリアンだった私は自然に前のめり。あっという間に時間が経ってしまった。
▼ 昨日の『PLUS』の内容の続き。“糸井重里”と聞いて思い出すのは、やはり「言葉に関して抜群のセンスを持っている人だなあ」という印象だ。糸井さんは「そういうセンスは生まれつきと考えられがちだけど、本当は習得できるものなんだよ。そう最近気づいたんだ。それは自分にとって大きな発見だった」なんて言っていた。それこそ勇気の出る言葉だ。
▼ そういえば糸井さんとの対談の中で<誇り>の話をしていたときに「誇りの反対語って、何だろう? 卑屈でしょうか。……あ、卑屈な人間は誇りを持っている人が嫌いなんですよ」(『海馬』より抜粋)と言っていた。こういう表現の選択や話の展開も巧みだよなあ。私はどちからというと、“小さな誇り”を保持しつつも、なかなか自分には自信が持てないまま生きている人間で、世間に対して斜に構えた部分も少なくない性格だ。そんな人間だが、努力は忘れたことがないし、いつも前向きであろうと心がけている。だってさ、卑屈になったっても、ぜんぜん楽しくないし明るくなれないじゃん。それに理性的な判断もできなくなってしまう(←これ重要かも。卑屈な人≒偏屈!?)。でも、それ以前の問題として、卑屈になると、時に他人を不快にしちゃうかもしれないしね。−−− 『海馬』の著者自身が『海馬』からもっとも多くを学んでいる?
▼ 『Poeple』という大衆誌の最新号で「50 most beautiful people」という特集を組んでいる。“beautiful people(美しき人々)”というタイトルで、女性だけでなく男性をランクインさせるのはアメリカらしいこだわりだと思うのだけど、その中に渡辺謙さんが挙がっていたのは日本人として誇らしい気分だ。そういえば、今朝の新聞ではゴジラ松井が一面をでかでかと飾っていた。このところ好調だしね。こういうのもいちいち私には嬉しい話題である。
▼ サップ強いなあ。。。中邑選手が勝てなかったら誰が勝てるんだ?


5月4日(火)
▼ 寒い。。。今朝6℃ってどういうこと。昼はそれなりに気温が上がったけど。
▼ 今日は朝8時過ぎからRafaと議論。その結果、「神経活動予測と回路特徴抽出」のプロジェクトは凍結することに。私としてはアルゴリズム自体の新規性を早く売りたかったので、すぐにでも論文として発表したいと当初は思っていたが、「この路線ではtheoreticalな要因が強く、先のScience論文から逃げていることになる。我々はもっと真正面から現象にぶつかって続報を書く義務がある」というRafaの意見にふか〜く納得。たしかに、先報を出したからには無責任に研究テーマを変えてはいかんよな。今後はより実質的な路線でメカニズム探索に徹することにしよう。まずは次の木曜日に再度、今後の戦略について作戦会議だ。というわけで、ちょっぴり残念ではあるけど、ようやく完成した感のある予測アルゴリズムは(当分?)日の目を見ることはないだろう。
▼ 一日中、データ整理、および木曜日の作戦会議に向けてレジュメ作成。
▼ 夜はメトへ。今日は二日目の『ワルキューレ』だ。昨日の歌手陣に加え、ジークムントにプラシド・ドミンゴ(Placido Domingo)、ブリュンヒルデにガブリエーレ・シュナウト(Gabriele Schnaut)、フンディングにマッティ・サルミネン(Matti Salminen)というこれまた豪華なメンバー。全4作の中でもワルキューレがもっとも人気がある作品なんだけど、ここでは音楽だけでなく、ワーグナーの台本もまた入神の域に到達している。おもわず感動して何度か目に泪をためてしまった。いやあ、オペラっていいなあ。
▼ ニュースによれば欧米で新型ワームが猛威を振るっているらしい。一部では銀行のシステムがダウンしたというから相当な被害だ。このところのワームは通常のPCウィルスのように感染経路がEメールではなくて、PCの開かれたポートを通じて勝手に侵入してくる。私の場合は演算プラグラムの都合上、夜通しでポートを開け放しにしなければいけないことが多々あるので危険性が格段にあがる。最近のワームは驚くほど巧妙に(ときには呆れるほどイヤらしく)できている。作者の性格が伺えるのが或る意味では面白い。
▼ 今年はアイヴズ(Ives)の生誕130周年&没後50周年にあたる年。NYフィルが特集コンサートのシリーズを汲んでいる。彼が比類のない作曲家であったことは否定しようがない事実だけど、いまのところ私はアイヴズのあまりよき理解者になれていない。もっと音楽を聴きこまないとダメだな。
PNAS。カイニン酸で誘起される皮質のガンマリズム神経(chattering cell、fast rhythmic bursting neuron)。モデルでしっかしと確認しているとはいえ、実験データとしては「carbenoxoloneで切れるからGAP junctionを介している」と主張はしているが。
PNAS。Arc発現とMRIを指標にして、「海馬の中では歯状回がもっとも加齢にsensitliveである」ことを示している。
ARNのAOPからBuonomanoの「The Neural Basis of Temporal Processing」と、Traub&Whittingtonらの「Cellular Mechanisms of Neuronal Population Oscillations in the Hippocampus In Vitro」を念のためダウンロードしておく。まあ、いつか読もう。両方ともSF君のライバルか?


5月5日(水)
▼ 明日のMeeting用のレポート書き。そのあとは数学もろもろのお勉強。勉強って楽しい。知ることはワクワクする。今日は主に非階層的クラスタリングのfuzzy化に関するいろいろな方法を勉強していたのだけど、どれも一長一短。結局、微積後の数式が簡単なのがPC負荷が少なくてベストってことかな。
▼ Web日記をつけている人はパソコンやネットのことはある程度詳しい人たち。でも妻の周囲のフツーの友人たちの話を聞いたら、「Internet」と「World Wide Web(www)」の違いはもちろん、「hotmail」と「html」の違いも知らない人が多いという。まあ、一般の方々はそんなもんだろうとは思う。思う、思うーけど、でも、うーん、後者の混同はどうしたものか。。。いくら“日本人の略語好き”とはいえ、これは私にとっては抜群に斬新だ。
▼ 今更ながらフと思い出したのだが、「太陽は地球の周りを回っている…小学生の4割」というのが先月の読売ニュースで流れていて、いくつかのBlog等でずいぶんとネタにされていた。もうずいぶんと若い頃の話のことだけど、これについてマジメに考えていたらよくわからなくなってしまったことがあった。つまり、太陽だって猛スピードで動いてるし、それに地球の重力の影響を受けてふらついてるわけ。だから「どちらがどちらの周りを回っているか」という問いかけはユークリット幾何学的には「どこに座標標準を置くか」だけの問題のような気がした。数式がほんのちょこっと複雑になるだけのことで、月やハレー彗星が太陽系の中心でもいいのでは。。。というわけで、誰がどう答えようとも「すべて正解!」という相対的な結論に達してしまう。結局、地動説ってやつは「太陽礼賛≒宗教的妄想」か。。。うーん、悩ましい。どなたかヘルプ。つまるところ、ニュートン的に無難な回答は「太陽は重い」ってこと? ※ ここら辺の話題に興味ある方は3年前に発表なった論文(こちらのHP)もどうぞ。三体問題の特異解。こういうの素人ながら(素人だから?)大好き。
▼ レヴァインがメトロポリタン歌劇場との契約を2011年まで延長したいうビッグ・ニュースが飛び込んできた。良いことだ。28歳でメトの総監督に就任したのは1971年だから、総40年間ということになる。世界4大オペラハウスとしての地位を維持(&向上)し続けた業績には目を瞠るものがある。最近は体調が思わしくないという話だったので無理せず、これからもメトを牽引していってほしいなあ。
▼ おお、スタージョンの法則(Sturgeon's law)というのか! これを聞くと黒瀬先生が学生達によく「お前たちは上位1%に入っている自負があるか!」と喝破していたのを思い出す。99%がクズといわれるとちょっとヘコむので、せいぜいリチャード・コッチのように80%くらいにしてほしいなあ。
Nature。実験用のSDラットを飼育ケージから自然に近い環境に移すと、一ヶ月余りでバレル皮質の再マップ化が生じる。機能カラム構造がよりコンパクト&シャープになるという。ところで、実験動物というのは遺伝子の観点からも飼育環境の観点からも“フツー”の動物とは大幅に違うわけで、「そんな不自然なものを研究して一体自然の何がわかるのさ」という批判は以前からあるにはある。そして、苦し紛れに「これは一種のモデル系である」という言い逃れしかできない科学者たち。
Nature。E.coliの大規模なgenome-scale model。こういうin silico系の研究がきちんと進んでいけば、遺伝子ターゲットの研究効率が格段に良くなる。脳科学でもこういう目的のはっきりした仕事が欲しいところ。
JN。p75NTRが成長円錐Filopodialのダイナミクスを制御。標本はDRGやretinaで違うけど、もちろんRK君は必読。
JN。weakly electric fishのelectrosensory pyramidal cells。20Hz以下の低周波のfluctuationはspike burstとして、高周波域はsporadic spikeとしてコード化されるという話。active dendritic processによるものと考えられる。
JN。日本に帰ったら海馬だけでなく、嗅球(olfactory bulb)の回路情報処理にも手を出すつもりで、じつは一年くらい前からネタを暖めている(誰か一緒にやってくれる人マジ募集!)。この論文は重要なものの一つになりそうだ。


5月6日(木)
▼ 朝、RafaとMeeting。私の研究の提案については概ねOKとのこと。それと同時に「予測アルゴリズムをmethodologyとしてNeuron誌に投稿してみてはどうか」という示唆を受けた。私は「将来のもっと大きな論文の一部となりうるから今はちょっと・・・」と返答すると、「どうせ、これは世界の誰にも思いつかないアルゴリズムだろうから、別に急ぐ必要なんてないしな」と笑っていた。うーん、俺の脳ミソってそんなにヘンか?
▼ 今日はこれからの実験に備えてonline解析をすべきスパイク抽出アルゴリズムの質の向上に努める。
▼ 夜はメトへ。三日目は『ジークフリート』。リングはすべてスコアを持っている(というよりワーグナーの楽劇はすべて持っている)のだけど、楽譜を見ていてもっとも面白いのは、リング4部作の中では「ジークフリート」。今日のタイトルロール(=ジークフリート役)はジョン・フレデリック・ウェスト(Jon Fredric West)。やはりワーグナーっていいなあ。先日ラジオ放送されていた公演のほうがデキがよかったけど、これは欲ばり。
▼ なんとMaassが6月にラボに一週間やってくるらしい。liquid state machineについていろいろ聞いてみよう。
▼ 森山さん、前半部分の疑問ならば、ちょっと古いけどGrazianoによるこの論文を読まれたらよいと思いかと。同論文の、より一般読者向けの解説はこちら(PDF)もプレヴューされているので分野外の人には良い参考になります。「機能コラム」についてはPooneilさんが書いてくださるでしょう(内容によっては私もそこにコメントする予定)。
▼ 昼にテレビをつけていたら「悲しみの収穫」と題して、ラフマニノフの伝記ドキュメンタリーを放送していた。時々挿入されるオーケストラ風景はゲルギエフ&キーロフ、それにプレトニョフと思われるピアニストが演奏している。じつはゲルギエフのラフマニノフは聴いたことがなかった。やっぱりロシア物のゲルギエフはいいなあ。
Science。ラット文脈的恐怖条件付け。背側海馬にBDNFやZif268のアンチセンス(biotinylated oligodeoxynucleotides)を投与。記憶の固定化(consolidation)にはBDNFが、再固定化(reconsolidation)にはZif268が排他的に媒介している。
Science。上記の「文脈的恐怖条件付け」について。記憶の固定には海馬は重要なんだけど、長期的に記憶が蓄えられるのは別の部位。記憶してから一ヶ月以上置いたマウスで、“記憶の座”をzif268やc-fosを指標に追求。前葉帯(anterior cingulate cortex)に行き着いた。
Science。(私の分野外だけど)こういう研究はいいね。バイオリズムの自己組織化現象。
Science。前頭前野とセロトニンの話。未読。アブストには「behavioral flexibility、obsessive-compulsive disorder、schizophrenia、drug abuse」というキーワードが並んでいるのできちんと読まねば。
Science。p75とNGFの結合状態の結晶解析。未読。


5月7日(金)
▼ online解析用のプログラミング。のめり込んでいたら、うっかり夕方のセミナーをスッとばしてしまった。今日はRafa自らがドイツの学会で得た情報を話す日だったので「やっちまったあ」って感じ。
▼ この日記ページの上部にあるGoogle検索窓。最近日本語が使えなくなっていたのでスクリプトを修正した。
▼ 母の日のカネーションが妻と私の実家に届いたようだ。
▼ 『「2ちゃんねる」名誉棄損認定、発信者情報開示を命令』(読売)。この判決は当然だろうなあ。いくら言論の自由とはいえ、無責任なことを書くんだったら、本人にもそれなりの覚悟が必要だと思う。このウェブ日記も同じこと。“racism”の視点においては私は結構ラジカルな考えを持っているので、これには気を付けなければ。
▼ 関係ないがracismで思い出したことがある。これまで何度も貧しい国々を巡ってきた。そのたびに妻とよく話したことがある。私が今まさに使った言葉、「貧しい国」。そもそも貧しい国とはなんぞや、という疑問なのだ。物資に恵まれていないひどく辺鄙な村にいっても、原住民たちは力強く生き、そして暇さえあれば隣人との楽しい会話に花を咲かせ、その周囲では子供たちは最高の笑顔で元気よく駆け回っている−−そんな幸せな風景がどこに行っても必ずある。こうした人々の生活を見ると「幸せの条件」を純粋に考えてしまう。先進国の人間が勝手に「自分たちは富んでいて豊かなのに、彼らは世界の辺境で貧乏な生活だ。気の毒に…」と一方的に感じているだけであって、彼らから見れば(心が)貧しいのはむしろ<私>側ではないかと。


5月8日(土)
▼ 今後の予定を決めようとネットサーフィンをしていたら午前があっという間に過ぎてしまった。
▼ 午後はonline解析用プログラム。アルゴリズムにまだ工夫が要りそうだ。もう少しコンピュータに人間の目のような臨機応変な柔軟さ(いい加減さ?)があれいば良いのにと改めて実感。
▼ 夜はリング最終日『神々の黄昏』。オーケストラピットに並んだ6台のハープが壮観。『神々の黄昏』には他の三部にはない特徴がいくつかある。100を超えるライトモティーフが縦横に活躍すること、物語が展開が(ワーグナーにしては)速いこと、合唱が入っていること。つまり飽きさせない。ただ曲の長さもピカいちで、PM6時に開演、終わったときには12時をちょっと回っていた。今日もサルミネンの歌が群を抜いて素晴らしい。メトのリングの演出・舞台・衣装・演奏が(うわさ通り)総じて優良だったので今度DVDを揃えようと思った。
▼ ちなみに今日はメトの今シーズン最終公演である。レバインへの暖かい拍手がいつまでも続いた。お疲れ様でした。そして!2日後からメトではアメリカン・バレー・シアター(ABT)が幕をあける。
先日の日記。地動説ってやつは「太陽礼賛≒宗教的妄想」か。。。「いや、シンプルな記述ほど良いという強迫観念に取り憑かれた古典物理学者による自己満足では?」 なるほどね。ともかく正解はないわけだ。 話は飛ぶけど、高校の頃に読んだ本に、地球は太陽の周りを時速10万km以上という猛スピードで公転しているけど、太陽はそれ以上の猛スピードで銀河系の中心を軸として回っていると書いてあった。つまり、地球の運行は円状ではなく波線状になるという。今聞いてもなんとも感じなくなっちゃったけど、当時はふ〜んと感動した覚えがある。(もちろん銀河系の中心を座標標準にして見ればの話でしかないけど)。


5月9日(日)
▼ 要らなくなった服を引き取ってもらおうと、午前、ブルックリンの古着屋まで行く。引き取ってもらえたのは持っていった物の10%以下。冬服はいま扱わないのだそう。。。帰りに妻の友人と合流してSOHOの「Hampton Chutney Co.」という異国風のファーストフードで遅めの昼を食べる。その後は近くの「バルタザール(Balthazar)」へ。ミルフィーユを食べに来たのだが、レストランが混んでいたので隣のベイカリーでワッフルだけを買って帰る。
▼ 夜は久々に私が料理を作る。私的には満足なデキだったけど、妻からは「87点」。。。あと一息!
▼ 地動説の続き。今日はもう少し話題が広くなる。「世の中をだまし切った完璧なウソが一番真実に近い」−−このメールは“科学的真実の相対性”を主張している。なんだか黒澤監督の『羅生門』みたいだな。つまるところ世の中が「地動説」だと信じているうちはそれがいわゆる<真実>だってわけ。私なりの視点から、さらにこの考えを外挿するとこういうことになる → 科学者とは世間の思想をどれほど巧みに操作できるかという“詐欺な陳述”に苦心している未来の<教祖様>候補である。ちょっとヒデぇか? でも、この意見はたしかに賛成できる。


5月10日(月)
▼ 午前、Vovanの研究報告。これこれを合わせたような(個人的にとても期待をしている)研究をしているのだが、今日はさらにDOE(diffractive optical element、回折光学素子)を応用した新実験を提案していて面白かった。
▼ 残りの一日はずっとデータ整理。スパイク抽出のアルゴリズムを変えたことと、アプリケーションのインターフェイスを改善したことで、解析の高速化され、さらにマウスを持つ手首の負担が大幅に減った。でもまだ改善の余地あり。Morganeにも改善のためのアイデアを出してくれるように依頼した。
▼ 夜はメトへ。ABT(American Ballet Theater、アメリカン・バレー・シアター)の初日。つまり「シーズン開幕ガラ(Opening Night Gala)」。昨年は行き逃したけど、今年は無事チケットをGET。もちろんPrincipal陣全員集合。私の大好きなニーナ・アナニアシヴィリ(Nina Ananiashvili)の舞台姿に今年も会えて大満足。ニーナは私にとって妖精、いや、女神のような存在なのだ。ちなみに妻が好きなのは女性ダンサーではイリーナ・ドヴォロベンコ(Irina Dvorovenko)。彼女もいいダンサーだ。あと、今日はABTの看板であるアレッサンドラ・フェリ(Alessandra Ferri)を初めて見られたのがでかい収穫。とても色気のあるダンサー。
▼ さらに地動説の続き。「(科学者が<教祖様>候補というのは)結果論でしかない」−−はい、このメールの通り。というわけで、ちょっと書きすぎた感があるので補足。これから科学者を目指す人へ:私ごときに「教祖様候補」と言われても<夢>を捨てないで下さい。え?今さら遅い… まぁ、人間の“実存(?)”自体が宗教だと思って頂ければよろしいかと。。。
JP。宿敵(?)Jefferyらの例の論文だね、SF君。場電位が集合スパイク電位に与える影響を調べている。
JP。Cherubiniラボ。いつものようにスライス培養でCA3ペア記録。paxillineやiberiotoxinが放出確率を上昇させることを示している。つまりBKチャネルはbasalでvesicle放出を抑制しているという論旨。
JP。Zekiが1974年の自分の論文を引用しながら、V5についてなにやら書いている。
JNP。森憲作ラボ。「Mitral and Tufted Cells Differ in the Decoding Manner of Odor Maps in the Rat Olfactory Bulb」。ぼちぼち読む予定。他にも今号のJNPには目を通したいものいくつかあり(Memo)。


5月11日(火)
▼ 午前、実験の準備。午後、データ整理。
▼ Jasonはいま同時進行でアトラクター関係の論文を二報書いているのだが、Nature誌とNeuron誌に投稿することに決めたらしい。まだゲラをもらって読んでないけど、これは面白い(少なくとも私のより生理的意味が解りやすい)研究なので、Yusteラボ繁栄のためにもぜひ通って欲しい。
▼ 夜、奥田さんの所属するMcGaughラボが「Scientific American Frontiers」というTV番組で取り上げられるという情報をいただいたので観てみる。海馬に損傷のある患者や、アルツハイマー・マウスなども映されていて面白かった。McGaughラボからは「水迷路(Water Maze)」の模様が映し出されていた。「This is a memory enhancement」というJimのコメントがかっこよかった。
▼ TY君の論文の返事がJ Neurosciから戻ってきた。審査員が3人もついて、ややこしいことになっているが、ここはぜひ改訂して再チャレンジしてみよう。ちなみに審査員の一人は「and」を「und」とタイプミスしているので、たいだいどのラボの人か想像がつくぞ。
▼ 「大脳の歌(読売新聞)」。論文が公開された当日は「内容が難解」という理由で一般紙への掲載が見送られたが、半月ほど経って読売新聞に紹介された。突然でびっくりしたけど、大感謝。
▼ 大学の宿題で妻が撮影した短編映画(?)が完成した。晩飯を食べながら試写会。3分程度と短い喜劇ながらけっこうウケる内容だ。
▼ 『海馬』16刷(5,000部)決定。
一口英語教室:(How are you?と聞かれて)「いい感じだぜ」 → Keeping cool.


5月12日(水)
▼ 暑い。二日連続で30℃を越えている(スコールのような雨が時折混じるけど)。数日前までは最高15℃以下の日もあったから、ともかく急に夏になった感じ。すると例によって、キャンパス内はビキニ姿で日光浴をする若者で溢れる。ここはリゾート・ビーチかと見まごうばかりの絶景 (希望者がいたら写真撮ってきてアップも可)。
▼ 午前、久々に実験。いいねえ、実験は。 久しぶりなのに結構いいムービーが撮れた。まあ、データとして良いかどうかは解析してみないと解らないけど。というわけで午後はひたすら解析。
▼ 昨日のTVをみて早速McGaugh教授にメールしてみた。すぐに返事が来てびっくり。
Nature。歯状回顆粒細胞の電気生理学的特性を調べた論文。input resistanceの差で若い細胞と成熟細胞が分けられる(というか分布がBimodalになるのが不思議だ。中間遷移体はないのか…)。成熟細胞はBurst出力をする。でも若い方が発火閾値が低い。これはT型Caチャネルが発現しているから。んで、若い細胞ではBurst入力に対して単発発火するだけでLTPが誘導される。JAKさん、NK君、SF君、(RK君)必読。
Neuron。in vivo Drosophila。pH感受性タンパクsynapto-pHluorinを利用してシナプス活動を可視化。条件付け学習に伴って触覚葉(antennal lobe)のprojection neuronの活動の空間パターン(内部表象)に可塑的な変化が生じる。この変化は個々のシナプス強化というよりもむしろ、それまで未反応だった神経がrecruitされてくるという変化で、これは回路全体を考える上で面白い現象だ。
Neuron。培養海馬神経のOverall Plasticityの話題。high Kに長期間暴露するとホメオスタシス的に興奮性シグナルが弱まるのだが、これはグルタミン酸受容体やグルタミン酸の放出確率の変化ではなく、グルタミン酸の放出サイト自体が消えるという話。
NeuronNeuron。海馬と学習の話題が二つ。省略。ちなみに後者の結果はどう解釈したらいいのかよく理解し切れいていない。
Neuronこの論文をめぐってSemaphorinシグナルとAKAPの相互作用についての総説。
JN。ラット骨髄幹細胞(bone marrow stromal cells)をin uteroで脳室内に移植すると、(海馬を含む)脳内のあちこちにmigrationした後、2ヶ月以上生存。その一部は神経に分化している模様。NK君必読(このレベルの実験希望)。
JN。海馬スライス。O-LM介在神経からmGluR1依存性のシナプス電流を記録。グリア細胞のグルタミン酸トランスポーターGLT-1およびGLASTのactivityがbasalでmGluR1-EPSCを抑制していることを示している。まあ、ありえる話。ただ、神経型のEAAC1は関与していないという。mGluR1-EPSCの誘導の仕方が面白いので興味ある人は要チェック。
JN。変異APPマウス(Tg2576)。老人斑付近の皮質錐体細胞の発火タイミングのtemporal precision、synchrony ともに悪化していることを示す論文。わたし的に今日の論文の中ではもっともヒット。アルツハイマー病の研究はこういう方向に行かないとね、やっぱり。細胞死とかアポトーシスとか騒いでもさ。
MCN。培養海馬神経にアデノでhCMV-GFPとhCMVΔCRE-GFPを発現させて比較→CRE依存性成分を検出。「弱い神経活動→NMDA受容体 → MAPK → CRE-mediated gene expression」。この過程がBDNFで促進されるのだが、どうやら作用部位はこのカスケードでいうNMDA受容体の上流にあるらしい。なお、強い神経活動のときはL型CaチャネルからMAPKを介さずにCREBに入る。
MCNMCN。Semaphorin関係二つ。後者はL1も絡んだ話。ちなみにL1の話題はこちら(MCN)にもある。
一口英語教室:「ひぇえ、忙しい」 → I'm swamped (with work).


5月13日(木)
▼ 午前:実験。昼:JAKさんの論文のAuthor Proof。午後:データ整理。
▼ 夜ラジオを聞いていたらヴンダーリッヒ(Wunderlich)の特集をやっていた。うーん、甘美な声。往年の歌手で私の好きなテノールはビョルリンク(Bjorling)にヴィントガッセン(Windgassen)、そしてこのヴンダーリッヒだ。私の好みはこのリストで分かる人には分かるだろう。んで実際、ヴンダーリッヒのタミーノは絶品。もちろんドイツリートも最高。
▼ 今年はコロンビア大学の250周年記念なので様々な催しが企画されている。今日と明日は脳と心(Brain and Mind)と題して、超弩級の演者たちがコロンビア大学に集まって一般向けに脳の講演をする。スケジュースはこちら。これを見て興味を持った人は、全講演がこのHPでライブ放送されるのでお見逃しなく。日本時間だと「13日PM9:30〜14日AM6:00」と「14日PM10:00〜15日AM1:00」の2回に分けて放送される。
▼ 私も実験をしながら午前の部の講演をネットで聞いていたが、Richard Axelがマグリットの絵画とゲシュタルト心理学を比較しながら「Binding Problem」を説明していたのは意外だった。
▼ んで、明日の講演もまたスゴい面子だ。それ系マニアだったら脳理論家コッホと言語哲学者サールの講演を逃す手はない。
▼ ここ数日ヒットのなかったゴジラ松井が今日はホームランを打ってくれて、なんだかホッとしている。
Science。海馬スライスCA1。NR2A-containing NMDA受容体はLTP(長期増強)、NR2B-containing NMDA受容体はLTD(長期抑圧)に寄与しているという論文。Discussionにも書かれているように、やはり、じゃあTsien小松先生の論文はどうなっちゃうのさ、という疑問がぬぐえないなあ。こういう実験こそSTDPでやってみたら良いのかも。。。図2の0.5mM APVの結果は面白い。
Science。Drosophilaの学習。long-term memoryとanesthesia-resistant memoryの相互作用。なんだかよくわからないけど図4Cのように“記憶の座”をはっきり書かれると、哺乳類をやっている人間としてはなんだが不思議な感覚。
Science。脳科学とは直接関係ないけど内容が面白かったので掲載。子供のおもちゃ遊びを観察した論文。幼児は物体のサイズがうまく認識できないようで、ありえないようなことをしようとする(小さな穴に大きなものを入れようとしたりとか)。まあ、よく見る光景ではある。心理学セオリーの議論は私の理解を超えているのでフォローできず。
CC。Svobodaラボ。バレル皮質L2/3錐体細胞の基底樹状突起の形態解析。experience-dependenyを示すのはsecondary branchなのだそう。
一口英語教室:「うわお、まさかこんな所でばったり会うとはっ」 → Never thought I'd see you here.


5月14日(金)
▼ 午前、「脳と心」シンポジウムの講演をonlineで見ながら諸々の事務仕事。派手なネクタイのコッホは様々な分野の話題を扱っていた。「Bonneh's Illusion(←黄色の点一個だけをじっと見つめると他の黄色が消えるという運動錯覚)」や「条件付け学習」のムービーを見せながら、一般層に訴えるうまい講演だった。専門家には内容の深さの点では物足りないけど、しかし、こういうプレゼン法は見習わないと。
▼ 午後はデータ整理。
▼ 夕方はBoazの研究報告。Hopfieldのスピーチ認識モデル(PNAS論文)が取り上げられた。「Apmlitude InformationとPhase Informationの特徴」、「Global StimulationとしてのField Oscillationの整合性」、「静的モデルである嗅覚モデルとの対比」などが議論された。
▼ 夜はヤンキースタジアムへ。ゴジラ対イチロー。例によって途中から観戦して、試合途中で帰宅。よく点数の入る試合だったので生観戦としては結構楽しかったし、両選手ともヒットを打ってくれたので大満足。
▼ ドイツの研究者から私にわざわざ国際電話あり、Science論文のアルゴリズムの詳細について質問された。あの論文はひどく説明不足なんだそう。丁寧に説明したらdetectionの原理を理解してくれたみたいで喜んでくれた。
▼ Jasonのネイチャー投稿用の原稿を読ませてもらった。なんとびっくり。いきなり冒頭に哲学者カント(Kant)の代表著作である『純粋理性批判(Critique of Pure Reason)』を参考文献として引用している。んで、結論は「大脳皮質は“カント・マシーン(←なんじゃそりゃ)”であることを証明した」ということらしい。でも、相変わらずRafaは文章が上手くて、不思議と説得力があるのだ。データはカントを引用しなくても純粋に面白い。
▼ フと気づけば私のHPのトップページのアクセス数のカウンターが20万件を数えている。6年で20万ということは、15分間あたり1人が訪問してくれた計算か。(昨年設置した日記と自作プログラムのサイトを除けば)開設当初から内容を変えていない(むしろ減った?)のに、なんだか申し訳ない気分−−うむ、もう少し充実できればいいのだが。まあ、今後ボチボチと拡充していこう。んで、この日記に限って言えばその10倍の頻度でアクセスがある。さらに申し訳ない気分。でも、日記は今年(or今年度)中に閉鎖する公約なのでこちらはまあ気にしないことにしよう。
一口英語教室:「金欠だよ」 → I am flat broke.


5月15日(土)
▼ 午前、Jasonの論文にコメントを書いてRafaに送る。
▼ 昼、ニューハンプシャーからNYに遊びに来ている友人ご夫妻と「Q56」というシーフードレストランで食事。
▼ 帰宅してSFNのアブストを書き、さらに、その友人にいただいたPRIDE GRANDPRIX 2004のVTRを見る。
▼ 夕方から妻の友人たちと「ペザント(Peasant)」というイタリアレストランで食事。ここは美味い。
▼ 帰宅したら雷雨。最近、雷が鳴って急に大雨になることが多いような。
▼ 『チップに不確実性を取り込んで効率を上げる『PBit』プロジェクト』 (Hotwired)こういうのって非常にポテンシャルを感じる。「(現在のコンピュータでは)正確な計算処理をするために驚くほど多くの演算時間が無駄に使われている」という記述に妙に共感できるものがある。
一口英語教室:(花粉症などで)「目がもじょもじょする」 → My eyes are puffy.


5月16日(日)
▼ 午前「英語の本」の文章の直し。午後、妻の宿題のチェック。
▼ 先日買ったアシュケナージの「シューマン・ピアノソロ全集(CD7枚組)」をこのところ頻繁に聴いている。ショパン(1810生)、シューマン(1810生)、リスト(1811生)の3人は同時期に活躍したロマン派作曲家。だが、まったく作風がちがう。ショパンはほぼピアノ音楽しか創らなかったという意味で特異な存在。そして「(3人の中では)もっとも完璧な作曲家」とコルトーが評するように、曲の完成度(作曲技術と構成力)という意味では頭一つ抜きんでている。だからショパンには駄作が少ない。その代わり最高傑作もない(最高傑作として挙げる彼の作品は人によってばらつく)−−「世の中には2種類のピアニストがいる。ショパンを弾くピアニストと弾かないピアニストだ(*)」という有名な言葉が示す通り、独自に確立された(=有無を言わせない確固たる)世界観がある。一方、シューマンの作風はもっと夢見がちで幻想的。ショパンのように計算された抒情性ではなく、気まぐれで、ときに異常なほどの偏執を見せる。曲は危うく、ぎこちなかったりすることも。リストは自由で奔放。豪快だけど、ときに情に流されがちでおおざっぱな感じもある。ただ内容はしばしば前衛的で(広い意味で)後世に与えた影響力は3人の中ではトップだと思う。私は3人とも大好きなのでよく聴いているが、そつのないショパン、内気なシューマン、外向的なリストの中でもっとも私のフィーリングに合うのは(20代の)シューマンの作品群かも。こちらから心を開かないと振り向いてくれないような、はにかんだ雰囲気が魅力的。  (*) いわゆる「ショパンを弾かないピアニスト」としてはブレンデルやグールド、ケンプ 、バックハウスなどが有名。
セレンディピティは準備したもののところにだけ来る。そうだよね。いい言葉。 「発見や発明はなにも神様が与えてくれるもんじゃなくて、やっぱり日ごろの努力や勉強の賜物ってわけ」(『進化しすぎた脳(仮題)』より抜粋)。
NR。CA3のシナプス分布に関する解剖学的解析。読みたいのになぜか本文が閲覧できない。
一口英語教室:(空港などで)「荷物が見つからないんですけど…」 → My luggage is missing.


5月17日(月)
▼ 朝、BoazとJiangの研究報告。SHGはやはり難しいなあというのが印象。
▼ 昼はずっとデータ整理(スパイク抽出作業)。
▼ 夜はZakさん宅へ。飲み過ぎたので今日は日記が書けない。
一口英語教室:「いいですよ」 → That's fine with me. ※ 実際、会話で使おうとするとwithの部分をtoとかforとか言ってしまいがちなので注意


5月18日(火)
▼ 午後に実験の準備をした以外はずっとデータ整理。
▼ 昼は妻の友人カップルとサイゴングリルで食事。
▼ Movie一つ分のスパイク抽出作業が終わったので、sequence検出の計算をPCに仕掛けて早々に帰宅。自宅ではKN君とRK君の論文のFig直し。
▼ MKY先生からSOさんの論文がCerebral Cortex誌に受理されたと連絡をいただく。おめでとうございます。
▼ 私の同室に新しいポスドクRobertoがやってきた。スパインのプロジェクトに従事するらしい。
▼ RafaからScience論文のリプリントをもらった。すごく沢山注文されていた。ラボのメンバーに日本語でサインをして配ったら珍しがってくれた。漢字はとても複雑な文字に見えるらしい。
▼ 読売新聞社から掲載誌が届いた。記事は五線譜と音符でさりげなく飾られている。
▼ Jason、投稿論文について曰く「今年はカントの没後200周年記念」、なんだそう。
PNAS。MeCP2欠損マウスの嗅上皮および嗅球のタンパク発現。そういえば以前、薬作で両側海馬をつかって比較していた実験はどうなったんだろう。
PNAS。(脳科学ではないけど)Cartogramのアルゴリズム。たとえば「North American News Text Supplement」に登場する都市の頻度で重み付けすると、アメリカの地図はこんな感じにゆがむ。自発発火の神経地図についてもこういうことはできそうだなあ。
CC。PubMedスクリーンセーバーで見つけた論文。receptor kinetics、STP、STDP、axonal conduction delaysなどを組み込んだだけで神経回路にはrepeated firing patternsが自然に(=自己組織的に)現れることを示した論文。ちょー重要。精読せねば。ノイズがないとシンクロしすぎてしまうのも面白い。
JBC。これもPubMedスクリーンセーバーで見つけた論文。シアル酸を付加する酵素(ST8Sia-II)をノックアウトすると神経新生部位のポリシアル酸(Polysialic acid、PSA)の量が低下し、苔状線維が異常発芽し、vivoでは恐怖レベルが減っているような行動を示す(Fear Conditioning、Open Field)。LTPは正常。ST8SiaIVノックアウトマウスとの所見の違いも面白い。鬱モデルにも関連するか? JAKさん、RK君、RY君、NK君必読。
一口英語教室:(電話で)「いま席をはずしています」 → She is not available.


5月19日(水)
▼ 午前実験。午後はデータ整理。PCがまだ計算中で作動が遅くてあまり仕事がはかどらない。
▼ コロンビア大学の学位授与式。でも気の毒に天気は雨…(写真1写真2)。そういえば昨年もこの時期は雨が多かったなあ。
▼ Zakさんから借りた「キルビル Vol.1」のDVDを昼と夜にわけて見る。いやあ、なんというかこういうアホノリ映画好きかも、爆笑。様式美もあるし。クラシック音楽で喩えるとベリオ作曲「シンフォニア」のコラージュみたいなものか。ただ、ちょっと刃物恐怖症の私には“いた〜い”感じが強すぎる・・・
▼ 夜、TVで「ゴジラ」をやっていた。そう、1954年に公開された第一作目。これは文句なしの傑作映画だ(多数の駄作(?)続編が原点であるこの第一作の印象まで落としているのがもったいない)。んで、夕飯を食べながらほんの少しだけ見たけれど、これって「反戦」の謳いかたも半端ではないなあ。ところで、ゴジラの主題曲は何度聴いてもラヴェル作曲「ピアノ協奏曲ト長調」の第3楽章のファゴットのメロディーとそっくりそのまま。
▼ 『海馬』(朝日出版)が文庫化されるらしい。新潮文庫とのこと。でも、たぶん来年以降?
JN。マウスの海馬依存性恐怖条件付けと水迷路試験で、記憶の再固定化と消失における記憶刺激のインパクトや年齢の影響を評定。喜田聡先生お得意の遺伝子改変マウスを使った実験ではなく、すべてが薬理実験で貫かれている。使用しているのは主にanisomysin。図4では他の薬剤も使っている。extinctionの過程がL-type Ca channelやカンナビノイドCB1受容体を必要としているところが面白い。
JN。ラット海馬CA1スライス。glutamateのspilloverを感知(intersynaptic cross-talk)できるのはNR2B含有型NMDA受容体であるという論文。まあ、これはこれでOKで、内容も面白いのだけど、これといい先日のScience論文といい、伊藤先生のこの論文を併せて考えると頭が混乱してくる。
一口英語教室:(相手の意図を知りたい)「え?どういうこと?」 → What are you getting at?


5月20日(木)
▼ 午前実験。このところ皮質神経の興奮性を高める条件下で実験している。もちろんspike数が増える。いや、それ自体は問題ではないのだが、しかしspikeが増えるとsequence検出の計算が幾何算的に遅くなる。というわけで午後はアルゴリズムの高速化に費やす。夜に計算をセットして帰宅。
▼ 途中ちょっと大学をサボってメトロポリタン美術館へ。アンリ・マティスの息子ピエール・マティスはNYで画廊をしていた。死後彼が所有していた絵画100点余りがメトロポリタン美術館に寄贈されたことは絵画好きの人だったら知っているかもしれない。そこには父マティスの作品をはじめいくつかの重要な作品が含まれていると噂されていて、美術館側がいつそれを公開するかが話題になっていた。ようやくそれが今週から一時公開されたので早速見にいったというわけ。マティスはやっぱりいいなあ(私はピカソよりもマティスが好き)。マティスだけでなくドュビュフェの作品も充実していた。ついでにメトで同時開催されているビザンチン美術もみてくる。こう言うのをみるともっと西洋史を勉強せなあかんなあと感じる。
▼ 脳スライスの実験をしたことがある人なら知っていると思うけれど、多少でも麻酔が浅かったりすると断頭した後にネズミは手足をばたつかせる。いやあ、今日もやってしまった。。。昨日の「キルビル」を思い出した。ばたつかせるのならまだマシで、時には(頭がないのに)“走る”ことさえあると聞いたことがある。そう、多くの人がこの点を誤解しているのだが、歩行のプログラム、いわゆる「Central Pattern Generator(CPG)」は脳(大脳皮質や線条体や小脳)にあるのではなく、脊髄に存在している。言ってみれば大脳皮質は「歩け」という信号を送るだけで、それ自体は筋肉を直接動かす命令ではない。その信号を「協調した四肢運動の指令」に翻訳するのは脊髄。つまり脊髄があれば歩けるわけ。古い書物を紐解いてみると「ギロチン刑直後に首なし死体が森の中へ走って消えていった」という記述がある。悪魔の呪いとか怨念とかの観点から語られることが多いようだが、科学的に見れば別に不思議なことではない。ちなみに、ここら辺の話題に興味のある方はこんな総説等をどうぞ。あ、人によってはこういう話題も好きかもしれない(18禁?)。
ルドン(Odilon Redon 1840〜1916)という画家は結構私の好み。オルセー美術館でいくつか見たのが貴重な体験。マティスの「生きる喜び(1906)」やピカソの「アヴィニョンの娘たち(1907)」に先駆けて画期的な画風を確立している点は要チェック(ある意味ターナーに近い存在だと思う)。んで、なんで突然ルドンの話を持ち出したかというと、Photoshopの使い方をネットで探していたらこんなホームページを見つけたのだ。この人のセンス、私の中ではルドンに近いものを感じた。いいなあ、こういう作品が自分にも作れたら。
Science。眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex)が“後悔”という感情に関係しているらしい。アブストしか読んでない。
JP。Yusteラボの新作(Jesseの博士テーマ最後の論文)。皮質第五層に存在するマルティノッティ細胞(Martinotti cell:GABA性ニューロンの一つ)の特性に関する内容。
一口英語教室:(レストランで注文を聞かれて)「もう少し時間をください」 → I need a couple more minuites to decide.


5月21日(金)
▼ アルゴリズムの最適化がうまくいったようで、朝大学に行ったら計算が終わっていた。2日掛けて一つもsequenceが見つけられなかったのに、新アルゴリズムは5000近くのsequence全部を一晩でdetectすることに成功した。数学センスの不足(&プログラミングの手抜き)のせいで、私のPC演算はひどく遠回りをしていることがよくわかる。
▼ というわけで今日はこちらの仕事は離れ、薬作の仕事に専念。RK君のRevise論文の図直し。
▼ 夕方は新人ポスドクRobertoのこれまでの仕事の紹介。Myoblastの分化について。
▼ 夜は来NY中の祖父江ご夫妻と「イル・ムリーニョIl Mulino)」でディナー。奇跡的に予約が取れた(夜10時からだったけど…)。すげー、美味い。すべて美味い! MyベストNYイタリアン。あえて難を言えば店内の照明が暗すぎるのが老眼の始まろうとしている私の目にはツラかったかな。でも相変わらず会話も楽しかったし満足な夜になった。ちなみに昨年、六本木にも支店ができたらしい。
一口英語教室:「オレ視力いいんだぜ」 → I have 20/20 vision.


5月22日(土)
▼ なんとなく雑務。午後はイースト・ヴィレッジに出かけて散歩。「LAN)」というレストランで夕食を取って帰宅。ここの日本食もまた旨い。
▼ SF君が今年と去年のセミナーのプリントをまとめて送ってくれた。2003年はガンマ波、2004年はBinding Problemについてまとめている。文章がおもしろくて思わず通読してしまった。こんなセミナーを聴ける薬作のメンバー達は幸せだよ、マヂで。Yusteラボの論文も取り上げてくれてありがとう。そういえば、この論文は『Faculty of 1000』に選ればれた。嬉しい。
▼ 今までこの日記にはアクセス・カウンターしかなかったけど、先週末から無料のアクセス解析も付けてみた。思ったほど得られる情報が多くないのが意外だったものの、日記を閲覧して下さっている人はどうやら国内外問わず大学サーバー経由が多いらしいことがわかったのは有益だった(うーん、詳しくはわからないんだけど…)。同業者かな。あと、Yahooなどのキーワード検索でここに辿り着いて下さっている方も少数おられるようですが、日記に書く文章や単語をもっときちんとせねばと反省。そのせいでガヤ日記に迷い込んでしまった皆さんに迷惑を掛けている。でも、たまに面白い検索キーワードがあってウケることも。たとえば一昨日に「PNAS よくこんな」とGoogle検索して辿り着いて下さった方。研究職の人だと思うんだけど、何をお探しだったのでしょうか。うーん、気になって眠れない。
一口英語教室:「気になって眠れない」 → That keeps me up all night.


5月23日(日)
▼ JAKさんからいただいた韓国海苔と、静岡から送ってもらった新茶『瑞光(深蒸し)』をすすりながら、RK君とKN君の論文改訂に専念。
▼ 夜は祖父江ご夫妻からいただいた静岡地酒『開運 無濾過』を呑む。日本酒好きの私。かつて池袋にある日本酒専門の某居酒屋で「吟醸酒が旨いのは当然さ。本醸造酒レベルでも美味しい本物のブランドを出して欲しい」との我が儘なリクエストに出されたのが「開運」であった−−静岡県出身として誇らしい気分になった。今日の“無濾過”バージョンは期間限定モノとのことで、じつは初めて飲む。フルボディーのワインような(たとえは悪いがまるでマーガリンでも食べているかのような)濃厚な喉ごし、それでいて後味の酸味感が涼しいのだ。いやあ心地よい酒だ。
▼ ところで「開運」や「磯自慢」などホンの一部のブランドを除き、ほとんどの静岡地酒は近年急速に有名になったもの。それは静岡酵母という静岡独特の軟水に合った酵母が開発されたからである。その意味で、歴史の重みの点では他県のブランドには一歩劣るが、味は間違いなく全国レベルだ。興味ある方はこちらの記事(PDF)をどうぞ。さらに興味を持たれた方は私の生まれ故郷の藤枝地酒「志太泉」「杉錦」「喜久酔」を飲まれてはいかがだろう。これでもかと言うくらい薫り高く、かつフルーティーなので女性にはまず好まれるはず。
▼ F1モナコGPは波乱だった。
今日のキーワード検索:Google「死後硬直 牛 ウナギ」 そのココロは?
一口英語教室:「すっげえつまらん」 → I am bored to death. ※ これに関する私の失敗談は7月の日記へどうぞ


5月24日(月)
▼ 午前はCarlosの研究報告。このところCarlosはSvobodaラボに出張実験に行っていて、顔を合わせるのは久しぶりだ。P3〜10という幼若マウスを使って、軸索成長を数日に渡ってin vivoでモニターするというスゴ技。Axon pruningには2種類あるという発見はvivoならではで面白い。ただvivo実験には難点もあるようで、いま自分がどのタイプの細胞の軸索を観察しているかがpost hocにしか確定しないらしい。
▼ その後は新弟子Neilとともに実験の準備。
▼ 昼はWu LG教授のTalk。Calyx of HeldシナプスのSTPの話なのだが、ストーリーが非のうちどころなく完璧だと意外と感動が弱かったりする。ちなみに彼のNature論文は面白く読んだ記憶がある。
▼ 午後はNeilに実験のデモ。
▼ 夜はKN君の論文の改訂を少し。
▼ 森に逃げ込む首ナシ死体の話−−科学的にどうのこうのいう前に、単に「呪い」や「怨念」に対する社会の認識の観点から“尾ひれ”が付けられて膨らんだだけではとのメール。まあ、多分そうだろうなあ。どこまでがanecdotalかを想像するのが楽しいのは、いわば神話を読むときの醍醐味に似ているな。
今日のキーワード検索:Yahoo「夫婦性活 HP日記」 ホントにこれでこの日記が検索されることが何よりウけた。
一口英語教室:(準備の遅い相手に)「もう行ける?」 → Are you ready to leave?


5月25日(火)
▼ 昨夜新たに組んだ新プログラムのPC計算が終わっていなかったので、アルゴリズムの改正。でも、私の目にはすでに限界までsophisticateされているように見え、劇的なアイデアは浮かばず。さらに計算を継続することに。
▼ 夜はRK君の論文直し。ほぼ形になってきた。
▼ Andyの名字である“Trevelyan”(トレヴェリアン)ってわりと珍しい姓だなあと感じていたので、今更ながらそのルーツを彼に聞いてみた。すると「たしかに私の出身地マンチェスターではほとんど見かけない名前だね」と前置きして、「でも、コーンウォール州(Cornwall、イギリス南西部)では半分くらいの家族の姓が“Trev-”で始まるんだよ」という。そして「最後の“yan”というのはロシアの方から来た人という意味だから、多分先祖はコーンウォール州あたりに上陸した海賊なんじゃないかな」と解説をしてくれた。Andyによれば「名字を見ればいろいろなことがわかる」とのこと。「単純な名字でも、たとえばBlack姓は黒帽子をかぶっていた特別な階級(←うまく聞き取れなかった)の出身だっただろうし、Smith姓だったら先祖は鍛冶屋だな」とか教えてもらって勉強になった。どの国でも名字が、ただの表面的なラベルではなく、“何か”を表しているのは面白い。
▼ FaridがCrunelli教授の講演を紹介してくれた。タイトルはこうだ。「Thalamus and Cortex in EEG Slow Rhythms: Violins and Clarinets in Orchestral Symphony」。クラシック音楽愛好家の私にでさえこの題が何を言っているのか良くわからないところがオツ。TrumpetやFluteじゃダメなんだろうか。。。とりあえず場所がブルックリンなので遠くて参加できないのが残念。
▼ SF君の論文の返事がJ Physiolから戻ってきた。受理可とのこと。うーん、これなら同じ審査員を指名して、もっと高いレベルに投稿しておけばよかったかなあ。。。っていうか、それよか、これで改訂中の論文を4つも抱えてしまった。やばすぎる。一つ一つ着実に片付けなければ。
NN。CaMKIIプロモーターでtype-1 adenylyl cyclaseを発現させたら頭が賢くなったという話。うむ。とりあえずRY君、今後のテーマのためにもチェックしておく?
NN。 Perspective。統合失調症(schizophrenia)とNeuregulin 1-erbBとシグナルについて。この辺の話題はほとんど知らなかった。
PNAS。vivoラット海馬CA1。noveltyとシナプス可塑性の話。新しい環境はLTDを抑制してLTPを促進させる。逆に新規object探索はLTPをdepotentiationさせてLTDを促進する。これこれを併せて読むと吉。ちなみに、「noveltyと海馬の関係」についてはpooneilさんがすでに昨日付けの書いてくださっている。
PNAS。ニューロステロイドの一種・プレグネノロン(pregnenolone)はNR2BサブユニットのSMD1ドメイン(4番目の膜貫通部位付近にあることが本論文で同定されている)に結合してNMDA受容体の機能を促進する。SMD1はAMPA受容体でも保存されていて、なんとcyclothiazideが作用する部位と一致するらしい(詳細はこちらの論文をどうぞ)。
PNAS。ヒトが成長するにつれて皮質マップがどう変化するかをsMRIで調べた論文。10年がかりの実験。ほぼ未読なのでなんだかよくわからないけど、とりあえずムービーが面白いので掲載。んで、結局 “gray matter density”って何を反映しているんだ? synaptic pruningとかmaturationとかって書いてあるけど。
JCB。 水野健作ラボ。Cofilinとその脱リン酸化酵素であるSlingshotの話。Slingshot結合タンパク質として14-3-3を釣ってきているのが個人的には面白い。結果的に14-3-3はactinのturnoverに抑制をかけているらしい。
今日のキーワード検索:Google「見学美根子 結婚」(←これすでに二回目)  萌え人が多いようだ。写真ならこちらでどうぞ。見学先生の最近のMCNはとてもよい論文なのでファンなら必読でしょ。
一口英語教室:「名前を見ればいろいろなことがわかる」 → Name tells us many things.


5月26日(水)
▼ 昼はデータ整理。
▼ 夕方は連載の文章を書く。今回はこれこれを取り上げた。妻にもざあっと文章を見てもらってから担当編集者に送信。
▼ 夜はRK君の論文の改訂を終えJ Neurosci誌に再投稿する。
Nature。両眼視野闘争とattentionの論文。未読。
Neuron。Malenkaラボ。海馬由来の神経幹細胞/前駆細胞。電気活動によってL-type CaチャネルとNMDA受容体が活性化されると、ニューロンへの分化を促進する(かつグリアへの分化を抑制する)ように遺伝子群が動く。田代さんのテーマに関係するのかな。図8ではモデルを使ってこうした現象が「memory storage/clearance 」に有利であることも示している。むしろ私はそもそも未分化な細胞の電気活動を何がトリガーしているのかに興味ある。
Neuron。tetanus toxin light chainをP2受容体を発現しているニューロン群にconditionalに発現させると(つまり、シナプス活動を低下させると)、P2 glomerulusは維持されずP2ニューロンも消えてしまう。またKir2.1をoverexpressionさせるとolfactorysensory mapが正常に形成されない。つまり自発発火が発達期の競合可塑性のに重要である。後半は未読。
JN。ひさびさのCollingridgeラボ。ラット海馬スライスのCA1LTP。P12ではAMPA受容体のコンダクタンスと数の増加、P6ではこれに加えて放出変化や(コンダクタンスの低い)新しいAMPA受容体の挿入が関与していて幾多のメカニズムの混合で成立している。
JN。河田光博ラボ。COSおよびE18海馬培養。鉱質コルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor)をYFP、糖質コルチコイド受容体(glucocorticoid receptor)をCFPにつないでfluorescence resonance energy transfer(FRET)でinteractionを観察。コルチコステロン(corticosterone)刺激で両者のheterodimerが形成され、核へ移行する。
JN。網膜のオリゴデンドロサイトがSema5Aを発現していて、これが視神経の軸索再生を妨害しているという話。詳しく読んでいないけど、写真がきれいだったので掲載。
JN。かつてMcNaughtonところにいたSkaggsによる報告。眠っているときにもplace cell(場所ニューロン)は活動するのだが、その活動パターンは寝入ったときの場所に依存していて、ラットが寝た後に気づかれないようにそっと風景を変えても影響がない。なんだかヘンテコでウケる実験。
JN。体性感覚野皮質スライスL5錐体細胞。L2/3刺激によるEPSPとsomaにカレントをinjectして誘導したburstを組み合わせてLTDを誘導。私の目にはただのrundownに見えるんだけど気のせい?しかもNMDAR非依存だし。まあmGluRで切れるから良いのかな。んで、「the burst may signal the successful association of these inputs followed by their reset via LTD」という結論いたるロジックが、論文が短すぎて私には把握できなかった。でも短いのに図は8個もある。
今日のキーワード検索:Google「食中毒に苦しむ」 あの時は腹痛だけでなく、大笑いする妻の前でお尻に注射された恥ずかしさから胸まで痛んだな(ウソ)。今となってはとても良い思い出っす。はい。
一口英語教室:「これ、安売り中」 → This item is marked on sale.


5月27日(木)
▼ 午前実験。途中、Rafaと実験の相談。私が最近PC計算でツマづいていることを訴えると、David(←ラボの学生にしてsupercomputerのエキスパート)を含めて3人で1時間半くらい議論した(英語で議論できない私は相変わらず90%はただ聞いているだけだったが…)。その結果、今まで逃げ続けていたけど、いよいよ私もMatlabをマスターしなければいけないことになりそう。MorganeやNeilと一緒に少しずつ勉強していこう。 んで、Neilと一緒にやった実験は大失敗。。。めずらしくデータの出ない日になってしまった。また来週再チャレンジする。
▼ 午後にはPCに計算を仕掛けてそのままJKF空港へ。
今日のキーワード検索:Google「ガヤ 格安」 お買いあげありがとうございます。
一口英語教室:「叱られちゃったぁ」 → I got chewed out.


5月28日(金) オーストリア
▼ 朝、ウィーンに到着。オーストリア航空は初めて乗ったが機内食が過去一番美味しかった。
▼ 早速、「シェーンブルン宮殿」へ向かう。続いて「王宮(シシー博物館や宝物館など)」を見学。
▼ 夕方は「楽友協会」でウィーン・モーツァルト・オーケストラの演奏を聴く。今日の演奏はともかく私はこの楽友協会ホールの「大ホール」に来るのがずっと夢だった。クラシック音楽の聖地だ。思ったよりも残響が強くて驚いた。今日の演目はモーツァルトだったからgoodだけど、これがリヒャルト・シュトラウスやマーラーとかだったらアンサンブルが混濁しないんだろうか。。。
▼ コンサートは前半のみで抜けて「シュタイラーエック」で食事。
▼ 今日訪れたカフェ: モーツァルト、ザッハ、レーマン、インペリアル・ホテル。
一口英語教室:「絶好調!」 → Couldn't be better.


5月29日(土) オーストリア
▼ 「美術史博物館」へ。 私が一番見たかったフェルメール作「画家アトリエ」はいまちょうど日本へ貸し出し中なので見られないことは知っていたが、ブリューゲルの絵画などが豊富で結構楽しめた。その後は「自然史博物館」(ここにある“宝石ブーケ”は圧巻!)と「ミュージアムクオーター(レオポルド美術館)」を訪問。
▼ フォルクス劇場、国会議事堂、市庁舎、ブルン劇場、ウィーン大学前をのんびり散歩しながら、国立図書館「プルンクザール」や「カプツィーナ教会・皇室納骨場」に入る。
▼ 「マリア・シュトランスキー」や「ユリウス・マインル」でちょっと買い物をして、さらに「アウガルテン」でナゼか日本酒用の“おちょこ”を買う。
▼ 「シュテファン寺院」と「フィガロハウス」を訪問。
▼ 夜は「国立オペラ座」でモーツァルトの『魔笛』を観る。ここは音響も良いし、NYのメトロポリタン歌劇場と違ってホールの規模が小さいので演奏家と観客に一体感がある。そして何よりオペラの伴奏を務めるウィーン国立歌劇場管弦楽団(つまりウィーン・フィル)の陶酔美を極めたハーモニーにもう感動しっぱなし。歌はパミーナのレシュマンがとりわけ良かった。
▼ 今日訪れたカフェ: スルッカ、シルク、ザッハ。
一口英語教室:「気を付けて」 → Watch out.


5月30日(日) オーストリア
▼ クリムトはわたしのもっとも好きな画家の一人。ウィーンに来た目的の一つは彼の絵画に生で接すること。昨日の「レオポルド美術館」の「生と死」はほんの序奏で、今日は「ウィーン市歴史博物館」「セセッシオン」「オーストリア・ギャラリー(ベルヴェーゼ宮殿・上宮)」を渡り歩きクリムトの大作をこれでもかと堪能する。観る者をゾグゾグさせる耽美の極致。彼の描き出す官能美は空前絶後。ちなみにCarlosが好きだと言っていた夭逝の画家シーレもなかなか良いなあと再認識。
▼ 美術館巡りの途中ではカールス教会やカールスプラッツ駅などを訪問。
▼ 午後は我が心のライバル・ベートーヴェンの足跡を求めようと路面電車の終着駅「ハイゲンシュタット」へ。遺書の家や散歩道など。ついでにドナウ川の流れも眺める。
▼ 夕方は「フンダートヴァッサー・ハウス」や「クンスト・ハウス」を訪問。奇抜な建物の外観を眺める。
▼ 夜は「国立オペラ座」で『ジークフリート』。長いので第2&3幕のみを観る。っていうかスゲー。今まで出会った最高のワーグナーだ。リンダ・ワトソンのブリュンヒルデが素晴らしい。オケは指揮者の意向か全般的に鋭角的な曲作りで、ジークフリートの若々しさがよく出ていた。さらに例によって鳥肌が立つほど甘美な音色も健在で、ウィーン最後の夜を満喫した。
▼ その後はブリストル・ホテルの「コスソー」でディナー。
▼ 今日訪れたカフェ: デーメル、マイヤー・ホイリゲ。
▼ 佐藤琢磨選手、惜しいなあ。
Science。「Endothelial Cells Stimulate Self-Renewal and Expand Neurogenesis of Neural Stem Cells」
JP。「Multiple mechanisms govern the dynamics of depression at neocortical synapses of young rats」
JP。「Pharmacological plasticity of GABAA receptors at dentate gyrus synapses in a rat model of temporal lobe epilepsy」
一口英語教室:「どう思う?」 → What do you think about it? ※ よくWhatをHowと言い間違えている日本人を見かける。ちなみにHow do you explain?(どういうこと?)のときはHowを使う。


5月31日(月)
▼ NYに戻る。ラボのPCがまだ計算を終えていなくてショック・・・。今日はメモリアル・デー(←アメリカの重要な祝日)ということもあって研究室はいつも以上にのんびりムード。
今日のキーワード検索:Google「糸数 焼き鳥」 ITKZさんはご多才なようで。。。
一口英語教室: 「ひどく頭痛がする」 → My head is killing me.

(2004年)

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